容疑者の夜行列車 の商品レビュー
さてこの作品、『雪の練習生』とも『犬婿入り』ともまた違う! 多和田さんって多種多様な作品をお書きになるんですね(゚Д゚)! 違うとは言ってもちょい硬めで静謐な文章に しっかり多和田さんらしさを感じる。 だけど物語の趣きが異なるのよねぇ。 今回は列車での旅が軸となっていて 様々な土...
さてこの作品、『雪の練習生』とも『犬婿入り』ともまた違う! 多和田さんって多種多様な作品をお書きになるんですね(゚Д゚)! 違うとは言ってもちょい硬めで静謐な文章に しっかり多和田さんらしさを感じる。 だけど物語の趣きが異なるのよねぇ。 今回は列車での旅が軸となっていて 様々な土地と人々と非日常感が異国情緒を盛り上げている。 なんで表題が『容疑者の…』なのかな?
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新幹線ではこうはいかない。 あなたはダンサーだけれど、本は読むが音楽は聞かない。ましてメールを見たりもしない。いまその場に、夢うつつに開かれている。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
まず最初に、この本はミステリーではありません。 目次を見てもどんな話かよくわかりません。 第1輪 パリへ 第2輪 グラーツへ 第3輪 ザグレブへ 第4輪 ベオグラードへ 第5輪 北京へ 第6輪 イルクーツクへ 第7輪 ハバロフスクへ 第8輪 ウィーンへ 第9輪 バーゼルへ 第10輪 ハンブルグへ 第11輪 アムステルダムへ 第12輪 ボンベイへ 第13輪 どこでもない町へ 主人公はダンサー。 声がかかればあちらへでもこちらへでも出かけていかなければなりません。 あなたと呼び掛けられる主人公は、決して読者のことではないのです。 読み始めてしばらくは、アントニオ・タブッキの「インド夜想曲」に似ていると思いました。 現実と非現実の混沌の中を旅する主人公。 読み進むうちに増す不条理。 とてつもなく押しに弱い主人公は、「ま、いっか」とばかりにそれらの不条理を次々と受け入れてしまうので、入り口では思いもつかなかった出口に放り出される。 主人公だけではなく、読者の私たちも。 それは文章の持つイマジネーションの賜物でもある。 実際に見ることのかなわないものを、この目で見てきたかのように差し出される。 “外気に触れた途端に、鼻の中にもさもさっと雑草が生え繁った。水分が凍ったらしい。耳が付け根から痛んだ。せわしなくまばたきしながら、あなたは、四方を見回した。ああ、これがシベリアか。地面はすりガラス、遠景は筒抜け、指がもげ落ちる、耳がそげ落ちる、その寒さに舌を巻き、尻尾を巻いて、急いで車内に逃げ込んだ。” 北海道は今、新幹線開通に向けて盛り上がっている…ように報道されている。 けれど、新幹線のように一瞬で走りぬけていく列車ではなく、鉄の重さでえっこらやっこらようよう走っているような夜行列車が、今とても懐かしい。 “この頃、面白い人間を見かけない。面白い事件にも居合わせない。それは、お金の心配が無くなって、最短距離を取るようになったせいではないのか。” さて、主人公はなぜ「あなた」と呼びかけられているのか。 なぜ「わたし」ではなく、「彼女」ではないのか。 それは最後の方に明かされる。 そして、人称のない世界。 多和田葉子の筆は、軽やかに世界をまたぎ越す。
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本書は旅人の孤独が主題になっており、身一つで欧州をさまよう旅芸人がまがまがしい道ずれとの触れ合いを通じて絶望を深めてゆきます。 作品の特徴としては、二人称小説の特性(作者が、主人公の性別を限定していない)を活かして両性具有のモチーフを繰り返し持ち込み、悪夢の強度を高めています。そ...
本書は旅人の孤独が主題になっており、身一つで欧州をさまよう旅芸人がまがまがしい道ずれとの触れ合いを通じて絶望を深めてゆきます。 作品の特徴としては、二人称小説の特性(作者が、主人公の性別を限定していない)を活かして両性具有のモチーフを繰り返し持ち込み、悪夢の強度を高めています。そういう悪夢(=物語)そのものともいえる「あなた」の残酷な秘密が結末近くで明らかにされ、人生という終わりなき旅は、演劇的な狂騒に支配された「どこでもない場所」で幕を閉じます。きわめて美しい作品という印象を受けました。
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ヨーロッパのインターシティ(IC)は、日本人である私のとって、不思議な空間でした。寝台車の経験はないのですが、区切られたコンパートメントには、物語が生まれそうな雰囲気です。そのコンパートメントを軸にして、その不思議さを伝えています。 ある意味では、ヨーロッパ人にとって、ごくごく当...
ヨーロッパのインターシティ(IC)は、日本人である私のとって、不思議な空間でした。寝台車の経験はないのですが、区切られたコンパートメントには、物語が生まれそうな雰囲気です。そのコンパートメントを軸にして、その不思議さを伝えています。 ある意味では、ヨーロッパ人にとって、ごくごく当たり前の空間なのですが、その文化的なギャップを見事に突いています。 語り手は「あなた」と云われる日本人ダンサー、ヨーロッパではそこそこだけど、裕福ではない、日常性と非日常性の交替がすばらしい。 沼野先生との対談によると、これらの話は著者の実体験に基づくとか。乗り合わせた人と会話ができたら、そういう体験もあったかも。 難しい理論はtもかくとして、いわゆる「鉄」と云われる人にはたまらないところもあると思います。
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全13話(本書では輪と表記するが)からなる連作短篇集。そのいずれもが、表題通りに夜行列車での1人旅であり、「あなた」と2人称で語られる。きわめて静謐で、深みのある小説だ。プロットというほどのものもないのだが、それぞれの地名から喚起される情景と、列車内での情動を「あなた」である読者...
全13話(本書では輪と表記するが)からなる連作短篇集。そのいずれもが、表題通りに夜行列車での1人旅であり、「あなた」と2人称で語られる。きわめて静謐で、深みのある小説だ。プロットというほどのものもないのだが、それぞれの地名から喚起される情景と、列車内での情動を「あなた」である読者は追体験していくことになる。時間軸も現在であったり、また過去であったりするのだが、いずれの場合にも我々は独特の小説空間の中に身を置くことになる。そこは強いリアリティを持ちつつも、また茫洋とした夢のような異空間の世界でもある。
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多和田葉子の紡ぎ出す言葉は、いつも心地よい違和感に満ちている。 しかもこの本に収められた作品はどれも二人称で語られるので、不思議な言葉たちに包み込まれる感覚がたまらない。 いつも枕元に置いて、気がつくと再読している。
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長いあいだ意識しながらもなぜか手に取らなかった多和田葉子。今回はじめて読んでみたが、日本語をおもしろがって使っているような表現が新鮮だった。 読後感としては、不思議な旅をいくつかしてきたような感覚。 ただ、主人公が「あなた」になった経緯と、なぜ『“容疑者”の夜行列車』なのかがピン...
長いあいだ意識しながらもなぜか手に取らなかった多和田葉子。今回はじめて読んでみたが、日本語をおもしろがって使っているような表現が新鮮だった。 読後感としては、不思議な旅をいくつかしてきたような感覚。 ただ、主人公が「あなた」になった経緯と、なぜ『“容疑者”の夜行列車』なのかがピンとこなかった。再読すればわかるのだろうか。
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多和田葉子「容疑者の夜行列車」読んだ。http://t.co/qIJP69hJ 谷崎賞かなるほどね。「のである」多用の文体と全体から分離した比喩が固い違和感を生み出している。主人公の性格はねじくれている。最後2章は必要かなあ。全部が意図したものならすごい書き手だな。
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「あなた」と呼ばれる主人公は舞踏家として各地を回っているらしい。その「あなた」が土地から土地へと移動する夜行列車でのできごとを描いた短篇集。 設定がユニークであり、ヨーロッパに住んでいる人の香りがしてくるような文章はさすがのもの。ちょっと幻想小説っぽいところもいい。
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