ペスト の商品レビュー
辺見庸のNHK番組を見ていまさら読み始める。 まだ序盤だが、ペストに対する人々の反応は、驚くほど原発の状況とシンクロしている。 ……と書き始めたのは、ペスト禍の下での集団心理の描写が的確だと思ったからだが、小説自体は当然個の内省に迫る内容になっている。 解説を読んでその言葉自...
辺見庸のNHK番組を見ていまさら読み始める。 まだ序盤だが、ペストに対する人々の反応は、驚くほど原発の状況とシンクロしている。 ……と書き始めたのは、ペスト禍の下での集団心理の描写が的確だと思ったからだが、小説自体は当然個の内省に迫る内容になっている。 解説を読んでその言葉自体が存在することをすっかり忘れていたが、本書は「不条理」下の人間の心理・行動をあぶり出すことを目的として、成功していると思う。 続いて読み始めたユン・チアンの『ワイルド・スワン』が多く人災による不条理なのだとしたら、『ペスト』は天災による不条理劇である。 人々はペストをはじめ軽視し、楽観的に考えるが、やがて絶望し、身を預けるようになる。今回の原発事故とその点は通じていると思う。 しかし原発事故の、引き金は天災であっても、人災によって収拾不能に陥り、ペストのごとく不可視の災いとして、われわれに襲いかかってくる。そして直ぐには誰も死なないし、ゆえに責任をとろうとしない人が多い。『ペスト』で発揮される主人公医師・リウ—の良心は、批判すべき、あるいは憎むべき対象の無き中で行われる。 原発は、東京電力と、政府という明確な対象が存在する。ゆえに人を助けようとする良心がそのまま別の人を傷つける事にもなり得る点で、より複雑である。たとえば福島の野菜を良心から使い客に振る舞うレストランがあるとしたら(実際にあるのだが)、単純に賛美することはできないのだから。 とはいえ「不条理」にいかに抗い、いかに身を委ねるのか、というヒントは多く含まれている。
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実際にペスト流行の話なのですが、現代社会に置き換える、ものの広がり。例えばネット。そこから起こる弊害に人はどう対処するのか。この描写をペストの一例で表しています。物語性の骨格もきちんとあり、読み応え十分。作者全盛期の長編。
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不可抗力の天災に襲われる、その現実の中でこの本を読むことは易しいことではないに違いない。しかし圧巻の結末。 この文庫の装丁は、かなり格好いい。作品を読ませる期待感あふれる表紙。
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有名な本だが、読んだことがなかったので読んでみた。100冊プロジェクトをしていないと手にしない本だろう(これも妻の蔵書)。でも、私はこの本の良さを理解する能力なし。全くおもしろいと思わなかった。妻に言わせると「行間をよまな!」とのこと。すみません私には力不足です。
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異邦人と微妙にリンクしているので異邦人を先に呼んだほうがいいかもしれないが物語にはあまり関係ないので読まなくても大丈夫かな。 内容はすでに知っていたが改めて読んで見るとさらに面白い。
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フランス領時代のアルジェリアの都市オランで、疫病ペストが発生。疫病対策として外部との接触を断たれ、オランに閉じ込められた人々。その顛末を、主に医師リウーの視点で淡々と描写した作品。 ペストとの闘いの目的は、ペストを殲滅することではない。ペストの衰退(いつ訪れるとも分からない)を...
フランス領時代のアルジェリアの都市オランで、疫病ペストが発生。疫病対策として外部との接触を断たれ、オランに閉じ込められた人々。その顛末を、主に医師リウーの視点で淡々と描写した作品。 ペストとの闘いの目的は、ペストを殲滅することではない。ペストの衰退(いつ訪れるとも分からない)を粘り強く待つ間、社会を何とか維持させること。要は、耐え難き持久戦。その持久戦を耐え抜くために必要なものは、医師リウーの場合、誠実さ=自分の職務を果すことだった。
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『ペスト』が老若男女、地域や生活習慣、信仰の違いを越えて読み続けられているのはなぜか?そのひとつの答えとして日本語翻訳者の宮崎嶺雄氏は「この作品の簡潔なリアリズムが、さまざまな角度からきわめて明瞭な象徴性をもっていて、読者の一人一人がその当面の関心を満足させるものをそこに見出しう...
『ペスト』が老若男女、地域や生活習慣、信仰の違いを越えて読み続けられているのはなぜか?そのひとつの答えとして日本語翻訳者の宮崎嶺雄氏は「この作品の簡潔なリアリズムが、さまざまな角度からきわめて明瞭な象徴性をもっていて、読者の一人一人がその当面の関心を満足させるものをそこに見出しうるからだ」と分析しています... 【開催案内や作品のあらすじ等はこちら↓】 http://www.prosecute.jp/keikan/004.htm
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ペストの「恐怖」ではなく、ペストによって閉鎖されたことによる人間の核のような部分を淡々とした口調で描く。淡々でしかも長いので結構読んでて疲れるが、読後感は良い。
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途中。読んでて、感じる部分は多いけど、夢中で息もつかずに読む、というようなストーリーではなく、どちらかというと、閉鎖された町の中で、ペストと隣り合う恐怖で感覚が麻痺して無気力になってる住民の雰囲気が移って眠くなってくるというか…とにかく読むのに時間かかってる。 主要人物が病気にか...
途中。読んでて、感じる部分は多いけど、夢中で息もつかずに読む、というようなストーリーではなく、どちらかというと、閉鎖された町の中で、ペストと隣り合う恐怖で感覚が麻痺して無気力になってる住民の雰囲気が移って眠くなってくるというか…とにかく読むのに時間かかってる。 主要人物が病気にかからない(後半でかかるみたいだけど)のが不思議(笑)。新聞記者の人とか、町を抜け出す前日に発病!とか予測してたのですが、意外~。 これは、単に疫病に襲われた町の描写、と捕らえるとひたすら淡々としているけど、そこで生じる人々の心理状況とかを深読みすると、俄然面白くなる。幸福とか、仕事とか、福祉とか、全部ひっくるめて、人間の本性とは何か、を書いているんだろうなあ。 終了。少年の死から、俄然面白くなった。パヌルーの言葉、タルーの最後(リウーとの友情)など、テーマが拡大していくにつれて、ペストというものが、より普遍的なものの象徴であることが見えてくる。最後は悲しかった。
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異邦人に続き、カミュの著作。アルジェリアの都市オランでペストが発生した。閉鎖されたこの都市の中で、人々はそれぞれの反応をする。絶対的な力の前に、人間はどのような反応を示すのか?を記した小説である。 どうしようもない現実を突き付けられても、その現実に立脚し、その時点で自分がなし...
異邦人に続き、カミュの著作。アルジェリアの都市オランでペストが発生した。閉鎖されたこの都市の中で、人々はそれぞれの反応をする。絶対的な力の前に、人間はどのような反応を示すのか?を記した小説である。 どうしようもない現実を突き付けられても、その現実に立脚し、その時点で自分がなしうるベストを尽くす、それだけなんじゃないか?
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