駅前旅館 の商品レビュー
井伏氏の小説の中でも…
井伏氏の小説の中でも、最も好きな作品のひとつ。上野駅前の旅館の番頭の独白体で書かれているが、敗戦後から昭和30年前後の盛り場の雰囲気や風俗等も良く表現されている様に思う。
文庫OFF
昭和30年代初頭、駅前旅館の番頭の独白形式で描かれる悲喜交々。業界の内幕や客の起こす騒動、番頭仲間内でのあれこれがユーモアたっぷりに描かれていて面白い。 しかし、着実に時代の流れが押し寄せていて、昔気質の番頭は絶滅寸前。今の番頭ときたら⋯と口にするも、ふとした時に寂しさを感じ...
昭和30年代初頭、駅前旅館の番頭の独白形式で描かれる悲喜交々。業界の内幕や客の起こす騒動、番頭仲間内でのあれこれがユーモアたっぷりに描かれていて面白い。 しかし、着実に時代の流れが押し寄せていて、昔気質の番頭は絶滅寸前。今の番頭ときたら⋯と口にするも、ふとした時に寂しさを感じさせる語り口が巧みで引き込まれた。
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時は昭和30年頃、上野駅近くの大きな旅館、酸いも甘いも嚙み分けた番頭のまわりで起こる数々の出来事。脇役たちもいい味を出していて、文句なくおもしろい。 客の呼び込みと案内の一部始終、修学旅行や社員旅行の「おのぼりさん」たちが繰り広げるドタバタ、当時の上野界隈の賑わいや熱気も感じられ...
時は昭和30年頃、上野駅近くの大きな旅館、酸いも甘いも嚙み分けた番頭のまわりで起こる数々の出来事。脇役たちもいい味を出していて、文句なくおもしろい。 客の呼び込みと案内の一部始終、修学旅行や社員旅行の「おのぼりさん」たちが繰り広げるドタバタ、当時の上野界隈の賑わいや熱気も感じられる。 もちろん、色恋もある。主人公が思いを寄せる女性と、飲み屋のカウンターで膝と膝とが触れ合う場面は、読んでいて胸がどきどきする。 番頭にも脇役たちにもモデルがいる。ほぼ同時期に出た『珍品堂主人』もそうだが、井伏は、驚くほど丹念に取材している。しっかりしたディテールをもとに要所要所をちょっと脚色、これぞ井伏流の魔法。
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脳死で読めました。気楽な感じです。 井伏鱒二は土着の民俗学に通ずるところがあり、好きなのかなと思います。
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なかなかのハイコンテキストで、すっきり入ってこないけど、当時の風情、「小市民的」な風景を感じられる歴史的小説だ。ピンとくる読者がいれば、よほどの趣味人といったところかな。
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井伏鱒二を読むと、普段の生活やいつも読んでいる本からは得られない何か微量栄養素みたいなものを得られる気がする 駅前旅館の番頭の風俗などこちらは知る由もないのだが、いかにも本物らしくありありと描き出される。かならずしも堅気の商売ではないらしい。子供の頃にウチの母親が少し眉をひそめ...
井伏鱒二を読むと、普段の生活やいつも読んでいる本からは得られない何か微量栄養素みたいなものを得られる気がする 駅前旅館の番頭の風俗などこちらは知る由もないのだが、いかにも本物らしくありありと描き出される。かならずしも堅気の商売ではないらしい。子供の頃にウチの母親が少し眉をひそめていたあたり、よく覚えていないのだが祭りのテキヤとか上野駅前で托鉢していた虚無僧とか、そのへんの人々に近いか。要は勤め人とは違う世界。なぜこんなものを読んで面白いのか言葉にしがたいのだが面白い
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上野の本屋さんで見つけた本。井伏鱒二はこんな本も書いていたんだなぁ。昭和30年代の旅館業の様子を垣間見られ、楽しく読めた。
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昭和30年代、江戸っ子の生き方とはこんなものだったのかな。粋と言われる生き方、言葉のやりとり、今の時代には理解不能。 女性には生きづらい時代、男性優位の男性には楽しい時代か。 高沢の嘘話、江ノ島の番頭の呼び込み、人間くさく、そんな時代もあったのだな、こんな時代に生まれなくてよかっ...
昭和30年代、江戸っ子の生き方とはこんなものだったのかな。粋と言われる生き方、言葉のやりとり、今の時代には理解不能。 女性には生きづらい時代、男性優位の男性には楽しい時代か。 高沢の嘘話、江ノ島の番頭の呼び込み、人間くさく、そんな時代もあったのだな、こんな時代に生まれなくてよかったと思ってしまった。
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まさに旅路の中で、一冊手に取ってみるのもおつだろうなと思う作品。 太宰の読後余力を借りて読んだはいいが、予想外でした。代表作を読むべきだったな。 ライトノベル感覚で読んでしまいましたがそれでいいいのか。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
駅前旅館 著者:井伏鱒二 発行:1960年12月15日 新潮文庫 単行本:1957年11月(新潮社) 初出:1956年9月~1957年9月「新潮」 井伏鱒二の名作ユーモア小説。森繁久弥主演で映画化された。観た人は多いことだろう。駅前旅館「柊元(くきもと)旅館」の番頭、生野次平を中心に、ライバルで親友の高沢(「水無瀬ホテル」番頭)はじめ駅前にあるいくつかの旅館の番頭たち、添乗員の中央大学学生、万年さん、吉原の引手茶屋で豆女中をしていて、後に長野の芸妓、紡績会社の寮長となった於菊(おきく)、小料理屋「辰巳屋」の女将らが、楽しくもリアルさを持った物語を展開する。映画で上記を演じたのは、森繁久弥、伴淳三郎、フランキー堺、淡路恵子、淡島千景・・・ 文庫の表紙カバーの表4(裏表紙)に書かれた粗筋(「うらすじ」と言うらしい。タモリ倶楽部命名?)は下記。内容を端的に表現している。 「昭和30年代初頭、東京は上野駅前の団体旅館。子供のころから女中部屋で寝起きし、長じて番頭に納まった主人公が語る宿屋稼業の舞台裏。業界の符牒に始まり、お国による客の性質の違い、呼び込みの手練手管・・・・・・。美人おかみの飲み屋に集まる番頭仲間の奇妙な生態や、修学旅行の学生らが巻き起こす珍騒動を交えつつ、時代の波に飲み込まれていく老舗旅館の番頭たちの哀歓を描いた傑作ユーモア小説」 業界の裏話として、番頭の給与体系が出てくる。給料は2万円と安い。しかし、成果給(呼び込みなど)のようなものがあり、客からの心付けもある。翌日に泊まる別地区の旅館を団体客に紹介すれば、その旅館から謝礼をもらえる。さらに、まだ売春防止法施行前、客を吉原などに案内すれば、自分も遊べるし、遊んだふりして返金を受け、懐に入れられる。 ある日、生野は吉原の引手茶屋で豆女中をする於菊が、懐中時計を盗ったのではと疑われる。生野は時計を見つけ出し、疑いを晴らす。於菊は淡い恋心を持つ。彼女は長野で芸妓となり、客とともに4人で東京に旅行、生野の旅館に泊まる。生野が風呂に入っていると、4人が入って来て、そのうちの1人の女につねられた。於菊だと気が付かなかった。 中央大学の学生だが、東京で添乗員をしている万年さんがいる。当時、日本に添乗員という仕事はなじみがなかったのか、こまごまとその仕事や裏事情を書いている。客を国鉄に乗せるより、バスに乗せる。しかも、乗り換えさせる。添乗員にはバス会社からリベートが入る。山道を行くコースだと3%、市中なら10%、バンガロー行が10%、お土産屋からは5%、観光券のクーポンで5%、などと具体的。 また、板前は労働大臣の許可を取っている斡旋所が各旅館に斡旋するシステムもできあがっている。〝正社員〟である板長と斡旋された板前とのやりとりも。今日の非正規労働のはしりなのかもしれない。成長経済を前にいろんな職業が誕生し、システムを確立していった時期なのだろう。
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