火宅の人(上巻) の商品レビュー
著者本人とその家族、愛人を描いた私小説風の作品であるが、話の筋だけを見ればここまでクズな人間も珍しいと思ってしまう。主人公である著者は幼い3人の子供(しかも1人は日本脳炎で寝たきりになっている)を抱えながらも、家には全く寄り付かず、愛人のために複数の家を契約しながら、国内・海外を...
著者本人とその家族、愛人を描いた私小説風の作品であるが、話の筋だけを見ればここまでクズな人間も珍しいと思ってしまう。主人公である著者は幼い3人の子供(しかも1人は日本脳炎で寝たきりになっている)を抱えながらも、家には全く寄り付かず、愛人のために複数の家を契約しながら、国内・海外を放浪する。最も、作家としてとにかく常に作品を生むことだけは欠かさずしているため、毎月の月収も非常にリッチではあるため、家族が少なくとも困窮しているわけではないが。 しかし、ここまで人間のクズともいえる奔放さがあると、不思議とカラっと晴れやかな読み心地にさせられるのが本書の最大の魅力だろう。日本の近代文学史的に見れば、親しい交友関係を持っていた太宰治や坂口安吾などと並ぶ無頼派に位置づけられるが、日本文学特有のジメジメした感じはここにはない。そうした明るさも、恐らく著者を長寿たらしめた一つの理由だと思うし、ひたすらに奔放さを突き詰めた生涯というのは、これはこれで悪くない、と思わせてくれる。
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檀一郎氏の自伝的小説であり、氏の作品を代表する一冊でもある火宅の人。作家である主人公は、不登校や軽犯罪を繰り返す長男、脳性麻痺で寝たきりの次男、生まれたばかりの女子、家事や介護で疲弊しきった妻を置き去りにし、毎夜飲み歩き、家には帰らず、愛人との生活や旅行に勤しむ。金を借り、踏み倒...
檀一郎氏の自伝的小説であり、氏の作品を代表する一冊でもある火宅の人。作家である主人公は、不登校や軽犯罪を繰り返す長男、脳性麻痺で寝たきりの次男、生まれたばかりの女子、家事や介護で疲弊しきった妻を置き去りにし、毎夜飲み歩き、家には帰らず、愛人との生活や旅行に勤しむ。金を借り、踏み倒し、原稿料を前借りして買い物をする。原稿料は不思議と多いから、なんとかなっている。当時としては珍しい海外視察旅行でアメリカに出かけるが、現地でも不倫騒動を起こし、人から借金して、人妻と欧州に逃げるように移動する。現地でも多くの方に迷惑をかけつつ、なんとか騒ぎを治めて帰国する。東北へ旅行へ行っている間に、次男の危篤が伝えられ、急ぎ帰宅するものの間に合わない。ここから一気に人生が枯れ、終結に至る。奔放な人生、本音の生き方を、人間の業(ごう)や生き様を生き生きと描いたと称え評価する向きもあるし、こういう人生もあるかもしれないが、個人的には受け入れられない。嫌な感情が残った小説。
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やりたいように生き、色々な意味で緩い主人公。 周りの家族は大変だろうなあと思いつつ、何故かにくめないし生活を見ているのが楽しい。家族に関しては、何かあれば相談に乗ったり見捨てたりはしないからそこまで嫌悪感はなかったのかも。まあ普段放置しすぎだけど(笑) 海外に行ったとき、えっ、...
やりたいように生き、色々な意味で緩い主人公。 周りの家族は大変だろうなあと思いつつ、何故かにくめないし生活を見ているのが楽しい。家族に関しては、何かあれば相談に乗ったり見捨てたりはしないからそこまで嫌悪感はなかったのかも。まあ普段放置しすぎだけど(笑) 海外に行ったとき、えっ、まさか関係を持っちゃうの!?嘘でしょ!と思いました。
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オトラジで紹介されていて手にした一冊。 荒廃した生活を送る作家の桂。 羨ましい程、奔放に暮らす自由気ままさ、愛人との痴情、それでもどこか憎めないキャラクターが魅力的だった。
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図書館で借り読み切る前に期限が来てしまい…大体読めたのは上巻のみ、、再読予定 主人公はクズなものの、どこかなんとなくみじめでしまらない感じが悪人性を抑えてる感じ、 そしてその分(主人公目線で見てる限りは)威圧感もないので、女性を引っ掛けられる所以はこういうところかなぁ、などと思...
図書館で借り読み切る前に期限が来てしまい…大体読めたのは上巻のみ、、再読予定 主人公はクズなものの、どこかなんとなくみじめでしまらない感じが悪人性を抑えてる感じ、 そしてその分(主人公目線で見てる限りは)威圧感もないので、女性を引っ掛けられる所以はこういうところかなぁ、などと思いつつ 全体的に文章や目線がユーモラスで、実際にあったらひどい人間関係が起こっているはずなのに悲壮感がなく、なぜか面白楽しく読める感じがあって そこに好感を抱いた。 なんとなくのんびり話が続くので急いで読むものではないかな…のんびり眺めるのが向いている作品かも
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檀流クッキングは座右の書であり、檀一雄に興味大だが、代表作の火宅の人はおどろおどろしそうで避けていた。読んでみて予想以上に感じ入るところがあった。多くの人がやっている無難な生き方で本当に生きた心地がするか、と。ひたすら「自分の気持ち」に従って生きることが意外と繊細に表現されている...
檀流クッキングは座右の書であり、檀一雄に興味大だが、代表作の火宅の人はおどろおどろしそうで避けていた。読んでみて予想以上に感じ入るところがあった。多くの人がやっている無難な生き方で本当に生きた心地がするか、と。ひたすら「自分の気持ち」に従って生きることが意外と繊細に表現されていると思った。 長男が窃盗事件を起こしたときの刑事との会話に作者の言いたいことが集約されていると思う。以下抜き書き。 「…どんな人間だって、それぞれの環境を負って生きてきたでしょう。人様や社会に対しては重々申し訳ないけれど、私も、私なりに生きることをやめるわけにはゆきません。…」 「…戦っているからこそ、破局もあるのじゃないですか。手をこまねいていたら、破局なんぞないでしょう。どんなに悪影響があろうと、生きている姿のままの私から、子供はそれなりのものを汲みとって大きくなる以外にはないわけです」 警察からの帰り、海で泳いでよいかと息子に聞かれて答えるセリフ 「一郎。自分で信じられることなら、断頭台にかかるところまで、やったっていいよ。あとで人のせいにさえしなければね…」 (…すばらしい、さすが檀一雄!ついていきます!)
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本書で読む「檀一雄」は凄まじい屑っぷりだ。家庭を顧みず日本脳炎を罹患した次男をほったらかしにし愛人と愉楽の彷徨を重ねる。と思ったらふらっと自宅に戻ってきて細君の神経を逆なでする鬼畜ぶり。彼の生涯の生き様だけ追えば「許されざる者」なのだが、『火宅の人』を読むとなんともいえぬ愛嬌を感...
本書で読む「檀一雄」は凄まじい屑っぷりだ。家庭を顧みず日本脳炎を罹患した次男をほったらかしにし愛人と愉楽の彷徨を重ねる。と思ったらふらっと自宅に戻ってきて細君の神経を逆なでする鬼畜ぶり。彼の生涯の生き様だけ追えば「許されざる者」なのだが、『火宅の人』を読むとなんともいえぬ愛嬌を感じて憎めなくなってしまう。むしろ「文豪たるものこのくらい豪傑でなくては」と思わされてしまうから不思議だ。私小説である『火宅の人』が檀一雄氏の最高傑作の呼び声高いのは、檀氏の才能を持って「小説よりも奇なり」を描き文学作品として極めて高いレベルに仕上がっているからだろう。例えば序盤の能天気な檀と欧米出発前の檀は、単純な躁鬱と違う、人生を謳歌する楽天家と閉塞感に陥っていく心理状態を巧み描き分けている。 本作品を読む前に妻ヨソ子目線で檀氏を描いた沢木耕太郎氏のノンフィクション『檀』を読んでいたが、檀氏が自身で語ってるような「破天荒だが愛されるキャラ」では必ずしもなかったことがわかる。恵子のモデルとなった入江杏子が語った作品もあるようで、芥川龍之介の『藪の中』のような趣がある。
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作家檀一雄の自伝的小説。 まさに昭和初期の作家、という感じで自らの本能に忠実だが、愛人の過去に対して女々しい所もあり、嫌悪感を覚えた。読み進めるのが時間の無駄と感じ終了。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
ハードボイルドで格好よいオス。男らしい。今の時代には非難されそうだが、戦後のハードな時代から高度成長期へと変遷していく町の模様、人々もかんじられる。愛とは家族とは生きるとは、哲学もちりばめられていて、素晴らしい作品だった。エロ描写も楽しめた。
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火宅=苦しみの中でそれも悟らず享楽に耽る檀一雄の私小説。妻や子をもちながら愛人との放蕩生活を続ける小説家。いけないと思いながらも、今さらそれをどうしたらよいのかもわからず、人や土地、さまざまなしがらみから逃げ続ける。下巻へ。
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