ユートピア の商品レビュー
この社会が最善かどう…
この社会が最善かどうかは置いておいて、なぜMoreがこの国を「Utopia」って名づけたのかって考えるとちょっとあれだなーと思った。 UtopiaってMoreの造語なんだけどギリシャ語でNot Placeって意味らしいんだ。 これってMore自身がUtopiaを実現することのでき...
この社会が最善かどうかは置いておいて、なぜMoreがこの国を「Utopia」って名づけたのかって考えるとちょっとあれだなーと思った。 UtopiaってMoreの造語なんだけどギリシャ語でNot Placeって意味らしいんだ。 これってMore自身がUtopiaを実現することのできない社会として認識してたんじゃないかな、と思った。 「どこにもない場所」。つまりはそういうことなんです。多分。
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トマス・モアが提唱し…
トマス・モアが提唱したユートピアとは、どのようなものだったのか。実際読んでみると、管理が激しくて、心地良い楽園とは程遠いと思いました。
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表紙にあるように、読みものとして十分におもしろかった。当時のイングランドの腐敗した政治形態を暗に批判するために生みだされた理想郷・ユートピアは、現代を生きる我々にとっても、一見理想的に感じられる。 理性至上主義、人民の同質化と差別化の巧妙なバランス、根本にある無条件の崇拝・信仰は...
表紙にあるように、読みものとして十分におもしろかった。当時のイングランドの腐敗した政治形態を暗に批判するために生みだされた理想郷・ユートピアは、現代を生きる我々にとっても、一見理想的に感じられる。 理性至上主義、人民の同質化と差別化の巧妙なバランス、根本にある無条件の崇拝・信仰は、彼らの人生を代替可能なものへと堕するという点で、オーウェルやハクスリー、伊藤計劃が描いていたものと重なる。
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※このレビューにはネタバレを含みます
【不人情な近代国家】 大航海の時代に、アメリゴ・ベスプッチの率いる船にも乗って世界探検を経験したというラファエル・ヒロスディさんが訪れたユートピア国について、全体としては、国家制度の在り方に関する自論みたいなのが語られる。聞いているのは、この小説の語りのトマス・モアさんと、ラファエルを紹介してくれたピエールさんで聞いている、スタイル。 はじめの章は、イギリスの国家としての矛盾を指摘するラファエルさん、合意できない点について問われ、さらに論を深める。 金を盗んだら死刑になる制度を批判。 「人間には自殺する力も他人を殺す力もありません。」 人が窃盗をする環境設定を国家自体が作っていると指摘。つまり、貧者を生む仕組み。生きるために窃盗するしかなくなる状況。貨幣の流通が生む不平等。 「…平等ということは、すべての人が銘銘自分の私有財産を持っている限り、決して行われるべくもないと私は考えています。」(本文より) そこからユートピア国の制度や暮らしをどんどん深堀していく。 ・・・ 当時から貨幣経済の弊害は強く感じられていたのだなーと思う。 でも私たちはさらにその後、資本主義経済を深めていく。 共産主義のいわゆる失敗も経て、経済資本に基づく利益の支配する社会は強固なものになった。 地球環境をぎりぎりまで脅かすまでにもなっている資本制度は、さらに限られた地球資源までも経済価値に置き換えようとする動きが進んでいる。 ユートピア国のしくみでは、偏重した金至上主義みたいなものを克服するために、金を便器などに使っている。 「金なら金、銀なら銀というものの本性にふさわしいように、 本来の価値以上に評価しないで用いているだけの話」とのこと。 労働は6時間。一方で、みんなが同じ服だったり、仕事も割り当てられたり、皆を同じぐらい載せ勝レベルにしようとすると、面白みに欠ける部分もあるのかもしれない。思考実験なので本当のところは分からない。 『#人新世の資本論』でも論じられていたような、コモンズ的なしくみと重なる部分が多々あり、興味深かった。 近代国家が確立していくという時代に、この本はどのように受け止められていたのかな... すでに「理想」であったのか。でもこのような思想を基に、その後、共産主義の思想が発展したし、いったん消えかけたけれども今にもたぶんつながっているのだろうと思う。 ギリシャ哲学なども引用されつつ、 ストア派よりも快楽主義派だとされるユートピア国。 ユートピア国が最も尊重するのは心の快楽は、主として「徳を行うこととよき生活の自覚から生ずる」とのこと。 徳を高める、という点では共通している。 人はどのように生きるべきか、何をもって良い人生と言われるのか、 その視点は、どのように社会を運営するか、という議論には欠かせない。 国家制度や貨幣制度が暴走し始める中で、その国家の在り方を不正な、不人情な国家とし、 本来追求すべきは人間一人ひとりの幸せであったり、人生の質である、と釘を指すよう、手段が目的化していることに警鐘を鳴らす。500年も前の本だけれども現代的にも通づる、考えさせられる本だった。
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今作を精読するだけでも、ルネサンス、宗教改革期の荒れ狂う時代を、一個人がどう思い、何を理想に掲げ生き抜いたのかという細やかな内実に踏み込むことができる。 モアの思想の底流には、カトリックの教えとそこから溢れ出るヒューマニズムが顕在してる。 ユートピア文学というジャンルにおける古典...
今作を精読するだけでも、ルネサンス、宗教改革期の荒れ狂う時代を、一個人がどう思い、何を理想に掲げ生き抜いたのかという細やかな内実に踏み込むことができる。 モアの思想の底流には、カトリックの教えとそこから溢れ出るヒューマニズムが顕在してる。 ユートピア文学というジャンルにおける古典中の名古典。実際の体験談を元にした体という語りのスタイルも簡単明瞭かつフィクションと現実のバランスがよく取れていて勉強になる。
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トマス・モアといえば映画「わが命つきるとも」を思い出すのですが、ヘンリー8世の離婚に宗教的な信念から最後まで反対し、最後は斬首されてしまいます。そんなモアが1516年(つまり今からおよそ500年前)、38歳の時に執筆したのが本書になります。ユートピアは「どこにも無い」という意味の...
トマス・モアといえば映画「わが命つきるとも」を思い出すのですが、ヘンリー8世の離婚に宗教的な信念から最後まで反対し、最後は斬首されてしまいます。そんなモアが1516年(つまり今からおよそ500年前)、38歳の時に執筆したのが本書になります。ユートピアは「どこにも無い」という意味のモアの造語です。 モアの描くユートピアは、当時の絶対王政下の欧州社会のアンチテーゼ的な意味合いとして書かれていますが、完全なユートピアというよりは「限定的な」ユートピアといった方が正しいかもしれません。たとえば市民には自由と平等がありますが、ユートピアにも奴隷がいて、奴隷は動物のと殺などを担当します。また戦争もします。しかし市民はみな十分に生活していけるだけの衣食住を賄っていて、潤沢にモノが存在しているため貨幣交換が存在しません。なぜ潤沢に衣食住が揃っているかと言えば、皆が生産的な活動に従事しているからで、モアによれば宮廷に巣くうおしゃべりだけの人間だけでなく、弁護士すらも不必要な非生産的人間として扱われ、その結果ユートピアにはそれらの非生産的人間は存在していないのです。またモアは貨幣こそが悪徳と害毒の原因であると断罪しています。外国との交易においては金銀が使われますが、ユートピア国にとって金銀は、戦争資金以外の意味を持ちません。同盟国はありませんが自国の人材を首長として受け入れている国は友邦国であり、自国もしくは友邦国が攻め込まれたときなどには金銀をフルに活用して戦争を行います。金銀を用いて敵国内で内紛を起こすのです。 モア自身が非常に信仰心の強いカトリック教徒だったこともあって、モアの描くユートピアでは理性だけが社会を支配しているのではなく、宗教にも寛容です。しかもキリスト教だけでなくあらゆる宗教が「限定的」ではありますが、ユートピア国では認められる。巻末の解説にも書いてありましたが、理性と信仰の両方を融和させようとした点にこそ、実はモアのユートピアの真髄があるのではないかと感じました。その意味では、宗教を排斥した共産主義よりも、よっぽど「ユートピア」であって、文中の奴隷を機械に置き換えれば、十分21世紀の社会に当てはめることが出来るのではないかと感じました。
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ユートピアは、文字通りどこにも存在しない場所だと思う。 そこで認められた市民は何の不足もなく、真面目に暮らしてさえいれば満たされるけれども、その影には市民とされないもの(奴隷など)の搾取がある。すなわち奴隷の存在を無視した上での『理想郷』。 そしてその社会に認められている良き人た...
ユートピアは、文字通りどこにも存在しない場所だと思う。 そこで認められた市民は何の不足もなく、真面目に暮らしてさえいれば満たされるけれども、その影には市民とされないもの(奴隷など)の搾取がある。すなわち奴隷の存在を無視した上での『理想郷』。 そしてその社会に認められている良き人たちというのは、ある意味長いものに巻かれている人たちでもある。個性がないというか、管理された社会の住民。 なんだか昨今の、なんてもかんでも枠に嵌めては賛否を分けたがるキャンセルカルチャーの一端を見た気がした。 役者解説にもあるがトマス・モアはこれを当時のヨーロッパの宗教改革や王権への風刺として書いたのだろう。それでもモア自身も語っている通りユートピアが人間社会の最高峰(理想形)にはなり得ない。
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◯これがなぜユートピアと思えるのか →あくまで当時の時代を考えなければなんとも言えない。1500年代は暗黒時代?大航海時代に近い。富を蓄えようとしている時代。イギリスではディスクロージャー政策が横行していた頃。 →トマスモアはまさに富の蓄積について疑義を呈している。貨幣の否定...
◯これがなぜユートピアと思えるのか →あくまで当時の時代を考えなければなんとも言えない。1500年代は暗黒時代?大航海時代に近い。富を蓄えようとしている時代。イギリスではディスクロージャー政策が横行していた頃。 →トマスモアはまさに富の蓄積について疑義を呈している。貨幣の否定、労働者への敬意など。 →また、国家全体を利するように制度を求めるところは、個人主義によって富を蓄積していく不平等が広がっていると分析したか。 →しかし、現代においてこれは社会主義、共産主義国家に思えて嫌悪感すら抱く。共産主義者はこのユートピアをこそ目指しているのでは?国家による婚姻、出産、事物の共有化、まさに共産主義。異なるのは宗教の自由を認めているところか。 →これらに感じる嫌悪感の正体は、権利意識が全く無いからと考えられる。当時、そもそも個人の権利という発想がないということもあるため、フェアな議論ではないが、共産主義的発想も個人の権利意識によって変わるのではないか。奴隷がまさに最たる例。ユートピアに奴隷がいるのは甚だショックでは? →ユートピアの着想はもしや古代ギリシャの都市国家をイメージか。
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理想的な国として描かれる「ユートピア」は、「どこにもない国」という意味のギリシャ語を語源としているという皮肉。
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思い出したら何度も読み返すとよい作品だなと感じた。人間の営みにおける全ての理想形が『ユートピア』の国では体現されており、それは現代を生きる自分ですらまさに理想だと感じたほどだ。 例えば、金や銀を人は命と同等くらいに大切に扱うが、実際実用的なのは加工しやすい鉄であって、金や銀その...
思い出したら何度も読み返すとよい作品だなと感じた。人間の営みにおける全ての理想形が『ユートピア』の国では体現されており、それは現代を生きる自分ですらまさに理想だと感じたほどだ。 例えば、金や銀を人は命と同等くらいに大切に扱うが、実際実用的なのは加工しやすい鉄であって、金や銀そのものに価値はない、とか、財産を持っているというだけで愚かな貴族が敬虔な奴隷を従えるのはおかしい、とか、快楽に娯楽はあるのではなく健康的な生活にこそ楽しみを見出す、など、ユートピアの人間は、もし他の国の人々が簡単に行き来可能な場所ならば到底ありえないような、他の世界から全くもって影響をうけてこなかったような場所なのだ。 『ユートピア』を読んだことはないが、「ユートピア」とか「ディストピア」とか単語だけ知っていて多用している人は少なくないだろう。ぜひ一度読んでモアの生きたテューダー朝の時代を感じてみてはいかがだろうか。
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