西日の町 の商品レビュー
子どもと老人の交流を…
子どもと老人の交流を書かせたら、この人の右に出る人はいないんじゃないかと思うくらい、上手い。今回も子ども主役、準主役に老人である。いつも全くテイストの違う話なのに、匂いは同じだ。同じ人が同じ思いで書いている、という気がする。この話は少年と「てこじい」という少年の祖父との交流を、淡...
子どもと老人の交流を書かせたら、この人の右に出る人はいないんじゃないかと思うくらい、上手い。今回も子ども主役、準主役に老人である。いつも全くテイストの違う話なのに、匂いは同じだ。同じ人が同じ思いで書いている、という気がする。この話は少年と「てこじい」という少年の祖父との交流を、淡々と描いている。淡々としているのにじっとりとした老人特有の湿気もあちこちで感じられるその筆才が凄い。
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人に勧められて初めて…
人に勧められて初めて読んだ。ラストの描写は見事。児童物に分類されているこの作者の作品の中では最も文芸色が強い。
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ものすごくシンプルな…
ものすごくシンプルな文章。大きな事件が起こるわけでもなく、物語は淡々と進む。しかし、なんでもないことが淡々とした文章に乗って、心に迫ってくる。
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僕と母の2人の生活に…
僕と母の2人の生活に突然やって来た祖父の「てこじい」。奇妙な3人の生活を描いた物語です。
文庫OFF
私は湯本香樹実さんの文章が好きだ。 すっきりと簡潔でいて抒情的。 「西日の町」は三世代の親子の物語で、家族との別れの物語。 親子、姉弟、死生観… 西日のあたる部屋の空気間、オレンジ色の日差しや影を感じた。
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思い掛けず良かった。 この著者について何も知らずに古本屋でなんとなく手に取ったのだけど。 簡潔で無駄が無いのにやわらかい、頭だか心だかにすっと入ってくる文章で、いつまでも読んでいたいと思えた。 情報ではなく空気そのものを読ませるような。 難しい言葉や表現を使っているわけでもな...
思い掛けず良かった。 この著者について何も知らずに古本屋でなんとなく手に取ったのだけど。 簡潔で無駄が無いのにやわらかい、頭だか心だかにすっと入ってくる文章で、いつまでも読んでいたいと思えた。 情報ではなく空気そのものを読ませるような。 難しい言葉や表現を使っているわけでもなく淡々としているのにかっこいい。よごれた老人の話なのに。 こういうのを文体というのかな。 こんな文章を書けたらいいのに。 話し手の僕、僕の母、てこじい。 ほとんどこの三人だけのお話。 母とてこじいとの間の屈折した感情と、それを観察しながらゆっくりと何かを受け入れていく僕。 家族の間にある複雑な感情とかって、むりやり名前をつけて分析して定義してしまったらその瞬間につまらなく思えてしまうものだから、省略された言葉で行間に漂わせるくらいが一番心地良いのかもしれない。 最近、人生とか生き方とか、そういった事を考える出来事がおおかったから、余計におもしろかったのかな。 他の作品も読んでみたい。
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他人には言えない事柄を人は抱えて生きているということが実感される作品。それは決して家族であっても、友人で会っても打ち明けられないものがある。 しかし、家族の場合はいざという時にはそうした微妙な関係性が瓦解して寄り添うことができるようになることもある。本作はそうした家族の心の揺...
他人には言えない事柄を人は抱えて生きているということが実感される作品。それは決して家族であっても、友人で会っても打ち明けられないものがある。 しかし、家族の場合はいざという時にはそうした微妙な関係性が瓦解して寄り添うことができるようになることもある。本作はそうした家族の心の揺れを捉えている。
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母子家庭に唐突に割り込んできた祖父。母にとってどうしようもなく迷惑な父親である祖父との、短くも濃厚な3人暮らしの中で、それぞれの足りないものを、そうとは気付かないまま与え合っていたのだろう。 選りすぐりの言葉たちと音楽のような文体に、肉親を思いやる心情を織り込んだ、優しさに満ち...
母子家庭に唐突に割り込んできた祖父。母にとってどうしようもなく迷惑な父親である祖父との、短くも濃厚な3人暮らしの中で、それぞれの足りないものを、そうとは気付かないまま与え合っていたのだろう。 選りすぐりの言葉たちと音楽のような文体に、肉親を思いやる心情を織り込んだ、優しさに満ちた物語だった。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
詩集のように大きな字で読みやすいと思ったら、この短編小説は一文一文がまるで詩であった。 (引用 1) その頃僕たちが住んでいたのは、北九州のKという町だ。Kは製鉄が生んだお金で栄えた町で、人の気質や言葉は荒っぽかったが、町並みにはしっとりしたあたたかみがあった。まだ決定的にさびれてはいないのだけれど、ある時点で進むことをやめてしまった、そういうものだけが束の間持つことの出来るあたたかみだ。 (引用 2) 離婚から二年ほどの間に、母は僕を連れ、まるで西日を追いかけるように西へ西へと転々とする生活を続けた。(以下略)それはまさに、「風に吹かれる二枚の木の葉のような生活だった」はずだ… てこじいというのは母親の父で、母親がほんの小さい頃は北海道で荒っぽい力仕事を人に頼らず色々とこなしてきたが、終戦後、東京に出てからは、家のお金を度々持出し、何日も家を開け、無頼の限りを尽くしてきた人だった。 僕と母が暮らす、西日の当たる1Kのアパートに、ある日ふらっと、てこじいが現れたとき、浮浪者のような姿だった。てこじいはその部屋の隅っこのタンスの前で、昼も夜もずっとうずくまっていた。 母親のてこじいに対する態度は複雑で、いつも怒っているようで、掃除機をわざとぶつけるなど、ぞんざいな接し方をしていた。 けれど、たまには、てこじいの好きな蛸をおかずに加えたり、健康に気遣ったおかずを沢山食べさせようとしたり、よく面倒も見ていた。 その頃、母親は会社の上司と不倫関係にあり、お腹の子供のことで、泣きながら夜中にてこじいに相談もした。やっぱり、心の支えであったのだ。「諦めろ」とてこじいは諭すが、その後、母親を元気づけるために、余命幾ばくもない体で、何キロも離れた海までバケツ2杯もアカガイを取りに行って、一人歩いて帰り、母親と僕に刺し身として振る舞った。 間もなく、てこじいは入院するのだが、母親は目を釣り上げながら、最後まで、毎日、シジミ汁を作って、てこじいの見舞いに行く。そんな母にはまだてこじいが必要だ、と子供心に悟った僕はてこじいの耳元で「死んじゃ駄目だよ」と言う。 てこじいが家に来てから母は変わった。僕と二人で暮していた時には、メソメソ泣いたり、「いつか、お金が貯まったら南の島を買って二人で暮らそう」などという、現実逃避の夢ばかり語っていたが、てこじいが来て、世話をするようになってからは、現実的な問題解決をするようになった。そして、僕も知らなかったてこじいの昔話や母親とのエピソードを聞いて、自分と血のつながった人たちの人生に興味を持った。 てこじいが亡くなった後、母親は東京に戻る決心をする、太陽が沈んでいく町で、わだかまりのあった自分の父親と悔いのない最後を過ごしたあとで、前向きに東の町へ戻ったということであろう。 ネタバレすぎるくらい筋を書いてしまったが、話の筋よりも、文章が美しく、とっぷりと浸っていたくなりますので、是非ご一読を!
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※このレビューにはネタバレを含みます
北九州に暮らす僕と母と祖父の複雑な心情を描く。 現在と過去を行ったり来たりする語りを聞きながら、不器用な家族の交流になんとも言えない気持ちになる。 愛も憎しみも矛盾していない。 亡き人を思う、という話だ。
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