社会的共通資本 の商品レビュー
宇沢弘文教授の数式のない経済学。 まずここは、著者による「ゆたかな社会」についての明快な定義の引用から始めるべきであろう。 「ゆたかな社会とは、すべての人々が、その先天的、後天的資質と能力とを充分に生かし、それぞれのもっている夢とアスピレーション(aspiration: 熱望...
宇沢弘文教授の数式のない経済学。 まずここは、著者による「ゆたかな社会」についての明快な定義の引用から始めるべきであろう。 「ゆたかな社会とは、すべての人々が、その先天的、後天的資質と能力とを充分に生かし、それぞれのもっている夢とアスピレーション(aspiration: 熱望、抱負)が最大限に実現できるような仕事にたずさわり、その私的、社会的貢献に相応しい所得を得て、幸福で、安定的な家庭を営み、できるだけ多様な社会的接触をもち、文化的水準の高い一生をおくることができるような社会である。」 そしてこの実現を妨げている最大の要因が資本主義経済、とくに資源の私有を無制限に肯定するメカニズムである、というのがおそらく著者の基本的立場なのだろう。 私は、資本主義に対して、かつて民主主義についてチャーチルが語ったのと同じような感覚を持っている。すなわち、資本主義は最悪の資源配分方法である、これまで試みられてきた他のすべての方法を除いて、というような。とくに今日のようにお互いの顔の見えない巨大化した社会においては。 “democracy is the worst form of Government except for all those other forms that have been tried from time to time”(W. Churchill) これを打破するために著者が導入するのが社会的共通資本である。 昨今、地域コミュニティなんかではコモンズの考え方がリバイバルしていたりするのをみると、著者の先見性には驚かされる。 また、実際読んでみると一部で誤解されているような意味でのマルキストでもなんでもなく、資本主義に基づかない効率的な資源配分を模索するというごく真っ当なテーマを追究していることがよくわかる。 その上で、あえて言うなら、うーん、多分宇沢先生バイトしたことないな。ていうか働いたことないんじゃないかな。 これ、今流行りの斎藤幸平さんにも感じたことなんだが。 はたらいたことない、をより簡単に言うと要するにモノに値段をつけたことがないんじゃないかなと。 例えばカテキョーだって時給の設定を間違えたら生徒は集まらない。これは何も金融資本主義のせいではない。 自分の手がける商品の性能や、世の中の需要や、自分のプライドや、そんなこんなを総動員して決めるのが値付け。働くっていうのは自分の労働への値付けという面もある。 資源配分を歪めているのは、強欲な独占資本、というほど宇沢先生の議論は単純ではないけれど、一度でも自力でモノを売れば新しい発見もあるんじゃないですか、という感想も持った。 というわけで、俗世間で働いている暇などないほどの知の巨人の考察、と考えれば極めて有益な本。
Posted by
コモンズに興味を持ち読む。前半部分が求める内容だった。 社会的共通資本とは、一つの国ないし特定の地域に住む人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化・社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置とされる。社会的共通資本は、広い意味での環境を指すため幅広い。自然...
コモンズに興味を持ち読む。前半部分が求める内容だった。 社会的共通資本とは、一つの国ないし特定の地域に住む人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化・社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置とされる。社会的共通資本は、広い意味での環境を指すため幅広い。自然環境に加えて、交通機関、上下水道、道路、電力、通信施設、教育、医療、金融、行政などの制度も含む。社会的共通資本は、市場原理に基づいて運営されるべきではなく、専門的知見に基づき、職業規律に従って運営され信託に基づかれるとされる。そして各要素の社会的共通資本を解説している。 コモンズも伝統的なものは、漁場、牧草地、河川などで社会的共通資本の概念に含まれている。特定の場所で、対象となる資源が確定し、利用する集団がある程度決められ、そしてルールが存在しているのがコモンズということだった。 もう少し最近の社会的共通資本の考え方を知ってみたい。拾い読みとはいえ、わかりやすい図書だった。
Posted by
社会的共通資本について可能な限りシンプルに定義を試み、経済学的なアプローチで課題と対策をハイレベルな見地から示している。 宇沢氏のアカデミズムの端的な集大成なのかもしれないと、初心者には大変ありがたい著作だ。 既に20年経過しており、様々な環境変化を加味する必要はあるものの、普遍...
社会的共通資本について可能な限りシンプルに定義を試み、経済学的なアプローチで課題と対策をハイレベルな見地から示している。 宇沢氏のアカデミズムの端的な集大成なのかもしれないと、初心者には大変ありがたい著作だ。 既に20年経過しており、様々な環境変化を加味する必要はあるものの、普遍的な視点も多く、参考になる。特に、社会的共通資本としての医療は、指摘されている経済性の命を守る医療のバランスの難しさが最後は医療関係者の高邁なモラルに依存する、という指摘は、高齢化社会真っ只中の日本にとって喫緊の課題だ。 最後に、各共通資本項目をまとめると、今、そして将来、人類社会はどうすべきかどうあるべきかという示唆を宇沢氏から示して欲しかった。
Posted by
もともとは数学の専門家だったのが、社会を良くしたいという「正義感から」経済学に転向し、36歳でシカゴ大学の教授になられたという宇沢先生の本になります。宇沢先生の教え子である岩井克人さんの本(『経済学の宇宙』)にも書かれているように、宇沢先生の心は新古典学派にあらず、新古典派および...
もともとは数学の専門家だったのが、社会を良くしたいという「正義感から」経済学に転向し、36歳でシカゴ大学の教授になられたという宇沢先生の本になります。宇沢先生の教え子である岩井克人さんの本(『経済学の宇宙』)にも書かれているように、宇沢先生の心は新古典学派にあらず、新古典派およびその後裔であるマネタリスト、合理的期待形成学派について本書でもバッサリと切り捨てています。宇沢先生の言葉を借りれば、マネタリスト、合理的期待形成学派の人々は「反社会的勢力」の最たる人々、ということになりそうです。 本書からも宇沢先生の「社会を良くしたい」という熱い思いが各所からあふれ出しているのがわかります。本書で書かれていることを私なりに解釈すると、外部不経済、つまり市場の内部では評価されない害の存在を改めて認識したうえで、環境問題における炭素税の導入のように、それ(外部不経済)を内部化することが望ましいケースはありつつも、すべての領域に市場原理を持ち込むのはもってのほかだということです。その最たる例が教育、医療分野だということで、つまりモノではなく人間自身に関わる領域ということです。このあたりはマイケル・サンデルの主張とも共通するところがあります。両人とも「正義」とは何かという問題意識があるということです。 岩波新書ということで、全般的にかなり平易に書かれていて、高校生・大学生にも読めるような配慮がなされていると感じました。逆に言うと著者は若い世代に対して強いメッセージを発信したかったのかな、とも感じましたが本書は全年齢層の人が一読すべき本でしょう。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
宇沢弘文の伝記『資本主義と闘った男』の後に読んだため、理解しやすかった。 社会的共通資本という概念を踏まえて、炭素税のあり方や食料自給率の問題など、現在にも通じる課題が検討されている。本書で提言されている政策は納得感があるが、”経済の定常状態を想定している”という点が、受け入れられにくかったのかもしれない。
Posted by
『読書大全』に出ていたので読んだが、うーん経済学で公共財を説明していること以上のことは特になさそうで費用対効果とかそこらへんの当たり前の話だと思うが、私の理解力のなさか
Posted by
ヴェブレンの「制度主義」の発想を継承しながら、「私的資本」と区別される「社会的共通資本」の重要性をわかりやすく解説している本です。 著者がさまざまな機会に発表した文章をもとにしているようで、農業、都市、教育、医療、金融、そして地球環境といった多様なテーマをとりあげ、社会的共通資...
ヴェブレンの「制度主義」の発想を継承しながら、「私的資本」と区別される「社会的共通資本」の重要性をわかりやすく解説している本です。 著者がさまざまな機会に発表した文章をもとにしているようで、農業、都市、教育、医療、金融、そして地球環境といった多様なテーマをとりあげ、社会的共通資本を重視する立場から、人類社会のどのような展望がもたらされるのかということが説かれています。 著者は「制度主義」の基本的性格を説明するさいに、「私たちが求めている経済制度は、一つの普遍的な、統一された原理から論理的に演繹されたものでなく、それぞれの国ないしは地域のもつ倫理的、社会的、文化的、そして自然的な諸条件がお互いに交錯してつくり出されるもの」であると述べています。さらに、「農村の場で形成される人間的な雰囲気からは、私がかつて受けたような強烈な印象を与えるような若者たちが比較的多く育つのではないだろうか」といったロマン主義的な発想が表明されてもいます。その一方で著者は、「制度主義」がデューイのリベラリズムの立場を継承するものであると説明しており、一人ひとりが異なる資質をもつ人間を尊重し、それぞれの可能性を十全に引き出すことのできるような社会を求めています。 この二つの主張は、かならずしも折りあいがよいとはいえないようにも思えるのですが、著者のなかでどのように調停がなされているのか、本書を読んだだけではあまり明確に理解することができなかったように思います。
Posted by
2022/02/16読了。 なかなかすっと入ってくる内容ではなかったけれど、今の自分にない物の見方でこの先の参考にできるのでは、と感じた。これが2000年に出版されたのだと思うと賢人はなんと先を見ているのだろうと思う。
Posted by
22年前に本書が出版され、日本では宇沢氏の言葉は響いたのであろうか。 社会的共通資本に対して市場メカニズムを適用し食い尽くすことは、一時的な経済発展を将来世代の安心と天秤にかけて自分達の経済発展を優先するに等しい愚行である。 既にツケを回された"将来世代"であ...
22年前に本書が出版され、日本では宇沢氏の言葉は響いたのであろうか。 社会的共通資本に対して市場メカニズムを適用し食い尽くすことは、一時的な経済発展を将来世代の安心と天秤にかけて自分達の経済発展を優先するに等しい愚行である。 既にツケを回された"将来世代"である我々が更に自分達の子どもや孫に同じ愚行をせず、何ができるかを考え行動する事が求められる。
Posted by
参考になったのは、コモンズは限られたコミュニティメンバーへのオープンアクセスで良い(完全に誰でもOKである必要はない)ということと、農業を工業的に捉え過ぎない方が良いということの2点が主。 ただアクが強くて読みづらい。一昔前の本に多い、具体的な部分は極端に具体的で、総論部分はやや...
参考になったのは、コモンズは限られたコミュニティメンバーへのオープンアクセスで良い(完全に誰でもOKである必要はない)ということと、農業を工業的に捉え過ぎない方が良いということの2点が主。 ただアクが強くて読みづらい。一昔前の本に多い、具体的な部分は極端に具体的で、総論部分はややオリジナリティが強い構成。田園長屋構想の参考にはあまりならず。
Posted by