破戒 の商品レビュー
112年前の作品ながら、現代にも通じる問題を取り上げている。 明治後期、部落出身の教員瀬川丑松(うしまつ)は父親から身分を隠せと堅く戒められていた。丑松と同様に部落出身ながらその出自を公表している解放運動家、猪子(ゐのこ)蓮太郎と接する中で、丑松は出自を打ち明けるべきかどうか思...
112年前の作品ながら、現代にも通じる問題を取り上げている。 明治後期、部落出身の教員瀬川丑松(うしまつ)は父親から身分を隠せと堅く戒められていた。丑松と同様に部落出身ながらその出自を公表している解放運動家、猪子(ゐのこ)蓮太郎と接する中で、丑松は出自を打ち明けるべきかどうか思い悩む。 丑松はもちろん、その周囲の人たちや、信州の情景なども克明に描写されており、圧倒される。 あまりに過酷な運命を辿る丑松。読みながら、人は差別をすることでしか自分を保てないのかと憤りが生じてくる。差別について深刻な問いを投げかける傑作。
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高校の時に読みましたが、今読み返してみると、また感慨深いものがあります。 「橋のない川」とついつい比べてしまいがちですが、破戒にはまた違った良さがあります。 最後の、父の戒めを破り告白する部分は、以前は「なぜ謝る」と思いましたが、今読むと、複雑な心境も理解できるような気がします。...
高校の時に読みましたが、今読み返してみると、また感慨深いものがあります。 「橋のない川」とついつい比べてしまいがちですが、破戒にはまた違った良さがあります。 最後の、父の戒めを破り告白する部分は、以前は「なぜ謝る」と思いましたが、今読むと、複雑な心境も理解できるような気がします。 名作です。
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※このレビューにはネタバレを含みます
穢多非人の子どもとして生まれた主人公の悩みと、周囲の心無い誹謗中傷ふってわく苦難、辛い現実描写が心に刺さります。ただ、風景描写はくどく思えた。後半200ページはうわあ、と目元を抑えながら一気読みしました。
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明治後期、元「穢多」の新平民であることを世間に隠せと父から戒められていた教員瀬川丑松は、同じ境遇の解放運動家・猪子蓮太郎に心を動かされ、新平民に対する世間の差別と芽生えた自意識との間で葛藤する。自然主義文学の嚆矢となった小説。 世間から批判の的、差別の対象とされることを分か...
明治後期、元「穢多」の新平民であることを世間に隠せと父から戒められていた教員瀬川丑松は、同じ境遇の解放運動家・猪子蓮太郎に心を動かされ、新平民に対する世間の差別と芽生えた自意識との間で葛藤する。自然主義文学の嚆矢となった小説。 世間から批判の的、差別の対象とされることを分かっていながら、自ら進んで秘密を暴露し、声高に自己の主張を叫び信念の赴くままに生きていく。こんな生き方ができる人物は稀代の英雄と呼ばれる。本作の猪子蓮太郎がそれにあたるだろう。比べて主人公・瀬川丑松は決して英雄ではない。最後には父からの戒めを破り告白をするが、泣きながら板敷に跪く姿は猪子蓮太郎のそれとはかけ離れている。 しかし私は、丑松が好きだ。彼の人間らしさに心を打たれた。彼は多くの人が持つ人間の心の弱さをそのまま持っている。秘密がばれたくないという想い、一方で英雄的人物から刺激を受け「本当に自分はこのままでいいのか」と自己の在り方に疑問を持つ。尊敬する猪子氏の死により「破戒」の決意を固めるが、クライマックス、担当する学級の生徒たちの前で震えながら告白する丑松の姿に、私は強く強く胸を打たれた。生徒たちに「全く、私は穢多です、調里です、不浄な人間です」と頭を下げる丑松。なんと弱く、強く、醜く、美しい姿ではないか。こんなこと、猪子蓮太郎にさえできない。きっと彼の生徒たちは、丑松のこの告白を生涯忘れないだろう。穢多、新平民と自分たちは何が違うのだと疑問を持つことであろう。新しい時代を担う子供たちへの、人生を賭けた「授業」なのだと思うのだ。社会が抱える「業」を、丑松は子どもたちに身をもって示したのではないだろうか。 一人の人間を描くことは、その人物を取り巻く複数の人間を描くことになる。複数の人間を描こうとすれば、そこにはその時代の社会思想が顔を覗かせる。つまり、個人を描けば社会を描くことになる。本作品は社会問題小説か、個人の自己告白小説かという論争があったらしいが、答えは「どちらも」なのだろう。全てを包括するからこそ、本小説はどんな角度から見ても多様に反射し、文学作品としての深みを獲得しているのだ。
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丑松がエタであるところを告白するところは圧巻だったけど、ちょっと自虐的な感じがするが、明治のころの視点ではこうなるのか。
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丑松が自分が新平民であるということを隠し続けて最後にはそれがバレてしまう話。最後に丑松は生徒に新平民であったのを隠していたことを謝ってテキサスに行くわけだが、結局新平民であるのは悪いことだと認めているような気がして何とも言えないと思った。
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明治後期の話。部落出身の主人公が教師をやっていて解放運動家によって。 父の戒めを破って自分の素性を告白してしまう。 東京にいって暮らす。兄は不明
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日本文学を代表する作品として有名な本作。いわゆる部落出身の主人公が、自分の生い立ちをひた隠しにして生きる様が描かれる。部落差別などあまりピンとこない世代の私がこの小節を読んだのには理由がある。文学にあまり明るくない私は、選書に際して、ある大変な読書家の音楽家のブログを参考にしてい...
日本文学を代表する作品として有名な本作。いわゆる部落出身の主人公が、自分の生い立ちをひた隠しにして生きる様が描かれる。部落差別などあまりピンとこない世代の私がこの小節を読んだのには理由がある。文学にあまり明るくない私は、選書に際して、ある大変な読書家の音楽家のブログを参考にしている。その中で、本書はこう紹介されていた。 志を立てた人間の人生は毎日が闘いである。それを感じるために本書を勧めると。読み終えた今、改めて自分の生を見つめなおしているところである。
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物語のクライマックスで、登場人物の口から作品のタイトル名が出てくるor謎が明かされる展開は激アツ、と個人的に思っているのだが、この作品もその魅力を持っている。 日本史の授業で出てくる所謂「穢多・非人」の身分の出である主人公がその身分と、それを隠して小学校教諭に勤めるギャップに悩む...
物語のクライマックスで、登場人物の口から作品のタイトル名が出てくるor謎が明かされる展開は激アツ、と個人的に思っているのだが、この作品もその魅力を持っている。 日本史の授業で出てくる所謂「穢多・非人」の身分の出である主人公がその身分と、それを隠して小学校教諭に勤めるギャップに悩む様が実に人間らしくて良い。 主人公の尊敬する思想家は同じ穢多出身という身分にありながら、それを隠さず、自らの背出に臆さないところが、神聖なアウトローという感じで惹きつけられる。 作中に出てくる彼の思想「どんな苦しい悲しいことが有ろうと、それを女々しく訴えるようなものは大丈夫と言われない。世間の人の睨む通りに睨ませて置いて、黙って狼のように男らしく死ね」は実に潔くて良い。 狼を引用しているせいか、ヘッセの「荒野のおおかみ」を思い出した。
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体制をゆるぎのないものとするためには、反乱などおこさせないように 民衆同士のいがみあいを煽るのにかぎる そんなわけで日本の権力者はうまくやった…士農工商にそのまた下の 「穢多」というものをくっつけた じぶんより劣るものを叩くことで、お上に認めてもらおうという あさましい奴隷根性を...
体制をゆるぎのないものとするためには、反乱などおこさせないように 民衆同士のいがみあいを煽るのにかぎる そんなわけで日本の権力者はうまくやった…士農工商にそのまた下の 「穢多」というものをくっつけた じぶんより劣るものを叩くことで、お上に認めてもらおうという あさましい奴隷根性をつかむのが帝王学ってものだろう しかしその差別は、明治維新によって建前上の平等が実現した後にも 水面下でおこなわれ続けてきたのであった それがひょっとすると、治安の維持に役立っていた側面は あったかもしれないにせよ 近代社会というものの、市民に対するひとつの裏切りには違いなかった 「新平民」と呼ばれる被差別民たちは 出自をごまかすことで身を守るしかなかったが それに対して、この小説に登場する猪子蓮太郎という人のように あえてのカミングアウトをおこなうことで 差別の醜さを抉り出そうとした人もいたのかもしれない 主人公の瀬川丑松は、それに追随する形で 自らの出自を告白するのだが ただまあその結末に関しては、是非のわかれるところだろう 死ぬまで戦った猪子という先達を横目に 海外へ逃亡したということはできる 一方でそれは、グローバルに目を向けようとする民衆の 最初の一歩でもあったわけだ
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