蛍川・泥の河 の商品レビュー
小説と言うと、人物の言動が物語のために作られすぎていて記号的で無機的に感じることがあるけど、この作者の紡ぐ言葉は一つ一つが自分の生活と非常に近い線にあって、普段当たり前すぎて気に留めないような言葉や空気が、小説の中にぽっと浮かんで来たりする。それは、断片的に自分の覚えている思い出...
小説と言うと、人物の言動が物語のために作られすぎていて記号的で無機的に感じることがあるけど、この作者の紡ぐ言葉は一つ一つが自分の生活と非常に近い線にあって、普段当たり前すぎて気に留めないような言葉や空気が、小説の中にぽっと浮かんで来たりする。それは、断片的に自分の覚えている思い出のワンシーンに似ているように思う。 そうした表現の群れが生む生々しさと、扱われることの多い死、貧困、愛憎と言ったテーマとが相まって、人間の体臭とか空間のすえた臭いが本から漂ってくる。生を持った有機的な文、と言う印象がとても強い。
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方言のセリフが胸に染み入ってくる。情景描写の中に、しみじみとした死生観が宿っている。理解を超えたもの、訳のわからないものを現実として受け止め、物語として構成し直した端整な作品。
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「泥の河」は、まだ高度成長が始まる前の日本、大阪の風情を描いているが、陰鬱で哀しい話で、あまり引き込まれなかった。 「螢川」は、北陸富山を舞台に、父親と親友を亡くした主人公がきらめくばかりの蛍の光に包まれる物語。 叙情的でありながらも、人生の襞を描いた秀作であった。
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戦後の日本を描く小説は性に対してダイレクトだし、その表現も遠慮がない感じがする。 戦時中、いつ死んでもおかしくない状況、無数の弾から奇跡的に逃れて生き残ったのに、戦争が終わってなんでもない事で死んでしまう悲しい性がよくある戦後の日本。貧しい泥の河のほとりに住む少年と、船の上で売春...
戦後の日本を描く小説は性に対してダイレクトだし、その表現も遠慮がない感じがする。 戦時中、いつ死んでもおかしくない状況、無数の弾から奇跡的に逃れて生き残ったのに、戦争が終わってなんでもない事で死んでしまう悲しい性がよくある戦後の日本。貧しい泥の河のほとりに住む少年と、船の上で売春して生活をする母と姉弟の交流を描く。弟はそんな曲がった環境の中でやはり心が荒むのか、残虐性を持つ一面があり、少年は慄く。 4月なのに雪が降る年は、川に無数のホタルがやってくる。父はかつての名士だか病に倒れた。母は、そんな父の愛人だった女。金銭的に苦しくなっていく家で、父の前妻がこれまた素晴らしい人物であることがよくわかる。かつての幼馴染で、今は淡い恋心を抱いている英子に対する、赤い実弾けた的な、心がズキズキする様子がよく表現されている。
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子は二十歳になるまでは生きていたいと願う親と早くに親を亡くした子。風景と心情がていねいに描かれているいい小説。
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うまく言葉にできないのですが、宮本輝という人は「生きてきた」人なんだなと、すごく思いました。人間って、幼い頃は世界と未分化で、それこそ河とか虫とか田畑とかと同じような「世界の一部分」なのだけれど、生きながら独りになっていくのですよね。そのひたむきな哀しさ美しさが見事に紙の上にかき...
うまく言葉にできないのですが、宮本輝という人は「生きてきた」人なんだなと、すごく思いました。人間って、幼い頃は世界と未分化で、それこそ河とか虫とか田畑とかと同じような「世界の一部分」なのだけれど、生きながら独りになっていくのですよね。そのひたむきな哀しさ美しさが見事に紙の上にかきとめられている。胸を打たれました。他に一作品しか読んだことがないのですが、もっと読みたいと思いました。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
「泥の河」が、呆気なく引き裂かれた少年達の別れを冷酷なくらい淡々と描写して終わっちゃったので、、美しいクライマックスの「螢川」に、大阪へ引っ越した後の母子の苦労を予感してしまう。 深読み…というよりはひねくれてる、かな。
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少年少女と、その取り巻く大人達との戦後の日常と、現代では忘れ去られた日本があった。ただ淡々と物語は進んで終了。何考える事は確かにあるが、うっーん…これは純文学作品なのだろう。私の中ではどこが芸術的か理解不能。時代なのかなー…
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10年以上前に、20も年下の女子大生に、「今、宮本輝を読んでいるけど、宮本輝良いですよ。」と言われた。ずーっと気になっていた。学校に文庫本があったので、借りて来たら娘が先に読んでしまった。20代の娘もとても良かったーと言う。 で、読んだ。この本には2作品所収されているが、どちらも...
10年以上前に、20も年下の女子大生に、「今、宮本輝を読んでいるけど、宮本輝良いですよ。」と言われた。ずーっと気になっていた。学校に文庫本があったので、借りて来たら娘が先に読んでしまった。20代の娘もとても良かったーと言う。 で、読んだ。この本には2作品所収されているが、どちらもとても良かった。 「泥の河」の冒頭では、馬で荷物運ぶ男が悲惨な死に方をする。川舟で暮らす生活苦の親子も出てくる。川の汚れ、大人達の卑猥で意地悪な言動、主人公友達になった少年の異常な行動など私を息苦しくすることもあった。でも、人生は不条理だけど、生きて行かなければならないし、覚悟して生きて行かなければならないことを再度感じた。主人公の両親の優しさが読んでいて救いになった。 螢川は、お母さんの千代さんが存外に力強くて、ほっとした。
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生きていくって、哀しくてけど小さいながらも希望がある。 最初読んでた時は、暗い話なのかと思っていたけど、2作とも最後は希望が見えるようで、「がんばるか」というような感じを受けた。 この頑張るは、「ヨォーし!いっちょ、がんばるか!」と全面的に見える熱苦しいものではなくて、「駄目なら...
生きていくって、哀しくてけど小さいながらも希望がある。 最初読んでた時は、暗い話なのかと思っていたけど、2作とも最後は希望が見えるようで、「がんばるか」というような感じを受けた。 この頑張るは、「ヨォーし!いっちょ、がんばるか!」と全面的に見える熱苦しいものではなくて、「駄目なら駄目て、がんばるか」と肩のチカラが抜けたようなもの。 読み終えて、温かい気持ちになれた。
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