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苦海浄土 新装版 の商品レビュー

4.4

93件のお客様レビュー

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2019/02/19

十日付の新聞で、石牟礼道子さんが亡くなつて一年、との記事が載りました。さうか、もう一年かと思ひ、代表作たる『苦海浄土』の登場となりました。 水俣市は代々続く漁業の町。その町で魚が獲れなくなり、人も不思議な奇病にかかる。水俣病であります。 いはゆる公害病で、原因も特定できず(後に...

十日付の新聞で、石牟礼道子さんが亡くなつて一年、との記事が載りました。さうか、もう一年かと思ひ、代表作たる『苦海浄土』の登場となりました。 水俣市は代々続く漁業の町。その町で魚が獲れなくなり、人も不思議な奇病にかかる。水俣病であります。 いはゆる公害病で、原因も特定できず(後に有機水銀が原因とされる)、治療法も無いに等しいのです。 最初に紹介される「山中九平」少年が、熊大の先生が診てくれるといつても拒否し、「いやばい、殺さるるもね」と言ひ放つのも、病院で治療しても甲斐なく死亡する奇病であることを知つてゐたからでせう。 海に毒を流し続けた「チッソ」。結局この会社はカネは出したが、自分の会社が原因かどうかの因果関係は証明されてゐないとして、現在に至るまで誠意ある謝罪はありません。 そして行政や国も役に立たず、最初の水俣病患者発生の昭和28年以来、未だに解決を見ないのであります。 長引く訴訟に、原告側の一人は、「もうチッソを許す」と意外な発言をしたといふ記事を見ました。その真意は、もうこれ以上続けても悲しい記憶が消える訳でもなく、早く終らせたい、水俣病を忘れたい、とのやうです。もう原告側も疲弊してゐるのでせう。 著者の石牟礼道子さんは、まさに水俣で育つた人。それだけに地元の患者たちに警戒感をもたれることなく、患者や家族の本音を聞き出せたのでせう。その思ひがサブタイトルの「わが水俣病」に現れてゐると申せませう。 初読の時は、怒りと涙なくしては読めませんでした。公害病はなくなつても、結局政府が大企業には甘いといふ体質は変ってゐないのではないでせうか。 http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-782.html

Posted byブクログ

2019/01/14

漁村で捕れた魚を食べる普通の生活をしていただけなのに、水俣病にかかってしまい、肉体的・経済的苦痛に加え、当事者の企業だけでなく、国や県、市民からも向けられた敵対心や無視による精神的な苦痛は本当にどれほどだったかと思います。それは今も起こり続けている様々な問題と構造が同じであるとい...

漁村で捕れた魚を食べる普通の生活をしていただけなのに、水俣病にかかってしまい、肉体的・経済的苦痛に加え、当事者の企業だけでなく、国や県、市民からも向けられた敵対心や無視による精神的な苦痛は本当にどれほどだったかと思います。それは今も起こり続けている様々な問題と構造が同じであるということは、誰が読んでも気づくことです。 ささやかな幸せさえ奪われる人たちがこの世界には多すぎて、自分は何もしてあげられないけど、せめて知ることによって無関心にはならないようにしたい。

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2019/01/13
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

文庫本解説で渡辺京二は、本書をルポルタージュですらなく、石牟礼道子の私小説としている。また、著者も、「この作品は、誰よりも自分自身に語り聞かせる、浄瑠璃のごときもの、である。」としている。 第1回大宅壮一ノンフィクション賞を辞退したのも頷ける。 水俣病患者が語り得ない心の内を筆者自身に寄せてかたっているのであろう。

Posted byブクログ

2018/12/31

なんということがこの日本で起きていたのだ。 知ってるつもりで、実はなんにも、ほんとに何一つ、知らなかった。 熊本の話し言葉にはなじみがなく、書かれていることやその時の感情をきちんと理解できたかどうかわからないところもあるけど、この文体は本当に魅力的。

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2018/11/05

熊本弁に馴染みがあって良かった。人々の語りが染み入ってくる。 巻末の解説も良い。この作品が聞き書きではないことや、患者が語る海の情景が幻想的であること。

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2018/09/14

【読了メモ】小説でもない、ルポとも違う気がする、重たいのに文がとてもきれいで、指でなぞって辿って読みたいような、そんな本でした。

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2018/09/13

やっと苦海浄土を読み終えた。高名なこの本の名は知っていたが、これまで手にすることはなかった。石牟礼さんが亡くなられやっと読み始め、一気に読み進むことができた。確かにここに書かれた水俣は現在に続くこの世の物語であり、棄民とされた一人一人を描く浄瑠璃の世界であった。読むのが「15年遅...

やっと苦海浄土を読み終えた。高名なこの本の名は知っていたが、これまで手にすることはなかった。石牟礼さんが亡くなられやっと読み始め、一気に読み進むことができた。確かにここに書かれた水俣は現在に続くこの世の物語であり、棄民とされた一人一人を描く浄瑠璃の世界であった。読むのが「15年遅かったばい」

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2018/09/10

何とも胸の痛む本である。昭和28年頃から熊本県水俣市で、工場の排水が川に流され、その汚染された排水に水銀が含まれていたため、周辺住民が水俣病になったのは、歴史の教科書で勉強した。当時も非常に恐ろしいとは思ったが、日本高度成長期の弊害のような位置づけで学んだにすぎなかった。 今年亡...

何とも胸の痛む本である。昭和28年頃から熊本県水俣市で、工場の排水が川に流され、その汚染された排水に水銀が含まれていたため、周辺住民が水俣病になったのは、歴史の教科書で勉強した。当時も非常に恐ろしいとは思ったが、日本高度成長期の弊害のような位置づけで学んだにすぎなかった。 今年亡くなった著者の石牟礼道子さんは、たまたま水俣の近くに生まれ育った主婦である。幸いにも彼女は水俣病にならなかったが、何が起こったかを伝えなければならないという一市民の使命感から本書を書き上げた。 水俣市が誇ったチッソという世界にも通用する地元の一流企業。水俣市の収入の半分はこの会社からだったという。本書を読むと、水俣病が発生する前の素朴で豊かな漁民たちの暮らしと、その後何十人も苦しみながら亡くなり、生業の漁業が出来なくなり、差別を受けるというその対比がすさまじい。地元の人にとって、小さな船を操って、夫婦で美しい海で魚を取り、それを売ったり食べたりすることがどれだけ幸せなことか。 書評にもあるように、本書は単なるルポではなく、文学作品としても評価が高い。描写や表現が、素人の書く文章ではない。最初から、胸にずっしりと岩が乗せられたように苦しみながら読んだ。患者にインタビューをして書かれた部分は、九州方面の方言が分かりにくいが、それでも話し手の苦悩が身に沁み渡った。

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2022/01/20

いやあ、熊本弁が読める。「西郷どん」で鹿児島弁が理解できるのもうれしいが、どちらも少しわかりやすくしてあるのだろうか。本書については、100分で名著を見て、読まなければと思っていた。それからずいぶんと時間がたってしまった。テレビで見たときにも憤りを感じたものだが、本書を読んでいて...

いやあ、熊本弁が読める。「西郷どん」で鹿児島弁が理解できるのもうれしいが、どちらも少しわかりやすくしてあるのだろうか。本書については、100分で名著を見て、読まなければと思っていた。それからずいぶんと時間がたってしまった。テレビで見たときにも憤りを感じたものだが、本書を読んでいても、さらにやりきれない思いがつのる。一方で初期のころの病気に対する受け止め方にのどかな雰囲気がある。60年まえというのは、まだそういう時代だったのだろうなあ。それが決してよいとはいわないが、何か問題が起こったとき、責任の所在を徹底的に追及するようないまの姿勢もどうかと思うときがある。ほどほどとはいかないものだろうか。とはいえ、水俣病については、当該企業と政府の問題だろうから、被害者には十分な補償をするべきだろう。実をいうと、この公害病の全体像は解説を読んでわかったことが多い。石牟礼さんの書いたものからわかるのは、その村に住む人々のやるせない思いである。そして、驚くべきは、ここに挙がっているのが聴きとった記録というわけではないということ。文学作品であると思って読み直すと、また違った思いが起こることだろう。

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2018/06/21

本作を知ったのはAmazonの100冊。今回、実際に読んだきっかけは作者が先日亡くなった事。中学受験勉強の中で水俣病の存在を知り、『公害病って…』と、子供心に恐怖した記憶がある。疑わず日常的に接しているものから、実は体を蝕まれているという恐怖。どのように体調不良が起こって、原因不...

本作を知ったのはAmazonの100冊。今回、実際に読んだきっかけは作者が先日亡くなった事。中学受験勉強の中で水俣病の存在を知り、『公害病って…』と、子供心に恐怖した記憶がある。疑わず日常的に接しているものから、実は体を蝕まれているという恐怖。どのように体調不良が起こって、原因不明が故の不安に悩まされ、謎が次第に究明されて尚、保障などの解決には程遠い道のり。そのあたりが、患者界隈の関係者証言などを中心に(実際には作者の想像が大方を占めるみたいだけど)、詳らかにされていく。興味深かったです。

Posted byブクログ