海峡の光 の商品レビュー
読書開始日:2022年1月22日 読書終了日:2022年1月24日 所感 面白かった。 あっという間に読めたし、読みやすかった。 花井修は誰にも邪魔をされず悟りたかった。 どこへ行ってもエリートで手のひらでなにもかもを踊らすことができることに、逆に嫌気が刺したのか。 房の中で、大...
読書開始日:2022年1月22日 読書終了日:2022年1月24日 所感 面白かった。 あっという間に読めたし、読みやすかった。 花井修は誰にも邪魔をされず悟りたかった。 どこへ行ってもエリートで手のひらでなにもかもを踊らすことができることに、逆に嫌気が刺したのか。 房の中で、大仏となった。 これは、斉藤の視点に立ってみたとき。 ここからは、自分の視点。 花井修は恐らく小学校の時点で成長が止まった。函館をでた時点で成長が止まった。 自らが手のひらで踊らせられるステージに戻った。 羊蹄丸の廃航の様に、花井修も娑婆を諦めた。 だからこそ房にこだわった。 最終的に斉藤を昔みたいに利用して仮釈放の権利をお釈迦にした。 花井は隠居したかった。 トラウマを植え付けられた斎藤からしたら、いけるところまで花井に飛躍して欲しい深層心理があるが、それすら蔑む花井。 それでも最後は斉藤が、ある種憧れてた花井に、ただのジジイとレッテルを貼れた。 舌鋒 ガラスを握りしめる手元が言葉よりもはっきりと私を責め立てる 肌色の旗が翻るような舞 風光絶佳 海中に差し込んでくる光の鋭角な瞬き 大動脈、細い血管 話題がなくなった退屈な時間 カタルシス=清浄なものにすること、浄化、正当化 巧言 挙措 焦慮 心の整理が十分癒されきったかさぶたの色には見えなかった すごく泣きたいのにさ、溢れてくるものがなくて、それで手首を切っちゃった 無性に誰かを信じてみたかった 静は小さく震えた声で私の真意を覗き込もうとした 森厳な美しさ 何かを語れば、それが彼女の未来を決定してしまう気がして怖かった。希望も絶望も全て海峡の光の中にあると思った ロシアから吹き付ける凍てついた風 雪と血 間雲孤鶴
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冬の函館、船乗り、監獄の話など僕自身とは関わりのない設定ばかり、不思議とのめり込んで読んでしまった。 一生を花井修に支配されて生きてゆく主人公は可哀想であるし、反対に人の人生を左右し大きな影響力を保つことのできるイジメの魅力についても少しだけ共感してしまった気もした。しないけれど
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主人公であり刑務所看守の私の逃れられない苦しみと、その原因をつくった受刑者である花井。 なんともカオス。 そして花井がサイコパス過ぎて怖い。 どうなるの? この先はどうなるの?と夢中になって読んでしまった。 お互いに制裁を加えたい。 だけれどもお互いに罪悪感の中で生きてい...
主人公であり刑務所看守の私の逃れられない苦しみと、その原因をつくった受刑者である花井。 なんともカオス。 そして花井がサイコパス過ぎて怖い。 どうなるの? この先はどうなるの?と夢中になって読んでしまった。 お互いに制裁を加えたい。 だけれどもお互いに罪悪感の中で生きていて、 それを償うように生きている。 「お前はお前らしさを見つけて、強くならなければ駄目だ」 だれしもそれがわからなくてもどかしく生きているのではないかと思った。
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廃航せまる青函連絡船の客室係を辞め、函館で刑務所看守の職を得た私の前に、あいつは現れた。少年の日、優等生の仮面の下で、残酷に私を苦しめ続けたあいつが。傷害罪で銀行員の将来を棒にふった受刑者となって。そして今、監視する私と監視されるあいつは、船舶訓練の実習に出るところだ。光を食べて...
廃航せまる青函連絡船の客室係を辞め、函館で刑務所看守の職を得た私の前に、あいつは現れた。少年の日、優等生の仮面の下で、残酷に私を苦しめ続けたあいつが。傷害罪で銀行員の将来を棒にふった受刑者となって。そして今、監視する私と監視されるあいつは、船舶訓練の実習に出るところだ。光を食べて黒々とうねる、生命体のような海へ……。海峡に揺らめく人生の暗流。芥川賞受賞。 第116回下半期芥川賞受賞作。刑務官の主人公が働く刑務所で同級生と出会う話。自分が主人公の立場だったら?と考えると複雑な気持ちになった。読み始めてすぐに三島由紀夫氏『金閣寺』が浮かんだ。なぜだろう。かっちりした文章がそう思わせたのかもしれない。
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何度も読んだ本。まず表紙のコメントが好きですね。「光を食べて黒々とうねる、生命体のような海へ…」とか「海峡に揺らめく人生の暗流」って。こんな事すらっと言いたい。まあそんな感じで、斎藤と花井、静、羊蹄丸時代の仲間たち、刑務所と娑婆、砂州の向こうの世界、過去と未来…、あらゆる関係に「海峡」が横たわっている事を随所に感じる。歯痒さと気怠さと諦めと。そんな思いが海峡を深くする気がした。それにしても、君子の自殺の理由を「思い込むと一途な性質ゆえ、男に振り回された挙句の〜」の男ってあんただよって斎藤に言いたくなるね。
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すみません…辻仁成さまの本は、わりと最近のかろやかなやつしか読んでなくて、こんな硬質で、日本語の音と表記にこだわりまくったずしんとくる作品を知らずに来てしまいました。 青函連絡船配信直前の函館を舞台に、元船乗りの刑務官と、昔、彼をいじめており、動機不明な傷害事件で収監されたエリー...
すみません…辻仁成さまの本は、わりと最近のかろやかなやつしか読んでなくて、こんな硬質で、日本語の音と表記にこだわりまくったずしんとくる作品を知らずに来てしまいました。 青函連絡船配信直前の函館を舞台に、元船乗りの刑務官と、昔、彼をいじめており、動機不明な傷害事件で収監されたエリートとの、「邂逅」…とでも呼ぼうか…を描いた芥川賞作品。 ちょっと…三島風? ここまで重いものを書いてしまったら、あとは軽やかに、そりゃあ生きたいだろうよと不思議な納得をさせられる。 江國香織さんの解説が良き
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言葉の扱いが秀逸で心に響きます! 本作は97年に芥川賞を受賞した作品で函館の少年刑務所の刑務官である私と小学校時代の虐めっ子の同級生が傷害罪で入獄し立場が逆転した狭い内側世界での出来事。 私は以前函館と青森を結ぶ青函連絡船の船客係りだったが青函トンネル開通に伴う連絡船の廃止...
言葉の扱いが秀逸で心に響きます! 本作は97年に芥川賞を受賞した作品で函館の少年刑務所の刑務官である私と小学校時代の虐めっ子の同級生が傷害罪で入獄し立場が逆転した狭い内側世界での出来事。 私は以前函館と青森を結ぶ青函連絡船の船客係りだったが青函トンネル開通に伴う連絡船の廃止が決まった矢先に同僚に先んじて第二の人生を陸に上がり公務員の道を選んだ。 仕事は函館少年刑務所の刑務官だったがある日、陰険で策士で虐めっ子である小学校の同級生が傷害犯として入獄して来た、お互いに自分を語る事なく監視する立場とされる方の関係だが私は卑屈になり頭の中は小学校時代に私を蹂躙してきた同級生の事でいっぱいで彼は何かを企んでいると思いながら適度な距離を保ちつつ監視しているが、同級生は何のわだかまりも無く無感動で模範的な囚人生活を送り続ける。。。 刑務所と連絡船と函館のとある小さな街が全ての世界である主人公に突然外側世界から刑務所という極端に狭い内側世界に人生で二度と触れたくなかった同級生がやって来て主人公の心の内側にも影響を及ぼし始めるが主人公と同級生の狭い関係の間には漆黒の深い海峡の様な溝が横たわっていた。 著者の作品を初めてですが言葉遣いが綺麗で素敵です。暗い調子の小説ですが著者の文章にはギリギリと追い込む感が無くとても読みやすいです。
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流石の芥川賞受賞作。 江國香織の後書にあるとおり、『極めて純度の高い文章で構成されて、あちこちに詩情を出現させてる。ここでは、何かがあって、それを表現するために言葉があるのではない。まず言葉があり、言葉が何かをつくりだすのだ。』 やっぱり、本を読むという事って良いな。
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函館の少年刑務所(少年刑務所といっても少年の為の刑務所ではなく、初犯の刑期が八年未満の者が入る刑務所)の刑務官が、小学校時代に苛めを受けていた同級生が入ってきて、その正体に気付いていないと判断しながら、本性を現すのを見張り続けていく話である。過去に受けた苛めをバネに2度と苛められないように強くなった主人公と、自分からは手を出さないが、周囲を巻き込み陰湿な苛めを繰り返していた相手。その人生が一見逆転したかのように感じられるが、模範生のように振る舞い、刑期が短くなると自分からまた刑務所に戻るような事件を起こす相手の本心が分からず、ヤキモキする主人公。読んでいるこちらも、結局真相が分からずヤキモキする。結局、相手の本心は、その相手にしか分からず、こちらがどう思おうがわからないということか。要するに相手の本心をあれこれ模索して心配するより、こちらの気持ち次第でどうにでもなるという事か。
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はっきりとは書かないけど人物を通して人間の一面を抉り出す系の作品。それを生み出す表現力。こういうの好きです。
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