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容疑者の夜行列車 の商品レビュー

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34件のお客様レビュー

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2025/01/15
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

全編が「あなたは」という二人称で語られる。各話は「第1話」ではなく「第1輪」と表記され、行き先の都市がタイトルにつけられる。 そして、「あなた」は夜行列車に乗り世界中を旅する。 「あなた」がどういう人なのかはほとんど説明されない。 職業はダンサーのようだが、踊る場面は描かれない。それ以外は名前も性別も年齢も国籍もハッキリとは書かれないから、読み手は自分なりの「あなた」を想像して読むしかない。 各話の登場人物が全て同一人物なのか、それとも行き先が変わる度に別の人物に入れ替わっているのか。それすらも序盤ではわからない。 主語の「あなた」を「わたし」にしても話は通じるが、読んだ印象は変わるだろう。 「わたし」が主語だと他人の視線は感じないが、「あなた」が主語だと誰かに見られているような不思議な感覚がする。 冷静に観察されているような気もするし、温かく見守られているような気もする。自分の意思で動いているようで、実際は誰かの手のひらで転がされているようにもみえる。 「あなた」は行く先々で大小さまざまなトラブルに巻き込まれ、おかしな人たちと遭遇する。 トラブルを回避したいなら、わざわざ不特定多数と出会い、無防備で、他人と接触する時間も長い夜行列車には乗らない。 快適に旅をしたいなら、特急や飛行機ですみやかに移動して、夜はホテルの個室で眠った方が快適だ。 にもかかわらず、「あなた」はわざわざ夜行列車に乗る。仕事の依頼主が交通費を負担してくれるときですら夜行列車に乗る。 そして、鉄道ストにぶつかり、密輸の片棒を担がされ、幼児虐待を疑われ、おかしな夢にうなされる。 それ以外の行程でも同様だ。まるで自らトラブルを引き寄せているようだ。 第1輪では、ハンブルクに帰るはずなのに、そのときロンドン行きの列車しか出ていないという理由で逆方向のロンドンへ行く。 第2輪では、早く駅に着いたから同じジーゲン行きのひとつ前の列車に乗れたのに、わざわざそれを見送ってしまう。「計画外の列車に乗って早く着いたつもりで得意になっていると、旅運の神様の逆鱗に触れる」のがその理由だ。 第8輪では、「何か面白いことがあると思って、せっかく夜行に乗ったのに、何もなかったんですよ」と不平を鳴らす。刺激を求めていることをもはや隠そうとしない。 第9輪でも、まっ平らな寝台に寝て「背骨が痛い」と文句を言いながらも、やはり夜行に乗っている。 終盤では「あなた」が誰なのか、なぜ「あなた」という二人称で語られるのか、なぜいつも夜行列車で旅をするのかが明らかにされる。 しかし、そのような成り行きがなかったとしても「あなた」は夜行列車に乗り続けるのではないかと思う。 目的と手段を逆転させ、夜行列車での長旅を楽しむためにわざわざ遠い目的地を選ぶのではないか。 現実の世界にもこういうタイプの人はいる。 人生の岐路において、特急や飛行機を選ばずに夜行列車ばかりを選んでしまう人。 ホテルの個室で落ち着いて休むのではなく、列車の振動に揺られながら、固くて無防備な寝台に寝転がる人。 「あなた」は世界各地を旅する。 パリ、グラーツ、ベオグラード、北京、ハバロフスク、ボンベイ、そしてどこでもない町へ。 同じ都市を巡るにしても、飛行機とホテルで旅するのと夜行列車で旅するのとでは出会う人々が異なる。見える景色も違う。 夜行列車でなければ出会えない人や起こりえない出来事は確実にある。

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2024/04/27

(再読)舞踏家の「あなた」は夜行列車に乗って旅をする。パリ、北京、ウィーン、ボンベイ・・・。終始、夢の中を彷徨うような居心地の悪さ、違和感、不安定さが付きまとう。繰り返し読んでいきたい作品です。

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2024/01/22

パリや北京や様々な都市に向かう夜行列車に乗るまでや車内での出来事が綴られているのだが、どれもがいささか不穏で不安定で神経を逆撫でされる心地である。すべてが夢の中のことだと言われたほうが腑に落ちるのである。しかも、容疑者というのがよくわからない。行き先が決まっているのに、決して辿り...

パリや北京や様々な都市に向かう夜行列車に乗るまでや車内での出来事が綴られているのだが、どれもがいささか不穏で不安定で神経を逆撫でされる心地である。すべてが夢の中のことだと言われたほうが腑に落ちるのである。しかも、容疑者というのがよくわからない。行き先が決まっているのに、決して辿り着けそうにない心許なさにも満たされていて、夜汽車特有の地に足がつかない感じに包まれる。

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2023/01/11

旅をする 目的地は12+1 旅の途中出会った人々と交わすわずかな言葉から膨らむ世界 私を終りのない列車の旅に連れて行ってくれる そうか、私たちはこんなふうに旅をしているんだ 本のタイトル、今の私には解らない

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2022/10/22

越境がテーマになった作品。 夜を超えて走る列車は、国境を超え、日常を超え、読者の思惑を超えて進む。 たぶん、この物語に終着点というものはなくて、「あなた」と名指され、否応なく物語に取り込まれてしまった読み手の私が、この先の夜を超えて引き受けてしまうんだろう。 それにしても、冒頭で...

越境がテーマになった作品。 夜を超えて走る列車は、国境を超え、日常を超え、読者の思惑を超えて進む。 たぶん、この物語に終着点というものはなくて、「あなた」と名指され、否応なく物語に取り込まれてしまった読み手の私が、この先の夜を超えて引き受けてしまうんだろう。 それにしても、冒頭で「あなたは」と指を突きつけられることで、こんなにもハッとさせられるとは思わなかった。語りを聞くはずの私が、語り手によって語られる存在にひっくり返された。 私は、今頃、どの辺りを走っているんだろうか?

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2022/03/12

エッセイが妄想に絡め取られていくよう。 何輪でも比喩が面白いので、語り手に多和田葉子みを感じずにはいられない(といえるほど、実は読んでないけれど) 物語としての納得感は弱かった。この狐につままれた感が良いのか、わかる人にはわかるのか…

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2020/10/30
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

ダンサーの主人公は学生時代から列車で旅をしたり 公演に向かうために移動したりする、列車での 移動はトラブル続きで一筋縄ではいかない。 語り口調や単語が独特で、読んでる私自身が列車に 乗って、危険な目に合ったり、奇妙な人々と 交流したりする錯覚に陥りました。 そういった文体のテクニックかと思っていたら、 最後に種明かし(?)のような結末が。 文章に使われることばが新鮮でした。 「紅鮭のような嘘」(P29)ってどんな嘘なんだろう。

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2020/06/15

十数年前には夜行列車はよく利用したが、ドイツの列車で利用したコンパートメントが何度も出てきて懐かしかった.たまたま若い女学生と一緒になり、日本の様子を紹介した思い出がある.本書の主人公も夜行列車で様々な事件に遭遇するが、シベリア鉄道に乗車中、夜はトイレに行った際に落下して、近くの...

十数年前には夜行列車はよく利用したが、ドイツの列車で利用したコンパートメントが何度も出てきて懐かしかった.たまたま若い女学生と一緒になり、日本の様子を紹介した思い出がある.本書の主人公も夜行列車で様々な事件に遭遇するが、シベリア鉄道に乗車中、夜はトイレに行った際に落下して、近くの家で妙な歓待を受けた話は楽しめた.バーゼルへの列車であった女優ミミの独白も面白かった.空想の世界に遊ぶことは有意義なことだと感じた.

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2020/03/08

公演のため、飛行機に乗るため…様々な理由で夜行列車じに乗る。 そこで出会う人々、出来事。 多和田さんの作品の距離感が好きだ。 人物同士の距離感、物語と読み手の距離感。 そして通底する言語へのこだわり。 いい。

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2022/11/13
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

「あなた」と呼ばれる主人公が、世界各地でちょっとした不思議な出来事に遭遇する連作集ですが、それぞれの話の時系列は、つながっていたり、縦横無尽に入り乱れていたり、様々です。全ての話に共通しているのは、夜行列車でどこかに移動すること。現実、幻想、夢も入り乱れているなかでの、様々なストーリーは、シニカルな中にもコミカルさがあり、楽しく読ませていただきました。第12輪の最後で明かされた、「あなた」の謎は、なんとも言えない不思議な気分になりました。

Posted byブクログ