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ローマ人の物語(24) の商品レビュー

3.9

44件のお客様レビュー

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2017/10/24

13代目 トライアヌス 在位19年7ヶ月。 ローマ帝国最盛期の皇帝。 このとき版図は最大に達する。 それにしても皇帝というのは大変な仕事である。このトライアヌス帝のように、才能も意欲もずば抜けており、時代にも恵まれていても、きちんと役目を果たそうと思えば、毎日毎日相当な激務をこ...

13代目 トライアヌス 在位19年7ヶ月。 ローマ帝国最盛期の皇帝。 このとき版図は最大に達する。 それにしても皇帝というのは大変な仕事である。このトライアヌス帝のように、才能も意欲もずば抜けており、時代にも恵まれていても、きちんと役目を果たそうと思えば、毎日毎日相当な激務をこなさなければならないらしい。たんなる職業意識だけではできない仕事である。自分を神とでも思わなければやっていけないだろう。 皇帝の権限は絶大なので、われわれがもし、こういう地位についたとしたら、真面目にそういう業務だけに専念するかというと、それはどうも疑問のように思える。金や権力を別の方面に使う可能性の方が高いような気がする。少なくともトライアヌス帝のように、仕事しか眼中にないというふうにはならないと思う。気晴らしや息抜きにちょっとぐらいその権限を使ってもいいだろうと考えるのではないか。なんといっても帝国の第一人者なのである。気が食わなければどの人間だろうと殺そうと思えば殺すことができるのである。絶大な権力を与えられた人間の「ほんのちょっと」が端から見てどの程度になるか、これはけっこう怪しいものだ。誰も止めてくれる人間はいないのである。そう思うと、政務よりも遊興の方に走ってしまったネロやカリグラをそう簡単に責められない。 遊んでばかりいては彼らのように殺されてしまい、後代からさんざんな悪評を浴びせられることになるので、仕事もしなければならないが、しかし、やろうとしてもトライアヌス帝のように全身全霊を傾けてということはなかなかできないだろう。彼のような皇帝の方が希なのである。しかも晩年のパルティア遠征を除いて、ことごとく成果を上げている。それはほとんど奇跡的な出来事である。 このような皇帝が一人いれば民主政は不要かもしれない。しかし残念なことに、歴史上このような人物はきわめて数が限られている。その他の無数の皇帝や王や専制君主は、われわれがその地位についたときにそうなるであろうような怠惰で無責任で不公正な統治者だったから、やはり帝政とか王制とかは弊害が多い。効率の点では有能な皇帝が支配する帝政が勝るとはいえ(それはしかしごく希にしか現れないもので、比較の対象としては除外すべきだろう)、総体的に見れば民主制の方がすぐれた統治システムなのだろうと思う。 ところで、塩野七生氏の著作の魅力といえば、驚異的な言語力と該博な知識を縦横に駆使して、イタリア地方を中心とする西欧・南欧の複雑な歴史を読者にわかりやすく解説しながら興味深い物語を語ってくれるところにあると思う。 中世以前のヨーロッパの歴史物語に関しては彼女はわが国の第一人者である。というよりもこのジャンルそのものが「ルネサンスの女たち」以来、彼女が独力で切り開いてきたジャンルである。歴史物語の作者はこれまで男性がほとんどだったし、また、西欧中世の時代は興味はそそられるものの、地域の関係が非常に複雑で、そうとう勉強しないとよく分からないと思われていた中で、彼女の物語の出現は非常な驚きだった。 これまでの作品に較べて、この「ローマ人の物語」では、作者自身のコメント、それも女性の立場からのコメントが多いように思われる。そしてそれがなかなか楽しい。 過去の作品でもそういう部分はもちろんあったのだが、このシリーズではそれを抑えず、むしろ意図して使っているようである。ローマ帝国のお話は制度や場所の説明で、ちょっと油断すると無味乾燥になってしまうので、読者にサービスのために積極的に行っているのかなと思う。 トライアヌス帝の妻プロティナについて。 「教養が高く賢明な女だったが、美人でもなければ派手でもなかったので、羨望や嫉妬の対象になる心配はなかった。皇后ともなれば元老議員の夫人たちの上位になるが、女とは、同性の美貌や富には羨望や嫉妬を感じても、教養や頭の良さには、羨望もしなければ嫉妬もしないものなのだ。」(p61) う~む。そうなのですか。勉強になる。 ここには、羨望も嫉妬も感じてもらえない作者の怒りがこもっている気配がするけど、気のせいにちがいない。

Posted byブクログ

2018/10/20

さんざんな失敗に終わった後、次に任命されるリーダーに求められる人物像とはどんなものだろう。 多くの人は、今までと間逆な改革を望むが、時に性急な変革は無用な混乱を生む。 しかし、圧力と言えるまでの期待をかけられるなか、冷静に事を運ぶのはよほどの傑物でないと難しい。 ならば、中継ぎを...

さんざんな失敗に終わった後、次に任命されるリーダーに求められる人物像とはどんなものだろう。 多くの人は、今までと間逆な改革を望むが、時に性急な変革は無用な混乱を生む。 しかし、圧力と言えるまでの期待をかけられるなか、冷静に事を運ぶのはよほどの傑物でないと難しい。 ならば、中継ぎを挟むのはどうだろう。 暗殺されたドミティアヌスの後を65歳で継いだネルヴァは、悪評高い制度の変更のみを行い、属州出身のトライアヌスに後を託した。 皇帝としての準備期間を得られたトライアヌスは、ドミティアヌスの策にもネルヴァの策にも囚われることなく、 皇帝の責務である安全保障、国内統治、社会資本の充実に専念することが出来た。 ただ、トライアヌスの業績からは、そもそも中継ぎなど必要でなかったかもしれないと思わせるほどの成果に満ちている。 ・背が高く頑強で、怪我を知らぬ健康優良児 ・長く苦しめられたダキアを鎮圧し、帝国建設以来初の領土拡張 ・貧困家庭の子弟への育英資金制度 ・橋、フォールム、浴場、港湾、街道など列挙に暇がない公共事業 ・属州総督たちからの膨大な陳情に対する的確な指示 ・皇帝を支える慎ましく教養に溢れた一族の女たち 特に『法の上ではなく、法の下に立つ皇帝』に徹する姿勢は、かつての皇帝ではありえなかったほど元老院との良好な関係を築くことに成功した。 しかし類まれな至高の皇帝はあっても、完璧な皇帝などというものは存在しない。 ダキア制覇はかつての失敗があったからこそ、橋の建設に1年を費やすほどの準備の上で決戦にのぞめたが、 はるか遠方のパルティアの地においては、かつての失敗があっても『遠い』というだけで全く別の力学が働く。 軍力を用いての『戦争』での勝利はあっても、長期の『支配』を達成するには、必ず発生する反発を如何に抑えるかが鍵であるが、 その反乱の只中において、トライアヌスは病に倒れそのまま没する。 賢帝が残したただ一つの、しかし大きな課題に、後を託された次の賢帝ハドリアヌスは如何に立ち向かうのか。 次巻に続く。

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2017/03/17
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※このレビューにはネタバレを含みます

本筋の話ではないけれど、「女とは、同性の美貌や富には羨望や嫉妬を感じても、教養や頭の良さには、羨望もしなければ嫉妬もかんじないものなのだ」その通り。

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2017/01/09

初の属州出身皇帝となったトライアヌスを描く。賢帝と言われている皇帝の一人。アラビアとダキアの制圧に成功する。併合した後の処遇の方法は過去のローマ人とは異なる。従来はローマ人と被征服者の同化がローマの主流であったのだが、トライアヌスは被征服者を遠くに配置転換するなど非同化策をとる。...

初の属州出身皇帝となったトライアヌスを描く。賢帝と言われている皇帝の一人。アラビアとダキアの制圧に成功する。併合した後の処遇の方法は過去のローマ人とは異なる。従来はローマ人と被征服者の同化がローマの主流であったのだが、トライアヌスは被征服者を遠くに配置転換するなど非同化策をとる。著者はこの理由は被征服者の外側にさらなる脅威(カエサルの時代にはガリアの外側にゲルマン人がいたが、ダキアの外には脅威がなかった)がなかったからではなかろうかと説明する。結果的にはトライアヌスの策は成功する。 属州統治の要諦は1.税率を挙げないこと 2.インフラを整備すること 3.地方分権の徹底 を挙げる。かいつまんでいえば被征服者が不利益を被らないことが成功要因のようだ。 昨今の企業買収や子会社経営にも当てはまるのではなかろうか。

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2016/02/14

賢帝の話。戦争のシーンは面白かったけど公共事業の話は退屈だった。安定している時の資料がほとんど残されていないのは興味深かった。

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2015/04/30

紀元2世紀、同時代人さえ「黄金の世紀」と呼んだ全盛期をローマにもたらしたのは、トライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウスの三皇帝だった。初の属州出身皇帝となったトライアヌスは、防衛線の再編、社会基盤の整備、福祉の拡充等、次々と大事業を成し遂げ、さらにはアラビアとダキアを併合...

紀元2世紀、同時代人さえ「黄金の世紀」と呼んだ全盛期をローマにもたらしたのは、トライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウスの三皇帝だった。初の属州出身皇帝となったトライアヌスは、防衛線の再編、社会基盤の整備、福祉の拡充等、次々と大事業を成し遂げ、さらにはアラビアとダキアを併合。治世中に帝国の版図は最大となる。三皇帝の業績を丹念に追い、その指導力を検証する一作。

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2014/03/15

 初の属州出身の皇帝で,五賢帝の二人目であるトライアヌス帝の物語です。ダキア戦役やパルティア遠征,国内での大規模な公共事業など,五賢帝の一人として「至高の皇帝(Optimus Princeps)」と呼ばれるにふさわしい20年の治世であったと思います。  次のハドリアヌス帝もそうで...

 初の属州出身の皇帝で,五賢帝の二人目であるトライアヌス帝の物語です。ダキア戦役やパルティア遠征,国内での大規模な公共事業など,五賢帝の一人として「至高の皇帝(Optimus Princeps)」と呼ばれるにふさわしい20年の治世であったと思います。  次のハドリアヌス帝もそうですが,最盛期を担うためには,前任者が遺した功績と,それを引き継いだ者の能力や実績の両方が必須という思いを持ちながら読み進めていました。

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2014/02/09

24巻はトライヤヌス帝の帝位在任の様子がつづられます。 帝位在位初期には、ドミティアヌス帝以来の「貸し」を返済すべくダキア族を掃討することになるのですが、掃討後の対処が先代から続いた伝統と違います。 戦後のダキア人の扱いについては、ローマ伝統の部族融和策を用いず、ほぼ総入...

24巻はトライヤヌス帝の帝位在任の様子がつづられます。 帝位在位初期には、ドミティアヌス帝以来の「貸し」を返済すべくダキア族を掃討することになるのですが、掃討後の対処が先代から続いた伝統と違います。 戦後のダキア人の扱いについては、ローマ伝統の部族融和策を用いず、ほぼ総入れ替えのようなことを行い脅威を取り除くことにより、ローマの安定をもたらしています。これはカルタゴに対して行って以来長く封印されていた方法です。 勿論、勝者、敗者の考えでは普通とも思えますが、ローマ人の物語を読み続けていると周辺が気になります。このような強引な方法は周辺地域と軋轢を生みますし、このことに端を発した元老院との政治的綱引き的にはどうなのか、他の属州民はどう思うのかなどいろいろ考えてしまいました・・・・。成し遂げるのはやはり大したものだと思います。 このこと一つとっても、「いかに巨大な帝国の運営とは臨機応変と説得力をもって為されていたのか」と感じます。 このあたりをきちっと実行できるところが、ローマ人の時代よりすばらしき皇帝(賢帝)とよばれたトライアヌス帝なのかも知れません。また、小プリニウスとの書簡による帝国運営の断片は、生き生きとその時代の政治を伝えています。 思慮深い、いい政治の時代だったように思えます。 どうも、ローマ以降、人類は進歩していないように思うのですが・・・

Posted byブクログ

2013/08/18
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

皇帝トライアヌス。領土もローマ帝国史上、最大となり、黄金の世紀と呼ばれる時代を築く。属州ベティカ(スペイン南部)出身であり、属州出身のローマ皇帝が誕生。 属州統治については、税制、インフラ(経済政策)、地方分権がローマの統治策という。税率はあげすぎない。分権はそのバランスが難しいが、属州総督の任期後告訴の制度は面白い。元老院属州のほうでよく問題が起こったらしく、皇帝はときに暫定的措置として、元老院属州を一時的に皇帝属州にすることがあった。このとき、皇帝に任命され総督となった小プリニウス。彼とトライアヌスの往復書簡のくだり、プリンシパル=エージェンシー問題そのものって感じです。 元老院属州と皇帝属州も、たとえば、ガバナンスの類型でいえば、中央集権か分権型、あるいは、自前で設立しコントロールが十分効く会社か、買収してあまりコントロールできていない会社かという状況にあてはめてみると、、、うーん、昔からある問題なんですね、これ。 その統治をうまくやった皇帝とそうでない皇帝がいたわけで、永続する企業にとってもここから得られる教訓は多そうというわけで、そういう観点で読み返す日がやってこなければなりません。 もうひとつ、人間の仕事の進め方の2分類ってのが自分のやり方もありはありと思えたので、よし。 ミケランジェロのように、一つ、また一つと完成させては次に進むやり方。 もう一つは、ダ・ヴィンチのように、すべてを視界内に入れながら、それらすべてを同時進行的に進めていくやり方。 僕は完全に後者ですね。トライアヌスは前者だそうです。 最後に、「過激化は、絶望の産物なのである。」 この夏休みに観た緒方貞子さんのNHKスペシャルでも感じたし、少数言語を研究していた先生が言っていたことも思い出す。テロ、紛争の原因はやっぱり絶望ってのが大きい。貧困から絶望することも多い。彼らは本当に悪なのかっていう先生の問いかけが頭にまだ残っています。

Posted byブクログ

2013/08/08

皇帝トライアヌスの巻。残存する資料が少ないせいか、塩野七生の文章もイマイチ勢いに欠ける。あるいは、トライアヌスが素晴らしい皇帝すぎて、イマイチ突っ込みどころがないのかも。いや、素晴らしいといっても、何が素晴らしいのか、イマイチ伝わってこない。当時の人達は、皆、称賛し、批判家のタキ...

皇帝トライアヌスの巻。残存する資料が少ないせいか、塩野七生の文章もイマイチ勢いに欠ける。あるいは、トライアヌスが素晴らしい皇帝すぎて、イマイチ突っ込みどころがないのかも。いや、素晴らしいといっても、何が素晴らしいのか、イマイチ伝わってこない。当時の人達は、皆、称賛し、批判家のタキトゥスも「まれなる幸福な時代」としか書くことがなかったからこそ、結果的に、資料が残っていないとは、皮肉な話だ。

Posted byブクログ