夜這いの民俗学・夜這いの性愛論 の商品レビュー
今の山村の風景や日常の暮らしから、昼間の往時の暮らしを想像するのは難くない。 秋祭りや地域の念仏など柳田的な行事は今でも形を変えて存在している。 しかし、夜の暮らしがどうであったのかまでは想像できない。 そのため興味を持って読み始めた。 読み終わって脳裏をよぎったのは、太宰治の...
今の山村の風景や日常の暮らしから、昼間の往時の暮らしを想像するのは難くない。 秋祭りや地域の念仏など柳田的な行事は今でも形を変えて存在している。 しかし、夜の暮らしがどうであったのかまでは想像できない。 そのため興味を持って読み始めた。 読み終わって脳裏をよぎったのは、太宰治の「人間失格」。 あれって確か主人が2階にいるにもかかわらず、階下で女性が不義を働いたシーンがあったよなと。 その時に違和感があった。女性は激しい抵抗をした描写もなく、太宰に通報した友人も面白そうにしているのだから。 つまり太宰ひとりが深刻に捉えるのとは対照に、周囲はとてもあっけらかんとしていたのだ。 もし、私の理解が正しければこの不義を不義と感じているのは、太宰と現在の価値観を通してしか物事を見ることのできない私たちだけであり、女性と友人と夜這いの男は不義と思っていなかったことになる。 そしてこのシーンを理解するには本書を読む必要があるのではと思った次第。太宰とその時代のかみ合わなさを改めて感じる。 また、網野善彦が民俗的観点からみた歴史における転換点を室町期と戦後のある時期までとに捉えていたが、夜這いの風習もこの転換点に大きく連動していたのかと推測できる。
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夜這いをテーマに、日本の性風俗(主に東播地方)についてまとめた1冊。 柳田氏の民俗学が表ならば赤松氏の民俗学は裏に当たるだろうか。赤裸々な庶民の性について詳しく書かれています。この本で説かれるのは夜這いの「開放」と「統制」の両立。どちらにもしっかりと理由があり、お国が掲げた貞操...
夜這いをテーマに、日本の性風俗(主に東播地方)についてまとめた1冊。 柳田氏の民俗学が表ならば赤松氏の民俗学は裏に当たるだろうか。赤裸々な庶民の性について詳しく書かれています。この本で説かれるのは夜這いの「開放」と「統制」の両立。どちらにもしっかりと理由があり、お国が掲げた貞操観念よりも合理的で人間的な仕組みであった事がうかがえる。もちろん、ヒトとヒトの事だからのっぴきならない事態も起こっていたのだろうが、現代人が想像するような野蛮な乱交劇で無かったことは確かなだ。出産、娯楽、信仰、…様々な要素を矛盾なく内包した我が国の性文化は、現代と違った意味で豊かな面をもっていた様である。 もともと2冊の本だったのを繋げてあるので重複する部分が多かったり、文体に独特の癖が有ったりでやや読みにくく、「個人」「地域」「地方」「国」の境界が微妙に曖昧で、この風習や経験・感覚がどこまでの範囲で共有されていたのか疑問に思う所がある等、気になる点が少なくなかったのも確か。
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ムラの性風俗、「夜這い」については宮本常一の『忘れられた日本人』にも印象的に記録されていたが、赤松啓介のこの本はもっと徹底している。 乱交と言うほかはないような、相手を問わず、愛だのなんだのという暇さえない性の営みが、共同体を支える実体として、執拗にえがかれていく。かなりむき...
ムラの性風俗、「夜這い」については宮本常一の『忘れられた日本人』にも印象的に記録されていたが、赤松啓介のこの本はもっと徹底している。 乱交と言うほかはないような、相手を問わず、愛だのなんだのという暇さえない性の営みが、共同体を支える実体として、執拗にえがかれていく。かなりむき出しの、赤裸々なエロスの横溢である。この「性」エネルギーは凄い。半端でない。まじめな一昔前のヨーロッパ人がこの本を読んだら、 「日本人はついこないだまで破廉恥な性の野蛮人だった! Oh, my god!」 と絶叫するだろう。ジョルジュ・バタイユも村上龍も、この本に比べたら可愛いものだ。奔出するエネルギーの凄まじさにかけては、ガルシア=マルケスも太刀打ちできない。 そういうわけで、民俗学に興味のある人だけでなく、少しでも(ちょっとした興味本位でも)性民俗に関心がある人には、一読をおすすめする。 著者はムラやマチ(の場末)におけるこれらの性風俗を、自身の体験として語っている。が、どこのムラの風俗を語っているのか時折わからなくなる。彼は柳田国男がかなり嫌いらしく、柳田国男(派)のお行儀のよい学問性に対し、ちょっと言い過ぎでないの、と思われるくらいに罵声を浴びせる。著者の語り自体がしばしば地口に近づき、一般的な「民俗学」のイメージからはみ出すような「庶民性」をむき出しにする。 この「庶民」の哄笑、叫び、ざわめきの渦は読んでいてとても魅力的だ。その一方であまりにも柳田を責めすぎ、アカデミズムに唾を吐くチンピラめいたところも、本書にはある。 いずれにしても、この本に圧倒的迫力で描出されたような風俗は、もはや日本国内のどのムラにもないだろう。著者はそれは文部省の政策によるものというより、戦後に社会がいったん解体し、ムラが消滅したことによる、と指摘している。 教育をああしろだのこうしろだの、思い上がった政治家やアタマの悪いデマゴーグはずいぶん安易に叫ぶが、現在は空前の規模で世界を覆っているメディアが、民衆を「教育」しているのであり、それはかつての「共同体」の力が、「情報」と化して社会を支配し直しているのだという事実を告げている。われわれの時代の「民俗」もまた、やがて解き明かされるだろう。
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昭和初期まで残っていた「夜這い」を中心とする様々な性風俗を、自らの経験を交えながら詳細に書き記した一冊。 「一夫一婦制」を中心とした明治の性イデオロギー、近代日本の「恋愛=結婚=性交」イデオロギーが最近創作されたものであり、普遍的な歴史的事象ではないことを示し、柳田民俗学を中心...
昭和初期まで残っていた「夜這い」を中心とする様々な性風俗を、自らの経験を交えながら詳細に書き記した一冊。 「一夫一婦制」を中心とした明治の性イデオロギー、近代日本の「恋愛=結婚=性交」イデオロギーが最近創作されたものであり、普遍的な歴史的事象ではないことを示し、柳田民俗学を中心とする体制迎合的なきれいな民俗学を批判する。 この本は語りの文体をとりつつ、叙述されていくが、氏はもと「講座派」の正統派の民俗学者でもある。わざとこのようなくだけたスタイルで文を綴っているのは、整った学術的な文体自体が、表層しか探らないきれいな体制イデオロギーに迎合するものであるとの考えに立って書かれているからである。
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読後、自分にかかっていたバイアスを強く感じました。 夜這いや雑魚寝(乱交)万歳!とはなりませんが、それでも現在の歪んだ性分化よりましな点が多くあるのも事実のようです。 それは市井の人々の生活全体においても、同じ事が言えると思います。 著者の弱者や隠された空間に向けて照射する暖か...
読後、自分にかかっていたバイアスを強く感じました。 夜這いや雑魚寝(乱交)万歳!とはなりませんが、それでも現在の歪んだ性分化よりましな点が多くあるのも事実のようです。 それは市井の人々の生活全体においても、同じ事が言えると思います。 著者の弱者や隠された空間に向けて照射する暖かな眼差しにとても好感を持ちました。それにしても、赤松さんはよっぽど柳田國男が嫌いなんですね。
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もくじ 1 夜這いの民俗学 2 夜這いの性教育 1 ムラの性愛論 2 マチの性愛論 感想 とりあえず、見所は解説。 この内容の解説を あの上野千鶴子さんが書いている?!という一点につきる。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
民俗学の父とされる柳田国男は「性と差別と犯罪」を排除してきたといい、 明治維新以来の教育勅語的政策、その処世法の大衆化・普及に手を貸し手先となってきたのが柳田民俗学だ、と痛罵し、 或いは「性とやくざと天皇」を対象としない「常民の民俗学」柳田国男に対し、「非常民の民俗学」を標榜した赤松啓介は、'90年代、時ならぬ注目の人となった。 すでに80歳代の高齢にして、その著書は矢継ぎ早に出版され、また文庫化され、広く読まれることとなるのだが、本書巻末の解説において上田千鶴子は、この現象を「赤松ルネサンス」と賞揚する。 私は以前に「差別の民俗学」を読んでいるのだが、本書は「夜這いの民俗学」と「夜這いの性愛論」の合本となっており、その所為であろう、内容は屡々重複するものとなっているのが難だが、自身の経験に即した語り口は、大正末期から昭和初期そして終戦に至る、底辺大衆の相を生々しく伝え、興味尽きることはない。
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ジジイの女遍歴昔語りか民俗学か…。全てを鵜呑みには出来ない内容だけど、現在の性規範のようなものが、日本の近代化・西欧化の中で、権力によってリードされたものであることがわかったような。ま、むずかしいとは抜きにして、おもしろかった。
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タイトルにつられて手に取った本書は、会計のときにずいぶん高い文庫本だな、と思ったことを良く憶えています。 本書をきっかけに民俗学というか古い庶民の生活に興味を持ち、今までだったら考えられないような高い本(まあ、2、3千円程度ですが)でも、ありがたく買うようになってしまった。 それ...
タイトルにつられて手に取った本書は、会計のときにずいぶん高い文庫本だな、と思ったことを良く憶えています。 本書をきっかけに民俗学というか古い庶民の生活に興味を持ち、今までだったら考えられないような高い本(まあ、2、3千円程度ですが)でも、ありがたく買うようになってしまった。 それから本書だったかは定かではないが、ある理由により宮本常一に原稿を託した、というような記述があり、宮本先生のお名前を知ったもの赤松先生の著作のおかげです。 先生、感謝しております。
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現代の性愛倫理観というのが、いかに近代的・人工的産物であったかを痛感する。童貞必読の書。上野千鶴子の解説も良い。
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