イッツ・オンリー・トーク の商品レビュー
It's only talkということなのだろうから、それはただの会話にすぎないといいたいのか、それは独り言です、と言いたいのか?とはいえ、独り言なら、lonelyを使うだろうから、やはりただの会話といいたいのだろうかね。 表題作と第七障害の中篇二つだが、表題作の方が...
It's only talkということなのだろうから、それはただの会話にすぎないといいたいのか、それは独り言です、と言いたいのか?とはいえ、独り言なら、lonelyを使うだろうから、やはりただの会話といいたいのだろうかね。 表題作と第七障害の中篇二つだが、表題作の方が圧倒的に勢いがある。第七障害は地味な文学的恋愛もの、というかその程度に過ぎない。彼女にしかかけないとはまるで感じられない。とはいえ、十分に愉しめることは愉しめるのだが。それよりは表題作はパワーにあふれている。これが新人賞をとるというのは、確かにな、とうなずかずにはいられないような代物である。ほとんど、「私の」一人語りによって物語が展開される。私とは、尻軽な女として描かれてはいるが、それは彼女が根本的に人間不信であるからであり、それでも、尻軽である=誰かに抱かれようとするのは、常に愛だとか依存だとかそういうのを彼女が追い求めているからだ。結果として、誰にでも身体を許してしまうから誰もいなくなるのだが、それがいっそう彼女の身体を軽くしながらも、裏腹に愛だとか恋だとかを求めてしまう。主人公の女性のモデルは自身なのだろう(精神病で入院というところが共通しているし)、とはいえ、この主人公はおそらくは美人であろう。だが、著者自体はお世辞にも美人とは言いがたい。こういう部分に差異が見受けられはする。解説者が著者を絶賛しているものの、共感するとは言うものの、こういう人物が実在するとしたら、後ろ指を差されるような女性となってしまうだろうし、これは明らかな投影に過ぎない。要するに、悪人がばっさばっさ殺される勧善懲悪の映画を観てすっきりするようなものだ。それはいいのだけれど、解説でべた褒めするのはいただけない。それは作品の品位というか、味わいを落とすとしか感じられない。それでも、著者からすると悪い気がしないのだろう、故に、文句を言えないのではないかな?逆にここはどうだろう?けど、どことなく惹かれるところがある、とか、そういう言い回しの感想チックな解説が一番好きではある。本編はそれほど動きが見られない。会話会話の合間に動きを非常に挿入する作家もいるが、著者は会話は会話として展開させ、会話をさせていない部分でしっかりとそれ以外を描写するというスタイルがとられている。 本著は、ただの会話なのだが、心地よいただの会話、である。
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久々に出会えた!!と思えた小説。 絲山秋子にはまった一冊目。 じんわり毒があって、穏やかで、さみしい。 終わり方はかすかに光があって好き。
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1つ目の話がいい。 下半身のだらしない主人公のセックスに対する価値観や性欲が満たされた後の男性の心境を敏感に読み取ってしまうことも、「あるある!」と心底共感。 でも、従兄弟と色っぽい展開にはならないなぁー。それはない。 セックスをトーストで例えちゃうあたり、たまらん。
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とにかく読みやすい。言葉が的確に使われていて気持ちがいい。人に言えないようなことや、悩みは案外えっ!と思う人ももっている。無駄話ではあるが、無駄なことではない。そういう場合、互いの心の傷みがわかる者どうし惹かれあうのかも。 第七障害は、ラスト、泣けた。ちょっとだけ。
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「海の仙人」よりずっと読みやすかった。 なかなかいい。出てくる女性たちが、気持ちいい。 また読みたくなる。
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併録の「第七障害」が良かった。 乗馬で事故に遭い、馬を死なせてしまった主人公が立ち直る話。 短いのでサクッと読めて、もやもや残らない淡白でありつつ後味の良さが好き。
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85点。現代思想においてもデリダをはじめとするポストモダニストがエクリチュールを「完成した言語体系」として扱っているかといえばそんなことはない。小説も同様にエクリチュール自体「がらくた」とみなすべきだと思う。どういうことか。 何を言っても人間の思考なんてガラクタであって無意味だ。...
85点。現代思想においてもデリダをはじめとするポストモダニストがエクリチュールを「完成した言語体系」として扱っているかといえばそんなことはない。小説も同様にエクリチュール自体「がらくた」とみなすべきだと思う。どういうことか。 何を言っても人間の思考なんてガラクタであって無意味だ。ガラクタや無意味なものに、我々はなんとかして「意味」の繋がりを見出そうとする。じゃあデタラメがいいのかといえばそうではなくてデタラメ自体が内部化されてしまったらそれはもっともつまらないものになる。 エクリチュールが体系化されたものでないのはそれは人間が書いているからで、非論理的で整合性がないのは当たり前だ。 ガラクタだらけの世界に意味を見出すのは各々の解釈だ。 『イッツオンリートーク』はまさにそのものズバリで、イッツオンリートーク。全ては無駄話でガラクタでしょう、と。 デビュー作で自らの作品にこう言うってことはそのように言語を扱っているということではないか。 うん。この小説好きだなぁ。舞台が蒲田だし。
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絲山秋子を初めて読んだ。強弱のない文体で心が落ち着く。表題作ももう1作も深い傷を負い逃れ逃れ生きている30代女性の物語。必死に生きているというわけでもなく、なるがままに生きている。その日常感が良かった。
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これ読んだら、久しぶりにキングクリムゾンが聴きたくなるはず。 キングクリムゾン聴いても、これを読みたくはならないだろうけどね。 一方通行。 それと同じように、向こうからどんどん文字が飛んできて、突き刺さってくるよ。
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*引用* お酒を飲んで頃合で「する?」と一言聞けば断る男なんて滅多なことじゃいない。だがしてしまえばそれっきりで、そうやって私の周りからは男友達が一人ずつ姿を消していくのだった。それはパンをトーストするのと同じくらい単純なことで、理由も名前もない、のっぺらぼうのトーストは食べてしまえば実にあっけらかんと何も残らないのだ。 ―― 『イッツオンリートーク』 p.96
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