海峡の光 の商品レビュー
かつて自分を虐めていた存在がやってきたことは主人公にとって緊張感や恐怖などを与えるものだったのでしょうが、同時に停滞していた主人公の生活に刺激となって風を吹き込んだのだと思います。 この後どうなっていくのかは多少気になりますが、主人公といじめっ子との間に完全に上下関係が出来上が...
かつて自分を虐めていた存在がやってきたことは主人公にとって緊張感や恐怖などを与えるものだったのでしょうが、同時に停滞していた主人公の生活に刺激となって風を吹き込んだのだと思います。 この後どうなっていくのかは多少気になりますが、主人公といじめっ子との間に完全に上下関係が出来上がった段階で、そうそう物語に変動は起きないのかなとも思いました。
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芥川賞受賞作であることに疑問の余地は一寸たりとも無いであろう。青函連絡船が廃止になるにあたってその客室係から転進し、函館市内の刑務所の刑務官として働く男が主人公である。物語は、主人公を小学生時代に陰湿な苛めにあわせた花井という男が入所してくるところから始まる。過去の忘れがたい記憶...
芥川賞受賞作であることに疑問の余地は一寸たりとも無いであろう。青函連絡船が廃止になるにあたってその客室係から転進し、函館市内の刑務所の刑務官として働く男が主人公である。物語は、主人公を小学生時代に陰湿な苛めにあわせた花井という男が入所してくるところから始まる。過去の忘れがたい記憶が往来し、花井の挙動に翻弄される主人公の心の揺れを、作者は巧みな文章と言葉で表現する。読者がまるでそこに居合わせるような錯覚さえしてしまう生き生きとした情景描写、そして主人公の心理描写は、自分の意識と不意に交錯するかのごとく読み入ってしまうほど絶妙である。 後半、主人公が青函連絡船羊蹄丸の最終航海便に乗船した際、反対航路から向かってくる八甲田丸とすれ違うシーンで描かれた躍動感と情景描写はあたかもそうした情景を目撃したかのような感覚が脳裏に残った。鮮烈である。 作者の小説家としての非凡なる才能に圧倒された一冊だった。
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恋愛小説のイメージが強く、学生のころに「クラウディ」一冊読んだきりで、その後ほとんど読んだことのなかった作家でしたが、今回この作品を読んでイメージが変わりました。 こんなに硬質な(古風な?)文体で書かれているとは思わなかった。 いじめられっ子だった主人公が少年刑務所の看守、いじめ...
恋愛小説のイメージが強く、学生のころに「クラウディ」一冊読んだきりで、その後ほとんど読んだことのなかった作家でしたが、今回この作品を読んでイメージが変わりました。 こんなに硬質な(古風な?)文体で書かれているとは思わなかった。 いじめられっ子だった主人公が少年刑務所の看守、いじめっ子だった花井が受刑者として刑務所で再開する話。 主人公の心の葛藤が延々と続き、希望という「光」も見いだせない…読後感の重い作品でした。
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私が抱えている悪夢の一つに、大学に入学できなくてこのまま高校生活を続けないといけない、という内容がある。定期的に見るのだが、20年以上たった今もうなされる。高校の頃に遭ったいじめの体験は、そのぐらい鮮烈だ。 私は、自分が力を持った状態でいじめた相手に対峙したとき、どんなふるまいを...
私が抱えている悪夢の一つに、大学に入学できなくてこのまま高校生活を続けないといけない、という内容がある。定期的に見るのだが、20年以上たった今もうなされる。高校の頃に遭ったいじめの体験は、そのぐらい鮮烈だ。 私は、自分が力を持った状態でいじめた相手に対峙したとき、どんなふるまいをするのだろう。
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暗いお話。主人公は卑屈だし、花井さんが何をしたいのかわからないし、短気な人多いし・・ 多くを語らずに想像させてくれるのがいいところともいえる。
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自分はひょっとして偽善者ではないのか?ということを 考えすぎてついおかしな行動に走ってしまい そしてそうしたとき、まさに自分は解放されていると そんなふうに感じてしまうことが、まあ 誰しもにはないかもしれないが 自分らしく生きることが知らず知らずのうちに 誰かを傷つけてしまうもの...
自分はひょっとして偽善者ではないのか?ということを 考えすぎてついおかしな行動に走ってしまい そしてそうしたとき、まさに自分は解放されていると そんなふうに感じてしまうことが、まあ 誰しもにはないかもしれないが 自分らしく生きることが知らず知らずのうちに 誰かを傷つけてしまうものだとすれば そして、それに素で気付かないでいることが 偽善などと言われてしまうぐらいなら いっそ最初から罪人として扱われたほうが気がラクなんじゃ そんな話だと思ってひどいけどおもしろだった
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
廃止が決定された青函連絡船。少年刑務所や舞台となっている土地などの要素から、寒々しい寂寥感や疎外感といった感覚を強く覚えます。それは、少し前に読んだ桜木紫乃「硝子の葦」にとても良く似ていると思いました。(発表年は本作の方がかなり前になりますが。) そのせいか、ボリュームが薄いはずなのにページをめくる手がものすごく重々しく感じられ、読了するのに意外と時間がかかりました。改行の少ない、重々しい文章もその一翼を担っているのかな、とも思います。(この重々しさを醸し出すために、わざとそういう文章にしてる?) ただ、作品の内容——というより、花井の行動——が解せなくて、読み終えた後はなんだかモヤモヤした気分に。 彼の理解しがたい行動の理由としては、ヒエラルキーの低い領域内でお高くとまっていたいのか?くらいしか想い当たりません。 そして、刑務官としてそんな花井を「制御」できることに増長している主人公も、かつていじめる側、いじめられる側と対局にいたはずなのに、たいしてかわらないように思います。 タイトルに「光」とあるので、もっと希望に満ちた内容や結末があると思ってました。けれどそれは、いずれ光ることを止めてしまう青函連絡船のそれをさしてるのかな、などと思ってみたり。その「光」は、海峡を渡ろうとせずに見知った世界に閉じこもってしまう主人公と花井の、鬱屈として発展性の無い将来を象徴してるように思いました。
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辻仁成・・冷静と情熱のあいだぶりかな、読むの。 高校の教科書に載ってたらしくFacebookで話題になったので読んでみた。
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刑務所で働く主人公の元に、小学生の頃同級生だった人物が入所する。昔と立場は逆転したはずなのに、主人公はその同級生に振り回される。 刑務所で働くそれまでのエピソードを函館という舞台に密着させて描く。暗流の海のようなどこか儚く閉塞的な空気は読み進める度に深みを増し、意識を沈められ息...
刑務所で働く主人公の元に、小学生の頃同級生だった人物が入所する。昔と立場は逆転したはずなのに、主人公はその同級生に振り回される。 刑務所で働くそれまでのエピソードを函館という舞台に密着させて描く。暗流の海のようなどこか儚く閉塞的な空気は読み進める度に深みを増し、意識を沈められ息苦しく、まさに溺れるような錯覚を思う。果たして、そんな中のどこに光などあるのだろうか?
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色々な表情があるのが海。 暗く、重苦しい、冬の海もある。 函館の刑務所の看守官として働く主人公。子どものころに酷いいじめで苦しめたやつが受刑者となり、自分の前に現れる。自分を虐げたものへの憎しみ、過去の辛い記憶、看守とゆう立場になり、貶めたいと思う心に、苛まれる。 全編を通じ...
色々な表情があるのが海。 暗く、重苦しい、冬の海もある。 函館の刑務所の看守官として働く主人公。子どものころに酷いいじめで苦しめたやつが受刑者となり、自分の前に現れる。自分を虐げたものへの憎しみ、過去の辛い記憶、看守とゆう立場になり、貶めたいと思う心に、苛まれる。 全編を通じて、『私』視点で描かれている。私の鬱々とした心の闇を、仄暗い海を背景にしてスケッチされている。 辻仁成はすかした感じで、好きではない。多分、読むことはないと思っていたけど、重厚な文体がなかなかよかった。
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