シンプルな情熱 の商品レビュー
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2022年のノーベル文学賞。 読後、ポッドキャストの「翻訳文学試食会」、「空飛び猫たち」、「世界文学放談胡椒とマルガリータ」を聞いたり、ネット上での感想を漁ったり、した。 読んでいる最中も賛否両論だろうなと予期していたし、実際そうだった。 個人的には、どうーでもいいー体験がどうーでもいいー水準で綴られる文章だなー、と思っていた。 というのも、作者自身を思わせる語り手が、エッセイとも当時の覚書とも区分けしづらい文章を綴る、その行為自体を描くタイプの文章だから。 下世話な覚書を小説に昇華させようとする苦肉の策、とも。 性質上、作家たるワタクシが、子供もいる中年なのに、子なし妻ありの若い男と期間限定数か月の性愛関係を持つことってどういう意味を持つんよ、と内省する記述の諸々を、数年前当時のメモをもとに再現したりしなかったり、みたいな、敢えて感情を移入しづらい書き方をしているので、読み込もうとする喉に小骨が刺さり続けているような気がして。 先回りして、攻撃的になりそうな自分に対して書いて置いておくならば、作者の倫理として、行動ではなく感情を書くと凡庸になる、という意識は保たれている。その上、暴走的暴走はしない、冷静な書き手なのだ。 解説文に斉藤由貴が寄せているが、彼女のように自己体験込みで書けるものがあれば、スッキリするものだろうけれども。 あるいはセックスに突き抜ければ、言い訳っぽい記述って不要になるんろうが、まあそんな小説ってないよね。小説と言い訳って不可分。 逆に冷静な語り手を、性に突き動かす何かを突き止めようとする、峻厳な記述があるかといえば、そこまででもないし。 このユルさ、志の低い映画になりそうだなーと思っていたが、実際映画化されているらしい。 おそらく水準は低かろうなーと、予告編しか見ていないが、原作であえてぼかされた男がバッチリキャスティングされている段階で、見る気にになれない……これは匿名性を打ち出した、原作の魔力か? いや、本作の中で、大島渚監督「愛のコリーダ」(阿部定事件)に言及されていたり、男をアラン・ドロン若き頃と描写していたりするので、映像化の欲望は盛り込まれているのだろうが。 その映画化に対して、林真理子がクッソテキトーなコメントを寄せていて、笑った。 に対して、小池真理子が原作に対して寄せた文章は、さすが。 個人的には、山崎ハコ「橋向こうの家」を思い出したり、した。 また、オートフィクションと、日本の私小説との違いを考えたりしたが、あまり益のない行為だと思った。 と、脈絡を欠いてしまったが、作品がそうだから感想もそうなってしまう。 回想したり、書き散らしたりする中で、書くこととは何かを意識していくって、この作品が行っていることだが、もしかしたらその後20年30年かけて、2ちゃんねるとか、私が知らないネットにて、文章だか動画だか知らぬうちに、同じ営為が行われているんじゃないか。 あえて言えば、数十年前の女性雑誌で書かれていた投稿コーナーとか、この十年数十年でインターネットに各人が(匿名性を維持しつつ)書いた文章の熱量と、等価なんじゃないかしらん。
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先に読んだ『嫉妬/事件』と比べるとやや印象が薄い。しかし両作品に共通する、自身を客観視し対象として公平に見つめ直し明確で簡潔な文章に表現できる筆者の姿勢に非常に好感を持った。
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積読の本を「片付け」ようと思い手に取った。 ノーベル賞受賞アニー・エルノーの代表作。映画化されて大層話題にもなった。A役が有名なバレエダンサーで適役だということだったように思う。 さて、「シンプルな情熱」は、まさしく「シンプル」な「情熱」であった。(繰り返してる笑) 「シンプル...
積読の本を「片付け」ようと思い手に取った。 ノーベル賞受賞アニー・エルノーの代表作。映画化されて大層話題にもなった。A役が有名なバレエダンサーで適役だということだったように思う。 さて、「シンプルな情熱」は、まさしく「シンプル」な「情熱」であった。(繰り返してる笑) 「シンプル」であることの剥き出しの「情熱」。(再び繰り返してるだけ笑) そう、私(たち)はこのシンプルさにこそ感動し共感する。 近代人はこのシンプルさを捨てて生きてきた。人生は複雑だ。複雑であることは人間にとって重要で、シンプルさを追い求めることは「人間性」の否定でもあり、近代人である我々は複雑さをそのまま受け止めてきた。それが知的な在り方であり、今もそうあり続けている。 (時代は逆行し、シンプルで反知性的な社会になりつつあるがそれはさておき) その中での出来事なのだ。 だからこの「シンプル」さは刹那的であり、だからこそ、振り切れなければならない。 この振り切れ方にこそ、この小説の魅力がある。 「沼にはまる」というが、「沼」にはまる自分をそのまま脚色なしに写しとってみせたのがこの小説だ。 諸男性作家が書く恋愛小説とは決定的に違う。 (快楽の仕組みと、権力構造が違うから?「沼」が性欲やフェチと切り離せないのが男性小説家の残念なところ?) 切実であり、客観性があり、ポルノ的な方向性とは真逆にあるものを描き出せたのは、エルノーが女性だったから、とも言えるだろう。 最後の斉藤由貴の解説が素晴らしく、そこにもまた感動。一つの場所にとどまらず、飛躍している女性は多い。(男性もいるとは思うが)
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ノーベル文学賞受賞作家による自伝的小説です。 これは小説なので、 虚構の部分もあるかと思われますが、 すべてが作り話でもありません。 そこにオートフィクションの魅力があるのでしょうね。 内容を簡単にいってしまえば 離婚歴のあるパリ在住の女性教師と、 ときおり彼女の家を訪ねてくる...
ノーベル文学賞受賞作家による自伝的小説です。 これは小説なので、 虚構の部分もあるかと思われますが、 すべてが作り話でもありません。 そこにオートフィクションの魅力があるのでしょうね。 内容を簡単にいってしまえば 離婚歴のあるパリ在住の女性教師と、 ときおり彼女の家を訪ねてくる 東欧の外交官との肉体関係を綴ったお話です。 外交官には妻子があり、 家を訪ねてくるのも彼の都合しだい。 次いつ会えるのかもわからない。 家を訪ねてくるとき以外は連絡もない。 このような関係がいつ終わるのかもわからない。 女はただ男を待ち続けるだけ。 でも、会えばまた激しく求めあってしまう。 まったく救いのない関係。 短い期間であったにしても、 逢瀬を重ねるからには、 それなりの感情の起伏があったはずです。 でもこの小説では、 感情表現は最低限に抑えられていて、 過剰な描写が一切ありません。 むしろ語り口が平坦なようにも思えます。 しかし、それがかえって 主人公の感情の揺れを際立たせる効果を生み、 抑制された趣を醸し出しています。 ここに描かれているのは恋とも愛とも違う、 異質のもののような気がします。 もしかすると傷つけ、傷つくことを 互いに恐れていたから、 このような関係が築かれてしまったのかも。 シンプルな情熱という心の在りようは、 実際に作者が心の奥底で抱いていた感情とは、 真逆のものかもしれませんね。 他人の内面を理解するなんて、 土台無理なことです。 ましてや異性の感情なんて、 尚更わかるはずがありません。 そういう意味ではとても興味深いお話でした。 べそかきアルルカンの詩的日常 http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/ べそかきアルルカンの“スケッチブックを小脇に抱え” http://blog.goo.ne.jp/besokaki-a べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ” http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2
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おフランスの恋とはこのように没入的なのね…だけど時間をおくと、恋情もセックスもこのように乾いてカチリと表現できるのね。で、これがベストセラーになるのね。深いな、フランス。
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やっと読んだ。何に引っかかったのか。不思議。 愛の情熱についてよりも、時々挿入される「書くこと」の意味についてがおもしろいと思った。
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映画化を観て、 これが小説だとどのように表現されるのかと、 楽しみにして読んだ。 醒めた視点は共通するが、 原作はなんという内的な情熱の物語か。 独白とも異なり、 このような出来事があったという事柄は少なく、 あくまでも自己批判的、内省的なパッションと、 書くことに関する言語化...
映画化を観て、 これが小説だとどのように表現されるのかと、 楽しみにして読んだ。 醒めた視点は共通するが、 原作はなんという内的な情熱の物語か。 独白とも異なり、 このような出来事があったという事柄は少なく、 あくまでも自己批判的、内省的なパッションと、 書くことに関する言語化というか、 何が私の中に起こっていたのか、 がひたすらに書かれていた。
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「嫉妬」に続いて予約していたアニーエルノー氏の著作。自身の不倫体験、相手に焦がれる情熱を訥々と綴られた物語。 やっぱり私は日本語が好きで、シンプルな翻訳本はなかなか刺さらないなぁ…
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2022年 ノーベル文学賞受賞者アニーエルノーの代表作といってもよい作品。自身の不倫の経験を冷徹に観察することによって成立した作品。不倫相手を待つ苦しみ、不倫相手の離別との苦しみが主に描かれる。そして、情事の絶頂も少し触れる。情事の最中の肉体的な快感や葛藤には触れない。不倫という関係で得られる感情の起伏に人間の心理の真理があるのではないかとエルノーは考えているようだ。これは「場所」や「ある女」で自身の両親の心理に迫った手法で、自身の心理に迫ることで、人間の本質を捨象しより高い位置で理解したいと考えているようである。 作品の前半、恋愛の苦しさにどうしようもなくなっている著者に日本なら和歌や短歌で思いを述べる方法があるのにと思って読んでいたが、読み進むとシャンソンに仮託する箇所がでてきて、やっぱりかと思った。
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フランスらしい愛と性の話。24時間が不倫相手の男のためだけに使われている。男はそうではないけど。発展することはもちろんなく、肉体だけで繋がっている、ただそれだけの話。小説自体があっという間に終わるので、あとがきの長さに驚きました。
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