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海峡の光 の商品レビュー

3.7

112件のお客様レビュー

  1. 5つ

    23

  2. 4つ

    35

  3. 3つ

    28

  4. 2つ

    10

  5. 1つ

    2

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2023/10/10

一般的にこういった小説を純文学と呼ぶとき、その要素として余白が語られることがあり、それは読後に読者が抱くものの自由さ(解釈の余地ともいえる)を指す。 ただ、その自由さには「これはいったいどういうことなんだろう」と小説内で自分の思考が循環してしまうような閉鎖的な自由さを性質として持...

一般的にこういった小説を純文学と呼ぶとき、その要素として余白が語られることがあり、それは読後に読者が抱くものの自由さ(解釈の余地ともいえる)を指す。 ただ、その自由さには「これはいったいどういうことなんだろう」と小説内で自分の思考が循環してしまうような閉鎖的な自由さを性質として持つ「余地」と小説内にちらばるエッセンスを出発点として自分や世界に対して思考の広がりを持つ「余地」があり、この小説は前者であると私は感じた。 作品内に通底する感覚の着地点が濁されているように思えた。それは何か物語として綺麗な結末や、登場人物の関係性の変化を求めているのでなく(結果としてそうなることもある)、作り手が作品をこうだと規定する意思のようなもので、読み手が抱く自由さとは真逆のものだと思っている。

Posted byブクログ

2023/06/18
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

2年前まで連絡船の客室係をしていた主人公の斉藤は、廃航を目前に刑務官となり、函館の少年刑務所に務めています。そこに、小学校の同級生、花井修が囚人としてやってきました。花井は優等生でありながら裏黒い一面があり、その目撃者である主人公を残忍にいじめ続けた過去があります。30歳前後での再会であり、花井は斉藤を認識してか否か、模範囚でありながら得体のしれない行動をとり続け、2度の恩赦を反故にし、壁の中に居座り続けます。故郷の小さな町で、家族、元受刑者、元同僚、等との様々な関係に息苦しさを感じながら、尚且つ受刑者である花井の悠然とした姿勢から何故か目を離せない主人公の心の機微が、細やかに描写されています。 第116回芥川受賞作品。当時の夫人である南果歩が、縁起担ぎに「うん(運)〇」入りのおむつを電話の横に置いて受賞の連絡を待った、というエピソードを読んだことがあります。先日その後の夫人であった中山美穂との子どもとのフランスでの生活がBSで紹介されているのを目にし、興味を持って初めて読んでみました。著名な女優さんとの結婚を華やかに繰り返す人というイメージしかなかったので、こんなに繊細な文章を書くロッカーだということに意外な心象を持ちました。

Posted byブクログ

2023/04/05

昔読んだ作品の再読。この作品が芥川賞をとる前に読んだが一読で好きになった。心のひだや処理できない思いなど、蓄積された気持ちのゆくすえが題名の海峡の光と真逆でなんとも哀しかった。

Posted byブクログ

2022/12/31

高校生のころに初読した作品だけど、その時は全くわからなくて、再読したら前よりは少しわかったような気がしたけれど、やっぱりよくはわからなかった。肌に合わない作品というものもあるのだなあ、と思う。

Posted byブクログ

2022/12/23

芥川賞作品は難解であったり、読みにくい文体の作品もあるが、この作品は読みやすい。美しい表現の文体の純文学。但し、エンタメ系ならば伏線が回収されていないとも感じるストーリーですね。そこは読者が考え、感じる余白のようなものなのでしょうか。

Posted byブクログ

2022/11/08

少年の日、優等生の仮面を被り、私を虐めたあいつが現れた。刑務官となった私のもとに受刑者となって。最初、復讐の物語かと展開を期待したが、意外やあいつの闇を探る物語となった。なぜあいつは私を虐めたか、なぜ刑務所からの出所を拒むのか。恩赦出獄のとき、老人のように枯れた姿となったあいつを...

少年の日、優等生の仮面を被り、私を虐めたあいつが現れた。刑務官となった私のもとに受刑者となって。最初、復讐の物語かと展開を期待したが、意外やあいつの闇を探る物語となった。なぜあいつは私を虐めたか、なぜ刑務所からの出所を拒むのか。恩赦出獄のとき、老人のように枯れた姿となったあいつを私は見る。ここ(刑務所)に居たいと叫んでいたあいつは再び煉獄の中に帰るかのように見えるが、さて?

Posted byブクログ

2022/08/12

'97芥川賞受賞作 看守を務める函館の刑務所に、小学校の同級生が受刑者として入ってきた。 優踏生の仮面を被った卑劣な奴は、18年たった今も変わってはいなかった。 立場が逆転した主人公の心の内 しかし、強烈な過去の敵愾心が逆に執着となり感情が囚われる。 登場人物の感情を...

'97芥川賞受賞作 看守を務める函館の刑務所に、小学校の同級生が受刑者として入ってきた。 優踏生の仮面を被った卑劣な奴は、18年たった今も変わってはいなかった。 立場が逆転した主人公の心の内 しかし、強烈な過去の敵愾心が逆に執着となり感情が囚われる。 登場人物の感情を直接表現せず、ただ見せるという文章で、読者の想像力に訴えてくる。

Posted byブクログ

2022/03/20

「辻仁成」の『海峡の光』を読みました。 「辻仁成」って、ミュージシャン・映画監督としての「辻仁成(つじじんせい)」という顔と、作家としての「辻仁成(つじひとなり)」という二つの顔(名前)を持っているんですよね。 「ECHOES」のデビュー当時、1stアルバムの『WELCOM ...

「辻仁成」の『海峡の光』を読みました。 「辻仁成」って、ミュージシャン・映画監督としての「辻仁成(つじじんせい)」という顔と、作家としての「辻仁成(つじひとなり)」という二つの顔(名前)を持っているんですよね。 「ECHOES」のデビュー当時、1stアルバムの『WELCOM TO THE LOST CHILD CLUB』が気に入って、ボーカルとしての「辻仁成(つじじんせい)」という人物を初めて知ったのですが、、、 作家としての「辻仁成(つじひとなり)」とは、本作品で初めて出会うことになりました。 デビュー作が「すばる文学賞」を受賞し、本作品も「芥川賞」を受賞しており作家として輝かしい経歴を持っていますが、、、 私の中ではミュージシャンとしての印象が強く、あまり小説を手に取る気がしなかったのですが、古書店で見つけ、一度くらいは読んでみようかという気になり買ってしまいました。 しかも、なんだか読みたくなるようなコピーですよね。 -------------------------------------------- 廃航せまる青函連絡船の客室係を辞め、函館で刑務所看守の職を得た私の前に、あいつは現れた。 少年の日、優等生の仮面の下で、残酷に私を苦しめ続けたあいつが。 傷害罪で銀行員の将来を棒にふった受刑者となって。 そして今、監視する私と監視されるあいつは、船舶訓練の実習に出るところだ。 光を食べて黒々とうねる、生命体のような海へ…。 海峡に揺らめく人生の暗流 -------------------------------------------- んで、読み終えて… な~んだか消化不良気味。  受刑者となった「花井修」の心情が全く語られないまま終わってしまうので、彼のこれまでの行動の理由がわからないんですよね。 その部分が明示されないので「なんで!?、どうして!?」という疑問が解決されないままで、もどかしさが残ります。 逆に主人公である「私(斉藤)」の気持ちは痛いほど感じることができた。 変わりたくても変われず、同じ土地から離れることもできない、世の中から見捨てられたような思いと、自分とは全く異なる人生を歩む「花井修」への憎悪と羨望の気持ち。 う~ん、読み手のスキル不足かもしれないけど、消化不良な気持ちが拭えません。

Posted byブクログ

2022/09/02
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

今日は、芥川賞受賞作のこんな本を。 『海峡の光』 辻仁成 (新潮文庫) 地味な小説である。 今季節は夏だが、本を開くと、冬の函館の厳しい寒さと、それにあまりにも似つかわしい“刑務所”という舞台が立ち現れる。 この小さな文庫本の扉の向こうには、一度行ってしまうともう戻れないのではないかと錯覚を起こすような、自分の知らない世界が、底なし沼のように口を開けている。 そんな感覚になる小説である。 愛想のないごつごつした手触りの重厚な文体は、飾りのない分静謐で清々しく、日本語の美しさを改めて感じさせる。 刑務所の看守である「私」は、新入りの受刑者の中に、小学校時代の同級生「花井修」を見つける。 実は、「私」は花井にかつて陰湿ないじめを受けていたのだ。 花井は表向きは優等生の仮面を被っていたが、陰で同級生たちを操り、周囲にそれとはわからない方法で、「私」をいじめ続けたのだった。 今、“看守”と“受刑者”として、かつての立場は逆転した。 だがしかし、「私」の心は大きく揺れる。 花井を監視することが人生のすべてであるかのように、「私」の心の中で花井の存在は大きく膨れ上がり、いつしかそれが脅威となっていく。 花井が罪を犯した理由は何も説明されていない。 刑務所のグラウンドから塀を見つめていた本当の理由も、模範囚だった花井が他の受刑者を殴った理由も、試験にわざと落第した理由も、そして仮出獄直前の暴行の理由も、結局最後まですべて「何故」のままである。 不気味なのだ。 だからこそ、語り手である「私」の“恐怖心”と言ってもいい心の揺れが、いっそう読む者に迫ってくる。 「まるであの男が私の日常を、獄舎の中から遠隔操作しているようだ」 「制服を脱いでいる時、私は精神的に、花井や他の受刑者たちよりもずっと脆弱な一人の人間でしかなかった」 そんな彼の弱った心を投影するかのような、暗く厳しい“海”の描写が印象的だ。 彼のすべてが海に繋がる。 自らはかつて青函連絡船の船員であったし、漁師である彼の父は海で亡くなり、恋人は海に身を投げた。 闇の象徴である暗く冷たい海から、小説のタイトルにある“光”を彼は見出したのだろうか。 結局、このまま物語は終わりを迎える。 何かが起こりそうで何も起こらず、恩赦を振ったにもかかわらず不気味なほど穏やかな花井と、看守の「私」との関係は、これからも続くのである。 殊更センセーショナルな何かが起きるわけではない、というのがいかにも芥川賞作品だ。 大きな事件を起こさないことで、二人の男の、言葉では説明できない感情を際立たせている。 見守っているような… それほどどこか優しい視線を感じさえする。 「ねぇ母さん、世の中の外側にいられることの自由って分かるかい?」 面会に来た母親に、花井が言った言葉である。 もう人生どうでもいいや、と思った時、“内側”と“外側”を考えることが確かにある。 “外側”に行っちゃったほうが楽だとか、やっぱり“内側”にいるほうが安心だとか。 でも、結局それって紙一重なんじゃないだろうか。 刑務所という特殊な場所が、あの世とこの世の境目の“中陰”のようにも思え、二人の男の人生が、その中で淡々と営まれているということが静かな感動を呼ぶ。 地味だけれど力強い、そんな小説だと思った。

Posted byブクログ

2022/01/24

読書開始日:2022年1月22日 読書終了日:2022年1月24日 所感 面白かった。 あっという間に読めたし、読みやすかった。 花井修は誰にも邪魔をされず悟りたかった。 どこへ行ってもエリートで手のひらでなにもかもを踊らすことができることに、逆に嫌気が刺したのか。 房の中で、大...

読書開始日:2022年1月22日 読書終了日:2022年1月24日 所感 面白かった。 あっという間に読めたし、読みやすかった。 花井修は誰にも邪魔をされず悟りたかった。 どこへ行ってもエリートで手のひらでなにもかもを踊らすことができることに、逆に嫌気が刺したのか。 房の中で、大仏となった。 これは、斉藤の視点に立ってみたとき。 ここからは、自分の視点。 花井修は恐らく小学校の時点で成長が止まった。函館をでた時点で成長が止まった。 自らが手のひらで踊らせられるステージに戻った。 羊蹄丸の廃航の様に、花井修も娑婆を諦めた。 だからこそ房にこだわった。 最終的に斉藤を昔みたいに利用して仮釈放の権利をお釈迦にした。 花井は隠居したかった。 トラウマを植え付けられた斎藤からしたら、いけるところまで花井に飛躍して欲しい深層心理があるが、それすら蔑む花井。 それでも最後は斉藤が、ある種憧れてた花井に、ただのジジイとレッテルを貼れた。 舌鋒 ガラスを握りしめる手元が言葉よりもはっきりと私を責め立てる 肌色の旗が翻るような舞 風光絶佳 海中に差し込んでくる光の鋭角な瞬き 大動脈、細い血管 話題がなくなった退屈な時間 カタルシス=清浄なものにすること、浄化、正当化 巧言 挙措 焦慮 心の整理が十分癒されきったかさぶたの色には見えなかった すごく泣きたいのにさ、溢れてくるものがなくて、それで手首を切っちゃった 無性に誰かを信じてみたかった 静は小さく震えた声で私の真意を覗き込もうとした 森厳な美しさ 何かを語れば、それが彼女の未来を決定してしまう気がして怖かった。希望も絶望も全て海峡の光の中にあると思った ロシアから吹き付ける凍てついた風 雪と血 間雲孤鶴

Posted byブクログ