メルヒェン の商品レビュー
ヘルマン・ヘッセの『メルヒェン』に収められている、「アウグスツス」に不覚ながら涙した。 アウグスツは、生まれた時に「誰からも愛さずにはいられないように」と母親から願いをかけられ、その通りになる。 子どもの彼には、天使の歌声が聞こえた。 しかし、誰からも愛されるあまり、彼は傲...
ヘルマン・ヘッセの『メルヒェン』に収められている、「アウグスツス」に不覚ながら涙した。 アウグスツは、生まれた時に「誰からも愛さずにはいられないように」と母親から願いをかけられ、その通りになる。 子どもの彼には、天使の歌声が聞こえた。 しかし、誰からも愛されるあまり、彼は傲慢になり、 あらゆる富と名声を得て、堕落し、あらゆる悪事を尽くす。 あらゆる欲望に満たされても幸福になれない彼は、いよいよ自殺を図ろうとするが、 魔法をかけた名付け親が現れる。 そこで、アウグスツスは、 「それまでの人生にかかっていた魔力を取り消し、愛することができるように」と願う。 ラストシーンの描写があまりにも美しくて涙を誘う。 ヘッセの文章は、精神が実体を持った風景として、あたかも「美」そのものが内側から語らせるようだ。 実にシンプルで王道のおとぎ話だが、 手塚治虫が漫画で描いていそうな、 またディズニーが設定を変えて映画にしても面白いかもしれない。
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中学校のとき、尊敬する担任の先生が道徳の時間に、この中の「アウグスツス」という作品を朗読してくださり、鮮烈に心に残りました。 愛されることを望むよりも、自らが人を愛することのできる人間になれることの大切さを、強く刻みつけてくれる作品です。 当時は作品の本意を理解しきれなかったので...
中学校のとき、尊敬する担任の先生が道徳の時間に、この中の「アウグスツス」という作品を朗読してくださり、鮮烈に心に残りました。 愛されることを望むよりも、自らが人を愛することのできる人間になれることの大切さを、強く刻みつけてくれる作品です。 当時は作品の本意を理解しきれなかったのですが、何十年も経ち、人生の後半に差しかかってようやく、理解できるようになりました。 深くて素敵な作品だと思います。
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◆きっかけ ブクログ。タイムラインに出てきた『失われてゆく、我々の内なる細菌』のレビューから入ったfab-labさんの本棚より。2017/3/22
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童話集と呼んでも差し支えない内容の寓話がぎっしりと詰まった作品。スケールが大きい、哲学的な(ブッ飛んだ)話も多いが、いくつかの話には共通点が見られる。 「アウグスツス」と「アヤメ」ではそれが特に顕著だと思う。 壮年期を迎えるに当たり、幼年期に持っていた宝を失ってしまったことに気付...
童話集と呼んでも差し支えない内容の寓話がぎっしりと詰まった作品。スケールが大きい、哲学的な(ブッ飛んだ)話も多いが、いくつかの話には共通点が見られる。 「アウグスツス」と「アヤメ」ではそれが特に顕著だと思う。 壮年期を迎えるに当たり、幼年期に持っていた宝を失ってしまったことに気付き、自身にとって大切なものが何かを探し、老いてようやく辿り着けるというプロセスが非常に似ている。 就職活動で悩む人や、自分の仕事に疑問を感じている人に読んでほしい話だ。
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ヘッセを読んだのは小学生か中学生以来だった。 あのとき好きだったのに、何故読みこまなかったのだろう? スティーブン・ミルハウザーの「アウグスト・エッシェンブルク」は「アウグスツ」へのオマージュというか、バリエーションなのだろう。 長い時をまたぎ、愛すること・愛されたことに気...
ヘッセを読んだのは小学生か中学生以来だった。 あのとき好きだったのに、何故読みこまなかったのだろう? スティーブン・ミルハウザーの「アウグスト・エッシェンブルク」は「アウグスツ」へのオマージュというか、バリエーションなのだろう。 長い時をまたぎ、愛すること・愛されたことに気づく物語が、多くの人の心の琴線にふれるのはなぜか。それは、死を迎える時に、自らの人生が走馬灯のように再生されるというプログラムに、それら物語が沿っているからなのかもしれない。 どんな人も祝福に満ちて生まれてきたはずだった。美しい天上の音楽がやさしく奏でられ、天使たちが楽しそうに戯れ、そばには母が佇んでいた。まるいなだらかな曲線の卵。いつの日かそこへ還っていく。 いや、現実は生まれ落ち、老いて、ただ干からびて死ぬだけかもしれない。それでも終わりには救済されるはずだ、という理なく湧きあがる希望と、それは幻想に過ぎない、という絶望や虚無とのコントラストが、心に迫る所以であろうか。
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ドイツの叙情詩人が挑む『知らない人についてったらえらい目に遭った』アンソロジー。 『 別な星の奇妙なたより』だけ好き。ろくでなしにも矜恃くらいあるんだってとこがいい。
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ヘッセの創作童話。どれもわかりやすく、愛と人生の讃歌に満ち満ちており、幸せな気分に浸れる短編ばかりだ。なかでも、誰からも愛される(愛された)運命の男の悲哀と救済を描いた「アウグスツス」が好き。かなしく、せつなく、しかしヘッセらしい愛の歌が聞こえる。性的なメタファーも織り交ぜての「...
ヘッセの創作童話。どれもわかりやすく、愛と人生の讃歌に満ち満ちており、幸せな気分に浸れる短編ばかりだ。なかでも、誰からも愛される(愛された)運命の男の悲哀と救済を描いた「アウグスツス」が好き。かなしく、せつなく、しかしヘッセらしい愛の歌が聞こえる。性的なメタファーも織り交ぜての「アヤメ」もいい。
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ヘッセは天才だ。 訳者の高橋健二さんも。 それ以外言うことがないですね‥。 言葉の魔法。単語の天国。本を開けばいつでも見せてくれる。 こんなに素晴らしい本が古本で105円で手に入るなんて、日本はすごい国だと思いました。 今まで幸福論が一番好きだったけれど、これは同じくらい好きにな...
ヘッセは天才だ。 訳者の高橋健二さんも。 それ以外言うことがないですね‥。 言葉の魔法。単語の天国。本を開けばいつでも見せてくれる。 こんなに素晴らしい本が古本で105円で手に入るなんて、日本はすごい国だと思いました。 今まで幸福論が一番好きだったけれど、これは同じくらい好きになるかもしれないです。 【追記】 もったいねーーーと思いながら読み終わっちゃったー! さいごこピクトルの変身めちゃくちゃカッケーーーー!!しびれた‥ とくに好きだったのは「詩人」「別の星の奇妙なたより」です。アヤメもよかったな‥
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「知と愛」を読んだあとだっただけに、ほとんど響かなかったというか、すっとばして読んじまった。 繰り返されるモチーフ、「願いごと」「魔術師」「鳥」それと「詩人」「苦しい道」に描かれているような、求道の険しさと後にした生活への名残惜しさ。 ヘッセは詩や抽象に傾くと、味気ない。 むし...
「知と愛」を読んだあとだっただけに、ほとんど響かなかったというか、すっとばして読んじまった。 繰り返されるモチーフ、「願いごと」「魔術師」「鳥」それと「詩人」「苦しい道」に描かれているような、求道の険しさと後にした生活への名残惜しさ。 ヘッセは詩や抽象に傾くと、味気ない。 むしろ思索や精神性において真価を発揮すると思うのだよ。 たぶんヘッセには夢想家の一面があって、そのせいだろうと思うけど。
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メルヒェン/ヘルマン・ヘッセ 読んだ。 解説にもあるとおり、母から授かった無償の愛と死生に対する考察が混じりあって、価値観の放擲がなんどとなくくり返される。憧憬と回帰に関する一貫したテーマのなかで、短編集ながら連作を思わす生活くささが妙に生々しい。 メルヘンとはなにか、読みすすめ...
メルヒェン/ヘルマン・ヘッセ 読んだ。 解説にもあるとおり、母から授かった無償の愛と死生に対する考察が混じりあって、価値観の放擲がなんどとなくくり返される。憧憬と回帰に関する一貫したテーマのなかで、短編集ながら連作を思わす生活くささが妙に生々しい。 メルヘンとはなにか、読みすすめるうちに何度となくこう自問したくなる。この一冊の中に読み取るべきものは『アヤメ』のなかで、他作品とくらべてスローダウンした筆致で書かれてあるのでページを戻りながら読むとわかりやすいが、読み終わってそこに答え(救いのようなもの)をもとめるなら「ノー」と言わざるを得ない。 たち返ることが必要で純粋なものに同調し、なじむこと、をヘッセはよく最上のもののように書くふしはあるけれど、ヘッセに限らずこの種の道徳をもった恋人は病に倒れるか何かして、早死にする場合がほとんどであるから、主人公が死を目前にして『そこ』へたち返ると確信したとしても、それこそメルヘンということもできるだろうし、だからこそ母を思うのだろうし、答えはいつもノーとなるわけ。
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