わたしたちが孤児だったころ の商品レビュー
この著者は文章を書く…
この著者は文章を書くのがとても巧妙。すらすらと読めるのに、味わい深く、心に刻まれる場面場面。そして、先の気になるストーリー展開。会社の行き帰りに電車で読み出したら、会社に行くのも家に帰るのもちょっと待った!と思う程、続きが気になってぎりぎりまで本を片手に持ち歩き、各所で開いては閉...
この著者は文章を書くのがとても巧妙。すらすらと読めるのに、味わい深く、心に刻まれる場面場面。そして、先の気になるストーリー展開。会社の行き帰りに電車で読み出したら、会社に行くのも家に帰るのもちょっと待った!と思う程、続きが気になってぎりぎりまで本を片手に持ち歩き、各所で開いては閉じを繰り替えした。
文庫OFF
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※このレビューにはネタバレを含みます
孤児という、一見ネガティブな題名から、これまで手に取っては来なかったけれど、ロンドンの社交界の逸話から、上海租界での子ども時代の鮮やかな思い出、友情などひかれる内容でついつい先を急いでしまう。そして、父母を捜し回る上海での戦場の場面もまた印象深い。彼のどの時代の話もそれぞれに意味深く歴史に名を残す作家さんなのだと改めて納得できた。
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『私たちが孤児だったころ』は、探偵小説の形式をまといながら、実際には“記憶”と“喪失”をめぐる静かな内面劇として立ち上がる作品だ。 物語を読み進めるほど、主人公クリストファー・バンクスが追い求めているのは事件の真相ではなく、幼いころに失われた世界そのものなのだと気づく。 記憶の...
『私たちが孤児だったころ』は、探偵小説の形式をまといながら、実際には“記憶”と“喪失”をめぐる静かな内面劇として立ち上がる作品だ。 物語を読み進めるほど、主人公クリストファー・バンクスが追い求めているのは事件の真相ではなく、幼いころに失われた世界そのものなのだと気づく。 記憶の“ずれ”が生む静かな痛み クリストファーは名探偵として語られるが、彼の回想はどこか曖昧で、幼少期の上海は理想化され、現実と記憶の境界はにじんでいる。 この“にじみ”が物語の核心であり、読者は彼の語りをそのまま信じることができない。 家族の影が、沈黙の中で形を変える クリストファーが両親の失踪を追う動機は、探偵としての使命感だろうか、むしろ幼い自分が抱えた喪失の穴を埋めたいという切実な願いに近いのではないか。 しかし彼はその本音を語らず、淡々と“調査”を続ける。会話の隙間や、ふとした沈黙に、それが滲み出てくる。 上海という舞台の“遠さ” 物語後半、クリストファーは再び上海を訪れるが、そこにあるのは彼が求めていた“故郷”ではない、それは戦争に揺れる現実の都市だ。 彼の記憶の中の上海と、目の前の上海の落差、「変わってしまった故郷」の感覚、懐かしさと喪失感が同時に押し寄せ、静かな痛みを残す。 『私たちが孤児だったころ』は、ミステリーの形だが、実際には“記憶の物語”だ。 語られない感情、曖昧な回想、変わりゆく故郷――こうした要素が重なり、イシグロが好きだという小津安二郎の映画が持つ余白の美学に通じる。 派手な謎解きを期待する読者には向かないかもしれないが、静かに心を揺らす物語を求める人には、深い余韻を残すだろう。
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イシグロカズオの信頼できない語り手モノは面白いな、と思う。主人公が信じ込んでいる、両親失踪事件の真相が、上海で調査を進めるに連れてぜんぜん思っていたのと違うことが分かっていく。 主人公の語りと、回想によって話があっちこっちに飛ぶ構成がちょっと分かりにくい。これが文学上の手法としての「意識の流れ」ってやつなんだろうな…(イシグロカズオのノーベル賞インタビューで、失われた時を求めてに影響を受けてるって話してたからそういうのを感じる) 舞台になってるのが、第二次世界大戦前後の上海、というのも好きだった。 というか、チャプター4くらいの上海回想編にたどり着くまでが面白く感じられなくて、頑張って耐えて読んだ(イシグロ作品はだいたい、途中まで耐えて読まないと面白いと感じられない傾向がある気がする。日の名残りも二日目夜からが面白くなったし。遠い山並みの〜も最後の最後になってようやく面白いと思えたし) 孤児たち(サラ、クリストファー、ジェニー)が、「あなたはそのままで良いんだよ」と受け入れてもらえる場所を探して足掻く話でもあり、愛を求める普遍的な欲求の話なのかなと思った。 ただ、サラの性格がイマイチ好きになれなかったり、クリストファーが両親を探しに日本軍と中国軍が戦う前線に飛び込んで行く時のくだりで人間性が終わってるというか、発狂してるんですか?って感じのムーブをかましたりとかしてて、読んでてキャラクターに対してストレスを感じるところもしばしば…。 サラの、どうせ結婚するなら何か人類にとって価値がある人として、その人を支えたい、っていうのは、「日の名残り」の執事の美学にもちょっと似通じるところがある。 けどだからと言って、社交界で出会う、自分が「価値がない」と判断した人を露骨に下に見て、状況が変わったと思ったら手のひらクルッと返して擦り寄るところは読んでてイラつくというか…まあこんな人っているよね…。 クリストファーはイギリスで名を挙げた探偵のはずなのに、日本軍と中国軍の戦う前線にある労働者居住区に、何十年も前に行方不明になった両親が生きて幽閉されてると信じて突っ走っていくところ、そんな判断能力で探偵ができるか??と疑いつつ読んでたけど、その辺りの不協和音がなにか伏線になってるわけではなかった。両親が幽閉されてる場所を見つけたんだから、協力して当然って態度でクリストファーが中国軍の将校に迫ったり、軍の防備に使う兵士を自分に貸せと当然のように要求したり、将校の案内で前線の最先端に連れてってもらうことを当然のように要求したり、断られたら相手の能力が低いとなじったりナショナリティを馬鹿にしたりしだすの…怖…。 幼少期の親友アキラを、偶然出会った日本兵と取り違えて、アジア系の顔判断できてないところを露呈させたりしてるのにも、クリストファーの無自覚(または時代柄当然のように内在させている?)なレイシズムを感じる。 クリストファーをそういう人間として描くことに何か意味があったのかもしれないんだけど上手く読み解けず。 クリストファーは上海のイギリス人たちを軽蔑してたけど、クリストファー自身もそういう人達と所詮は同じ、ってことだったのかな。
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上海租界で少年時代を過ごしたイギリス人クリストファー。その地には隣家の日本人少年アキラとの楽しい思い出もある。しかし、父親の失踪、それに次ぐ母親の誘拐という事件を経て孤児となり、イギリスの叔母のもとに引き取られることとなる。この少年が、長じて優れた探偵として名を馳せるようになり...
上海租界で少年時代を過ごしたイギリス人クリストファー。その地には隣家の日本人少年アキラとの楽しい思い出もある。しかし、父親の失踪、それに次ぐ母親の誘拐という事件を経て孤児となり、イギリスの叔母のもとに引き取られることとなる。この少年が、長じて優れた探偵として名を馳せるようになり、満を持して上海に舞い戻り、消えた両親の謎の解明に挑む。 真実を知りたい、という気持ちで読んでいけるミステリー小説のような推進力がありながら、そこで描かれる世界に立ち込める闇は深い。ってその世界とは私たちの住むこの世界である。途中途中、ウィキペディアなどで世界史のおさらいをしながら読み進めた(アヘン戦争、上海租界、日中戦争、国共内戦⋯)。出来事自体は昔のものだが、同じ暴力の構造は今もここにある。 そして、大きな物語を背景にしながらも心のひだの奥にあるものを決して取りこぼさない透徹の視界が、私のカズオ・イシグロ作品の好きなところだ。彼には見えているけれど、すべて書きはしない、という筆の運びにまたしびれる。 ▼連想した他の本 ・王谷晶『ババヤガの夜』 うんざりする暴力(※本書にはバイオレンスシーンはなくて、あくまで私の勝手な読み方による連想です)。ラスボスの本音へのうんざり感。あー、うんざりうんざり。 そのうんざりから、彼女はおりられたのだ、と私は思っている。 ・ギリガン『人間の声で』 (最近こればっかりだが)無視された“女”の声。 それから重要なことは、この物語が“クリストファーの声でしか語られていない”ということ。サラの声を、一度は聞いたクリストファーだったが、聞こえなくなったまま終わっているのだ。私たちはサラの声を聞いたほうがいい、と私は思う。 ・平井杏子『カズオ・イシグロの長崎』 これは著者/作品に対する解釈本なので“連想した本”としては安易過ぎるが、ノスタルジー、子ども時代の記憶、外国、といった軸で彼の作品を捉えていたこの本の解釈は特にこの作品にドンピシャだったのかもしれない。 ▼好きだったセリフ(うろ覚え!) 「トロフィーのようなものが欲しかったけど今は別のものがほしい。私が何をしたかとかどうであるかということと関係なくそこにあって、そこに戻ってこれるもの、例えばいつもそこにある空のような。」 「私には、子ども時代が外国のようには思えないのです。ずっとそこにいて、ようやく今旅立とうとしているところです。」 ▼タイトルについて わたしたちって、誰と誰だろうか。誰もがそうではないかもしれないけど、意外と私やあなたやあの人もそうかもしれない。拡大解釈し過ぎか。過去形なのは、救いと私は感じた。
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冒頭は1930年代で主人公クリストファー・バンクスは20代なかば。ロンドンで、子供の頃からの夢だった探偵として認められつつある。 クリストファーは子供時代を上海の租界(外国人居留地)で過ごした。父親はイギリス貿易会社の社員で、母は上海の人々がイギリスが売りつける阿片で苦しんでいる...
冒頭は1930年代で主人公クリストファー・バンクスは20代なかば。ロンドンで、子供の頃からの夢だった探偵として認められつつある。 クリストファーは子供時代を上海の租界(外国人居留地)で過ごした。父親はイギリス貿易会社の社員で、母は上海の人々がイギリスが売りつける阿片で苦しんでいることを許せずにいる。そして自分たちの不自由のない生活には中国人たちを阿片付にしていることで父を責める。 クリストファーの一番の友達は日本人一家のアキラだった。二人とも異国で暮らしているのだが、自分の国は上海だと思っている。子供なりに人生を見つめる独自の理論や哲学、自分を保つための嘘もある。 だがクリストファーの父が、次いで母が相次いで行方不明となり、彼は10歳で一人でイギリスの親戚に引き取られた。 そして現在、クリストファーは探偵として事件も解決しそれなりに評価も高まってきている。最近親しくなった女性、サラ・ヘミングスは社会的地位のある男性を狙う野心家のようだが彼女は何かを成し遂げる人物を欲している。そしてかつて第一線にいて今では引退した老外交官の後妻となり上海に渡った。 ロンドンでクリストファーは、両親をなくしたジェニファーという少女を養女に迎えた。だがいよいよ両親失踪の謎の確信に近づき、ジェニファーが学校にいる間に上海を再訪することにする。ジェニファーは「わたしはおとなになって、クリストファーおじさまを助けてあげるわ」と言う。 そして1937年、クリストファーは上海に渡った。 主人公が探偵で、両親に何があったのか、この先どうなるのかという推理小説要素もあります。 上海ではクリストファーの調査がちょうど上海での日中戦争(第二次上海事変)の真っ只中、クリストファーも残酷なものを多く目撃します。上海の現地中国人の貧民窟の様子とか、その貧民窟での日本軍による砲撃などは本当に悲惨で。 子供の頃のクリストファーもアキラも、中国人を使う立場で不自由なく暮らしているけれど、やはりここが完全に自分の居場所ではないとも感じている。しかしそれぞれが自分の国(アキラは日本、クリストファーはイギリス)に戻ったときは「上海の租界こそが自分の居場所」だと感じる。大人になって上海に戻ったクリストファーは「自分はずっと租界にいたころの子供の延長だった」と感じている。 題名の『私たちが孤児だったころ』は、実際に親がいないという意味もあるし、精神的に居場所を探しているって意味もあるのかな。ラストでクリストファーは「最善を尽くすしかない」と結論に達する。題名の「だったころ」と過去形なのは、やっぱり心の平穏はないけれども、そんな状態を受け入れて自分の心のあり方が落ち着いたってことでしょうか。 <最後まで使命を遂行しようとしながら、最善をつくすより他ないのだ。そうするまで、わたしたちには心の平安は許されないのだから。(P530)>
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感想は難しい。 大人の欲望に振り回された子供の一生、って感じかな。 戦争が引き起こす悲劇。 血のつながりと同様の友愛。 残酷な真実と、その上で得た名声。 切ない物語なのに、不思議と穏やかな感情で締めくくるところで多少救われる。
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Audible かつて、彼の作品を読んだ時に原文で読みたいと思ったほど美しい文章だった。それは、この彼の5作品目となる長編小説でも変わらない。 日中戦争中の上海が主な舞台なので、日本語を話せないという著者だが、それでも中国を苦しめた阿片と、中国を攻める日本軍のことはどのような思いで描いたのだろうと思わずにはいられなかった。それがこの物語を時々苦しくしたが、イデオロギーに固執していないのは救いだった。 上海で生まれ育ったイギリス人の少年が、相次いで両親が失踪し、故郷イギリスの叔母の元で育てられ、やがてケンブリッジ大学を卒業した後、探偵として名士になる。遺産を相続した後は、孤児を養女に取るほどまで生活にも余裕があった。恐らく貴族ではなさそうだが、ブルジョワジーなのだろう。 上海に戻り、両親を探す過程で、それまでの教育や探偵としてのキャリア、名士に慣れたこと、それまでに要したお金すべてが、母親が中国人の妾の一人になったことで支えられていたと知る。 また、父親は誘拐などではなく、単に愛人と駆け落ちしただけだった。 今までのすべてが虚構だったと知り、(描かれていないが)戦争が終わる。 彼は両親を探し求めるように、使命も追い求めていた。その為に、人生で唯一一緒になっても良いと思った人まで失ってしまった。 彼の人生がほぼ虚構だったように、彼の「使命」だと思っていたものも虚構だったのではないだろうか。 老人になった彼が、それでもその使命が果たされなければ人生が始まらないと言っていたが、それは自分と少し被った。 ずっと、健康を取り戻さなければ、人生が始まらないと思っていた。やりたいことも、健康でなければできないと。 だが、人生に先があるかはわからないし、「いつか」は永遠に来ない。
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なんだろ、ファンタジーを歩いているようなふわふわした感覚がありながら、後に残る感情は妙に生々しいものがある、という感じだった。 すべてはパフィンの夢だったのではないかとも思えるような子供じみた奇妙な展開がところどころにあるが、読み終えてみると、実は全てこうなることは最初からクリス...
なんだろ、ファンタジーを歩いているようなふわふわした感覚がありながら、後に残る感情は妙に生々しいものがある、という感じだった。 すべてはパフィンの夢だったのではないかとも思えるような子供じみた奇妙な展開がところどころにあるが、読み終えてみると、実は全てこうなることは最初からクリストファー自身が分かっていたかのような感覚を受けた。そのアンバランスさがこの時代背景や孤児ということをより際立たせているように感じた。少しミステリーぽい要素もあり、スラスラと読めた。
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(⌐■-■)イシグロちゃんは作り話をナカナカ読ませるけんど、今回はご都合主義を文学ぽく濁した感じやな。 ⊂|⊃ [ಠ_ಠ]ブックオフ220円なら買い!
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