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白い果実 の商品レビュー

4.4

33件のお客様レビュー

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    16

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  4. 2つ

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2024/11/28
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

1997年にアメリカで出版され、翌年に世界幻想文学大賞長編部門を受賞。日本では2004年に国書刊行会から刊行。『記憶の書』、『緑のヴェール』と続く三部作の第一部。 悪魔のような独裁者が支配する都、理想形態都市(ウェルビルトシティ)。一級観相官のクレイは独裁者の命により、盗まれた白い果実を探すため属領アナマソビアに派遣される。そこでは青い鉱石と化す鉱夫、奇怪な信仰、野蛮な料理までふるまわれ、僻地での生活に傲慢な態度で調査を進めるクレイだったが、観相学者を志す美女が現れ、思わぬ事態に巻き込まれていく。 物語の筋はジェットコースターのように目まぐるしく変わって行く。世界は独裁国家のディストピアであり、理不尽で悪趣味な暴力やドラッグによる幻覚などグロテスクに満ちているが、それぞれの場面はとても幻想的で美しく、不思議と清々しい読後感だった。 登場人物の多くは、粗野で暴力的だがどこか滑稽で愛嬌がある。独裁者ビロウでさえ嫌いになれない。人物にクローズアップしていくとグロテクスさが目立つのだが、風景も含めたロングショットではとても美しい景色に変わるから不思議だ。これらの二面性がうまく組み合わされていて底の見えない不思議な物語になっている。どの場面もイメージがとにかく素晴らしい。青い鉱石になる鉱夫、島の突端から手を振るマターズ伍長、体から取り出される種子、改造され傷つきながら戦うカルーなどなど、心に引っかけるのがうまい。翻訳が素晴らしいこともあると思う。 暴力についての著者の考え方も気になる。『白い果実』では暴力はグロテクスなものであると同時に、結果的には主人公を改心させ、抑圧的な都市を崩壊させた。理想形態都市とは市民のためではなく都市のための都市であり、独裁者ビロウの思想を具現化したものだ。建築物としては素晴らしいものであることが作中でも語られる。白い果実の効能によって、崩れていく様はカタルシスがあるが、それは市民の決起によってでもクレイの策略によってでもない。この物語では暴力は正しさも美しさも関係がなく、気まぐれで理不尽なものとして描かれているように思う。 ジョージ・オーウェルの『1984年』も独裁国家のディストピアを描いたもの(主人公も役人)だが、『白い果実』には『1984年』ほどの絶望感は感じない。良くも悪くも暴力によって人が変えられる2つの作品は、個人的にどこか裏表になっているようで面白かった。不条理なファンタジーと深いテーマが、アメリカのTVアニメ『アドベンチャー・タイム』にどこか通じている気がした。 目まぐるしく変わる展開に奇抜なイメージが連なっていくが、全体の格調を損なわずにいるのは、初めから終わりまで描きたい物語のイメージを持続できているからではないだろうか。緻密に構成しているようでいながら、肩の力を抜いて楽しんで書いてるようでもある。(お陰で読みづらさはあるが)掴もうとしていつもギリギリのところで煙に巻かれるような魅惑的な物語だった。

Posted byブクログ

2022/01/24
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

独裁者が支配する理想形態都市から、奇跡の白い果実盗難の犯人を捕まえるため観相官クレイが属領であるアナマソビアへ着いた時から物語がはじまる。 国のエリートであるクレイの鼻持ちならないこと甚だしい。 アナマソビアを田舎と見下し、住民たちについては人間扱いすらしない。 さて、観相官というのは、人相学と統計学とあとなんだかいろいろ複雑に合わさったもの。 これで事件を解決できたら、それは普通のミステリ小説なのだけど、独裁者は魔術を使うしクレイは薬物中毒だし、アマナソビアの土地柄なのか読者の常識を超えるような出来事がつぎつぎ起こる。 まず、アマナソビアは青い鉱石スパイアを産出しているのだが、長い間鉱夫として働いているとしまいにはスパイアになってしまうのである。 そして、クレイの前でスパイアになった老人・ビートンの孫娘が彼の運命を狂わせる。 しかし魔法と薬が見せる幻想と宗教と旅人のミイラとが織りなす世界は、何が真実で何が虚構なのかわからない。 流されるようにクレイは犯罪者として逮捕され、硫黄採掘場へと送られる。 そしてまた、ふいに罪は許され独裁者ビロウの腹心の部下として、謀反人たちのでっち上げを命令される。 ビロウは天才で、理想形態都市はすべてビロウがつくりあげたもの。 しかし、他人を信じることができず、自分以外はすべて取り換えのきく部品だと思っているビロウは、敵も味方も情け容赦なく、冷酷に殺戮を繰り返す。 ビロウ天才? 天才だったら、謀反を起こされないように善政を敷けばいいのに。 恐怖で人を支配すれば、人に背かれるのは当たり前だ。 盗まれたはずの白い果実を見つけたビロウは、それを食べた直後から体調不良に襲われる。 彼の不調は都市の破壊につながり…と、ストーリーを追うだけで大変なのでもう割愛。 この本は金原瑞人と谷垣睦美が訳してから、山尾悠子が彼女の文体に書き直したのだそうだ。 グロテスクな描写も多かったけれど、ファンタジーの皮を被ったディストピア小説。 これ、三部作らしいけど、続きはどうしようかなあ…。

Posted byブクログ

2022/01/20

97年に世界幻想文学大賞を取った名作ファンタジー。 独特な言い回しの英文を二人の訳者が翻訳し、その訳文を山尾悠子がシニカルな文章に仕立てるという二重訳。 理想的な都市の終焉と傲慢な主人公の成長が対照的に描かれている。 恒川光太郎作品が好きな方にお勧めできる作品である。 都市の支...

97年に世界幻想文学大賞を取った名作ファンタジー。 独特な言い回しの英文を二人の訳者が翻訳し、その訳文を山尾悠子がシニカルな文章に仕立てるという二重訳。 理想的な都市の終焉と傲慢な主人公の成長が対照的に描かれている。 恒川光太郎作品が好きな方にお勧めできる作品である。 都市の支配者であるマスターが恒川光太郎作品のスタープレイヤーのように思えてならない。恒川とジェフリーフォードの世界が繋がっていると勝手に妄想しながら本作を楽しむのも悪くないだろう。

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2019/03/24

魔術師のような独裁者ビロウの頭の中の世界がそっくり現実になった未来社会、辺境の楽園伝説と永遠の白い果実を求めての探索というストーリーに主人公クレイの永遠の女性アーラへの執着と想い、そしてそれゆえの変容。第2章の地獄変のような哲学問答も面白かった。何より描写される世界が本当に美しい...

魔術師のような独裁者ビロウの頭の中の世界がそっくり現実になった未来社会、辺境の楽園伝説と永遠の白い果実を求めての探索というストーリーに主人公クレイの永遠の女性アーラへの執着と想い、そしてそれゆえの変容。第2章の地獄変のような哲学問答も面白かった。何より描写される世界が本当に美しい。

Posted byブクログ

2014/01/01

広義の意味でサイバーパンク的というか。私がこっそり名づけている狂都市ものというか。ビロウという男(支配者)が頭の中で構築した理想の都市が具現化されていて、そこでへまをやって属領に送り込まれた男が主人公。結局そこでもへまというか云々あってもっとひどい島に送り込まれてというなかなか壮...

広義の意味でサイバーパンク的というか。私がこっそり名づけている狂都市ものというか。ビロウという男(支配者)が頭の中で構築した理想の都市が具現化されていて、そこでへまをやって属領に送り込まれた男が主人公。結局そこでもへまというか云々あってもっとひどい島に送り込まれてというなかなか壮大な物語ですごく面白く読んでいたんだけど、なんか後半がな。 主人公、すっごい傲慢でイヤな男なんだけど島での強制労働で心を入れ替えてしまう。しかも結局理想的な都市よりも緑が合って光があるだけで幸せを感じられる素朴な村での生活がシアワセって。本当は☆3ぐらいだけど、三部作らしく、ラストには「百年の孤独」も驚くしかけが用意してあるとあとがきに書いてあったので期待を込めた☆ですこれは。

Posted byブクログ

2013/11/10
  • ネタバレ

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この語り手はほんっとうにいいとこなしで、中盤を経てもまだ傲慢。 それなのに読ませるのは奇想オンパレード(顔ビーム女!)と、 やっぱり文章だ。 「ミネハハ」方式に初めは眉をひそめていたが、山尾悠子は偉大。そして金原氏も偉大。

Posted byブクログ

2013/02/20

世界幻想文学大賞に恥じぬ読み応えのある一冊。3回読んでも新たに楽しい、が。3部作・・・続きを買おうにも近くの書店になく、アマゾン待ち中。ただの印象だけれど、ロバート・アーウィンのアラビアン・ナイトメアにちょっと感じが似ている。

Posted byブクログ

2014/01/27

幻想の中では、醜悪や恐怖もまた美である。 しかしこの本の美しさは、山尾悠子氏の文体によるところも大きいのだろう。 楽園の禁断の果実を巡る物語。 そして一つの帝国の崩壊。

Posted byブクログ

2013/02/15

冒険活劇、幻想的な世界観、次々登場する空想上の生物たち、空想上の機械たち、空想上の都市、国家、世界。 そんな、作り上げられた世界に「入り込む」ことがSFやファンタジーの醍醐味だとするならば、本書はその醍醐味を存分に味あわせてくれます。読めば読むほど頭から飲み込まれてしまいます。そ...

冒険活劇、幻想的な世界観、次々登場する空想上の生物たち、空想上の機械たち、空想上の都市、国家、世界。 そんな、作り上げられた世界に「入り込む」ことがSFやファンタジーの醍醐味だとするならば、本書はその醍醐味を存分に味あわせてくれます。読めば読むほど頭から飲み込まれてしまいます。それくらいの傑作ファンタジー。 ただ、傑作は傑作でもオーソドックスさはどこにもありません。とにかく独特。 しかし、読めばわかりますが、見たことない世界なのにスッと景色が見えてきます。カラフルでグロテスクで陰鬱で息苦しい世界が良く見えてきます。否応なしにそんな世界に引きずり込まれてしまいます。 派手なストーリーではありませんが、世界観、登場人物、浮き彫りに描かれる欲望や罪の意識などすべてが魅力的な小説です。今までにない世界にどっぷりつかりたい方は是非どうぞ。

Posted byブクログ

2013/02/02
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大人のファンタジー。主役は普通かっこいいものだけれども、全然かっこよくなく嫌な奴だったが、話に引き込まれてしまった。 とても幻想的で、霧の中の世界を見ているような不思議な感覚を味わった。 天から地へ、地から這い上がり、主人公が一人の権力者ビロウによって人生を翻弄される。彼を中心ではなく、物語の上に主人公が載っている感じ。しかも物語の波から落っこちそうな。物語自体がビロウ自身なのかもしれない。 猿人間、狼人間、彼の人、青い炭坑?の人たち、硝子の中の世界 各種族がそれぞれの文化や宗教観、世界観が別々でそのおのおのの世界を楽しめた。 備忘録: 顔でその人の生りを判断する仕事。ある種、むちゃくちゃな職業。そんな彼が失敗をしでかし、不思議な力がある果実を探して、青い炭坑の街へ行く。そこで一目惚れをし、、、、 彼の人と愛しい人を助けるために戦う、、、、

Posted byブクログ