マークスの山(下) の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
*かなりネタバレです* 警察小説としては、よくある”刑事もの”のようなエンタメ性に特化したようなものではなく、重厚で読みごたえがあり、引き込まれるものがあった。 それにしても、警察と言うのは、上層部と現場、本部と所轄、部署ごとの対立だけでなく、同じ部署・係の中でも、こんなに探り合いなの?リアルさがあり、高村さんが非常によく取材をして書かれているのではないか、と思うだけに、この対立構造には、少々辟易してしまった。その、仲間であっても先を越されたくないと言う心意気が良い循環を生むのであれば良いけれど、被害者不在の権力ゲームのようにすら見えて不快。せめてチーム内、誰がどんなことを掴んだのか、誰の手柄なのか、どうでも良くないですか? と本筋とは関係ないところで、ストレスが(苦笑) さて、読後に改めて確認すると、あらすじ・紹介文にも「ミステリー」とは特に書いていないのだが、警察小説=ミステリーみたいな自分の思い込みがあったのか、ミステリーだと思って読み始めた。そして、ミステリーとして読んでしまうと、この作品は、これだけのボリュームと重厚な読み応えとは比例してこなかった。 そもそも、かなり早い段階で、水沢が犯人だと言うことは分かるし、それが、おそらく心中事件で生き残った子供であり、精神を患って入院しているあの男なんだろう、と言うことも分かるのだし、 マークスも完全に一人ひとりが誰で、どんな人間なのかが明らかになる過程はあるにしても、山岳会がらみなのだろう、そして、山の事件に何らかの関わりあいがあるのだろう、と言うことも大体分かった上で読み進めていく感じだからだ(とは言え、ふりがなを見落としたのか、そもそも著者の意図なのかは分からないが、私自身は、林原をずっと”はやしばら”と読んでいた為に、ずっと残り一人は誰なんだろうな、、と思いながら読んでしまった) そういう意味では、犯人を追っていく楽しみはない。 それならば、どうしてこんな事件が起きてしまったのか、隠されている不都合な事とは何なのか、一見、何も接点がなさそうな犯人がなぜそれを知ったのか、なぜゆすろうなどと思ったのか。犯人がここまで残忍なことをしてしまうのには、どんな背景があるのだろうか。そう思いながら読み進める楽しみ。そちらは、これだけの長編でもあるし、過去の事件とも絡みながらなので、期待をしながら一気に読み進められた。 しかし、明らかになっていくことも、早い段階で見えてくる事件像と大きく変わることもなく、浅野の遺書、と言う形で全容が明らかになると、そこには、あまり納得感がなく、拍子抜けしてしまう。 それも、遺書にも書いてあるように、周りから見たら、そんな理由で、と言うことを社会的地位が高い人間だからこその保身でそうなってしまうのかもしれないが、最初の山の事件にしても、今回の連続殺人での圧力のかけ方にしても、何だか浮世離れしていて、そんな背景があったのか、と納得するにはなぁ、と感じてしまった。 さらには、水沢についても、結局、ここまで精神を病んでしまうまでの生育が深く描かれるわけではなく、心中事件だけが原因だったのか。真知子には少し人間らしい感情を持っているように見えるのに、養親が結果としてそうなってしまうに至ったのはなぜだったのか。分からないままのことが多い。精神疾患についての知識がないので、何とも言えないのだが、お金に執着があるとも思えないのに、大金をゆすろうと思ったことや、日常生活も難しそうな状況でありながら、あの遺書から現在の5人を調べたのは、いつどうやってやったのだろうか、など、疑問に思ってしまうことが明らかにならない。 ただ、最後は、水沢が北岳に向かったことが分かった時点で、おそらくもう生きていないのだろうと思いながらも、どこかでこのまま水沢を死なせてはいけない、生きていて欲しい、と思いながら読むことが出来た。 山梨県警と合田・森が必死に山を登る姿には、ここまでの検察と警察の権力のごたごたに辟易していた気持ちを晴らしてくれる熱さがあったし、現場の警察は実際に現場に出ればこうなんだと信じたい思いもあった。 最後の一行を読んだときは、涙が出て、しばらく自分まで北岳の頂上にいるかのような錯覚に陥った。
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下巻。 事件の輪郭が明らかになるにつれ、浮かんで来た「蛍雪山岳会」の存在。 被害者や関係者が軒並み暁成大の山岳部である事を掴んだ合田刑事は、 「山」がキーワードであると考え、独自に捜査を進めていく。 しかし、それでも見えてこない“実行犯・水沢”との関連や動機。 「蛍雪山岳会」の...
下巻。 事件の輪郭が明らかになるにつれ、浮かんで来た「蛍雪山岳会」の存在。 被害者や関係者が軒並み暁成大の山岳部である事を掴んだ合田刑事は、 「山」がキーワードであると考え、独自に捜査を進めていく。 しかし、それでも見えてこない“実行犯・水沢”との関連や動機。 「蛍雪山岳会」のメンバーに事情を聞こうにも、そこに探りを入れようとする度に上層部の圧力がかかる。 山岳会のメンバーが何かを隠そうとしている。 合田はそれらの壁を越え、水沢に辿り着けるのか。そして事件の真相を知る事が出来るのか。。。 と、上巻でモヤモヤしていた事柄が徐々に解明していく(下巻なので当たり前だが)。 「マークス」の意味。水沢の行動。蛍雪山岳会が隠したがっていた事。上層部の圧力の意味。 合田はそれらを解明すべく動くのだが、事あるごとに内面の自分と問答をする。 『これでいいのか』『望んでいるものは何なのだ』…と。 それでも最終的には合田は突き進む。その姿がこの物語の見所の一つなのだろう。 また、終盤の吾妻vs林原や高木真知子の証言、合田の突き進むパワーなどにより 一気にラストまで読ませる。 直木賞である所以はこのような描写にあるのだろうと思う。 …しかし、結局自分にはこの小説にそこまでの魅力を感じる事が出来なかった。 恐らくは小説の嗜好によるものだと思うが。。。 (以前にも“合わない”と感じた『蛇にピアス』とは全く違う感覚である。念の為。) 読ませる小説であると思うし、深いと感じる部分もある。ラストもある種の達成感がある。 それでも、自分には少し硬かったのかもしれない。 いつか再読して、違う魅力を発見したいと思う小説であった。今回は3点。
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2020/12/2読了。最終章の『収穫』でやや拍子抜けの感はあるが、やはり読み応えがあった。事件に関与した人間一人一人の独白には説得力が感じられた。警察組織の描写力はリアリティ満載。この作家が手がける小説の作り込みにはいつも脱帽。
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やっと読み終わりました。警察の内情を丁寧な心情も込で延々読んだ気分です。面白くないわけではないけれど、読む側もなかなかに根気が必要される気がします。水沢がとにかく哀れで…真知子の気持ちも分からないでもない…かな…。長い遺書の所々は??だったけれど、マークスの皆は程度はあれどそこそこ身勝手だな…と。合田と吾妻林原の駆け引きは読み応えありました。
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長い長い時間(上巻スタートから9ヶ月…)をかけ、ようやく読了。 やはり、高村薫作品は私に合わない。 つまらなかったの一言。
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すべての者が保身を図り出世のための隠蔽を図る.事件が偶然にも助けられて隠されてしまう.一つの嘘が,あるいはちょっとした職務怠慢が歯車を狂わしていく様子が無惨だ.検察庁,警察,こんな風に描かれるとやってられないという気分になるのも良くわかる.元に戻ってちゃんと犯人をあげていたら,そ...
すべての者が保身を図り出世のための隠蔽を図る.事件が偶然にも助けられて隠されてしまう.一つの嘘が,あるいはちょっとした職務怠慢が歯車を狂わしていく様子が無惨だ.検察庁,警察,こんな風に描かれるとやってられないという気分になるのも良くわかる.元に戻ってちゃんと犯人をあげていたら,その後の事件は起きなかったのかとも思うとやはりやりきれない気分だ.事件はともかく合田雄一郎の葛藤独白が興味深かった.
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高村薫は、諸々の理由により今までほとんど読んでいなかったのだが、今回久しぶりに読んでみた。 修飾語の多い長い文章は読みにくいところもあるが、最後の方は一気に読み進められた。 解決していない謎もあると思うのだが(真知子の銃撃の件や凶器の件等)、高村薫のミステリーは事件解決を主眼とし...
高村薫は、諸々の理由により今までほとんど読んでいなかったのだが、今回久しぶりに読んでみた。 修飾語の多い長い文章は読みにくいところもあるが、最後の方は一気に読み進められた。 解決していない謎もあると思うのだが(真知子の銃撃の件や凶器の件等)、高村薫のミステリーは事件解決を主眼としておらず、刑事の心理描写を主眼としているのでこれでいいのかもしれない。
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刑事仲間のキャラが立っているようで立っていなくて… ストーリーとしては先が気になって一気読みしてしまった
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さて、物語は佳境に入り、上巻で感じていた通り、巨悪は実は狙われたほうだったことが明らかになっていくが、警察が追うのは巨悪から消されようとしているほうというパラドックスが深まる。 しかし、本当にじりじりという感じでしか話が進まないなぁ…。 ある意味クライマックスであった林原に対する吾妻の斬り込みも暖簾に腕押しの感で焦れる。 浅野の遺書で明かされる真相は、確証がなかった数多の話が明確になったに過ぎず、結局は出自や閨閥や司直各々の内部の権力争いとダメ押しされては、水沢の存在も、水沢を追ってきた警察の辛苦も、読み手の私も浮かばれず。
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