海峡の光 の商品レビュー
青函連絡船の職を辞した斉藤は、函館の刑務所の看守として働くことになります。 そんな彼が務める刑務所に、小学校時代の同級生だった花井修が服役してくることになります。優等生だった花井は、いじめっ子たちを影から操って、斉藤をいたぶっていたのです。斉藤は、かつて自分を苦しめた男が、今は...
青函連絡船の職を辞した斉藤は、函館の刑務所の看守として働くことになります。 そんな彼が務める刑務所に、小学校時代の同級生だった花井修が服役してくることになります。優等生だった花井は、いじめっ子たちを影から操って、斉藤をいたぶっていたのです。斉藤は、かつて自分を苦しめた男が、今は自分に監視される立場に立たされているという優越感に浸りますが、しだいに彼の心のうちに、自分の心情が花井にコントロールされているのではないかという猜疑心が芽生え始めます。 かつて交際していた溝口君子が、連絡船から投身自殺した事件や、逸早く再就職の道を見つけた斉藤にかつての同僚の妬みがぶつけられるエピソードなどを織り込みながら、看守としての役割に徹する主人公の、心のうちの揺らぎを描いた作品です。
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来月の舞台を見に行く前の予習。 舞台では、主役が看守ではなく囚人になるとのことで、小説とは違ったものになりそうで期待。 細かな心理描写や情景を舞台上でどのように表現されるのか?
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作者が育ったとされる函館を舞台とした二人の男の話。「私」の前に現れたのは、かつての「私」を苛めた主犯格の「花井」。看守と受刑者となった二人の関係は、立場が逆転したと思われたが..... 「私」が葛藤する反面「受刑者」となった「花井」の心は闇のままで、わずかに語られる言葉がより一層...
作者が育ったとされる函館を舞台とした二人の男の話。「私」の前に現れたのは、かつての「私」を苛めた主犯格の「花井」。看守と受刑者となった二人の関係は、立場が逆転したと思われたが..... 「私」が葛藤する反面「受刑者」となった「花井」の心は闇のままで、わずかに語られる言葉がより一層闇を深くする。二人の男にとっての自由とは何なのか?
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来春、初舞台化が予定されている著者の芥川賞受賞作。函館が舞台で、その閉塞感が全編に溢れている。一文一文が珠玉の美しさを成し、主人公の内面の葛藤を見事に描き出した傑作です。
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1996年下半期芥川賞受賞作。暗く硬質な抒情が、一貫してこの小説の通奏低音として流れている。そもそも小説世界そのものが狭く、きわめて閉鎖的だ。物語の舞台に選ばれているのは函館なのだが、そこで描かれるのはエキゾティックなトーンを持った街ではなく、あくまでも狭い砂洲の街である。しかも...
1996年下半期芥川賞受賞作。暗く硬質な抒情が、一貫してこの小説の通奏低音として流れている。そもそも小説世界そのものが狭く、きわめて閉鎖的だ。物語の舞台に選ばれているのは函館なのだが、そこで描かれるのはエキゾティックなトーンを持った街ではなく、あくまでも狭い砂洲の街である。しかも、さらに閉塞状況を高めているのは、少年刑務所こそが小説の主たる舞台であるからだ。しかも、主人公の斉藤は2重の意味での過去に囚われており、そこから抜け出すことができない。辻仁成の小説から1作を選ぶなら、今のところはこの作品だろう。
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1996年芥川賞受賞作。とても久しぶりに、辻仁成を読みました。このひとはなんといっても、中学受験の国語で読まされた印象が強く、それはつまりきちんとした日本語で万人にある解釈を促す物語を書いているということで、苦手意識を持っていました。「海峡の光」はやっぱり優等生的なふうにもおもえ...
1996年芥川賞受賞作。とても久しぶりに、辻仁成を読みました。このひとはなんといっても、中学受験の国語で読まされた印象が強く、それはつまりきちんとした日本語で万人にある解釈を促す物語を書いているということで、苦手意識を持っていました。「海峡の光」はやっぱり優等生的なふうにもおもえて、でもわたしは既読の辻仁成作品でこれがいちばんすきだとおもった。北国の海の暗くて素朴な力強さ、潮の匂いがするような錯覚に陥ってしまうその描写力は素直に感嘆。あと全編に溢れる閉塞感といい、花井という存在が醸し出す理不尽な、不合理で予測のつかない暴力の予感といい、この物語の核となる部分に、わたしは非常に惹きつけられる。主人公にとって花井は、世界の不条理さ、暴力性そのものであり、本当は花井は主人公自身何度も思う通り現実的力をたいして持たない、ふつうの、すこし歪んでしまった人間であるのだけれど、そのすこしの「歪み」が主人公にとってはまさに脅威であって、逃れられない。花井に対する畏怖と嫌悪と軽蔑と、時折混じる同情と、劣等感と。最も憎むべきものであるけれど、その暴力性が閉塞感を破るような期待を向けたり、憧れを抱いたりもしているようにおもえるし、そうしたら暴力というものは、ほんとうにわたしたちは逃れることができなくて、しんどいとおもった。とりあえずここには、暴力を扱った物語の、重厚感と確かさがある。どこにも辿り着かなかない暴力のおはなし。
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「海峡の光」辻仁成◆刑務所看守として働く斉藤が函館の刑務所で出会った受刑者・花井は、かつて斉藤を苛めていた男だった。仮面の下に見え隠れする花井の本性が怖い。何から何まで語られるわけではないがそれが余計に不気味で、詩的で奇麗な文体だけど読むうちに深く暗い所へ引きずられていくような。
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先日辻さんのトークショーに行き、今まで読まず嫌いしていたんだがそれも良くないと想い手に取った作品。 光が存在するところには必ずその裏側に闇が存在する。 人も同じではないか。 みな光だけで構成されているのではなく、闇の部分も持ち合わせている。だけど、どうも闇とはわかりづらい。 その...
先日辻さんのトークショーに行き、今まで読まず嫌いしていたんだがそれも良くないと想い手に取った作品。 光が存在するところには必ずその裏側に闇が存在する。 人も同じではないか。 みな光だけで構成されているのではなく、闇の部分も持ち合わせている。だけど、どうも闇とはわかりづらい。 その闇も含めて付き合える仲がやはり「ともだち」と呼べるものであるべきなのだろう。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
不条理 闇 …新ジャンル開拓しようと読みましたが、よくわからなかった、というか謎が解けかけたような全然そうでないような… そんな感じなラストでした。 冷静と情熱のあいだの人なんですねー。(読んだことないけど) たしかに江國さんと対極的かも。
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舟越桂さんの装丁が好きで買ってしまった。そういう本との出会い方もよいかなと思う。読んでみて、辻仁成さんへの印象も少し変わった。終わった青春を見つめる俯瞰をしている。
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