1,800円以上の注文で送料無料

安土往還記 の商品レビュー

4.2

31件のお客様レビュー

  1. 5つ

    11

  2. 4つ

    11

  3. 3つ

    2

  4. 2つ

    2

  5. 1つ

    0

レビューを投稿

2016/12/04

宣教師とともに来日したジェノバ出身の船乗りの目を通して描く織田信長. 感情に惑わされず「理にかなうことを唯一の武器に」孤独に生きる禁欲的な織田信長像が新鮮. 辻邦生の文章も理知的でむだがない. それにしても,新潮文庫に現役でのこる辻邦生の小説はこの本と西行花伝だけというさみしさ...

宣教師とともに来日したジェノバ出身の船乗りの目を通して描く織田信長. 感情に惑わされず「理にかなうことを唯一の武器に」孤独に生きる禁欲的な織田信長像が新鮮. 辻邦生の文章も理知的でむだがない. それにしても,新潮文庫に現役でのこる辻邦生の小説はこの本と西行花伝だけというさみしさ.内容が古びたわけでもないし,大作家ではないにせよ,よい小説家の見本みたいなひとだと,私なんかは思うのだが,こういう文章を好きなひとがどんどん減ってるのかな.

Posted byブクログ

2016/07/05

辻邦生の安土三部作のうちで最も有名であろう。鬱屈する事情を抱えたジェノバ出身のある船員の書簡の形で、信長の周囲の人物たちの思考と行動とが、一種突き放した観察の乾いた描写で書かれ、そのことによって、孤高のシニョーレ信長が鮮烈に浮かび上がる。そういうしかけの物語。 数十年にわたって...

辻邦生の安土三部作のうちで最も有名であろう。鬱屈する事情を抱えたジェノバ出身のある船員の書簡の形で、信長の周囲の人物たちの思考と行動とが、一種突き放した観察の乾いた描写で書かれ、そのことによって、孤高のシニョーレ信長が鮮烈に浮かび上がる。そういうしかけの物語。 数十年にわたって再読三読している本(焦げ茶の単行本)だが、若いときには、その物語性、圧倒的に美しく知的な文章、ライトアップされた安土城に松明持つ馬を駆けさせる、といった耽美的ともいえる情景創造に驚き、正に耽溺しつつ読んでいたように思う。 今、再読して特に思うのは、「理に適うことを持って事を成す」という西欧的思考を1960年代後半に既に突き詰めていたことの特異性である。 一貫して執拗といえるほどに描かれるのは、信長における「「理に適うこと、事が成ること」が全てに優先される」という思考と姿勢と行動である。だからこそ日本社会において孤独であり、(イエズス会という政治的思惑があるのだが)宣教師達の思考と行動に触れ共鳴した。そして、そのことに深いところで気づいたのは、おそらく巡察司ヴァリニアーノとこの船員だけであったろう、ということが語られる。 実際には、周囲の人物の思考と行動が信長との緊迫した関係性とともに書き込まれており、その一つ一つが信長の像を浮かび上がらせていく。   ・生の喜びに溢れる好人物なのに、信長の思考を理解できない故に滅ぼされた荒木   ・信長の論理を理解できる故に、限界まで自己を追い込み耐えられず滅びた明智   ・日本的村社会に溶け込むことで宣教活動を成功させたオルガンティノ   ・透徹した戦略的視点を持ち信長が理の人だと理解して近づく「美貌の」ヴァリニアーノ   ・武器特需の波に乗ろうとする境商人・・・ 今でこそ、ロジカル・シンキング云々と取りざたされているが、1960年代の後半に、理に適うことを至上とする西欧の思考と、時々の現場感覚を優先する日本的感性とを、ここまで明確に書き分けていたことは稀有なことだったと思う。数十年「西欧の光」を追い続け、テクニック的には西欧的論理思考の方法を手に入れた我々は、もともと持っている感性の論理との間にどういう折り合いをつけているのだろうか・・・などと思う。

Posted byブクログ

2016/07/03

本作については、まづ新潮文庫カヴァーの紹介文を引用しませう。 争乱渦巻く戦国時代、宣教師を送りとどけるために渡来した外国の船員を語り手とし、争乱のさ中にあって、純粋にこの世の道理を求め、自己に課した掟に一貫して忠実であろうとする“尾張の大殿(シニョーレ)”織田信長の心と行動を...

本作については、まづ新潮文庫カヴァーの紹介文を引用しませう。 争乱渦巻く戦国時代、宣教師を送りとどけるために渡来した外国の船員を語り手とし、争乱のさ中にあって、純粋にこの世の道理を求め、自己に課した掟に一貫して忠実であろうとする“尾張の大殿(シニョーレ)”織田信長の心と行動を描く。ゆたかな想像力と抑制のきいたストイックな文体で信長一代の栄華を鮮やかに定着させ、生の高貴さを追究した長編。文部省芸術選奨新人賞を受けた力作である。 ええ、以上であります。これで終つてもいいのですが、ちよつとだけ蛇足を。 冒頭で、本書が世に出た経緯を著者は書いてゐます。著名な蔵書家の書庫から発見された古写本に、かなり長い書簡の断片が別紙で綴ぢ込まれてゐたと。それを作者が翻訳を試みたと述べてゐます。なほ、原文はイタリア語であつたが、C・ロジェール氏の仏文試訳から翻訳を行つたといひます。 ......ふふふ。中中手が込んでゐますな。イザヤ・ベンダサンか。まあいい。その書簡はイタリアの船乗りが書いたことになつてゐて、どうやら布教のため、宣教師を日本へ送り届ける役割を担つてゐたやうです。 その船乗りの名前は作中では明らかにされず、「私」といふ一人称で語られるのみであります。 その「私」が、戦国時代の日本で尾張の大殿(シニョーレ)と出会ひ、大殿の庇護の下で布教活動に勤しみます。そして大殿が本能寺で自害するまでを、友人に宛てた書簡といふ形式で叙述してゐるのです。大殿とは、むろん織田信長のことですが、実際には信長の「の」の字も出てきません。一貫して「大殿」と表現されます。 天下をほぼ平定したといつても、毛利氏との戦が続いてゐることもあり、大殿の表情には陰影が絶えません。戦場に於いては、容赦ない殲滅作戦を展開する大殿ですので、側近たちも戦戦兢兢として心休まらないやうです。 しかしながら「私」の眼に映る大殿は、ただひたすら「事が成る」ことを眼目に生き、徹底した合理主義を求める孤独なリーダーの姿でした。 腐敗した仏教界を嫌悪したり、その反動か宣教師たちに常識外れの厚遇をみせるのも、すべて「事が成る」ことを目指してゐたからだらうと。で、次のやうに理解を示すのであります。 私が彼の中にみるのは、自分の選んだ仕事において、完璧さの極限に達しようとする意志である。私はただこの素晴らしい意志をのみ─この虚空のなかに、ただ疾駆しつつ発光する流星のように、ひたすら虚無をつきぬけようとするこの素晴らしい意志をのみ─私はあえて人間の価値と呼びたい。 当時の信長の周辺で、かかる分析をした人はゐなかつただらうな、と思ふのですが、そこを海外から来た船乗りの目を通じた大殿といふことにして、不自然にならず実に新鮮な信長像を描き出したと申せませう。文章も無駄が無く、引き締つた文体で心地良い。 信長について、ある程度予備知識を有する人なら、更に愉しめるでせう。ぢやあ又。 http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-644.html

Posted byブクログ

2015/08/09

芥川の“伴天連もの”みたいかなと思ったら違いました。“理にかなうように事を成す”、ニヒリズムの基層から打ち上げられた閃光のような信長の生き様です。“生”に意味を持たせるための苛烈で孤独な生き様を歴史小説のかたちを借りて「信長」に仮託したのでしょう。「長島の戦い」の描写は迫真的で、...

芥川の“伴天連もの”みたいかなと思ったら違いました。“理にかなうように事を成す”、ニヒリズムの基層から打ち上げられた閃光のような信長の生き様です。“生”に意味を持たせるための苛烈で孤独な生き様を歴史小説のかたちを借りて「信長」に仮託したのでしょう。「長島の戦い」の描写は迫真的で、私が知る中ではベストでした。馬揃えや安土城のライトアップシーンは美しいですね。短編ですが、知的で深いものがあります。辻邦生は初めてですが、とても教養がありコスモポリタンな視点を持たれた方のようです。次は、「嵯峨野明月記」を読みたいと思いました。

Posted byブクログ

2014/12/21

尾張の大殿(シニョーレ)信長という巨大な人格をジェノヴァ人航海士の立場から語り手として、異国人の目を借りて客観的に観察・著述するかのよう。異国人から見ても信長という人は、改革者として共感を覚えるタイプだったのだろうか。欧州で比較すべき人物が誰なのかという観点から興味深い。この本で...

尾張の大殿(シニョーレ)信長という巨大な人格をジェノヴァ人航海士の立場から語り手として、異国人の目を借りて客観的に観察・著述するかのよう。異国人から見ても信長という人は、改革者として共感を覚えるタイプだったのだろうか。欧州で比較すべき人物が誰なのかという観点から興味深い。この本でも著者が安土の街を描く表現は美しい。信長が、ヴァリニャーノ、語り手たち一行を安土から松明の炎の河のような列をかざして見送る場面は、さながら現代の光のイルミネーションを目に浮かぶ瞬間である。

Posted byブクログ

2014/10/14
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

 理にかなう事を成し遂げる為に、自分自身をもまた理通りに思考し、孤独が刻み込まれているかのような織田信長。この様な視点はやはりヨーロッパ的なのだろう。翻訳本のような導入も、これを色濃くしている。  日本人の情に流されていくあいまいさからでは、理解しがたい信長だが、自分が良しと思える基準、掟を生を捧げて貫き通した大殿として描いている。とても哲学的と思える。  現実にかえって、自分の中での理、と考えるとやはり定まらない。それだけに宗教の力が怖い。自分の道理とその宗教が一致してしまえば、生をも捧げることにもなりかねない人々の誕生、と派生して考えてしまった。  

Posted byブクログ

2013/06/06

かつて軍隊の指揮官だった経験を持つイタリア人航海士の視点を通して、信長の非情さや峻厳さ、苛烈さを、「事を成らしめるための徹底した合理主義」という角度から分析し、彼の背負う孤独をも炙[あぶ]り出す。 信長が南蛮舶来のものに対してさながら学者を志す少年の様に知的好奇心をあらわにする...

かつて軍隊の指揮官だった経験を持つイタリア人航海士の視点を通して、信長の非情さや峻厳さ、苛烈さを、「事を成らしめるための徹底した合理主義」という角度から分析し、彼の背負う孤独をも炙[あぶ]り出す。 信長が南蛮舶来のものに対してさながら学者を志す少年の様に知的好奇心をあらわにする様が非常に興味深く、畏[おそ]れ多くも大殿(信長)に対して親近感が湧いてしまった。 ただ、情景描写をしつこく感じた。 歴史小説のつもりで読みながらどうも純文学っぽいなあと思って調べたらほんまに純文学寄りの作家やった。 俺が思う歴史小説は読了後疲労感が襲ってくることはないしやっぱこれ純文学やわ。

Posted byブクログ

2012/08/19

1回目は中学の国語の先生に進められて読んだ。その時はこんな視点で信長を見れるのかという点に感心した。 最近、読み直して、「事が成る」ために下劣な温情に堕ちる事なく淡々と仕事をこなしていく信長像に感心した。 荒木村重謀反の際の信長の思考は、一番合点がいった。

Posted byブクログ

2012/05/28

ジェノバの宣教師の目を通した信長の生き方を捉えた本。「事を成す為、理に適うのか」のみをひたすらに自他に厳しく極みに達しようと強い意志を持っていた故、時に非情と人には映り、益々孤独になって行った信長。そこに私益の為にという感情は一切ない。果たして自分はどうなのか。って考えさせられた...

ジェノバの宣教師の目を通した信長の生き方を捉えた本。「事を成す為、理に適うのか」のみをひたすらに自他に厳しく極みに達しようと強い意志を持っていた故、時に非情と人には映り、益々孤独になって行った信長。そこに私益の為にという感情は一切ない。果たして自分はどうなのか。って考えさせられた。

Posted byブクログ

2012/04/13

『一番カッコイイ戦国時代小説』の座、私の中で、何十年も揺るがないままです。 あの時代で、自分も呼吸しているかのような臨場感は「嵯峨野名月記」のほうが、より強かったですが、こちらのほうが登場人物への感情移入がしやすいぶん、数々の場面の印象が鮮烈に残っています。 安土城で信長が、バ...

『一番カッコイイ戦国時代小説』の座、私の中で、何十年も揺るがないままです。 あの時代で、自分も呼吸しているかのような臨場感は「嵯峨野名月記」のほうが、より強かったですが、こちらのほうが登場人物への感情移入がしやすいぶん、数々の場面の印象が鮮烈に残っています。 安土城で信長が、バリニャーノを歓待するために行った『演出』のシーン、何度も読み返しては脳内で映像化して(貧弱な想像力ながら)酔いしれたものでありました…。 思い出しつつ、また再読したくなりました☆何年かおきに読み返すのですが、読むたびに、また違う輝きに出会えるような小説です。 大河ドラマの「信長 King of Zipangu」は、この小説を『原作』にしたくて、でも許諾が得られなくて脚本家さん原作ということにしたのでは…と長年思い続けているのですが…。 今も真相が気になるところです☆

Posted byブクログ