天人五衰 の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
聡子の「それも心心ですさかいに」という言葉は、観測者として、振る舞ってきた本田の心を打ち砕くものであっただろう。 人間の感じる文脈というのは、誰しも一致しないところであり、己に内在する宇宙を他人に強制できないし、強制されるいわれもない。 だが、清顕の生まれ変わりが実際にいるという仮定を現実だと思っていた本田はその現実と真性が一致しているものだとばかり思っていた。 私達が考える、人の有り様も、実に様々だ。 やがて人は歳老いるものであるし、その時に信じられる存在が欲しい。 聡子は周囲の身勝手な振る舞いを拒否する事で絶対的に憎む存在として清顕を愛した。その心の内側を誰にも排除されたくないとの想いを込めて。 彼女の中で、清顕は永遠に憎むべき敵であると共に永遠に愛すべき偶像となり得た。 愛しているからこそ、憎いという思いは誰しも持つところであろう。 清顕の存在を否定するまでに執着しているのだから。 「罪は清様と私二人だけのものですわ」 聡子の清顕への愛は桟橋から遥かに海へと漕ぎだす前触れだった。
Posted by
豊饒の海シリーズの中で一番衝撃を受けた作品かもしれない。 もう一度読み返すには自身の精神的な成長といろいろな経験を積み重ねるが必要だと痛感した。今は再読できる自信がない。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
豊饒の海・春の雪を読んでから、一年に一冊づつ読み進んだような時間をかけた読み方をしてみた。春の雪では脇役でしかなかった本多が松枝清顕の輪廻の目撃者として一生を終える姿を描き切るかと思えば、最後に月修寺で聡子により過去は「無」へと突き落とされる。高齢で病に侵された本多が苦労して上る月修寺までの坂道が象徴的に本多と読者に歳月を経過を感じさせる。60年という歳月は清顕以後三人の転生を経過し、人にとってはとても長く多くのものを変えるが、聡子の返答が「無」へと突き落とす。「記憶と言うてもな、映る筈もない遠すぎるものを映しもすれば、それを近いもののように見せもすれば、幻の眼鏡のようなものやさかいに」 読み返しはしないが、読み返せば読み方が変わる作品かもしれない。
Posted by
豊饒の海の完結巻。 生と死、美と醜、善と悪、内と外、神聖と俗界。 全てのものを取り込みながら高みへと展開される作品世界の、なんて悲しい結末。 「見る」ことの本質へと迫ろうとする描写が、極めて優れた観察者であった作家の苦悩を感じさせます。 本当にすごい物語でした。
Posted by
全作の中で、これが一番読みやすくて面白かった。 物語としてはこの一本だけでOKで、 (一)~(三)は要らなくね( ゚∀゚)? とか思ってしまいましたが、 それでは終盤の慶子おばさまの強烈パンチ(笑)が 意味不明になっちゃうもんね、やっぱり必要か。 この慶子おばさま&ラストの月修寺...
全作の中で、これが一番読みやすくて面白かった。 物語としてはこの一本だけでOKで、 (一)~(三)は要らなくね( ゚∀゚)? とか思ってしまいましたが、 それでは終盤の慶子おばさまの強烈パンチ(笑)が 意味不明になっちゃうもんね、やっぱり必要か。 この慶子おばさま&ラストの月修寺門跡による パリノードによって、 それまで築き上げられた世界が ガラガラと崩壊してしまうので、痛快だけど、 シリアスだった(一)(二)の主人公たちが ちょっと気の毒になってしまった。 結論は諸行無常(-人-)
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
三島 由紀夫の「豊饒の海」をついに読了。 4部全体を通じて本作を論じるとなると、1週間近く家にこもって書評を書いてみたいとさえ思う。書く場が仮にこのブクログレビューだとしても、今度まとまった時間をとって取り組んでみたい。 誤解を怖れずに言えば、本多 繁邦の価値観、感覚、理知には理解できる部分が多かった。(もちろん覗きはわからないが…) 今日のところは、ここで止めておこうと思う。
Posted by
ついに豊饒の海すべて読みきりました。最終巻である「天人五衰」はかなり期待していたんですが、まさかの展開で驚きでした。個人的には「春の雪」の清顕と「奔馬」の勲が思想的に気高いものを持っていて好きでした。この二人の生き方が三島由紀夫の望んでいた死をも含めた生き方だと勝手に思ってます。...
ついに豊饒の海すべて読みきりました。最終巻である「天人五衰」はかなり期待していたんですが、まさかの展開で驚きでした。個人的には「春の雪」の清顕と「奔馬」の勲が思想的に気高いものを持っていて好きでした。この二人の生き方が三島由紀夫の望んでいた死をも含めた生き方だと勝手に思ってます。逆に一番望んでいない生き方が本多のような生き方だと。 「暁の寺」、「天人五衰」は本多が占める割合が大きく、「春の雪」、「奔馬」のほうが楽しめました。 それにしても透にはびっくりしたし、聡子にはさらにびっくりした。本多の色情に駆られた行動も。 輪廻転生がテーマのこの大作、最後の裏切りというか三島由紀夫の思考が高尚過ぎて自分には雲をつかむような感覚でした。
Posted by
2011/10/03-12/3 壮大な小説 真相は闇の中 心々 スケールが大きい 知識も大きい いろいろな意味でいろいろ学ばされる
Posted by
戦慄、狂気、無、夢の果てと終焉。 『豊饒の海』長編小説の第4巻目(最終巻)。 4巻の主人公は透だと思っていた。 結果、透は神に選ばれなかった者だが。 しかし透の性質や思考は、今までの正規な主人公よりも歪で強烈に残る。 恐らく一番に残る。 その孤高さと哀れな卑しさに。 そして透...
戦慄、狂気、無、夢の果てと終焉。 『豊饒の海』長編小説の第4巻目(最終巻)。 4巻の主人公は透だと思っていた。 結果、透は神に選ばれなかった者だが。 しかし透の性質や思考は、今までの正規な主人公よりも歪で強烈に残る。 恐らく一番に残る。 その孤高さと哀れな卑しさに。 そして透の1つの終焉が、また儚くて胸が詰まる。 真の意味で絹江と同じ者になった。 自分が愛する世界に閉じ籠ること。 また本多の長い傍観者としての立場もここで終わる。 正式には3巻の月光姫と日本で別れた時に終わっていたんだと思う。 本多の老年に置いての心は霞んでいる。 見えているようで見えていない。 本多の人生は世の常と同じだった。夢を見ていた。 …しか思えない物語の結末だ。 久松慶子の客観的に人を見る目の、抉るような深さ。 自身に傲り酔っている透に真実を話す。 冷たく突き離すような…透を簡単に地獄の底へと送り込んでしまった。 慶子がある意味で勝者なのでは。誰も勝てないこの人には。 美しい文章に隠れた不穏。 この4巻を読んだ後、恐ろしくなった。言葉にならない。何も糧にならない。 ただ、夢を見ていた。 しかしそれは聡子の思惑だったのか。 不穏な文章で終わる一幕は『豊饒の海』全巻に強烈なインパクトを残した。 現代小説とは違う、深く抉るような余韻を残した本。 『天人五衰』の個人メモ↓ 見るがいい。この少年こそ純粋な悪だった!(10) 意志とは宿命の残り滓ではないだろうか。(16) この世には実に千差万別の卑俗があった。気品の高い卑俗、白象の卑俗、崇高な卑俗、鶴の卑俗、知識にあふれた卑俗、学者犬の卑俗、媚びに充ちた卑俗、ペルシア猫の卑俗、帝王の卑俗、狂人の卑俗、蝶の卑俗、斑猫の卑俗、…おせらく輪廻とは卑俗の劫罰だった。そして卑俗の最大唯一の原因は、生きたいという欲望だったのである。(23) 24章からの本多透の手記。 本多透の心がすべて現れている。 世界は確実に何か美しい病気にかかる。(26)
Posted by
素晴らしい。四部作まで緻密に作り上げた物語世界の本質を、最後の最後に明かす。それは、本多が生涯をかけて追究したもの、この四部作で突き詰めたテーマの果てが空虚であったということだ。死を覚悟した者にしか作り得ない作品。「全てが心々」だとしたら、世界は何のためにあるのだろう。
Posted by