苦海浄土 新装版 の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
文庫本解説で渡辺京二は、本書をルポルタージュですらなく、石牟礼道子の私小説としている。また、著者も、「この作品は、誰よりも自分自身に語り聞かせる、浄瑠璃のごときもの、である。」としている。 第1回大宅壮一ノンフィクション賞を辞退したのも頷ける。 水俣病患者が語り得ない心の内を筆者自身に寄せてかたっているのであろう。
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なんということがこの日本で起きていたのだ。 知ってるつもりで、実はなんにも、ほんとに何一つ、知らなかった。 熊本の話し言葉にはなじみがなく、書かれていることやその時の感情をきちんと理解できたかどうかわからないところもあるけど、この文体は本当に魅力的。
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熊本弁に馴染みがあって良かった。人々の語りが染み入ってくる。 巻末の解説も良い。この作品が聞き書きではないことや、患者が語る海の情景が幻想的であること。
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【読了メモ】小説でもない、ルポとも違う気がする、重たいのに文がとてもきれいで、指でなぞって辿って読みたいような、そんな本でした。
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やっと苦海浄土を読み終えた。高名なこの本の名は知っていたが、これまで手にすることはなかった。石牟礼さんが亡くなられやっと読み始め、一気に読み進むことができた。確かにここに書かれた水俣は現在に続くこの世の物語であり、棄民とされた一人一人を描く浄瑠璃の世界であった。読むのが「15年遅...
やっと苦海浄土を読み終えた。高名なこの本の名は知っていたが、これまで手にすることはなかった。石牟礼さんが亡くなられやっと読み始め、一気に読み進むことができた。確かにここに書かれた水俣は現在に続くこの世の物語であり、棄民とされた一人一人を描く浄瑠璃の世界であった。読むのが「15年遅かったばい」
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何とも胸の痛む本である。昭和28年頃から熊本県水俣市で、工場の排水が川に流され、その汚染された排水に水銀が含まれていたため、周辺住民が水俣病になったのは、歴史の教科書で勉強した。当時も非常に恐ろしいとは思ったが、日本高度成長期の弊害のような位置づけで学んだにすぎなかった。 今年亡...
何とも胸の痛む本である。昭和28年頃から熊本県水俣市で、工場の排水が川に流され、その汚染された排水に水銀が含まれていたため、周辺住民が水俣病になったのは、歴史の教科書で勉強した。当時も非常に恐ろしいとは思ったが、日本高度成長期の弊害のような位置づけで学んだにすぎなかった。 今年亡くなった著者の石牟礼道子さんは、たまたま水俣の近くに生まれ育った主婦である。幸いにも彼女は水俣病にならなかったが、何が起こったかを伝えなければならないという一市民の使命感から本書を書き上げた。 水俣市が誇ったチッソという世界にも通用する地元の一流企業。水俣市の収入の半分はこの会社からだったという。本書を読むと、水俣病が発生する前の素朴で豊かな漁民たちの暮らしと、その後何十人も苦しみながら亡くなり、生業の漁業が出来なくなり、差別を受けるというその対比がすさまじい。地元の人にとって、小さな船を操って、夫婦で美しい海で魚を取り、それを売ったり食べたりすることがどれだけ幸せなことか。 書評にもあるように、本書は単なるルポではなく、文学作品としても評価が高い。描写や表現が、素人の書く文章ではない。最初から、胸にずっしりと岩が乗せられたように苦しみながら読んだ。患者にインタビューをして書かれた部分は、九州方面の方言が分かりにくいが、それでも話し手の苦悩が身に沁み渡った。
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いやあ、熊本弁が読める。「西郷どん」で鹿児島弁が理解できるのもうれしいが、どちらも少しわかりやすくしてあるのだろうか。本書については、100分で名著を見て、読まなければと思っていた。それからずいぶんと時間がたってしまった。テレビで見たときにも憤りを感じたものだが、本書を読んでいて...
いやあ、熊本弁が読める。「西郷どん」で鹿児島弁が理解できるのもうれしいが、どちらも少しわかりやすくしてあるのだろうか。本書については、100分で名著を見て、読まなければと思っていた。それからずいぶんと時間がたってしまった。テレビで見たときにも憤りを感じたものだが、本書を読んでいても、さらにやりきれない思いがつのる。一方で初期のころの病気に対する受け止め方にのどかな雰囲気がある。60年まえというのは、まだそういう時代だったのだろうなあ。それが決してよいとはいわないが、何か問題が起こったとき、責任の所在を徹底的に追及するようないまの姿勢もどうかと思うときがある。ほどほどとはいかないものだろうか。とはいえ、水俣病については、当該企業と政府の問題だろうから、被害者には十分な補償をするべきだろう。実をいうと、この公害病の全体像は解説を読んでわかったことが多い。石牟礼さんの書いたものからわかるのは、その村に住む人々のやるせない思いである。そして、驚くべきは、ここに挙がっているのが聴きとった記録というわけではないということ。文学作品であると思って読み直すと、また違った思いが起こることだろう。
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本作を知ったのはAmazonの100冊。今回、実際に読んだきっかけは作者が先日亡くなった事。中学受験勉強の中で水俣病の存在を知り、『公害病って…』と、子供心に恐怖した記憶がある。疑わず日常的に接しているものから、実は体を蝕まれているという恐怖。どのように体調不良が起こって、原因不...
本作を知ったのはAmazonの100冊。今回、実際に読んだきっかけは作者が先日亡くなった事。中学受験勉強の中で水俣病の存在を知り、『公害病って…』と、子供心に恐怖した記憶がある。疑わず日常的に接しているものから、実は体を蝕まれているという恐怖。どのように体調不良が起こって、原因不明が故の不安に悩まされ、謎が次第に究明されて尚、保障などの解決には程遠い道のり。そのあたりが、患者界隈の関係者証言などを中心に(実際には作者の想像が大方を占めるみたいだけど)、詳らかにされていく。興味深かったです。
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芥川龍之介の「神々の微笑」では 異国の唯一神ですら、ヤオヨロズのうちに取り込んでしまう日本の 観念的なゆるぎなさが描かれており それは後に、西洋において構造主義、ポストモダンなどと呼ばれる メタフィジックな価値観が 日本では、きわめて原始的な観念としてすでに存在したことを 指摘す...
芥川龍之介の「神々の微笑」では 異国の唯一神ですら、ヤオヨロズのうちに取り込んでしまう日本の 観念的なゆるぎなさが描かれており それは後に、西洋において構造主義、ポストモダンなどと呼ばれる メタフィジックな価値観が 日本では、きわめて原始的な観念としてすでに存在したことを 指摘するものでもあった しかし、逸脱を恐れる人の心に、西も東も変わりはあるまい ところで水俣病といえば、学校の社会科でもみんな習ったものだ 水俣湾沿岸から放出された工業廃液の水銀に 魚たちが汚染され 次にその魚を食べた人々が、様々な肉体的・精神的疾患に侵された 端からみれば、これはどう考えても 廃液を垂れ流した工場側に非があるものだが しかしもともと この工場の誘致が地元の経済発展に大きく寄与したという経過があって 水俣病の問題は、被害者である漁民たちと それをとりまく一般市民の 複雑な感情的問題に発展していった つまりは「みんなのために我慢した被害者たち」 そういう美談の主人公が求められたわけだが なんの報いがあるでなし すべてを並列化する観念日本で、すがりつくものもなく 押し付けられた理不尽と共に、長い人生を耐えていくことは ヨブ記のヨブにも匹敵する苦痛だろう 「苦海浄土」は、水俣の対岸にある天草で生まれた作者が 長年の取材とよりそいをベースに書いた作品 ルポルタージュというよりは 一種の詩のようなものとされているらしい あとがきで言うには「浄瑠璃のごときもの」だとか 三部作あるうち、この本では第一部のみ収録されているようだ
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何かで池澤夏樹さんがこの作品を高く評価されていたのを読み、もう何年も前に購入してあったのだが、ずっと本棚の片隅にあって、ときどき背表紙を目にしてはいたが、ずっと後回しになってきた。ようやく手にとって読み始めたのは、最近石牟礼さんが亡くなられたのを知ったことが契機になったのかも知れ...
何かで池澤夏樹さんがこの作品を高く評価されていたのを読み、もう何年も前に購入してあったのだが、ずっと本棚の片隅にあって、ときどき背表紙を目にしてはいたが、ずっと後回しになってきた。ようやく手にとって読み始めたのは、最近石牟礼さんが亡くなられたのを知ったことが契機になったのかも知れない。 見た目の印象からなんとなく敬遠していた人と何かのきっかけで話してみると、まったく違った印象に触れ、自分の思い込みを恥じたり、その人を見る目がまったく変わることがあるが、この本はまさにそんな一冊だった。 有機水銀汚染という十字架=受難を背負わされた水俣の人々と自然をめぐる魂の書。
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