原色の街・驟雨 の商品レビュー
私の今年のテーマは「第三の新人」。 安岡章太郎、丸谷才一に続いては、吉行淳之介です。 本書に収められているのは、吉行の初期の短編5編。 エロティシズムでしょうねー。 谷崎とはまた違った魅力があります。 世間的には、表題作になっている「原色の街」や「驟雨」なんでしょうが、ぼくは断然...
私の今年のテーマは「第三の新人」。 安岡章太郎、丸谷才一に続いては、吉行淳之介です。 本書に収められているのは、吉行の初期の短編5編。 エロティシズムでしょうねー。 谷崎とはまた違った魅力があります。 世間的には、表題作になっている「原色の街」や「驟雨」なんでしょうが、ぼくは断然、処女作の「薔薇販売人」。 主人公の若い会社員がニセ花売りになって、緋色の羽織が掛けられている家に住む女に薔薇を売ろうとします。 女には夫がいます。 この夫がくせ者で、妻に対する恋心をこの会社員に植え付けられたら面白いとさまざまに画策するのです。 会社員は夫の留守中に、女の家に上がり込むことに成功します。 ここからの会社員と女の駆け引きが、もう官能的で堪りません。 女の乳房に触れ、いよいよというまさにその時、会社員はふすまの向こうに夫が隠れてこちらを見ていると感じます。 読んでいる方は既にこの会社員にどっぷり感情移入していますから、それはもうドキドキです。 夫が隠れていたかいなかったのかは、言わぬが花でしょう。 味わい尽くしました。 「薔薇の販売人」が最も典型的ですが、本書に収められている吉行の作品には、「見ている、だが、同時に見られている」というテーマが潜んでいるような気がします。 主人公(男)は、相手(女)をよく観察しています。 しかし、同時に、自身は相手からも観察されている。 相手からの視線に晒されて、自分の中にある劣情が露わになるんですね。 エロスに目を奪われて興味本位で読み進んでいくと、エライことになります(いや、なっていいんですが……)。 文体は、凝りに凝っていますよね。 小島信夫、遠藤周作を含め私の読んだ第三の新人の中では最もそう感じました。 手数も多い。 ただ、私には少し手数が多過ぎるように感じます。 村上春樹は「若い読者のための短編小説案内」で、吉行について「上手な作家ではない」といった趣旨のことを書いていましたが、たしかにそうかもしれません。 次は庄野潤三です。
Posted by
「原色の街」。この題名に惹かれたのはいつ頃だったろうか。 多分…20歳前後。でもその作品は読んでこなかった。 永井荷風の『墨東奇譚』はその頃読んだが。 たぶん娼婦を語るには若すぎたからだと思う。 今頃のなって読む余裕ができた…と言って よいのだろうか。 ただ、吉行淳之介が無性に...
「原色の街」。この題名に惹かれたのはいつ頃だったろうか。 多分…20歳前後。でもその作品は読んでこなかった。 永井荷風の『墨東奇譚』はその頃読んだが。 たぶん娼婦を語るには若すぎたからだと思う。 今頃のなって読む余裕ができた…と言って よいのだろうか。 ただ、吉行淳之介が無性に読みたい、 そうは思う。 映画で『吉原炎上』を観て、ちょっと違う、と思った。 その理由がP39にあった。 店主が無理矢理この街に女を縛り付けておく、 という形は見られなくなった。 女を楽しませ、店主も儲けさせてもらう、 これがアメリカ式経営法です、と自称する店主も あるように、搾取には違いないが、搾取する量が 昔にくらべるとずい分少なくなった。 そして、女たちが、この街の外の場所に 身を置くことは、比較的容易になった。 吉行の魅力はそのクールさにあると思う。 感情にほだされない。 娼婦はお金で買う。感情を引きづられたくないから お金を払う娼婦と関係を持つ。 少し醒めた、都会的な、矛盾も承知している。 それが魅力的なんだと思う。 P284(長谷部日出雄の解説) 作者はたんなる遊蕩児ではなく、 まずナイーブといっていいほど その謎に取り憑かれた性の探求者として、 迷宮のような娼婦の街のなかへ入り込んで行った これはフィルムを逆回しにした 恋愛小説です。 吉行淳之介にとって娼婦の街とは 肉体という確かなものを手がかりにして、 精神という不確かなものを探る場であったものと おもわれます
Posted by
吉行淳之介という作家に以前から興味を持っていた。女優・吉行和子と作家・吉行理恵の兄、詩人・吉行エイスケと朝ドラのヒロイン・あぐりさんの息子。それに加えて写真で見る限りダンディーなのに女性蔑視者と言われている。 表題の「原色の街」や芥川賞受賞作「驟雨」などは書き方が粋だけど内容は...
吉行淳之介という作家に以前から興味を持っていた。女優・吉行和子と作家・吉行理恵の兄、詩人・吉行エイスケと朝ドラのヒロイン・あぐりさんの息子。それに加えて写真で見る限りダンディーなのに女性蔑視者と言われている。 表題の「原色の街」や芥川賞受賞作「驟雨」などは書き方が粋だけど内容はスポーツ新聞に載ってるエロ小説と変わらない。 登場人物が皆利己的で冷たい。それ故読む人にクールな印象を与えているのかもしれない。
Posted by
『驟雨』 芥川賞作品だったので読んだ。 切ないというか何と言うか…もどかしい。 男女の友情や買春とか頭で関係をわかったつもりでも心におとしこめないような曖昧さがそこには存在する。 新宿に行きたくなった。
Posted by
「原色の街」 男どものだらしない欲望(エゴ)を集める自分自身こそ不潔である そう考えるなら、彼女にとって娼婦は最適の職業だろう そこであれば、不潔な肉体と潔癖な精神を 職業的意識において、完全に合致させることができるから 彼女は性的に不感だった しかしあるとき、客の男に焦らされた...
「原色の街」 男どものだらしない欲望(エゴ)を集める自分自身こそ不潔である そう考えるなら、彼女にとって娼婦は最適の職業だろう そこであれば、不潔な肉体と潔癖な精神を 職業的意識において、完全に合致させることができるから 彼女は性的に不感だった しかしあるとき、客の男に焦らされたのがきっかけで エクスタシーに目覚めてしまう 潔癖な精神を離れて、肉体がよろこびを感じるとき 彼女が娼婦を続ける理由は、半分消失したのだ 肉体が存在の代価を支払うなら それを賄賂に潔癖の目をごまかすことは可能だ 食っていくだけなら、適当な結婚相手を見繕うのに苦労しない女である ところが新たに生じた問題もあって、結婚に思い切ることができない その問題とは、情熱だ ひそかに彼女は、性感を目覚めさせてくれた男への執着を抱え込む それは純粋なロマンであると同時に やはり一方的なエゴイズムの恋でもあるわけだ 「驟雨」 戦後日本を身体ひとつで生きている娼婦たちに 自由というものの、ひとつの理想を見いだそうとするのは 甘いロマンティシズムでしかないだろう しかし、ロマンにおいて自らを戦地に駆り立ててきた日本の男たちだ なんだかんだ言いつつ、それをどうしても手放せない 結婚を機に出世していく同僚を横目に見ながら 自分は娼婦との関係にこだわって、ばかな嫉妬に狂っている タイトルの「驟雨」とは、街路樹の葉っぱが病気か何かで 一気に散っていくさまをそう呼んだものだ それは、ロマンによって蝕まれた日常の終わりを予感するものか 「薔薇販売人」 実存は本質に先立つ、そう言ったのはサルトルという人で これはつまりどういうことかというと 人間存在の本質を規定するのは行動である、ということなんだ 早い話、自分が何をすべきか?などと思い悩む前に とにかくなんでもいいからやってみろ、といった考え方である そのように行動することではじめて、自分というものが 形づくられていくというわけだ そんな感じで薔薇のセールスマンやってみた!という話 主人公は、薔薇を売りに行った先で 人間の本質というものをうじうじ追いかけてばかりの男に出会う そして互いを軽蔑するために 女をめぐってむなしい策略を仕掛けあうんだ 少なくともそれが、彼らの本質というわけなのだった 「夏の休暇」 小学五年生の夏休み 一郎くんは、父親と、その愛人に連れられて大島に向かうのだった 三原山の火口に登ったりして、まるで心中旅行のようだが そういうことではないのである…たぶん この父親というのが破天荒というか不安定な人で 急に笑いだしたり怒りだしたりと、一郎くんの心を振り回す 大荒れの海に海水浴する父を見ながら一郎は 軽い怯えと、「死ねばいいのに」的な感情を同時に抱くのであった だがそんな父親だ、殺すまでもなく勝手に死ぬだろう 「死なぬなら死ぬまで待とうホトトギス」 これぞまさしく、戦後日本男児の生きる知恵というもの 「漂う部屋」 しかし日本人の平均寿命はどんどんあがっていくのだった かつては不治の病として恐れられた結核も 戦後には、薬の普及と医術の進歩で、ぐっと完治率が高まった ところが、先入観にとらわれた世間の人々はいまだに 結核の療養所があの世への入り口で 完治者の手術痕を、まるでケガレのようなものと見る まあそれはしかたないことだ 結核患者たちは、せめて死のタブーを笑いに転化することで 自分たちのなぐさめにするのだった
Posted by
「原色の街」の舞台となった場所を訪れたのをきっかけに興味を持ち、はじめて作者の本を読みました。5編からなる短編集。お金で買う割り切った物理的な「肉体」の関係を通して、複雑な「精神」の構造や変化を描いた「原色の街」「驟雨」がとてもよかった。どの話にも共通すると思ったのですが、混沌と...
「原色の街」の舞台となった場所を訪れたのをきっかけに興味を持ち、はじめて作者の本を読みました。5編からなる短編集。お金で買う割り切った物理的な「肉体」の関係を通して、複雑な「精神」の構造や変化を描いた「原色の街」「驟雨」がとてもよかった。どの話にも共通すると思ったのですが、混沌としたなかで何かを結論づけるようなものではないのに、驚愕させられるような、印象に残るラストの表現の仕方、描き方は素晴らしい。この作者が個人的にすきか嫌いかは別として、凄い作家だなと思いました。
Posted by
初期の5つの中・短篇を収録。篇中の「驟雨」は第31回(1954年上半期)芥川賞受賞作。吉行は、「原色の街」で候補になって以来、ほぼ毎回候補に挙がって来て、ここでようやく獲得したのであった。つまり、手練れではあるものの、最後のインパクトには欠けるとの評価だったようだ。また、後年にも...
初期の5つの中・短篇を収録。篇中の「驟雨」は第31回(1954年上半期)芥川賞受賞作。吉行は、「原色の街」で候補になって以来、ほぼ毎回候補に挙がって来て、ここでようやく獲得したのであった。つまり、手練れではあるものの、最後のインパクトには欠けるとの評価だったようだ。また、後年にも『夕暮れまで』を書いていることから、官能小説化のようにも思われがちだが、実質はかなりニヒルでクールな都会派作家である。ここでも娼婦が描かれるが、情交の場面はなく、主人公の山村と娼婦の道子、それぞれのデラシネこそが描かれたのである。
Posted by
男女の間に横たわる不毛、両者の間にきざした違和感が微細に描かれている。各短編に登場する男女は、みな心と体がバラバラに存在しているかのような印象を受ける。
Posted by
プレーンでドライな文章。中性的。色町を描きながら、エロスにおもねらないというか、たぶんすごいことなんだろう。 話としては女の一人称視点で、「くぅ、あたしったらだめなのに、アレなんてちっとも好きじゃないはずなのに、でもだめ…感じちゃうのぉぉぉひぎぃいい」みたいな、まあひどく誇張すれ...
プレーンでドライな文章。中性的。色町を描きながら、エロスにおもねらないというか、たぶんすごいことなんだろう。 話としては女の一人称視点で、「くぅ、あたしったらだめなのに、アレなんてちっとも好きじゃないはずなのに、でもだめ…感じちゃうのぉぉぉひぎぃいい」みたいな、まあひどく誇張すればそういうことなんだろうけども。 とにかく文体には好感がもてる。 けどちょっと、やはり日本の私小説に対する抗体みたいのがすごくできてしまったと感じる。第三の新人とかも、おもしろいことやってんなーとは思うけど、きちんとは入っていけないのだ。この頃。
Posted by
吉行淳之介は『夕暮れまで』だけしか読んだことがなく、しかしその作品の印象がなかなか良くて気になっていた。 そこで、吉行の娼婦物を中心に読んでみることにした。 ・「原色の街」 気に入るということは、愛することとは別のことである。気に入るということは、はるかに微温的なことだ。 ...
吉行淳之介は『夕暮れまで』だけしか読んだことがなく、しかしその作品の印象がなかなか良くて気になっていた。 そこで、吉行の娼婦物を中心に読んでみることにした。 ・「原色の街」 気に入るということは、愛することとは別のことである。気に入るということは、はるかに微温的なことだ。 ・「驟雨」 その女を、彼は気に入っていた。気に入る、ということは愛するとは別のことだ。愛することは、この世の中に自分の分身を一つ持つことだ。それは、自分自身にたいしての顧慮が倍になることである。そこに愛情の鮮烈さもあるだろうが、わずらわしさが倍になることとしてそれから故意に身を避けているうちに、胸のときめくという感情は彼と疎遠なものになって行った。
Posted by