日の名残り の商品レビュー
語り口が優しく、上品で、語り手の誠実さが伝わってくる。そんな文体でした。 ミス・ケントンとの関係を直接表現しないところは、主人公の慎ましさを感じさせつつ、その切なさを際立たせているように感じました。別れ際のミス・ケントン(ミセス・ベン)の描写は、胸に迫るものがありました。 そし...
語り口が優しく、上品で、語り手の誠実さが伝わってくる。そんな文体でした。 ミス・ケントンとの関係を直接表現しないところは、主人公の慎ましさを感じさせつつ、その切なさを際立たせているように感じました。別れ際のミス・ケントン(ミセス・ベン)の描写は、胸に迫るものがありました。 そして、この本から一貫して感じる「心地よさ」。これが品格の本質なのではないかと感じます。 つまり、「『心地よさ』を人に与えられる。」これこそが品格ということではありますまいか。 本作の大きなテーマを、この作品そのものが体現しているように感じます。
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あたたかい文章だった。ある男の、過ぎ去った二度と戻らない栄光の日々を思い出す物語。機会があれば是非とも英国を訪れようと私は決意した。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
自分がどうしようもない人間だと気付くのは恐ろしい。 後悔はないと思っていたとしても、その認識自体が過ちであったとしたら? 気づかないよう虚勢を張り続けているのだとしたら? それでも「夕方が一番いい時間」と言い、涙を流した後はジョークの練習をするのだ、という話なのだが、ページをめくるほど薄皮を剥ぐように変わっていく人物評価が効果的で、今の自分にはくらった感の方があまりに強い。し、しんどい… 悲劇的なのだがユーモラスでわずかに温かみがある。高度な作品。 4年前に買っておいたものをようやく読んだ。
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カズオイシグロのゴリゴリの一人称視点で、古き良き大英帝国の品格を持つ(?)執事の過去と今が書かれている本作。 最近見るエンタメ作品はテーマに対して直接的な表現をしていることが溢れているが、本作のように遠回しに、主人公の在り方を風刺することは非常に高度な技術だと思う。 後半に進むに...
カズオイシグロのゴリゴリの一人称視点で、古き良き大英帝国の品格を持つ(?)執事の過去と今が書かれている本作。 最近見るエンタメ作品はテーマに対して直接的な表現をしていることが溢れているが、本作のように遠回しに、主人公の在り方を風刺することは非常に高度な技術だと思う。 後半に進むにつれて事実が明かされ、非常に面白くなっていく。 ノーベル文学賞も納得の作品。
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本作が原作のアンソニーホプキンス主演の映画を見てから、本を読んだ。振り返ってあのとき別の選択をしていたら、、と思う事、それでも生きてきたこの道がほんとうの人生なわけで、それを否定は出来ず、苦酸っぱい思い出をかみしめる主人公に切なくなる。
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少し退屈だったが、丁寧に書き込まれていた印象。 いま手にしているものに満足し、感謝せねばなりますまい。それに、あなたには満足するべき十分な理由があるではありませんか。 夕方が一日でいい時間なんだ。
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ダーリントン・ホールで執事として働くスティーブンス。ご主人がダーリントン卿からアメリカ人のファラディに変わり、彼の勧めでイギリス西部の旅に出ることに。その旅先で再会しようとするのが、かつて同じ屋敷で働いていた女中頭のミス・ケントン。旅の途中で屋敷で起こったさまざまな出来事を考えた...
ダーリントン・ホールで執事として働くスティーブンス。ご主人がダーリントン卿からアメリカ人のファラディに変わり、彼の勧めでイギリス西部の旅に出ることに。その旅先で再会しようとするのが、かつて同じ屋敷で働いていた女中頭のミス・ケントン。旅の途中で屋敷で起こったさまざまな出来事を考えたり回想したりしながら話は進む(といっても進むのはたった4日間だ)。スティーブンスの考える品格について、ミスケントンが父親の老化を指摘したこと、父が倒れてからその後しばらくして開かれた国際会議、ダーリントン卿のフランスの姿勢への批判、アメリカ人のルーイスの言葉に対してダーリントン卿の言ったこと「あなたが"アマチュアリズム"と軽蔑的に呼ばれたものを、ここにいるわれわれの大半はいまだに"名誉"と呼んで、尊んでおります」、1923年の会議と父の死、ミスケントンとのココア会議の終焉… ミスケントンが叔母の死に直面した時、お悔やみに何を言えば悲しみを少しでも軽くしてやれるかなんてスティーブンスは考えていたか、自分ならなんでもできるという傲慢さか。助けてもらったテイラー夫妻のことを田舎者として割とこきおろす、チャーチルと会ったことを自慢し始める、品格を語る彼のもう一つの側面だろう。 主人にお仕えすることに一生を捧げた男、そのご主人も最後にはナチスドイツの肩をもったことから不遇の晩年を送ることになるわけだが。ミスケントンの恋心にも気づかず、ひたすら職務を全うすることに心血を注いだ男は果たして幸せだったのか。 「民主主義は過ぎ去った時代のものだ。…烏合の衆が話し合って何になる。」 「せっかくのいい考えも、あの委員会この委員会を通過しているうちに、全工程の半分も行かないうちにすっかり骨抜きにされてしまう。もののわかった少数派は、周囲の無知な多数派に野次り倒されて、沈黙せざるをえない。」 「執事の任務は、ご主人様によいサービスを提供することであって、国家の大問題に首を突っ込むことではありません。…大問題を理解できない私どもが、それでとこの世に自分の足跡を残そうとしたらどうすればよいか……?自分の領分に属する事柄に全力を集中することです。」
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うまく表現できないが、文学読んでますっ!という気分になる。 取り立てて何か大きな出来事が起こるわけでもない物語なのに、文体や表現、言葉遣いなどから情景がありありと浮かび、次から次に読み進めたくなる。 それこそが、名作というものなのだろうかと思ってみたり。 驚く内容があるわけ...
うまく表現できないが、文学読んでますっ!という気分になる。 取り立てて何か大きな出来事が起こるわけでもない物語なのに、文体や表現、言葉遣いなどから情景がありありと浮かび、次から次に読み進めたくなる。 それこそが、名作というものなのだろうかと思ってみたり。 驚く内容があるわけではないのに、誰かに何かを聞かれたら『日の名残りが良いよ』と言ってしまうだろう作品。生涯記憶に残る作品だろうと思う。
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カズオ・イシグロさんの作品を読むのは2作目。「クララとお日さま」の時にも感じたような何とも言えない余韻。 イギリスのダーリントンホールで働いていた執事のスティーブンス、主であるダーリントン卿が亡くなった後、アメリカ人ファラディ氏の手に渡る。ファラディ氏の希望で前に勤めていたメン...
カズオ・イシグロさんの作品を読むのは2作目。「クララとお日さま」の時にも感じたような何とも言えない余韻。 イギリスのダーリントンホールで働いていた執事のスティーブンス、主であるダーリントン卿が亡くなった後、アメリカ人ファラディ氏の手に渡る。ファラディ氏の希望で前に勤めていたメンバーを引き継ぎたいと。しかし既に多くの人が辞めており、残ったのはスティーブンスを含め4人。ファラディ氏からは「大変だろうけど4人で何とかやってほしい」と。人員不足に悩む執事であったが、ある日休暇をもらい、女中頭であったミス・ケントンを呼び戻すことはできないか...と旅に出る。 道中はイギリスの美しい風景の描写や、スティーブンスの執事論、過去の仕事や偉大な執事の話などが描写される。新しい主であるファラディ氏に良いサービスを提供するためにアメリカ式のジョークなどを必死に学ぼうとする姿が面白い。論理の展開のさせ方は執事ならではというか、そういう文化に親しんでない僕には新鮮だった。 そんな感じで読み進んでいたのだけど最後の最後で景色ががらりと変わってしまい。そうか...スティーブンスの心の中は〇〇だったのか...と何とも言えない気持ちになった。人の心って複雑怪奇だわ...とイシグロさんの描写力に感嘆。
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良かった 語り手が執事だけど、終始堅苦しい訳でもなく所々ユーモアが散りばめられていてクスッとなる 切なさがあった
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