グラスホッパー の商品レビュー
比与子は、無知な生徒に社会の仕組みを教えるかのような、丁寧な口調になった。「例えばさ、昔、どっかの銀行が潰れたじゃない」 「どっかのね」 「それが結局、何兆円もの税金をつぎ込んで、救われているわけ」 「それが?」そもそもこれは何の話だっか、と見失いそうになる。 「そうじゃなかった...
比与子は、無知な生徒に社会の仕組みを教えるかのような、丁寧な口調になった。「例えばさ、昔、どっかの銀行が潰れたじゃない」 「どっかのね」 「それが結局、何兆円もの税金をつぎ込んで、救われているわけ」 「それが?」そもそもこれは何の話だっか、と見失いそうになる。 「そうじゃなかったら、あれ、雇用保険ってあるでしょ。会社員が納めてるやつ。あれのうち、何百億円も、無駄な建物の建設に使われているって知ってた?」 「ニュースで聞いたかも」 「何百億円もかけて赤字しか出さない無駄な建物を造ってるわけ。変でしょ。そのくせ、雇用保険の財源が足りないって言うんだから、腹が立つと思わない?」 「腹はたつけど」 「それなのにさ、そういう無駄遣いをさせた奴は罰せられない。何百億円、何兆円の税金を捨てても怒られない。おかしいでしょ。なぜだか分る?」 「国民が優しいから?」 「偉い奴らが黙認しているからだって」比与子は人差し指を立てた。「世の中は、善悪じゃないんだから。ルールを決めているのは、偉い奴らでしょ。そいつらに保護されちゃえば、全部問題ないってこと。」(略) 伊坂の面白さは、一見何のつながりもないようなこのような会話から、物語が端緒が生まれるところだったり、切れ味鋭い社会批評が聞けるところだったりするところではある。 最初は、このような「偉い奴」が表のルールで跋扈する社会の中で、裏で彼らを始末する「闇の仕掛け人」の話かと思った。自殺をさせる「鯨」、ナイフの名人「蝉」、交通事故で人を殺す「押し屋」が次第と連帯を見せて、「鈴木」さんを狂言回しにしてやがて「巨悪を倒す」話なのかと思った。ところが、現代では「仕掛け人」なんて流行らないんだとばかりに殺し屋同士が殺しあう話になった。 この作品の発行は2004年だ。伊坂の社会を見る目は「まっとう」だと思う。一方では、伊坂はけっして社会をどうこうしようとは書かない。闇の仕掛け人を活躍させて、せめて庶民に憂さは晴らせるような方向も目指さない。伊坂が描くのは、結局社会の巨悪を説明しても「(見逃すのは)国民が優しいから」と呟いてしまう鈴木さんのような庶民の右往左往と、殺された可愛い奥さんのために命をも投げ出す鈴木さんの「愚かで小さな決意」なのである。 伊坂作品で、鈴木さんが生き残るのは偶然じゃない。それこそが伊坂幸太郎の「小さな決意」だと思う。
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インチキ健康飲料や化粧品を売りつける「フロイライン」(令嬢っていう意だって)という会社に勤める鈴木。上司である比与子(興味を惹く名前だ)の元で営業活動中。そこに、自殺屋の「鯨」、ナイフ使いの殺し屋「蝉」、そして押し屋の「槿(あさがお)」が絡みだし終結へと向かうストーリーはいつもの...
インチキ健康飲料や化粧品を売りつける「フロイライン」(令嬢っていう意だって)という会社に勤める鈴木。上司である比与子(興味を惹く名前だ)の元で営業活動中。そこに、自殺屋の「鯨」、ナイフ使いの殺し屋「蝉」、そして押し屋の「槿(あさがお)」が絡みだし終結へと向かうストーリーはいつもの伊坂さんだ。「槿」の家が見つかってしまった、仲良くなった子供や奥さんが危ないと、はやる鈴木の気持ちに思いっきり相乗りしてしまった。密集場所で『群集相』となり黒ずみ凶暴化するバッタと、「危機感ってのは頭ではわかっていても実感を伴わないもの」という言葉がこの小説を象徴している。
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まだまだ続く伊坂 幸太郎マイブーム。 いろんな殺し屋が出てくる。 ナイフ使いの「蝉」 殺させ屋の「鯨」 押し屋の「槿(あさがお)」 毒殺専門の「スズメバチ」 押し屋って職業がホントにあったら怖いなぁ。 ちょっと描写がリアルすぎるところもあったけど…。 『その本って、題名...
まだまだ続く伊坂 幸太郎マイブーム。 いろんな殺し屋が出てくる。 ナイフ使いの「蝉」 殺させ屋の「鯨」 押し屋の「槿(あさがお)」 毒殺専門の「スズメバチ」 押し屋って職業がホントにあったら怖いなぁ。 ちょっと描写がリアルすぎるところもあったけど…。 『その本って、題名を逆さに読むと、「唾と蜜」になるんですよ』…人に教えてあげたいかも。 そして装丁も凝ってる。ちょっと迷路みたい?
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殺し屋たちが暗躍する裏社会の物語。 蝉のような怖いもの知らずの若者や鯨やアサガオのようなクールで淡々としているけどどっかずれてるキャラは伊坂作品に度々登場するので既視感が…無意識なのかあえてそうしているのかどうかはわかりませんが。 終盤まできて、これは一体何の話だったんだろうと首...
殺し屋たちが暗躍する裏社会の物語。 蝉のような怖いもの知らずの若者や鯨やアサガオのようなクールで淡々としているけどどっかずれてるキャラは伊坂作品に度々登場するので既視感が…無意識なのかあえてそうしているのかどうかはわかりませんが。 終盤まできて、これは一体何の話だったんだろうと首をひねっていたところ、ラストの一文を読んで急に怖くなった。作中の鯨のように幻覚と現実の境目がわからなくなってなんともいえない不安感に包まれました。
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マリアビートルを読むために再読。見事に内容忘れてました。自殺させる場面は覚えているのですが、終盤がこんな話だったっけ?とちょっとびっくりしました。他の伊坂さんの物語に比べるとスッキリ感が少なめな様な気がします。 それではマリアビートル読んできます(´・ω・`)ノシ
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妻を無謀な運転でひき殺した「馬鹿息子」に復讐するため、彼の父親が経営する怪しい会社に入社した鈴木。 ところが鈴木の目の前で、「鯨」「蝉」という2人の殺し屋も、それぞれを追い始める。 悪になりきれない善良な鈴木と、彼を取り巻く3人の殺し屋の個性がうまく描かれている。
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「発見!角川文庫2011」でこの本を知りました。 グラスホッパーってどういう意味なんだろうと思って調べてみると、バッタという意味らしいですね。 読み終えた今、考えてみるとこの物語に「グラスホッパー」という名前は合わないのではないかと少し思いました。 「ある男の復讐劇が、予測不可能...
「発見!角川文庫2011」でこの本を知りました。 グラスホッパーってどういう意味なんだろうと思って調べてみると、バッタという意味らしいですね。 読み終えた今、考えてみるとこの物語に「グラスホッパー」という名前は合わないのではないかと少し思いました。 「ある男の復讐劇が、予測不可能な未来へ突き進む」のキャッチフレーズにもある「予測不可能な」行動という面から考えれば、その題名もなかなかいいなと深く悩んでしまった今日この頃…。 もし誰かのせいで自分の大切な人が死んでしまったら、私も鈴木と同じように復讐をするだろうな。 でも私は鈴木と違って、絶対にばれない自信がある。 存在してはいけないと思う職業がたくさんでてきたが、この世の中、意外と本当にあるのかもしれない…。
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伊坂マジック炸裂!面白すぎて、先が気になって、どんどん読めちゃう。 妻の復讐をしようとしてる元教師・鈴木と自殺屋・鯨、殺し屋・蝉の三人の視点から書いてるところが、伊坂マジックだなーと思うし、面白い! オーデュボンの案山子の話って、どの本にも出てくるよね。そこがまた好き。 まじ伊坂...
伊坂マジック炸裂!面白すぎて、先が気になって、どんどん読めちゃう。 妻の復讐をしようとしてる元教師・鈴木と自殺屋・鯨、殺し屋・蝉の三人の視点から書いてるところが、伊坂マジックだなーと思うし、面白い! オーデュボンの案山子の話って、どの本にも出てくるよね。そこがまた好き。 まじ伊坂幸太郎大好き♥
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