暁の寺 の商品レビュー
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(2021-07-16 5h読了) 3日かけて読了。新潮文庫の豊饒の海シリーズは装丁が煌びやかでとても好ましい。単行本は出版社としても(安価な文庫より)全体のデザインにお金をかけやすいのだろうが、文庫はたいてい表紙のデザインに限られるので、好みの装丁は見つけづらい。その中で、この豊饒の海シリーズの表紙は統一感と色合いなど全巻揃えて並べて眺めてみても、飽きないだろう。 内容について、これまで読んできた豊饒の海シリーズの中で一番好きかも。 森川達也氏による解説に、この『暁の寺』は豊饒の海の正に「転」に当たる役割を持つとの記載がある。まだ全巻読み通してはいないので、私個人としては、第三巻が転であると判断することは難しい。残り1巻(天人五衰)を残した上で言うと、転と呼称するには、そこまで大きな展開は巻き起こっていないように思う。 1巻の『春の雪』では清顕が豊饒の海全編を通して主人公として物語が進むと思って読み進めたが、『奔馬』で時間は大きく進み、本多に話の軸がうつる。今回、『暁の寺』においては、更に時が推移し、本多の周りにも本人の思考にも年齢相応の変化が訪れる。 なんだか、正直、気持ち悪いひとが目立つ巻であった。 気持ち悪いという言い方は語弊があるかもしれないが、これまで美しい描写が多かった(『春の雪』は耽美で若々しい儚さ、『奔馬』は烈しく美しい盲目的な情熱を感じた)のに対して、醜いほどに人の生を露わにしている。 輪廻転生についての描写が結構長い! 仏教についての造詣が深まれば、ここも楽しんで読めるのかな。 人生の切り取り方について述べていた一節は好きな考え方でフレーズまるごと記録した。 第一部においては、本多と同調して菱川の人間的な浅ましさに嫌気がさしたが、壁の穴から隣室を覗き見る・娘ほどの年の離れた学生を女として色目を見る粘ついた情欲は、正直気持ち悪い。本多、気持ち悪いおじさんに変わっちまったよ…と読みながら悲しくなった。終盤に近づくほどに本多と自分との感覚が乖離していくような。 今西も、柘榴の国の話は面白おかしくて好きだし、女性が好きになる不思議な魅惑を持つ男だということは分かるものの、だらしがなくて人としては好きになれない。そのうえ、梅原夫人は情緒不安定で今西の何に惹かれているのか不透明というか、女性の脆さが直に窺えて目を覆いたくなる。ほんとに全体に露発的な場面が広がっている。 奥さんの莉奈が嫉妬に狂って最後の最後に一波乱起きるのではと危ぶんだが、そういうことはなくほっとした。ラストのジン・ジャンの秘め事と、指環の扱いにはすかっと(?)したし、この巻が好きなのもその場面ありきかもしれない。 三島先生は、友だちに勧められて『音楽』を読んでから、ぐいぐい惹かれて『仮面の告白』からこの『豊饒の海』シリーズへ足を踏み入れた。 タイトルで一番気になっている天人五衰も早く読みたいな。どのように物語の幕がおりるのか、完結まで楽しみです。 ・メモ 214ページ~219ページ:柘榴の国の話 p.104, p.124:菱川のやばめな場面 p.335:やばい本多
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それは澄んだ幼ならしい笑い声で、青い日盛りの空の下に弾けた。 春の雪は無垢で美しかった、奔馬は苛烈で美しかった。暁の寺は? 老いていく本多からは、無垢さも情熱も削がれて、欲に身を落とす立派な「大人」へと変貌していた。 老いとは普遍的に醜いものなのか? とうなんだろう
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第3巻「暁の寺」。 世界は、一瞬一瞬ごとの滝-。未来も過去もなく、ただひたすら今この瞬間だけが存在するのみ。 豊饒の海も3巻目にして哲学的な論考が随分な紙数を割いて語られる。ロマンチックなストーリーがただ続くだけでは、ダイイングメッセージとしての本小説が意味をなさないので、必...
第3巻「暁の寺」。 世界は、一瞬一瞬ごとの滝-。未来も過去もなく、ただひたすら今この瞬間だけが存在するのみ。 豊饒の海も3巻目にして哲学的な論考が随分な紙数を割いて語られる。ロマンチックなストーリーがただ続くだけでは、ダイイングメッセージとしての本小説が意味をなさないので、必要なパートなのでしょう。 この仏典を解釈するパート、そしてインドへ取材旅行をした上で書かれたヒンズー的死生観のパート、どちらもゆっくり考えたいのだけれども、先が気になるので第4巻「天人五衰」へ急ぐ。
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輪廻転生をモチーフとした”豊穣の海”の第3巻。起承転結でいうところの”転”にあたるかの如く、前2巻とは大きく異なった世界が示されている。 前2巻ではいずれも20歳そこそこの青年が輪廻転生の対象であったが、第3巻でその役目を担うのはタイの少女である。第1巻に登場したタイ王朝の王子...
輪廻転生をモチーフとした”豊穣の海”の第3巻。起承転結でいうところの”転”にあたるかの如く、前2巻とは大きく異なった世界が示されている。 前2巻ではいずれも20歳そこそこの青年が輪廻転生の対象であったが、第3巻でその役目を担うのはタイの少女である。第1巻に登場したタイ王朝の王子たちは実はこの伏線であり、舞台もタイやインドなどにも展じつつ、物語がドライブしていく。
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急に変態さが増した。 タイの王女に転生した清顕=勲。本多は昭和15年にタイでの商談で揉めている五井物産の弁護のためタイを訪れ、ジンジャンと出会う。インドの旅のベナレスなどの描写は本人が行ったからこそなんだなと思うし、輪廻に関する東西の説についての詳細もよく研究してるなと思う。 戦...
急に変態さが増した。 タイの王女に転生した清顕=勲。本多は昭和15年にタイでの商談で揉めている五井物産の弁護のためタイを訪れ、ジンジャンと出会う。インドの旅のベナレスなどの描写は本人が行ったからこそなんだなと思うし、輪廻に関する東西の説についての詳細もよく研究してるなと思う。 戦争を悠々とやり過ごし、幸運で財産を手にした本多は御殿場に別荘を建てる。成長したジンジャンが日本へ留学し、別荘に呼んで覗き窓からいろいろ見るんだけど。とにかく本多が覗き魔になってる。 別荘に泊まった今西というこれまた変態と椿原夫人が出した火で別荘は燃えてしまい、ジンジャンもタイに帰国して消息を断つ。後から姉妹に聞けばコブラに噛まれて死んだんだとか。
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前半のタイやインドの話は読み進めるのに苦労しました。 (ベナレスの描写は圧巻ではあるのですが) そして阿頼耶識などの仏教の話もかなり難解で 理解はちゃんと出来ていないと思いますし読むのも時間がかかりました。 それでも途中の柘榴の国の描写やジンジャンを誘って 文楽を見に行った際の休憩中に日本人の芸者2人が 米軍の負傷兵を蔑む描写などそこかしこに 文学的で印象的なシーンがありました。 後半は一気に読み進めることができたのですが いつどのようにジンジャンが死んでしまうのか 色々と想像しながら読んでいたにも関わらず 最後は呆気なく肩透かしをくらったような感じでした。 それでも最終巻の天人五衰がどのように終結するのか とても楽しみにしてくれる作品でした。
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三島由紀夫『豊穣の海』第三部。 輪廻転生の物語ですので第一部『春の雪』第二部『奔走』から続いております。 疲れます。本当に疲れます。三島由紀夫様の説明に説明を被せ、仕上げにまた説明を説明する表現に疲れます。ましてやテーマは引き続き『輪廻転生』。助けて下さい。何言ってるのか分から...
三島由紀夫『豊穣の海』第三部。 輪廻転生の物語ですので第一部『春の雪』第二部『奔走』から続いております。 疲れます。本当に疲れます。三島由紀夫様の説明に説明を被せ、仕上げにまた説明を説明する表現に疲れます。ましてやテーマは引き続き『輪廻転生』。助けて下さい。何言ってるのか分からない状態です。 前半のタイ、インドでの仏教〜ヒンズー教の説話はもう呪文の様です。読み終わると自分が鹿にでも変身しているかような阿頼耶識。 ストーリーは第一部に不倫の末憤死した松枝清顕君から童貞中2病で切腹した飯沼勲君、そして今回タイのお姫様である月光姫(シン・ジャン)へ魂のバトンタッチ、つまり生まれ変わりですね。 で、その生まれ変わりの10代の彼女に恋をしちゃう松枝清顕君の同級58歳男子本多君。 もうロリコン有り、見せつけプレイ有り、レイプ有り(未遂)、レズ有りとやりたい放題で一体何式なんでしょうか、そう末那識であり阿頼耶識。 と言う事で遺作となる最終章『天人五衰』へ続きます。
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輪廻転生を繰り返す若者とそれを傍で見続ける友人の2人が織りなす壮大な人生ドラマ。美麗な文章の海の中で、人とは何か、生死とは何かを考えさせられる。 第3巻はタイとインドが主な舞台なので、この2つの国が大好きな人にとっては一読の価値があります。
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三島由紀夫が人生を懸けて書いた豊穣の海シリーズの第一作。『春の雪』という言葉から思いうかぶように美しく、繊細な小説である。 特に清顕と聡子が逢引きし、雪の降る俥の中で過ごす時間は、まるで時間が止まったかのように感じるほど美しい。 傷つくやすく、感情によって生きている美少年清顕...
三島由紀夫が人生を懸けて書いた豊穣の海シリーズの第一作。『春の雪』という言葉から思いうかぶように美しく、繊細な小説である。 特に清顕と聡子が逢引きし、雪の降る俥の中で過ごす時間は、まるで時間が止まったかのように感じるほど美しい。 傷つくやすく、感情によって生きている美少年清顕と、理性と思考によって生きるいる親友本田のバランスが良く、読んでいてマンネリしてこない。 本田は深い知性と分析を駆使し、転生し続ける主人公を通して、生きるとはなにか?世界とは何か?を、模索する。 おそらく三島自身も本田を使って決死の思いで 生きるとは何か?に手を伸ばしていたのだろう。読んでいてその狂おしいまでの模索、苦悩を感じる事が出来た。
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『暁の寺』三島由紀夫 新潮社 新潮文庫・1977.10 (1970.7出版を文庫に) 記録:2020.3.21 第1部 47歳の本多は五井物産の依頼でタイを訪れている。 タイで日本人の生まれ変わりと主張する7歳の月光姫(ジン・ジャン)になつかれる。 日本に連れて行くように言われる。五井物産からガイドにつけられた芸術家くずれの怪しい日本人・菱川。 そのタイ文化への侮蔑と卑屈な態度に本多は鬱陶しさを感じ、離れたい。 勝訴を勝ち取った報酬にインドのベナレスに訪れる。 アジャンタの滝を見て、本多はこれこそが清顕のいう、滝の下で再開するぞの意味だと思われた。 戦争の最中に本多は輪廻転生の研究にあてた。 19歳の時に読んだ「マヌの法典」は本多に影響を与え続けている。 松枝家は土地の大半を売り払っている。蓼科は95になっており、まだ健在な姿である。 蓼科に贈った卵のお礼に「大金色孔雀明王経」をもらう。 本多にとって初めての密教の経典だ。 第2部 本多58歳。漁夫の利で億万長者になった。金を持て余して別荘を買う。 久松慶子は50歳だが若々しく男を引き寄せる。隣の別荘の住人。 1947年に本多は皇族の籍を失った洞院宮が、旧華族から買った美術品を売る骨董屋で、 かつてタイの王子がなくしたジンジャンの形見の指輪を見つける。やはり盗まれたものだったと知る。 本多はそれを日本に留学に来るジンジャンに贈ろうと考える。 本多とまだ交流のあり歌人として大成した慎子。あの勲の父・飯沼に計画を漏らした女。 慎子の弟子には椿原夫人がいる。息子を戦争で亡くしずっと新鮮な涙を流す。 今西康。40ぐらいのドイツ文学者。「性の千年王国」を語る。財界・左翼文士から面白がられている。 本多はジンジャオを食事にさそい指輪を渡そうとする。 老いた飯沼がやってくる。本多は4回も金の無心だなと、飯沼の長い前置きを聞き流す。 だが金の無心でなく、飯沼は戦後に切腹して死にきれなかった傷を本多に見せる。 慶子の甥である慶応大生の志村克己が連れられてくる。 処女であるジンジャンの最初の相手にさせようと本多と慶子が結託したのだ。 本多の出歯亀の趣味は板についている。書斎の本棚ののぞき穴から隣の客室を見ることができる。 克己はジンジャンに迫るが拒絶される。 本多は次第にジンジャンに恋心を抱く。 妻の梨枝は金持ちになっていく夫を恐れた。自分が子供を産まないこともあって、夫とジンジャオの関係が気に入らない。 本多は待ち合わせの場所に来ないジンジャオへの思いを止められず、住まいの寮を訪れるが、彼女から指輪を投げられ拒絶される。 諦められない本多は慶子に頼んで、指輪をなんとしてもジンジャオに渡すように頼み込む。 泊まりに来た慶子とジンジャオのベッドでからむ場面を目撃して、さらに梨枝からも覗き見がバレル。 二人はジンジャオの秘密を共有してしまう。 1967年。本多は73歳。 米国大使館に招かれて、ジンジャオの双子の姉と知り合う。ジンジャオは20歳の時にコブラに噛まれて死んだという。
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