原色の街・驟雨 の商品レビュー
湿っぽく、エロティッ…
湿っぽく、エロティック。一つ一つの情景が目に浮かぶようでした。
文庫OFF
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※このレビューにはネタバレを含みます
新潮文庫の表紙が気に入り購入したものの、数年間積読に。今年に入ってから昭和20~30年代にハマり、ちょうどその当時発表された作品集とのことで漸く手に取った。傑作、傑作…!!!ちゃんと読めて本ッ当に良かった…!!! 表題作の「原色の街」は向島の赤線地帯で出会った娼婦あけみと会社員元木英夫の、たった二度の逢瀬とその結果を描く。恐らく偽名であろう、あけみ。対して、フルネームを与えられた、元木英夫。極めて非対称な二人が最後、共に高みから落ち、同じように夏の太陽を見上げ、目を眇める構図になるのが爽快だったなぁ。季節外れの牡丹雪のように舞い散る例の写真によって、物理的にだけでなく社会的にも二人が堕とされるのも巧い。やはり物語に高低差は凄く大事だ。鮮明なラストに震えた、素晴らしい一作だった。 同じく娼婦とその遊客を題材にした「驟雨」もとても好き。「僕の友人たちを紹介しようか」「可愛らしいお嫁さんを見付けてあげなくてはね」と、互いを牽制しつつも、のめり込んでいってしまう男の様子に目が離せない。わざと光が当たる席に座らせて、女の疲れ切った顔を暴こうする、誰でもある(と思いたい)嗜虐性を掬うのが巧いなぁ。「オーガズムに至らないようにする」≒「操を立てる」という言及が酷くナイーブに感じられて少し興醒めしたが、些細な瑕疵だ。 「薔薇販売人」も凄い…!下っ端社員が戯れに薔薇販売人を偽り、目を引いた夫妻の下を訪れるが…。見せていると思っている顔、見られている顔。見ていると思っている顔、見えていない顔。三人が仮面を何種も使い分け駆け引きに興じる様をただ茫然と見ているしかなかった。処女作とは思えない完成度。 一番好きな「夏の休暇」。息子、父、愛人、海。子供の頃の、分からないのに分かっている。言語化出来ないのに、知覚している。あの言葉に出来ない感覚を書き起こすことができるのか…!多分、ラストの息子の予感は当たっているんだろう。何度も繰り返し読むであろう名作。 最後の「漂う部屋」は、結核のためサナトリウムで療養していた自身の体験を基に書いた短編だそう。囚人と患者、短期入院者と長期入院者、病状急変した者とそれを見舞う者。外界から隔絶された療養所で繰り広げられる優位劣位のシーソーゲームを、私見を交えずここまで精緻に写実できるとは。やはり只者ではない吉行淳之介、残りの作品を読むのが楽しみだ。
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終戦により、焼け出され、身寄りもなくなった貧困を理由に娼婦になった人も多かった。裕福で色情的な人、精神は貞淑な娼婦。湧き起こる気持ちの抑制を巧みに綴る。「漂う部屋」は、結核が重病とされていた時代の話。死の恐怖を感じながらも明るく振る舞おうとする姿がじんときた。2024.4.28
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本書を読んで、感化されるもの、呼び起こされるものがたくさんあったのだけど、上手く言語化できない。思考が上手くまとまらない。唯一つ言えるのは、読んでいる間とても幸福だったことだ。
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原色の街と驟雨はどちらもいわゆる赤線地帯と呼ばれる歓楽街の娼婦たちとそこに通う男の物語。都会的でクールな主人公の娼婦との関わり方は付かず離れず。時には心を揺り動かされることもありながらそれを悟られまいとする両者はある種、非常に技巧的な人間関係を敷いているといえる。 しかし、この技...
原色の街と驟雨はどちらもいわゆる赤線地帯と呼ばれる歓楽街の娼婦たちとそこに通う男の物語。都会的でクールな主人公の娼婦との関わり方は付かず離れず。時には心を揺り動かされることもありながらそれを悟られまいとする両者はある種、非常に技巧的な人間関係を敷いているといえる。 しかし、この技巧的な人間関係というのは別に娼婦と男にだけ存在する訳ではなく、社会集団の持つ力が弱まって、個人と個人を繋ぐ引力も弱まった現代においてはごく一般的に存在する。その絶妙な距離感を描くのに題材として娼婦や彼女らがいる遊郭が適していたのだろう。 主人公は直截な感情の発露を行わない。代わりに自らの心の動きを第三者的視点で見つめる。その描き方が明晰で言語できていなかった感情を正確に言い当てられた気がして気持ちが良い。 「そのことは、元木英夫の感受性の鋭さではあっても、優しさではない。それは、結局のところ自分自身に向けられたものであり、自分自身の神経を労わるためのものであって、エゴイズムの一種である。」 「あけみはいつも鈍感な筈の、いや事実鈍感にちがいないこの男が、このような事柄になると示しはじめた緻密さに唖然とした。」 「この場に及んでも、彼はその感情を、なるべく器用に処理することを試みた。」 一見、ドライな主人公だが自分の感情すら技巧で弄びつつも時にその制御が外れるところに人間味と親近感を抱いた。 「原色の街」のラストの印画紙が舞い降りる中、薪炭商の顔が浮かび上がるシーンがなんとも言えず奇妙で好き。 個人的には「夏の休暇」もかなり好み。一緒に長い時間いるだけで理解していると勘違いしてしまうのが自分の親。親が時に見せる底知れない、何を考えているかわからない感じってどことなく怖い。
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こういう色気と退廃的なムードが漂っていた時期の作品という感じですね。今の時代なら社会的にどうよという部分もありますが、そこはそういう時代ということで。自分としてはドロドロとした感情表現が強く、あまり好きではないです。
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「原色の街」 色街に絡め取られた、人生の成り行きを紡ぎ出している。 客に受けられるという穏当な手段でも、心中未遂という一刀両断的な手段でもこの街から逃れられない。むしろ逃れたくない自分から逃れられない。デスティニ、運命はこうも決定づけるのか。 「驟雨」 色街の女に本気になって...
「原色の街」 色街に絡め取られた、人生の成り行きを紡ぎ出している。 客に受けられるという穏当な手段でも、心中未遂という一刀両断的な手段でもこの街から逃れられない。むしろ逃れたくない自分から逃れられない。デスティニ、運命はこうも決定づけるのか。 「驟雨」 色街の女に本気になっていく男の物語 サイコロ →不完全を示し、二人の気持ちが交わりそうで交わらないことを仄めかす。 落葉 落ちるはずのない緑葉が、にわか雨のようにボトボト落ちていく。それは娼婦に心を寄せることなぞ考えもしなかった主人公を、葉になぞらえ、幹(正道)から落ちていく様を描く 茹でがに 散らばる茹でがには、娼婦への嫉妬を、ダイレクトに表現し、茹でられたカニさながら頭をかっかさせ、中身は白くフニャついてしまった模様を暗示する。 「薔薇販売人」 一輪のバラを、通りすがりの家に売りにいく話し。 薔薇の持つ“狂”的な艶かしさと、その粘着質な美に自ら溺れる心情を描く 「夏の休暇」 いい作品です。 父親に対する微妙な感情がよく掬い取られている。 尊敬、畏怖、味方、対抗 母を裏切ろうとする父を憎むことなくナチュラルに受けめようとする少年 「漂う部屋」 結核で入院している患者の病院内での出来事の話。読後妙ななごりが残る。 題材やレトリック、描写それほど技巧的に感じないけど、何故かスッキリしている。 灰色のストーリーに赤いスリッパと赤いスカートが虚しい彩りを添える
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なんたる文章力。 空襲で爆死した父母の若い日の追憶が、その名前に絡まっていた。 など、どうしたらこんな描写が思いつくのだろうと感嘆する。 性(肉体)と精神というテーマは、私には響きにくいものであったが、にも関わらず、その文章だけを楽しみに読み進められた
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戦後の赤線地帯の男女のやりとりが分かる表題作を読むと男は結婚相手に娼婦を選ぶことはないが、娼婦が肉体に目覚める男は結婚相手になるとは限らないという筆者の考えがよく分かる。価値転倒を狙ったらしいが娼婦を描きたかっただけでは?
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再読ですな。 並行して読んでいた有島と比較すると断然文章が上手い、というか俯瞰という観点と文体の一体感を感じさせてくれる。それを世評では上手い作家というのかもしれず。 内容はある意味キワモノであるという指摘を否定できないかもしれないけれど、生きているという肌触りはそういった局面で...
再読ですな。 並行して読んでいた有島と比較すると断然文章が上手い、というか俯瞰という観点と文体の一体感を感じさせてくれる。それを世評では上手い作家というのかもしれず。 内容はある意味キワモノであるという指摘を否定できないかもしれないけれど、生きているという肌触りはそういった局面でしか通常現れないと言えなくもなく。 そのせいか、最後の『漂う部屋』は他と比較し一枚も二枚も落ちる気がする。
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