わたしたちが孤児だったころ の商品レビュー
カズオイシグロ作品を読んだのは、「わたしを離さないで」に次いで二作目。 ミステリーに分類されてもされなくても違和感無し。結末はえげつない。 表題が少々謎めいて聞こえる。「わたしたち」とは誰と誰のことなのか? 「だった」と過去形なのは、いつ孤児でなくなったということなのか? 素直...
カズオイシグロ作品を読んだのは、「わたしを離さないで」に次いで二作目。 ミステリーに分類されてもされなくても違和感無し。結末はえげつない。 表題が少々謎めいて聞こえる。「わたしたち」とは誰と誰のことなのか? 「だった」と過去形なのは、いつ孤児でなくなったということなのか? 素直に読めば、クリストファーとジェニファー?それぞれ実の親と育ての親を見つけたのだから孤児でなくなった、ってことか? 終盤クリストファーはアキラらしき日本兵と遭遇したが、本当にアキラだったのか? そんな偶然はあるわけないし、描写的にも別人かと思う。 クリストファーが、盲人の俳優宅っぽい家を見つけたと思い込もうとする辺りは狂気の真ん中にいる感じだ。
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日常がもっと好きになるような小説だった。その時代の空気感、時代感が伝わってきた。自分自身の理想の世界を作り上げるために生きていたっていいじゃないか。どんな現実にぶつかってもそれが自分の信念なら変える必要はないと、自分の人生観を考えさせてくれた作品だ。
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カズオ・イシグロさんの本はこれで3冊目。どれも一回読んだだけでは真意にたどり着けた気がしない、そんな底なし感がある。 この本は少年の頃、両親と引き裂かれた主人公が探偵となり、再会を果たすべく戦火の故郷を傷だらけになりながら彷徨う話だが、結局僕はどこで入り込んで良いのか分からなかっ...
カズオ・イシグロさんの本はこれで3冊目。どれも一回読んだだけでは真意にたどり着けた気がしない、そんな底なし感がある。 この本は少年の頃、両親と引き裂かれた主人公が探偵となり、再会を果たすべく戦火の故郷を傷だらけになりながら彷徨う話だが、結局僕はどこで入り込んで良いのか分からなかった。面白くない、という意味ではなく、隙がない、そんな感じ。 入り込みどころを探ってるうちに、急激に話がエンディングに向かって進行していく。そしてまたいつから読み返そう、そう思わせて終わっていく。前に読んだ2冊も同じように感じたことを思い出してしまった。 自分の読解力のなさ、歴史に対する知識のなさ、それが本当に腹ただしい。
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6年ぶりの新作『クララとお日さま』も話題のカズオ・イシグロ、2000年の作品。長編第5作にあたり、このあとが2005年の『わたしを離さないで』。 大戦前夜の1930年ロンドンから、おそらく20年以上前の上海、租界の少年時代を回想するところから物語が始まる。 カズオ・イシグロに慣...
6年ぶりの新作『クララとお日さま』も話題のカズオ・イシグロ、2000年の作品。長編第5作にあたり、このあとが2005年の『わたしを離さないで』。 大戦前夜の1930年ロンドンから、おそらく20年以上前の上海、租界の少年時代を回想するところから物語が始まる。 カズオ・イシグロに慣れた身にはそれが「信頼できない語り手」であることは百も承知。彼の語る思い出が本当にあったことなのか、彼の語る印象は彼自身だけのものなのか、つねに疑いながら読んでいくことになる。 (今回はわりと親切で同級生たちの印象と自分が抱いていたイメージが違うとか「わたしはまちがえて覚えているかもしれない」など、あちこちに「信頼できない」という警告がされている。) カズオ・イシグロの文体は原文がよほどシンプルなのか、日本語訳で読んでいてもとても落ち着く。子供時代の回想をはさみつつ、「昨日の出来事」やら「数週間前」のことがつづられていくのでストーリーは遅々として進まず、はたして過去の真相がなんなのか、主人公が探しているものはなんなのか、よくわからないままゆっくりと展開していくのだが、それはそれで心地いい。 上海へと舞台が移ってからの後半は村上春樹的なハードボイルドというか、『不思議な国のアリス』的なファンタジーというか、ここらへんの主人公の行動は混迷していてよくわからないし、謎解きも不十分なのだけど、本作の主題はそこにない気もする。 「孤児」である「わたしたち」とは誰なのか。主人公クリストファーはまちがいないとして、サラをさしているのか、ジェニファーなのか、アキラなのか。それとも古川日出男の解説にあるように「わたしたち」はみな「孤児」なのか。 以下、引用。 お客様はふつう若い男性で、『たのしい川辺』でしか知らないイギリスの小道や牧場、あるいはコナン・ドイルの推理小説に出てくる霧深い通りなどの雰囲気を持ちこんできてくれたからだ。 「ああ、クリストファー。あたくしたち二人ともどうしようもないわね。そういう考え方を捨てなきゃいけないわ。そうじゃないと、二人とも何もできなくなってしまう。あたくしたちがここ何年もそうだったみたいに。ただこれからも寂しさだけが続くのよ。何かはしらないけれど、まだ成しとげていない、まだだめだと言われつづけるばかりで、それ以外人生には何もない、そんな日々がまた続くだけよ。」 「あたくしにわかっているのは、あたくしが何かを探しながらここ何年も無駄にしてしまったってことだけ。もしあたくしがほんとうに、ほんとうにそれに値するだけのことをやった場合にもらえる、一種のトロフィーのようなものを探しているうちにね。」 「大事。とても大事だ。ノスタルジック。人はノスタルジックになるとき、思い出すんだ。子供だったころに住んでいた今よりもいい世界を。思い出して、いい世界がまた戻ってきてくれればと願う。だからとても大事なんだ。」 「そう思っていました。彼のことを幼友達だと思っていました。でも、今になるとよくわからないのです。今ではいろんなことが、自分が思っていたようなものではないと考えはじめています」 「今から思うと子供時代なんてずっと遠くのことのようです。」「日本の歌人で、昔の宮廷にいた女性ですが、これがいかに悲しいことかと詠んだ人がいます。大人になってしまうと子供時代のことが外国の地のように思えると彼女は書いています」 「あの、大佐、わたしには子供時代がとても外国の地のようには思えないのですよ。いろんな意味で、わたしはずっとそこで生きつづけてきたのです。今になってようやく、わたしはそこから旅立とうとしているのです」
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上海の租界に暮らしていたクリストファー・バンクスは十歳で孤児となった。貿易会社勤めの父と反アヘン運動に熱心だった美しい母が相次いで謎の失踪を遂げたのだ。ロンドンに帰され寄宿学校に学んだバンクスは、両親の行方を突き止めるために探偵を志す。やがて幾多の難事件を解決し社交界でも名声を得...
上海の租界に暮らしていたクリストファー・バンクスは十歳で孤児となった。貿易会社勤めの父と反アヘン運動に熱心だった美しい母が相次いで謎の失踪を遂げたのだ。ロンドンに帰され寄宿学校に学んだバンクスは、両親の行方を突き止めるために探偵を志す。やがて幾多の難事件を解決し社交界でも名声を得た彼は、戦火にまみれる上海へと舞い戻るが…現代イギリス最高の作家が渾身の力で描く記憶と過去をめぐる至高の冒険譚。
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幼少期を上海の外国人居留地・租界で過ごしたイギリス人のクリストファーは、今やロンドンの社交界でも噂の名探偵。彼が探偵になった理由は他でもなく、かつて上海で行方不明になってしまった両親を探しだすためだった。父、母、フィリップおじさん、そして隣の家に住んでいた日本人の友だち・アキラとの日々を回想しながら、遂にクリストファーは真相解明のため再び上海へ向かう。しかし、かつての〈故郷〉は戦火に飲み込まれつつあった。 古川日出男の解説がめちゃくちゃ上手いのであれを読んだ後に付け足したいこともないくらいだけど、この小説を読んでいて、昔からずっと考えていることを思いだしたのでそれを書きたい。 児童文学に孤児の主人公が多いのはなぜだろう、と不思議に思っていた時期があった。名作と呼ばれる作品が書かれた頃は今よりもっと孤児の人口が多かったからとも言えるだろうし、また子どもを主人公として動かすのに大人がでしゃばらないほうがよいという作劇上の理由もあると思う。 でも私は(日出男も書いているように)、人は子ども時代に一度は精神的な孤児になるターニングポイントがあるのだと思う。それは一番近しい存在であるはずの家族、特に親が〈他者〉であることに初めて気づいたとき、子どもを襲う感情ではないだろうか。 我々はある程度の年齢まで親が語る世界を全世界と思って育つ。親がいない人も子ども時代に最初に信頼した人の影響は強く受けるだろう。親が語る視点を唯一のものとし、自分が見る世界と同一視していた子どもは、しかしどこかの時点でそれが唯一でも至上でもないことを知るはずだ。その失望、絶望、孤独、不安、不満が私たちを"孤児"にする。崩れてしまった世界をもう一度立て直すためには、自分と親は違う人間だということを飲み込まなければならない。そうした精神的な過渡期に、孤児を取り囲む世界のあり方を書いた児童文学が求められるのだろう。という仮説がずっと私の頭の中にあったのだった。 しかし本書の語り手クリストファーは、逆に孤児になったがために親、特に母が語る世界と適切な距離を取れないまま大人になってしまった。上海の記憶と両親をめぐる未解決事件は彼のなかで大きく膨らみ、人生すべてをひっくり返すドラマティックなものであるべきだと彼は考えるようになった。人びとに自分を認めてもらうために。 クリストファーは同じく孤児で、社交界での地位を人一倍気にしているサラを最初軽蔑しているが、彼自身も名声に固執している。解決した事件を自慢げに語る口ぶりはポアロのようで笑えるが、誇張癖の裏側には精神的に不安定な少年期を送ったことが見てとれる。壮年になり、引き取った孤児のジェニファーから思いやり溢れる言葉をもらえるようになったにも関わらず、亡きサラからの手紙を自分に都合よく解釈しようとするラストはとても切ない。罪悪感に蓋をして、身勝手な自分を棚に上げて、過去のよいところだけを何度も夢みる。『ロリータ』のラストで感じたような孤独と寂寥感。人はそれぞれ自分に見えている世界を生きるということの、祝福と悲哀。 『わたしを離さないで』の一つ前の作品なだけあり、全体の構成はとてもよく似ている。『わたしを離さないで』のほうがよりブラッシュアップされ、洗練されているが、本作のミステリーあり・ラブロマンスあり・ユーモアあり・市街戦ミッションありのサービス多めなイシグロも好きだ。ちょっと下世話なゴシップ要素を取り入れても品が良くなってしまうところも、私には美点に感じられる。 また、この小説はメタ探偵小説としても面白い。上海の租界という設定は古き良き探偵気分を盛り上げるし、アキラとクリストファーの探偵ごっこもリアルな子どもの世界の嫌さを書いていて(笑)楽しい。作中で幼いクリストファーが大人から言い含められる場面もあるが、ホームズやピンカートン作品のように現実の世界にもたったひとつの揺るがぬ真実があり、それを暴いて秩序を取り戻すことができると信じることは、それ自体とても幼稚な考えではある。けれどクリストファーにはずっとそれが〈世界〉だったのだ。日中戦争がまさに勃発した瞬間の上海にいてさえ覚めないほどに。その幻想と現実の狭間を覗き込むとき、笑いと涙が共に浮かんでくる。
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わたしたちが孤児だったころ。カズオイシグロの本のタイトルは、いつもこれしかないと思わせるタイトルをつけてくれる。 この本には、主人公は勿論、幾人の孤児が登場する。サラ、ジェニファーを含む3人が主に指している人物だと思うが、要素として日本人としてのアイデンティティが今一つ持てずにいたアキラも精神的には孤児だし、犬を助けて欲しがった少女は、戦争で散っていった民間人の遺子である。アキラと思われる日本兵の子供も孤児になってしまうかもしれない。 そして、孤児達は、様々なバックヤードや性格違いがあるものの、根底の心根にあるものは非常に似通っているように思える。 現実から目を逸らし、答えのみつからない幸せや真実を追い求める。あるいは、自身は大丈夫であるという振りをする。そのこと自体に本人は気付いていなかったりする。 後半は特に顕著で、クリストファーは、一歩引いてみると、あまりにも幼稚で幻想的な冒険譚を繰り広げる。戦争という超現実の真っ只中で。 「慎重に考えるんだ。もう何年も何年も前のことなんだ。」 空想に遊びふけっていた子供時代を未だ抜け出せていないのだ。 悲劇的な真実が明らかになった後、20年後になって、冒険譚は一応の幕引きを迎える。 そして、上海だけが故郷といっていたクリストファーは、ロンドンも故郷として馴染んできた、残りの人生をここで過ごすことも吝かではない、という。 1人の虚しさを思い出すようになる。反面、昔の栄光に追い縋っている面も見られる。子供から大人へ、成長する瀬戸際なんじゃないかなと自分は解釈した。 ここからどうなるかは、クリストファー次第。
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イギリスと上海(中国)の間を行き交い、事件解決と共に、アイデンティティを追求する男の物語。 「戦争」が絡む文学を手にすると、そこに人間への希望と失望を必ずやみることになる。 そして、戦争と平和が、こんなにも「隣人」であることに衝撃を受ける。 本を閉じたとき、嗚咽ではなく、心の...
イギリスと上海(中国)の間を行き交い、事件解決と共に、アイデンティティを追求する男の物語。 「戦争」が絡む文学を手にすると、そこに人間への希望と失望を必ずやみることになる。 そして、戦争と平和が、こんなにも「隣人」であることに衝撃を受ける。 本を閉じたとき、嗚咽ではなく、心の襞を静かに潤わす涙が出た。
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カズオイシグロを読んでみよう!と手に取ったものの、語り口に馴染めず読了ならず。原文で読めばおもしろいのかな...
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後半からは、一気に最後まで読みました。 というより、読まずにはいられませんでした、先が気になって。 どういったらよいかわからない気持ちです。 幼い日の、当時の自分には責任はないし、気付くはずもない小さな判断が自分と周囲の人の運命を変えてしまったかもしれないという罪悪感、無力感。 正義感、責任感、向上心、愛情を持っていたからこそ訪れてしまった家族の悲劇、知人の悲劇、世の中の悲劇…。そして、それを利用して生き延びる人々もいる。 ひとつの事実によって、これほどまでに、自分の思い出や自尊心や家族や知人への印象・想い、経験したことの意味が変わってしまうということがあるのでしょうか。 自分がこの主人公だったら、事実を知った後、どうやって自分を保って生きていけば良いのかわからない。自分の責任ではないけれど、自分の人生を全否定したくなる瞬間がありそう。 ただまさに、命をかけて自分を愛してくれた人がいるんだという事実、これひとつが主人公の生きていく支え、であるとともに、だからこそ、その人が一生苦しむことになってしまった悲しさ。 主人公の寂しさはわたしには想像を絶するものでした。
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