安土往還記 の商品レビュー
大殿(シニョーレ)=…
大殿(シニョーレ)=織田信長が本能寺の変で倒れるまでを、宣教師と共に日本にやってきた外国人の視点から描いたもの。この辻先生独特文体は、うなづけます。
文庫OFF
確かに流れるような美しい文体だと思う。信長と渡来したヨーロッパ人のお互いに響きあう交流も本当かもしれない。そうした展開はこの小説を読むべき点だと思う。私にはその後の主人公たちの姿を詳細に書き上げてほしいなと思った。かなわぬことであるが、そこが残念なところだった。
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歴史小説という枠を超え、見事に描かれる人間・信長像。 信長の信任が厚かったオルガンティノ神父と共に来日したイタリア人の友人の「私」が語り手です。この「私」 は小銃の名手であり、銃を用いた用兵や造船の知識を持ち、信長に鉄砲の三段構えを教えたり、本願寺との戦いに用いられた鉄甲船の造船...
歴史小説という枠を超え、見事に描かれる人間・信長像。 信長の信任が厚かったオルガンティノ神父と共に来日したイタリア人の友人の「私」が語り手です。この「私」 は小銃の名手であり、銃を用いた用兵や造船の知識を持ち、信長に鉄砲の三段構えを教えたり、本願寺との戦いに用いられた鉄甲船の造船にかかわったりするという設定です。 もっとも、様々な事件は単なる背景で、あくまで信長の人格・精神を炙り出しが主眼です。信長を「事の道理に適わなければ、決して事は成らぬ」と考え「事が成る」事に全ての力を集中する人物であると規定。それゆえに西洋の論理的な理(建築学・天文学)を追い求め、理に反していると思えば自らの恣意など簡単に放り捨て、戦においては(残虐さからでなく)理を通すために徹底的なせん滅を目指す。一方で遠く海を超えて日本まで来て滅私の活動をする神父たちには心を許し、多大な庇護を与える人物だと定義します。そして様々な事件・事象を通しその検証をしている作品です。 緊張感のある重厚で美しい文体でぎっちりと書き上げられた名作です。 家に有った文庫本。多分再読です。奥付を見ると昭和47年4月発行、昭和48年3月二刷となっています。小口はまっ茶に焼け、フォントは小さく掠れ、行間は狭く。高校生の頃の私が背伸びしながら読んだ本の様です。
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信長を題材としているが、その主旋律は「宿命とそれに対する処し方」。主人公は、人殺しの過去を肯定するために、あらゆる宿命に打ち勝とうとする。信長、そしてヴァリニャーノは、事を成すことに生命をかけその宿命としての孤独に震える。そのなかで信長はキリシタンに全幅の共感を覚える。孤独さこそ...
信長を題材としているが、その主旋律は「宿命とそれに対する処し方」。主人公は、人殺しの過去を肯定するために、あらゆる宿命に打ち勝とうとする。信長、そしてヴァリニャーノは、事を成すことに生命をかけその宿命としての孤独に震える。そのなかで信長はキリシタンに全幅の共感を覚える。孤独さこそが唯一の友の条件だという、逆説的だが腑に落ちる説を展開している。こうしたテーマはもちろん、抑制のうちに洩れる美しい描写もすばらしかった。特に、信長とヴァリニャーノとの別れのシーン。光と闇が交錯し、「また会いたい」(が、もう逢えないだろう)という悲しみが浮かび上がってくる。 いささか冗長な部分もあったが、じっくり読むに堪える小説だった。 それにしても、昔の「別れ」の重み。二度と会えないことがほとんどであり、一期一会という言葉がいまのように軽薄に使われることはなかっただろう。だから、昔の人は別れでよく泣く。それが今生の別れだから。さようなら(ば、私はいかねばならぬ)という言葉は、出会いと別れの鮮烈な無常をじつによく表している。 See you、再見という言葉にも、明るさより悲しさがあふれている。いまは、会おうと思えばいつでも会えるがゆえに、結局あやふやな別れを迎える。別れを自覚的に生きることは大切なことなのだ。そうでないと、その人と交わることができなくなるからだ。
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西欧人が語る大殿(シニョーレ)織田信長は、きっとこのような人物だったのだろうと思わせる。 好奇心高く芸術家を敬い西洋の技術に深く関心を持ち、道理を求め「事が成る」ことをもって自身の道を貫くために非情となり、それは周囲の理解を得られず孤立していく。 宣教師らには人なつこく冗談に笑う...
西欧人が語る大殿(シニョーレ)織田信長は、きっとこのような人物だったのだろうと思わせる。 好奇心高く芸術家を敬い西洋の技術に深く関心を持ち、道理を求め「事が成る」ことをもって自身の道を貫くために非情となり、それは周囲の理解を得られず孤立していく。 宣教師らには人なつこく冗談に笑うほど心を許したと言うのも安土城下にその城郭と同じ青瓦のセミナリオを建立させた事からも本当だったのだろう。 宣教師ヴァリニャーノがヨーロッパに帰国する事になった際、見送る為に催した夜の祭典で、安土城が一斉の篝火で浮かび上がった情景は素晴らしく、黒装束で信長自らがたいまつを掲げ宣教師に言葉を送ったと言うのも、西洋の宣教師らに対する深い思いが伝わってくる。 信長の時代がもっと続いたらどうだったかななど思いを巡らせながら歴史が現在につながっている事を痛感するから史実は面白い。 豪華絢爛な安土城が現存していないのが本当に残念です。
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イエズス会の宣教師たちとともに、戦国時代の日本にやってきた船員の視点から、織田信長のすがたをえがいた作品です。 遠いキリスト教文化圏からやってきた主人公のまなざしで、日本文化の異質性が叙述されるなかで、信長の「意志」(ヴォロンタ)の普遍性がきわだたされています。それは、海を越え...
イエズス会の宣教師たちとともに、戦国時代の日本にやってきた船員の視点から、織田信長のすがたをえがいた作品です。 遠いキリスト教文化圏からやってきた主人公のまなざしで、日本文化の異質性が叙述されるなかで、信長の「意志」(ヴォロンタ)の普遍性がきわだたされています。それは、海を越えて日本にやってきた主人公たちの行動を支える原理でもあり、この普遍的な「意志」によって文化的なへだたりを越えた共振が成立しています。 彼のような強い「意志」をもたない仏教徒たちに対する残虐な行為に対する非難をくぐり抜けて、傑出した行動力と合理的な知性に裏打ちされた英雄の精神が印象的でした。
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この本は、イタリアジェノバ出身の船員の目を通して、信長という時代の変革者の人物像と安土という時代の様相をとても知的な文体で描いている。 私はこれまで延暦寺焼き討ちなどに見る徹底的に非情なやり口に信長のことがどうしても好きにはなれなかったが、本書で描かれる「事がなる」ために自己を抑...
この本は、イタリアジェノバ出身の船員の目を通して、信長という時代の変革者の人物像と安土という時代の様相をとても知的な文体で描いている。 私はこれまで延暦寺焼き討ちなどに見る徹底的に非情なやり口に信長のことがどうしても好きにはなれなかったが、本書で描かれる「事がなる」ために自己を抑制し「理に適う」方法を徹底的に追求するという人物像に、近代的な人間の先駆者としての孤独と時代の変革者としての強い覚悟を感じて見る目が変わった。 彼がキリスト教の布教に寛容で、西洋の文化にとても強い好奇心を抱いたのは、布教のために命を賭けて海を渡る宣教師等の使命感と、その「事を成し遂げる」ための「理に適う」行動に自分と同じものを感じ強く共感したからなのかも知れない。 それに比べたら、比叡山などの既成の神社仏閣は既得権益にどっぷり浸かってあまりにも腐敗していたのだろう。 帰国するヴァリニャーノ神父のために信長が催した夏の祭典で描かれる安土城の松明の情景は秀逸。
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本の中に入って、登場人物と空気を共有している感覚になる 作者が伝えたかったのは 織田信長とキリシタンとの共鳴点としてのメッセージ「孤独になっても、道理に適うべく意志を貫く」と思う
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2013.8記。 イタリアの船乗りの手記、という形を借りて、織田信長の人生を追った歴史小説。 大河ロマン的な展開とは無縁。むしろ、安土城の築城や、信長と宣教師たちとの交流、そして酸鼻を極める合戦シーンなどのエピソードを通じて著者がはっきりと宣言する主題は、人々を震え上がらせた...
2013.8記。 イタリアの船乗りの手記、という形を借りて、織田信長の人生を追った歴史小説。 大河ロマン的な展開とは無縁。むしろ、安土城の築城や、信長と宣教師たちとの交流、そして酸鼻を極める合戦シーンなどのエピソードを通じて著者がはっきりと宣言する主題は、人々を震え上がらせた「大殿」(シニョーレ=信長)の冷酷さ、残虐さの裏側にある、「自分に襲ってくるすべてのことを・・・自分が意志し、望んだこととして、それにかじりつき、もぎとり自分の腕にかかえこ」み(P.12)、「自分の選んだ仕事において、完璧さの極限に達しようとする意志(ヴォロンタ)」(P.104)である。 敵対する両勢力に鉄砲を売りつつ半端な悔悛の情を見せる三好衆に主人公が示す嫌悪と、遠い異国でキリスト教布教に人生を捧げる宣教師たちへの信長の深い共感は同じ性質のものだ。 敵将に温情をかけない信長への部下たちの反感、信長の真意を理解するがゆえに苦しむ明智光秀。 立場や考え方が近い、遠いなんてことよりも目的に向かう意志の強さそのもので人は評価されるべきだ、と。 テーマが物語の森に沈み、隠喩の解釈にさえ心理学の知識が必要になりそうな村上春樹や一部のラテンアメリカ文学(それはそれで面白いのだが)とは異なり、メッセージ・思索を真正面から描き切る、オーセンティックな「小説」を久しぶりに読んだ気がする。
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かなり異色な小説。1人のキリシタン宣教師から見た信長像を追っているんですね。 この設定によって、まるでその場にいて信長に接しているような気になってきます。絶妙な距離感なんですよね。信長がどのような人物なのか、宣教師は掴みかねていて、一緒に探っていく作業のようでもあります。 実...
かなり異色な小説。1人のキリシタン宣教師から見た信長像を追っているんですね。 この設定によって、まるでその場にいて信長に接しているような気になってきます。絶妙な距離感なんですよね。信長がどのような人物なのか、宣教師は掴みかねていて、一緒に探っていく作業のようでもあります。 実際、著者は歴史史料から信長像をたどっているそうで、そのあたりも史実を重視しています。 信長像も新鮮でした! 宣教師に分からないことを素直に質問していて、当時の日本人には理解できない考えをしていたことも分かります。 同時代にいるかのような不思議な感覚を味わえます。おすすめです!
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