愛のゆくえ の商品レビュー
あまりにも美しい自分…
あまりにも美しい自分の肉体に嫌悪を抱いている彼女とわたしの奇妙なラヴストーリー。とてもやさしいファンタジーです。クリスマスに、彼女にプレゼントするにはぴったりの本かもしれない。でも、その底には作者の現代文明への嫌悪が込められてもいます。
文庫OFF
最初に思ったことは、…
最初に思ったことは、タイトルをこれにして良かったよねということ。もしも原題そのままのタイトルだったら、この本を手に取ることはなかったかもしれません。表現に困るくらいとても不思議な空気を持った恋愛ものだと思います。
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自分の書いた本を持ち込んで来る人たちのために、その本を登録し、好きな棚に置くことができる図書館。主人公はひょんなことからそんな特別な図書館の図書館員となり、一日24時間、一週7日間、三年ものあいだ、外に出ることなく、本を持って訪ねてくる人を待ち受けている。 初めはファンタジ...
自分の書いた本を持ち込んで来る人たちのために、その本を登録し、好きな棚に置くことができる図書館。主人公はひょんなことからそんな特別な図書館の図書館員となり、一日24時間、一週7日間、三年ものあいだ、外に出ることなく、本を持って訪ねてくる人を待ち受けている。 初めはファンタジーのような内容かと思って読み進めていたのだが、そうではなかった。 あるとき、美しく抜群のスタイルの女性ヴァイダが、人を不幸にしてしまう自分の体のことを書いた本を持って図書館に来た。二人は恋に落ち、愛し合う。そのうち彼女は妊娠してしまい、相談の上堕胎することに決める。友人の助けを借りて、中絶のため、二人はメキシコのティファナに行くことになった、というのが大体のストーリー。 戻って来た彼は、思わぬことから図書館員の仕事を失うことになってしまう。ヴァイダは大学に戻ることになりそうだが、果たして彼はうまく生活していくことができるのだろうか。一見ハッピーエンドのようではあるが、今であれば ”ひきこもり” と言われそうな彼、社会に適応していくことは何だか難しそうだ。そんな感じがして仕方がない。 翻訳だから原文もそうなのかは分からないが、一文一文は短くてテンポ良く読める。時々挟まれる一見?な譬喩が印象的。
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『西瓜糖の日々』のような不思議な話しかと思いきや、なんと中絶の話。一瞬ためらいましたが、深刻な描写や悲壮感もなく、読み切って良かったと思いました。 主人公の男は、少し変わった図書館に住み込みで働いていました。そこでは誰も調べ物をしたり、本を借りに来たりしません。そこは、”人生の...
『西瓜糖の日々』のような不思議な話しかと思いきや、なんと中絶の話。一瞬ためらいましたが、深刻な描写や悲壮感もなく、読み切って良かったと思いました。 主人公の男は、少し変わった図書館に住み込みで働いていました。そこでは誰も調べ物をしたり、本を借りに来たりしません。そこは、”人生の勝者ではない人々が自分の書いた本を持ちこんで来るところ”でした。男の仕事は、持ち込んだ著者と会話し、図書館明細元帳に記録して本を著者に戻すこと。本を受け取った著者は、図書館内の気に入った棚に本を置くことです。 ある夜、完璧すぎる容姿に悩む絶世の美女、ヴァイダが本を持ち込んできます。恋仲になった後、彼女が妊娠したことがわかり、二人で中絶することを決めました。そこで、国内では非合法なため、図書館の蔵書を洞窟に保存・管理している友人のフォスターに相談します。そして、野生味溢れる彼に図書館の留守番を頼むのを心配しつつ、二人はメキシコに中絶をしに旅立ちます……。 という話しですが、メキシコに二人が旅立つ前に、フォスターが留守番を嫌がるところがおかしくて、コーヒー吹きそうになりました。また、中絶に行く二人も、初めて乗る飛行機やお金の心配など、悲壮感のカケラもありません。それより、目を離すと美しすぎる彼女に男たちが言い寄ってきたり、一緒にいても彼女をガン見してくる男たち、女性たちの嫉ましい視線などに笑いを誘います。 ラストもいいですね。世間と隔絶された生活を送っていた主人公がどうなったか…本人は納得していないと思いますが、いい収まり方だと思いました。 それにしても、原題は The Abortion : An Histrical Romance 1966 となっており、直訳すると「中絶(堕胎):ある歴史的なロマンス 一九六六」。忠実にタイトルが付けられていたら、まず読まなかったと思うと、『愛のゆくえ』というタイトルは、よく付けたものです。 内容も、デリケートな問題を、あえて明るく書かれているのは救いですね(読み手を選ぶ本ではありますが)。また、原題の 1966年ということで、The Beatles のアルバムRubber Soul が作中に出て来ますが、この1966年から1967年はロックにとって転換点となった年です。書かれた当時、著者なりに明るい未来を想像する暗喩を含んでいるのかもしれないですね。 正誤(5刷) P202の13行目: 男の存在を感じことができた。 ↓ 男の存在を感じることができた。 P202の16-17行目: 医者が部病のなかに入って来た。 ↓ 医者が部屋のなかに入って来た。
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積読約10年。何度もトライしては最初の2ページで挫折を繰り返していたのに、ようやく読めました! そして四ツ星をつけた自分にも驚く…(笑) さて…邦題は美しい…原題は「堕胎」…さらにヒストリカルロマンス1966とあるので、そのように読むよう努めました。 主人公(名前は出てこないで...
積読約10年。何度もトライしては最初の2ページで挫折を繰り返していたのに、ようやく読めました! そして四ツ星をつけた自分にも驚く…(笑) さて…邦題は美しい…原題は「堕胎」…さらにヒストリカルロマンス1966とあるので、そのように読むよう努めました。 主人公(名前は出てこないですよね?)、ヴァイダ(顔の造作そのものはともかく、すばらしい肉体美を持つ女性)、フォスター(ある意味主人公の同僚)がメインの登場人物。 不思議な図書館が冒頭の舞台。 さらに墮胎をするためにメキシコに向かう道中、病院、他の堕胎希望者たち、宿泊するつもりだったホテル、亡霊(笑)、図書館から出ていくことになって、その後の日々… アメリカ合衆国は、今また中絶禁止の流れがありますが、この話はロー判決以前の話…と知ると、ぐっと感慨深くなります。 主人公カップルの堕胎に向かう感覚はややカジュアルで、それは時代的な要素もある。 ヴァイダのコンプレックスは、持たないものからしたら、贅沢な悩み。でも当事者の悩みはそれ故に深い…ディーヴァーの短編ビューティフルを思い出しました。 親に連れられて堕胎に来た若い女性には、胸が痛みました。どんな事情だったのか… メキシコの堕胎医にも、ほー。みんな無事で良かった。 悪人が出ない小説。読後は明るい。でもブローティガンは自分で命を絶ってしまった… P126(…のみのセリフ)、127(タクシーの連呼)、216(わたしの独白)の表現に驚く。 P142のわたしとヴァイダの会話は、図書館後の2人を予言する。 P167の国境の描写も心にしみる… 献辞も気になりました。 訳者あとがきも良かった。コジンスキー読まなきゃ。(チャンス!は観ました。良かったんです。) アメリカ文学が好きだと胸を張って言える1冊を物にした充足感でいっぱい… ほんとに読めて良かったです。
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孤独な, どこにも言葉を届けることのできない敗北者, アウトサイダーたちが書いた本が保管される図書館で働く男の話. 孤独な人々が本を書く意味は, 世界へ言葉を送ることではなく, むしろ, 書くことによって自分の考えをまとめ, 捨て去ることなのではないかと思う. 図書館に置く...
孤独な, どこにも言葉を届けることのできない敗北者, アウトサイダーたちが書いた本が保管される図書館で働く男の話. 孤独な人々が本を書く意味は, 世界へ言葉を送ることではなく, むしろ, 書くことによって自分の考えをまとめ, 捨て去ることなのではないかと思う. 図書館に置くというのはその印のようなものであり, 読まれようが, 水の滴る洞窟に保管されようが, 後のことは重要ではないのである. 主人公は, ヴァイダが自らの体を自然の物として受け入れたのと同じように, 過剰な敗北者への同情を捨て, 自らのエロスに生きるようになったという意味なのかな…
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冒頭の図書館の設定だけで読書好きは皆好きになるのでは。ブローティガンなら絶対に月並みな着地はしないという安心感と信頼を寄せて読める。読み心地、細かい描写、比喩、常識からの僅かなズレ、ゆるさ、そして時折執拗な偏執さを感じるところが非常に気持ちの良い世界だった。
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図書館に引きこもる男はリチャード・ブローティガン本人なんだなと思います、世間と距離をとって生きている男。 ヴァイダという恋人によって徐々に図書館から外の世界へ引き出されていく男の物語です。 ブローティガンも図書館に『オオジカ』という本を持ってきます。ブローティガンは主人公の男...
図書館に引きこもる男はリチャード・ブローティガン本人なんだなと思います、世間と距離をとって生きている男。 ヴァイダという恋人によって徐々に図書館から外の世界へ引き出されていく男の物語です。 ブローティガンも図書館に『オオジカ』という本を持ってきます。ブローティガンは主人公の男に「あなたは私に似ていますね」と言ってもらいたかったのではないだろうか。
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ヴァイダが自分を開放するようになるまでの過程が可愛い。夢みたいな文体も相まって前半は甘ったるい感じ。 いつまでも図書館には篭っていられない、ということなんだろうけど主人公があまり納得してなさそうというか嬉しそうじゃなさそうなのが心に残った。まあ変化することは怖いよね…
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なんとも奇妙なお話でした。 舞台設定も、登場人物も、 言葉のチョイスやストーリー展開も、 現実社会とは少しばかりズレていますが、 どういうわけか惹きこまれてしまいます。 本書の原題は 〝The Abortion(中絶・堕胎)〟なのですが、 あまり悲壮感はありません。 むしろ心理...
なんとも奇妙なお話でした。 舞台設定も、登場人物も、 言葉のチョイスやストーリー展開も、 現実社会とは少しばかりズレていますが、 どういうわけか惹きこまれてしまいます。 本書の原題は 〝The Abortion(中絶・堕胎)〟なのですが、 あまり悲壮感はありません。 むしろ心理描写を意図的に避け、 ことさら軽いタッチで言葉を綴っているようです。 作者のリチャード・ブローティガンは、 ビート・ジェネレーションを代表する作家だそうですが、 本書の解説には、 そう決めつけるのは早計であると書かれています。 いずれにせよ落伍者、社会的弱者の 孤立した生活を幻想的に描いた作品が 当時のヒッピーたちに受け入れられたみたいですね。 あの村上春樹氏も影響を受けたと言われているようで、 やっぱりなという感じです。
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