ホテル・アイリス の商品レビュー
『ホテルローヤル』(桜木紫乃)はラブホテルで交わされる生と死の物語だった。 『ホテル・アイリス』は海のそばの少し寂れた、それでもハイシーズンにはそれなりに客が来る「普通の」ホテルだ。 そしてここでは生と死ではなく、生、性または聖が描かれる。 少女は椿油で固められた髪を振り乱す。...
『ホテルローヤル』(桜木紫乃)はラブホテルで交わされる生と死の物語だった。 『ホテル・アイリス』は海のそばの少し寂れた、それでもハイシーズンにはそれなりに客が来る「普通の」ホテルだ。 そしてここでは生と死ではなく、生、性または聖が描かれる。 少女は椿油で固められた髪を振り乱す。 それはロシア語の翻訳をしている老人によるものだ。 「服の脱ぎ方を教えてあげよう」 男は少女を縛り上げる。 少女は震え、許しを請いながら、言われるがままに、欲望のままに淫らなポーズをする。 男はそれを写真に収める。 男は優しい愛の手紙を少女によこす。 君なしではいられない、と。 暗がりでの命令口調はそこにはない。 ただ愛を求め、愛を乞う、滑稽ささえ漂う寂しい老人の姿のみ。 少女は男を愛していたのか? 私にはそうは思えなかった。 純愛だとある人は言うだろう。 確かにそう思える描き方だし「愛し合った」とはっきりある。 だが、私にとっては、少女が抑圧された自分を男の手を借りて「見てみたかっただけ」に思える。 解放ではなく、好奇心。 被虐の立場を突き詰めたらどうなるのだろう、ただそれだけに思えるのだ。 秘密を共有しあったからといって「愛」にはならない。 一貫して私には、男の少女に対する一方的な思いにしか思えなかった。 少女は確かに愛していた、しかしそれは男に対するものではなく、自分自身に対する愛だったのだと。
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物事は、最初と最後が殊更に重要で象徴的になるが、 マリは、一生のこの余韻だけで生きて行くんじゃないかと思う。 痛めつけられ嬲られ、辱められながらも、 それでも乞い、悶え、濡れるさまは、艶めかしく官能的。 ともすると鼻につくぬめった匂いがしそうだが、 小川さんの筆にかかると、こん...
物事は、最初と最後が殊更に重要で象徴的になるが、 マリは、一生のこの余韻だけで生きて行くんじゃないかと思う。 痛めつけられ嬲られ、辱められながらも、 それでも乞い、悶え、濡れるさまは、艶めかしく官能的。 ともすると鼻につくぬめった匂いがしそうだが、 小川さんの筆にかかると、こんなにも静謐で さらりとして、直接的な固有名詞の登場さえ、 いやらしさを伴わない。 不意に、ルコントの「仕立て屋の恋」を思い出した。 全体に散りばめられた猥雑なエッセンスは小川ワールドそのものだが、ここまでの性愛表現は小川作品では初めてだったので新鮮だった。 どこの国のいつの話か判然としない印象も、不穏で素敵だ。
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小川洋子さんの作品の中ではあまり好きな作品ではないかも。 こういったテーマは山田詠美さんあたりに書いて欲しい。
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病的。 文学的には非常に美しいのだろうけど、私はちょっと困った。 小川洋子の作品は、無国籍のようなどこにもない場所の物語ような感じがする。 そして、いつも、何かが欠けている、欠落感、喪失感に包まれている。
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小川洋子さんの作品はどれも変態ちっくで、けれどそれがちっとも汚らわしくなくて優しくて綺麗で。だのにほんのりさみしい。 わたしは小川洋子さんの作品も、官能的な小説も、どちらかと言えば読み慣れている方だと思うけれど、この作品だけはどうしてもダメだった。 登場人物の特殊な性癖だとか、...
小川洋子さんの作品はどれも変態ちっくで、けれどそれがちっとも汚らわしくなくて優しくて綺麗で。だのにほんのりさみしい。 わたしは小川洋子さんの作品も、官能的な小説も、どちらかと言えば読み慣れている方だと思うけれど、この作品だけはどうしてもダメだった。 登場人物の特殊な性癖だとか、或いはその描写についてはどうでもいい。そんなものは現実世界では特殊であるけれど、小説の中では至極ありふれたものだから。 この作品は小川洋子さんらしさがすごくよく現れているように見えて、その実なにも現れていないのではないか、とわたしは思う。小川洋子さんの紡ぐ物語はただの変態の話ではダメなのだ。もっと淑やかで慎ましい変態でなければ。そうでなくては、これはただの官能小説になってしまう。 そしてそれは、とてももったいないことであるとわたしは思う。
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閉塞感を破る方法で、賢くないものがとる方法に脱社会化がある。手っ取り早いものは万引き。共同作業なら異性交遊。母親との縁切りに断髪が必要だったが、庇護を失わない方法で行われなければならない。そのための長い出来事。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
すごーく官能的な話。老人のいいなりになる女の子。AVや成年誌の見本みたいな設定。それだけにエロスの本質でもあるし、登場人物の性欲がむきだしにされてても、小川洋子のやさしい文体のせいでまったく下品ではない。 どうしてここまでエロチックな話が書けるのだろう、とかんがえると、小川洋子の作品にまつわる一つのフェチを思いつく。あの、「被・支配欲」とでも言うようなフェチズムです。強い存在の下に置かれその存在にひれ伏すことで得られる満足。 しかしこれは自傷感のある、なんとなく悲しい性癖だと思う。小川洋子自体がそうじゃなくても、彼女の作品のヒロインたちはみんなどこか可哀想。ホテル・アイリスのマリはその痛々しい可愛さが顕著で、だから小川洋子の作品で一番好きです。
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小川洋子の作品は割と共通して、どこか陰鬱で気だるげで色気が漂っていて、そして家族像が少なからず全うじゃない。 この話には、様々なコンプレックスや劣等感等が入り交じっていて、それを癒す為に衰えた老いた体の老人にいたぶられる。 読んでいて痛々しいのだけど、きれいな文章と儚い空気に飲み...
小川洋子の作品は割と共通して、どこか陰鬱で気だるげで色気が漂っていて、そして家族像が少なからず全うじゃない。 この話には、様々なコンプレックスや劣等感等が入り交じっていて、それを癒す為に衰えた老いた体の老人にいたぶられる。 読んでいて痛々しいのだけど、きれいな文章と儚い空気に飲み込まれる。
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小川洋子初読。小川洋子といえば、『博士の愛した数式』が、まず思い浮かぶが、その作品にはあまり興味が持てそうもなく、未読。それで選んだ最初の作品が、この『ホテル・アイリス』なのだが、なんとなく想像していた小川洋子像とは似ても似つかないものだった。これ1作しか読んでいないので、これが...
小川洋子初読。小川洋子といえば、『博士の愛した数式』が、まず思い浮かぶが、その作品にはあまり興味が持てそうもなく、未読。それで選んだ最初の作品が、この『ホテル・アイリス』なのだが、なんとなく想像していた小川洋子像とは似ても似つかないものだった。これ1作しか読んでいないので、これが小川洋子の本来の姿なのか、それとも、これは彼女の作品系列の中では異質なのか、わからないが。物語は、エレクトラ・コンプレックスとマゾヒズムの気配が濃厚に漂うもの。それでいて、どこかもの悲しく、沈痛な趣もある不思議な世界だ。
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小川洋子先生の官能小説。 すごくいい。 表紙の絵、ホテル・アイリスというタイトル名、主人公の名前・・・すべてがこの世界にぴったり合っていて、とても気持ちいい。
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