ローマ人の物語(16) の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
老境に差し掛かった皇帝アウグストゥスの治世が描かれる巻。冒頭に、著者の塩野氏が考える「政治を生き抜く資質」が挙げられており、アウグストゥスはこのすべてを備えていたと思われると評している。 ①見たいと欲しないものを見据える冷徹な認識力 ②労苦をいとわない持続力 ③適度の楽観性 ④物事を極端に捉えないバランス力 翻って、今の政治家はどうだろうか。例えば銃撃を受けて死んでしまった以前の首相。彼に備わっていたのは②だけではなかったか。国内の政敵を自らの政策に巻き込み、納得させ、取り込んでいきつつ、国外の難題を解決していくための資質を持つ政治家が、2000年以上前のローマにいたのに現代の日本になぜいないのか。 このあたりを読むだけで、今の政治と照らした時のローマの皇帝の偉大さが分かろうというもの。 この巻の最後で、アウグストゥスの時代は幕を下ろす。最後まで国外の騒乱は収まらず、この部分については次世代に持ち越してしまうようだが、共和政から帝政に移行させた皇帝の生涯は、実質、文庫4冊にわたるほどのボリュームで描かれたことになる。飽きずに読み進められるのは、著者の筆力か、アウグストゥスの人生の軌跡の豊富さからか。あるいはその両方なのだろう、と思わせる物語がここで一つ、区切りをつけることとなる。
Posted by
高齢となったアウグストゥスによる、ローマ帝国統治について。 凡庸な孫・家族のスキャンダル・「国家の父」授与・アルメニアとユダヤの内乱・ティベリウスの復帰・ゲルマニア再侵攻・パンノニアとダルマティア(旧ユーゴ)の反乱・アルミニウス(ヘルマン)のゲルマニアにおける反乱・アウグストゥ...
高齢となったアウグストゥスによる、ローマ帝国統治について。 凡庸な孫・家族のスキャンダル・「国家の父」授与・アルメニアとユダヤの内乱・ティベリウスの復帰・ゲルマニア再侵攻・パンノニアとダルマティア(旧ユーゴ)の反乱・アルミニウス(ヘルマン)のゲルマニアにおける反乱・アウグストゥスの死 詩人オヴィディウスの追放についても言及あり。「アルス・アマトリア(愛の技術)」に対する言論統制。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
アウグストゥスの治世、58歳から77歳になる少し前に亡くなるまでの業績。 旧ユーゴあたりにあったパンノニアとダルマティアでの反乱、ゲルマニアでのアルミニウスの蜂起とローマ化失敗、子や孫の不祥事など、晩年は心労が多かったようだ。 パクス・ロマーナを確立したアウグストゥスは、庶民にとっては素晴らしいリーダーだった。でも血の継承にこだわり続け、モラルにも厳しい彼に、子や孫は反発したり屈折した思いを抱いたのかもしれない。 アウグストゥスが63歳のときにイエス・キリストが生まれたことにも言及されている。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
カエサルが始めてアウグストゥスが完成させた帝政。 人は見たいものをしか見ないので、ここまで来ても共和政を支持する者はアウグストゥスが共和政を復活させたと評価する。 確かにアウグストゥスが為したことは大きなことだ。 しかし、血統にこだわり続けたことといい、彼が公私に渡って若い世代を育ててこなかったのが、彼の最大のウィークポイントになってしまったのだと思う。 後継者が次々若くして亡くなり、娘も孫娘も素行不良でローマを追放される。 そこにアウグストゥスの決定的な欠落を感じるのだ。 次巻からはいよいよ皇帝が当たり前となる時代について。 ローマにとって、あまりいい時代ではないイメージなのだけど、どうでしょう。
Posted by
しかしどこまでも贔屓ですなぁ、ここまでくると気持ちが良い。評価は難しいけれど、一線を画している態度によった物語であることは否定できません。 しかし次からどんなトーンなのかな?昔読んだはずなのに全く覚えていないような輩に言われたくもないかもしれませんが、違う意味で楽しみかも。
Posted by
単行本で読んで以来、15年以上間を開けての再読。読後の印象が結構違う。初読時は、「神君」ぶりが強烈に記憶にあったのだが、再読時は、何かもっと人間臭く感じた。親族の不祥事にアウグストゥスが悩む様は、子供が大きくなってきて色々と悩みが尽きない自分とも少しは重なるところあり、共感した。...
単行本で読んで以来、15年以上間を開けての再読。読後の印象が結構違う。初読時は、「神君」ぶりが強烈に記憶にあったのだが、再読時は、何かもっと人間臭く感じた。親族の不祥事にアウグストゥスが悩む様は、子供が大きくなってきて色々と悩みが尽きない自分とも少しは重なるところあり、共感した。 今では当たり前の「相続税」という税制をを思いついたのは独創的だと思う。
Posted by
現在、本棚にあるのは ここまで 内容 : ローマ世界に平和をもたらし、繁栄の礎を築いたアウグストゥスを、人々は「国家の父」と呼ぶようになる。 しかしその彼にも大きな悩みがあった。後継者を誰にするか ― 妻リヴィアの連れ子ティベリウスは偉大なる父に反発して一方的に引退。 娘ユリ...
現在、本棚にあるのは ここまで 内容 : ローマ世界に平和をもたらし、繁栄の礎を築いたアウグストゥスを、人々は「国家の父」と呼ぶようになる。 しかしその彼にも大きな悩みがあった。後継者を誰にするか ― 妻リヴィアの連れ子ティベリウスは偉大なる父に反発して一方的に引退。 娘ユリアの息子たちに期待をつないだものの、いずれも若くして死んでしまう。 カエサルの構想した帝政は果してローマに根付くのか。 アウグストゥスの「戦い」は続く。 著者 : 1937年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒業。 「ルネサンスの女たち」でデビュー、70年以降イタリア在住。 著書に「海の都の物語」「わが友マキアヴェッリ」など。
Posted by
初代皇帝アウグストゥスの晩年。 血の継続を望みつつも、それが叶わない。失意の中、2代目にティベリウスを選ぶ。 ゲルマニア戦線の失敗と自分の血統へのこだわりはアウグストゥスの失敗だったが、ローマの安定に資する功績は全て、アウグストゥスによるもの、というのが著者の主張である。
Posted by
このシリーズはどの巻も本当に面白い。 アウグストゥスの晩年の話だが、次期皇帝のティベリウスのゲルマンに対する孤軍奮闘に感動した。 また間を置いて「悪名高き皇帝たち」を読みたい。
Posted by
初代皇帝アウグストゥスの晩年、58歳から77歳まで。 紀元0世紀時代、ローマによる平和の礎を築くために、彼は実質の後継者に孫のガイウスとルキウスを当てるよう仕組みを作っていきます。凡庸だったというこの孫たちでしたが、それぞれに外交で活躍する機会を与えます。しかし、この兄弟は任務を...
初代皇帝アウグストゥスの晩年、58歳から77歳まで。 紀元0世紀時代、ローマによる平和の礎を築くために、彼は実質の後継者に孫のガイウスとルキウスを当てるよう仕組みを作っていきます。凡庸だったというこの孫たちでしたが、それぞれに外交で活躍する機会を与えます。しかし、この兄弟は任務を遂行中、相次いで傷病で亡くなります。そして実の娘ユリウスも行状の悪さから、幽閉しなければならない事態になります。 血縁者に恵まれないアウグストゥスは、遂に公から退いていたテイベリウスを養子に迎えます。拡大した領土の防衛などその手腕が待ち望まれていたテイベリウスでした。テイベリウスはその後、アウグストゥスの死に際にも立ち会い、パクス・ロマーナを目標にした帝政への移行を確実に引き継ぎでいくのでした。 個性の強いカエサル違い、歴史家からはあまりよく評価されていないようなアウグストゥスですが、創業者と比較される二代目というのは地味でいいのかもしれません。確実に政策を実行し、広大領土を平和に導き、安全な生活を国民にもたらした偉大な政治家と言えると思いました。 政治とは「ある職業でもある技術でもなく、高度な緊張を要する生活」であるとする小林秀雄の引用文は、今の政治家さんたちの緩みっぱなしの態度に喝を入れたくなる気持ちになりました。
Posted by