死者の奢り・飼育 の商品レビュー
長いあいだ途中放棄してたが急に興味が出てきて読み終わった。 「閉じ込められている」…まさにそんな感じだ。空気が濃密になりすぎている。正直、だんだん嫌になってくる短篇集。 しかしそれだからこそ訴える力があるのだろうとも思う。この抗議と敵対心を、どう解するか。この伝染してくる、陰湿な...
長いあいだ途中放棄してたが急に興味が出てきて読み終わった。 「閉じ込められている」…まさにそんな感じだ。空気が濃密になりすぎている。正直、だんだん嫌になってくる短篇集。 しかしそれだからこそ訴える力があるのだろうとも思う。この抗議と敵対心を、どう解するか。この伝染してくる、陰湿な敵意を どう受け止めるのか。 敵意と和解。繰り返し繰り返し。ここに弁証法は機能しない。。 「他人の足」「飼育」がひどく印象に残っている。敵味方、偽者、マジョリティ。子ども、親密性の境界線、恭順。
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全編において閉塞感が漂う。 大学の死体置き場、サナトリウム、村、バス、世相の中で。 閉じた場所に於いて外部から自分とは違う異質なものと邂逅した時、 人は何を考え感じるのか。 読んでいて何かがどろどろと絡みついてくる。 不快な物のような、怖い物のような、或る種の虚しさのような。。
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読む前は大江健三郎さんのことを歴史書を書くような古臭い人だと勝手に思い込んでいた。実際は写真で見る限り容姿は優しそうだし、作品は歴史でもなければ、古臭くもない文学作品なのだがら、少し拍子抜けしてしまった。 数ページをパラパラと眺めてみて、遠藤周作みたいな感じかなと思ったが、読ん...
読む前は大江健三郎さんのことを歴史書を書くような古臭い人だと勝手に思い込んでいた。実際は写真で見る限り容姿は優しそうだし、作品は歴史でもなければ、古臭くもない文学作品なのだがら、少し拍子抜けしてしまった。 数ページをパラパラと眺めてみて、遠藤周作みたいな感じかなと思ったが、読んでみるとどうも違う。 遠藤さんほど静寂さと心の救済がなく、もっと水っぽく生暖かい湿った感じの作品だった。 臭いを想像してしまうような文章で、やるせないものの終わり方をするのに、不快な気持ちにならない。 なんだか登場人物の主人公たちのように、「そうれなら仕方ないんだ」と疲れてうなだれているが、それでも仕方なしに他人と接しなければいけない時の心境にこっちもなってくる。 面倒だし疲れるが、結局私はこの本が好きになってしまった。
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6つの短編それぞれが人間のエゴ、不条理な行動、憎しみ、復讐心と、復讐を果たしたあとの虚しさを綴り、読み手の心を揺さぶる。 物語りの背景や、多数出てくるの差別用語に時代を感じる。 極限の状況が人間の狂気を目覚めさせることを強い説得力を以って語られる。
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表題の短編を含むが、どちらもシチュエーションの設定が(少なくとも現在から見れば)奇抜。 その奇抜な設定の中で、鬱屈とした感情をどんよりと描いている。 環境に抑圧された爆発寸前の、でも決して大きな爆発はしない、歪んだような人間性が描かれております。
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これが生きるということだとおもう。わたしはわたしでしかありえなくて、それは他のすべてのひとももちろんそうで、人間存在の根本的な孤独は暴力を孕んでいて、生きるというのは暴力に晒され続けることだと。もしかしたら暴力を超えて何かを共有しようと試みることでもあるのかもしれないけど、とにか...
これが生きるということだとおもう。わたしはわたしでしかありえなくて、それは他のすべてのひとももちろんそうで、人間存在の根本的な孤独は暴力を孕んでいて、生きるというのは暴力に晒され続けることだと。もしかしたら暴力を超えて何かを共有しようと試みることでもあるのかもしれないけど、とにかく、本書に刻印されているのは孤独と暴力のかたちだった。敗戦による屈折もあちらこちらに読み取れるが、92年生まれのわたしにとって最も響くのは歴史や当時の社会状況、精神的在り方を越える、もっと根本的なもの。 「生きている人間と話すのは、なぜこんなに困難で、思いがけない方向にしか発展しないで、しかも徒労な感じがつきまとうのだろう、と僕は考えた。教授の躰の周りの粘膜をつきぬけて、しっかりその脂肪に富んだ躰に手を触れることは、極めて難かしい気がした。僕は疲れが躰にあふれるのを感じながら、当惑して黙っていた。」
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大学入試の直後(最中だったかも)に読んで、その文体に衝撃を受けました。「ブンガク」のパワーってすごい、と感動した記憶があります。 長崎大学:環境科学部 教員 正本忍
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表題作『飼育』は1958年上半期芥川賞受賞作。鮮烈な抒情が作品の全編を覆う。かつて、これほどに衝撃的な作品があっただろうか。これこそが「我らの時代の文学」だと確信した。大江と同時代を生きることの幸福を思ったのだ。世代は親子ほどにも違うのだが、それでも強い共感性を持って読むことので...
表題作『飼育』は1958年上半期芥川賞受賞作。鮮烈な抒情が作品の全編を覆う。かつて、これほどに衝撃的な作品があっただろうか。これこそが「我らの時代の文学」だと確信した。大江と同時代を生きることの幸福を思ったのだ。世代は親子ほどにも違うのだが、それでも強い共感性を持って読むことのできる文学がここにあった。少年であることの震え、再び還ることのない(本当はそうではないのだが)無垢がここにはあった。僕たちはもはやそこには還れない。強烈な渇仰と郷愁がそこにはあったのだ。僕たちは大江と共に何かを失くしてしまった。
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大江健三郎、初期の短編集。死体を移し替えるアルバイトがやっかいな方向にずれていく「死者の奢り」、閉鎖的な療養所で起こる思想的改革の顛末「他人の足」、パラシュートで降りてきた敵兵の黒人を村人が飼育する「飼育」、バスの中で起こる外国兵による屈辱的行為とその傍観の責任を問う「人間の羊...
大江健三郎、初期の短編集。死体を移し替えるアルバイトがやっかいな方向にずれていく「死者の奢り」、閉鎖的な療養所で起こる思想的改革の顛末「他人の足」、パラシュートで降りてきた敵兵の黒人を村人が飼育する「飼育」、バスの中で起こる外国兵による屈辱的行為とその傍観の責任を問う「人間の羊」、村を訪れた通訳の靴を巡って起こるいざこざ「不意の唖」、脱走兵をかくまうことになった兄弟の葛藤「戦いの今日」。 どれも非常に面白かった。共通して戦中・戦後の様子が描かれているが、全く古さを感じない。おそらくそれは、ともすれば政治的な展開になりそうなモチーフを、あくまで物体として捉えた人間を中心に描写しているからだろう(このあたりが実存主義と言われる所以だろうか)。特に人の皮膚の微妙な変化に対する感性が鋭く、生々しい。そしてストーリーは、不思議とどこか暗喩的に感じられる。現代にも置き換えられそうな気がする。
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作家デビュー作「死者の奢り」を含めた6作を収録した短編集。芥川賞受賞作品集。 その世界にどっぷり引き込まれたのは表題の「死者の奢り」と「飼育」。どの作品も生きている者と死んでいる者の境界線が付かなくなるような、饐えた臭いを感じながら息苦しい気持ちになって読み進めた。描写が精巧...
作家デビュー作「死者の奢り」を含めた6作を収録した短編集。芥川賞受賞作品集。 その世界にどっぷり引き込まれたのは表題の「死者の奢り」と「飼育」。どの作品も生きている者と死んでいる者の境界線が付かなくなるような、饐えた臭いを感じながら息苦しい気持ちになって読み進めた。描写が精巧なため、鮮明に映像を描くことができる。読めば読むほど、本来閉じ込めておきたい人間の黒い部分を引きずり出されるような感覚になった。 こんな作品を著者は23歳の時に執筆したとは。
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