破戒 の商品レビュー
身分差別に苦しむ主人公(丑松)が、周囲の偏見により教師を辞めざるを得なくなり、テキサスへ渡るまでを描く。 新平民という呼称までつけられ、職業、居住地、生活全般においてここまで迫害されることは現代では考えにくい。 ただ、身分という他者との相違にもとづく偏見は、外人、派遣社員、...
身分差別に苦しむ主人公(丑松)が、周囲の偏見により教師を辞めざるを得なくなり、テキサスへ渡るまでを描く。 新平民という呼称までつけられ、職業、居住地、生活全般においてここまで迫害されることは現代では考えにくい。 ただ、身分という他者との相違にもとづく偏見は、外人、派遣社員、ニート、性別など形を変えた形で根強く今でも残っており、解決にはほど遠い。 他者との相違がこちら側とあちら側を生じさせ、恐れ、不安から異分子を排除、攻撃してしまうのは、人間の本能なのだろう。 相互理解すればよいというのは、簡単である。実際、丑松も自分の身分を告白するが、他者との溝が埋まったのはわずかで、学校の校長などは生徒の前で攻撃したり、生徒の見送りを妨害したりと更に溝を深めている。同質性の中にしか安心感をもてないのでは、進歩が無いし退屈だと思うのだが。。
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穢多の子として生まれた主人公・瀬川丑松。 父とともに、新平民であることを隠し続けて生きてきた。ばれると差別されるからである。 そうして生きている丑松を支えたのは、同じ新平民でありながら、作家として活動する猪子蓮太郎。 丑松は新平民として、どのような生き方を選んだのか、ドラマティ...
穢多の子として生まれた主人公・瀬川丑松。 父とともに、新平民であることを隠し続けて生きてきた。ばれると差別されるからである。 そうして生きている丑松を支えたのは、同じ新平民でありながら、作家として活動する猪子蓮太郎。 丑松は新平民として、どのような生き方を選んだのか、ドラマティックな結末です。 胸が熱くなります!
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主人公の丑松は、生徒や教師仲間からも信頼される20代の学校教師である。しかし、周りからは常に考え事をしていて何かに苦悶してるかのようにも見られていた。その苦悶の原因は、丑松の生まれは部落であり、彼自身がその事実について世間から隠し続けてきたことであった。小説の中には、穢多という今...
主人公の丑松は、生徒や教師仲間からも信頼される20代の学校教師である。しかし、周りからは常に考え事をしていて何かに苦悶してるかのようにも見られていた。その苦悶の原因は、丑松の生まれは部落であり、彼自身がその事実について世間から隠し続けてきたことであった。小説の中には、穢多という今では、差別用語として使われていない直接的表現が何度も出てくる。他にも、新平民、賤民などといった言葉が平然と使われており、当時差別を是としていた時代背景がが垣間見え、21世紀に生きる我々にとってはショッキングですらある。部落民として苦悩とともに生きてきた丑松の父は、どんなことがあろうとも自分の身分を他人に打ち明けてはならないと、丑松に戒める。人々から隠れるように山奥で牧夫として細々と暮らしていたその父が死に際に、丑松に残した唯一の遺言は、「忘れるな」であった。丑松は、父のこの戒を心に刻み込みながらも、同じく部落出身で自らを「我は穢多なり」と告白した思想家である猪子連太郎に傾倒する。連太郎と個人的にも親交をもつようになった丑松は、自らの身の上を連太郎に打ち明けたい気持ちと、父の戒めとの間での葛藤に苦しむ。そして、自ら打ち明けざるとも、周辺が丑松の出身について疑問を抱き始めるのである。破戒とは、戒めを破ることである。そして、周りが気がつき始めたのと時を同じくして丑松はついに周りに自分お生い立ちを告白するのである。授業中、自分の生徒に対して土下座をし、穢多であることを詫びたのである。穢多であることそのものが罪であるかの如く、人格者としてそして教育者として自他共に認める者ですら差別に効しきれない現実をあからさまに、かつ残酷にも描き出す。同じ読みの言葉で破壊という響きが重なり、告白のよって丑松の行く末が破壊的な結末を迎えてしまうのではないだろうかという心配が、読み進むにつれて付きまとう。しかしながら、藤村はそこまでは残酷ではなかった。学校を追われ町を出て行くことになり、その身の上を知っても尚、丑松を慕う、お志保の存在。そして、授業を抜け出し、見送りに来た生徒達。これによって、我々は差別の暴力性に打ち勝つ人間性は存在することを読み光明を見出すことが出来るのである。有島武郎は、「生まれ出ずる悩み」で、才能があっても不遇な労働を余儀なくされ、搾取される立場から抜け出すことのできない田舎の若い労働者の苦悩を描いたが、この物語もまさしく生まれ出ずる悩みである。有島の描く「悩み」は、健全な資本主義と民主主義によって解決の道が開けるかもしれない。しかしながら、丑松の悩みは、社会システムを持ってしても解決が困難な問題である。
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説明は不要でしょう。 人は時として、 大きな重荷を背負いながら、 生きなくてはならないのです。
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憂鬱と差別と信頼の物語。過度な憂鬱に陥りやすい性格であったり、多くの人から不当な差別を受ける出自であったとしても、信頼してくれる他者は少なからずいるのだろう。絶望だけの物語ではない。
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巻末部で号泣。 明治末期、主人公の差別に対する心の葛藤に、強く胸を打たれました。 明治最初期に、解放令によって人種差別が法的になくなりましたが、やはりそれを快く思わない人々がおり、とんでもない嘘をついてしまったんですね。 「お上の都合で、解放令は5万日延期された」 その大嘘は、...
巻末部で号泣。 明治末期、主人公の差別に対する心の葛藤に、強く胸を打たれました。 明治最初期に、解放令によって人種差別が法的になくなりましたが、やはりそれを快く思わない人々がおり、とんでもない嘘をついてしまったんですね。 「お上の都合で、解放令は5万日延期された」 その大嘘は、およそ40年後の丑松の時代にも残って、多くの人々を苦しめます。 夏目漱石をして、「後世に伝えるべき名作」と言わしめた、日本文学の傑作。
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戒めを破る、で「破戒」。なるほど、そういうことですか、といまさら納得。ずーっと前からタイトルもどんなテーマの話なのかも知っていたのにね。読んでみてはじめて胸にすとんと落ちました。「穢多」だの「四足」だの、ここにこうして書くことにさえためらいを覚える言葉がそこここに。発表当時はたぶ...
戒めを破る、で「破戒」。なるほど、そういうことですか、といまさら納得。ずーっと前からタイトルもどんなテーマの話なのかも知っていたのにね。読んでみてはじめて胸にすとんと落ちました。「穢多」だの「四足」だの、ここにこうして書くことにさえためらいを覚える言葉がそこここに。発表当時はたぶんかなり刺激的な作品と受け止められたのだろうなと想像します。逆に言えば、今の私が読んでももうひとつ主人公や周辺の人々に感情移入できないのも事実。でも、やっぱ、読んでよかった。
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青年の苦悶する描写。そこには痛々しさがある。 「いつの時代の人にも、現実を見つめなおすために読んでもらいたい」
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小学生の時以来久し振りに読んだ。 オバマさんの大統領就任を前に興味深い記事を 読み、読んでみたくなった。 小学生のときの真っ直ぐな心とは違い、 世の中の不条理を味わって今読むと、 その強さに感動する。 秘そうとするその姿にも、 それは強さへの助走と映る。
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題材は、革新的だっただろうな、と思う。荒筋を読んだときはぞくっとして、めちゃめちゃ惹かれた。のだけれど、読んでみたらちょっと期待外れだったかも…。これだけひっぱったのにこの終わり?っていう消化不良な感じがしました。もっと収拾つかないくらいに追い詰められるんじゃないかなあ、実際は…...
題材は、革新的だっただろうな、と思う。荒筋を読んだときはぞくっとして、めちゃめちゃ惹かれた。のだけれど、読んでみたらちょっと期待外れだったかも…。これだけひっぱったのにこの終わり?っていう消化不良な感じがしました。もっと収拾つかないくらいに追い詰められるんじゃないかなあ、実際は…中途半端に救いがあって、ちょっとなぁ。まあでも救いがないとそれはそれで差別的な内容と取られてしまうかもか…ううむ。
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