いつか王子駅で の商品レビュー
東京都北区王子。 なんと形容したらいいのかよくわからないが、居心地が良い小説だと思う。 主人公自体の生活の仕方、その周辺の人たち、こだわりのあるもの特有の心地よさというかなんというか…。 「馬」とか「回遊魚」とか「路面電車」とか。ぐるぐる回る日常と、ぐるぐる回るものたちの話。みん...
東京都北区王子。 なんと形容したらいいのかよくわからないが、居心地が良い小説だと思う。 主人公自体の生活の仕方、その周辺の人たち、こだわりのあるもの特有の心地よさというかなんというか…。 「馬」とか「回遊魚」とか「路面電車」とか。ぐるぐる回る日常と、ぐるぐる回るものたちの話。みんなそれぞれに、それぞれの大きさの輪を描いて生活しているんだなあ。
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雪沼のような作品を期待して読んだら毛並みが違って戸惑ったが、堀江さんらしさは残っていた。 「私」の一人がたり形式で、冗長な語り。息継ぎが合わなくて読みづらいと感じたが、古き良き昭和の香りがする作品。 少しばかり偏屈のきらいがある主人公。どこか不器用で小心者の気配がして、ひっそ...
雪沼のような作品を期待して読んだら毛並みが違って戸惑ったが、堀江さんらしさは残っていた。 「私」の一人がたり形式で、冗長な語り。息継ぎが合わなくて読みづらいと感じたが、古き良き昭和の香りがする作品。 少しばかり偏屈のきらいがある主人公。どこか不器用で小心者の気配がして、ひっそりと営む生活。どこにでもいそうで、でも、接点がなさそうでなかなか出会えそうにない。そんな一人の男の生活を垣間見たような気持ちになった。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
「待つこと」をめぐる私小説風の考察。 「待つ」ということにかんしていえば、たしかにぼくらはふだん、「なにがしかの静止状態」という程度のざっくりとした捉え方しかしていないかもしれない。ところが、主人公である「私」はそうではない。「おなじ静止状態でも『待機』と『待つこと』の内実には天と地ほどの開きがある」とかんがえている。そのうえで、「なんの役にも立たない拱手(きょうしゅ)とは無縁の待機」こそが「『待つこと』の本質」なのだと言う。では、待機ではなく、待つこととは? 回遊魚、生き方を左右するような思考の足首、心ののりしろ…… ポツポツ顔をのぞかせるこれら独白とも謎掛けともつかないフレーズに、作者はいつもながらなにがしかの「正解」を用意してくれているわけではない。だから読者もまた、カステラの箱を抱えて途方に暮れながら正吉さんの戻りをただ待つほかない「私」ともども、じぶんにとっての「待つこと」がもたらす「無為の極み」について、舌の上で飴玉を転がしてはその存在感を確認する子供のように、ただただ思いめぐらすことになるのである。 ところで、最初の数ページを開いただけで部屋の片隅に放り出したままになっていたこの本を数年ぶりに掘り出してきたのは、先日そのタイトルにもなっている街で開かれる落語会にたまたま出かけることになったからにほかならない。東京に生まれ育ちながら初めて降り立ったその街を、小雨の降る中しばし散策し、遠回りを覚悟でわざわざ路面電車に揺られて帰路についた。それゆえ、あらすじとは無関係とはいえ「先代は品川辺の、通いの旦那とほがらかな心中未遂でも起こしたくなるような店に勤めていて」というあきらかに滑稽噺の「品川心中」を思い起こさせる一節を文中に発見したときには、この作者との相変わらずの相性のよさを(勝手に)確認し、思わずにやりとさせられた。
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再読。堀江敏幸の文章が好きだ。一文がとても長いところが特徴的。それが冗長なところと上手いところのバランスが絶妙。あらすじは、なんでもない日常を描いている…と見えるが、小気味の良い肩すかしやオチがついていて、「フフっ」と笑ってしまった。 それにしても、古い小説とか、作家とか、博学...
再読。堀江敏幸の文章が好きだ。一文がとても長いところが特徴的。それが冗長なところと上手いところのバランスが絶妙。あらすじは、なんでもない日常を描いている…と見えるが、小気味の良い肩すかしやオチがついていて、「フフっ」と笑ってしまった。 それにしても、古い小説とか、作家とか、博学だなー。
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作家自身の昔を思わせる大学の非常勤講師が主人公。 なじみの居酒屋での知り合い正吉さん、女将さん、アパートの大家さんとその娘、おばあさん、大家さんの工場ではたらく職人、古本屋の主、自転車屋の主・・・そのくらいしか登場人物がいない。 大家さんの娘の咲ちゃんがいい感じに描かれている。...
作家自身の昔を思わせる大学の非常勤講師が主人公。 なじみの居酒屋での知り合い正吉さん、女将さん、アパートの大家さんとその娘、おばあさん、大家さんの工場ではたらく職人、古本屋の主、自転車屋の主・・・そのくらいしか登場人物がいない。 大家さんの娘の咲ちゃんがいい感じに描かれている。 たいした事件はおこらない。 人間の《待つこと》に対する考察の本かと。 時間、時期の長い、短いは違っても人は何かを待つ。 ♪ワタシまーつーわ。いつまでもまーつわ。 待つという状態は、ややもすると思いつめた悲壮感、陰気な気持ちを連想してしまうが、単に「いらいらして待つ」のではなくて、それは「待機」。 「待つこと」の恐るべき無為のエネルギーを、目に見えるべつのエネルギーに等価交換することで成り立つ。(本文から) 完全に無益で無為な、充溢した時間のなかに身をおいているのだと信じていたい。 (本文から) 待つこと、待機をを気軽に前向きに考え直させてくれた一冊。
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この人の本を読むのはおぱらばんに2作目。小説の重要なモチーフになっている都電が家のすぐ近くを走っているせいか、読んでいて親近感がわくような、懐かしいような、くすぐったいような気分にさせられた。句読点で果てしなく文をつないでいく、あまりにも一文が長いこの人の書き方に最初なれないこと...
この人の本を読むのはおぱらばんに2作目。小説の重要なモチーフになっている都電が家のすぐ近くを走っているせいか、読んでいて親近感がわくような、懐かしいような、くすぐったいような気分にさせられた。句読点で果てしなく文をつないでいく、あまりにも一文が長いこの人の書き方に最初なれないこともあったけど、小説のラストで咲ちゃんが競馬場でダントツで駆け抜ける一等の牝馬に例えられるシーンなんて、この独特のいいまわしが醸し出す真骨頂というか、独特の興奮がかき立てられた。他の作品も近いうちに読まねば。
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翻訳や講師で身を立てる私は居酒屋で知り合った正吉さんが 店にカステラを忘れて行ったことに気づいた。 今度会ったときに返そうと思うがずっと留守にしているらしく 居酒屋にも来ないし家にもいない。 それを気にかけながらも大家の娘の咲ちゃんの 家庭教師をしたり筧書房に立ち寄ったりする毎日...
翻訳や講師で身を立てる私は居酒屋で知り合った正吉さんが 店にカステラを忘れて行ったことに気づいた。 今度会ったときに返そうと思うがずっと留守にしているらしく 居酒屋にも来ないし家にもいない。 それを気にかけながらも大家の娘の咲ちゃんの 家庭教師をしたり筧書房に立ち寄ったりする毎日だ。 立体:三谷龍二 写真:広瀬達郎(新潮社写真部) 職人さんがたくさん出てきます。 印章彫り師、パラフィンがけ、町工場の技師。 ひとつのことを専門にする人は考えがしっかりしている。 他にも競馬の話だったりいろいろな人の作品が引用されていたり (残念ながら全然わからなかった、島村利正、岡本綺堂など) 盛りだくさんだと思います。正吉さんは結局どこに行ったのか。 キーワード:馬、のりしろ、待つこと 「変わらないでいたことが結果としてえらく前向きだったと後からわかってくるような暮らしを送る」
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某IT社長が本でも出したのかと思ったら、芥川賞作家だったらしい。 とてもオーソドックスな、文学らしい文学。 教科書に出てきそうなくらい。。 平凡で退屈なところにさえ味があります。。 よい本って書きたいのだけど、なんかホントの良さは、まだ自分には分かっていないような気が...
某IT社長が本でも出したのかと思ったら、芥川賞作家だったらしい。 とてもオーソドックスな、文学らしい文学。 教科書に出てきそうなくらい。。 平凡で退屈なところにさえ味があります。。 よい本って書きたいのだけど、なんかホントの良さは、まだ自分には分かっていないような気がします。何度か読めばわかるんだろか。
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『私に最も欠落しているのは、おそらく心の「のりしろ」か。他者のために、仲間のために、そして自分自身のために余白を取っておく気遣いと辛抱さが私にはない。』 『気持ちよく遊び、いちばん体にあったリズムで精一杯の仕事をする。(中略)普段どおりにしていることがいつのまにか向上につながる...
『私に最も欠落しているのは、おそらく心の「のりしろ」か。他者のために、仲間のために、そして自分自身のために余白を取っておく気遣いと辛抱さが私にはない。』 『気持ちよく遊び、いちばん体にあったリズムで精一杯の仕事をする。(中略)普段どおりにしていることがいつのまにか向上につながるような心のありよう、ということになる。』 ゆったりとした作品。 「のりしろ」が大事だという部分に関して、ひしひしと伝わってくるものがありました。 日曜の午後にゆっくり読みたい作品。 私は、非常に好きです。
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王子駅周辺を舞台にした、あたたかく優しい作品。 「手足の思考能力を大切に育ててきた」町の人とのやりとりと、いくつかの文学作品とが、気づかぬほど自然に行き来する。 読み手にもセンスを求められる、素晴らしく魅力的な文体に、参ってしまう。登場人物がまた魅力的で、全員を好きになってし...
王子駅周辺を舞台にした、あたたかく優しい作品。 「手足の思考能力を大切に育ててきた」町の人とのやりとりと、いくつかの文学作品とが、気づかぬほど自然に行き来する。 読み手にもセンスを求められる、素晴らしく魅力的な文体に、参ってしまう。登場人物がまた魅力的で、全員を好きになってしまう。 自分は、「変わらないでいたことが結果としてえらく前向きだったと後からわかってくるような暮らし」を、送っているだろうか。
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