蛍川・泥の河 の商品レビュー
初めて読んだけど、好きな作家になった。情景描写とキャラクターの肉付けが上手。まずは前者だが、授業や小説でもあまり触れる事のなかった戦後、高度経済成長期直前の混沌とした世界をまるで臭気まで漂ってくるかと思う程リアルに描いている。次に後者、どの人物もまるで一度会って話した事があるかの...
初めて読んだけど、好きな作家になった。情景描写とキャラクターの肉付けが上手。まずは前者だが、授業や小説でもあまり触れる事のなかった戦後、高度経済成長期直前の混沌とした世界をまるで臭気まで漂ってくるかと思う程リアルに描いている。次に後者、どの人物もまるで一度会って話した事があるかのような現実感と説得力。あと、主要人物が全員人柄が良いのが好きだった。特に「泥の河」の信雄と喜一が可愛すぎる…。ただ、そんなキャラクターにも容赦なく苦難を与える作者は真性のドSなんじゃないかと思えてきた。この作者の世界の登場人物には決してなりたくないなぁ。「泥の河」も「蛍川」も、美しい作品だった。老いた時にもう一度読みたい。
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光景が映像として眼に浮かぶ。「泥の河」油を呑まされ火をつけられた蟹が燃えながら這い回っている。蟹から放たれる悪臭を孕んだ青い炎。それを銀子がゆっくりつまんで川に投げ入れていく。「螢川」蛍の大群は、滝壺の底に寂寞と舞う微生物の屍のように、はかりしれない沈黙と死臭を孕んで光の澱と化し...
光景が映像として眼に浮かぶ。「泥の河」油を呑まされ火をつけられた蟹が燃えながら這い回っている。蟹から放たれる悪臭を孕んだ青い炎。それを銀子がゆっくりつまんで川に投げ入れていく。「螢川」蛍の大群は、滝壺の底に寂寞と舞う微生物の屍のように、はかりしれない沈黙と死臭を孕んで光の澱と化し、天空へと火の粉状になって舞い上がっていく。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
『泥の河』は大阪、『蛍川』は富山と場所は違えど、どちらも戦後から高度成長期にかけてのまだ日本が貧しかった昭和の時代を、2人の少年の視点を通して描かれています。貧しい家庭や、儚い人の命、淡い性の目覚め、自分ではどうしようもない情況の中、もどかしさや、理由の判らない衝動を抱えながら、こうやって人は川に流されるみたいにゆるやかに成長していくのだと感じました。
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花まんまを読んでいても思ったが、大阪は猥雑とした街だなと改めて感じる。もっともこちらの描写は戦後すぐの話だから一概に比較できるものでもないが。
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お金、愛情、生活、差別などが複雑に絡み合う日常を送る主人公ときっちゃんの目を通して人間の本質が描かれている作品。 自分が主人公と同じ頃に大阪で過ごし、まさにここに書かれていると同じような経験をしているという所為かもしれないが、是非とも皆にオススメしたい。 「蛍川」も、基本的に...
お金、愛情、生活、差別などが複雑に絡み合う日常を送る主人公ときっちゃんの目を通して人間の本質が描かれている作品。 自分が主人公と同じ頃に大阪で過ごし、まさにここに書かれていると同じような経験をしているという所為かもしれないが、是非とも皆にオススメしたい。 「蛍川」も、基本的には同じテーマ。決して豊かではないけれど、両親、同級生、父の元妻や友人等からの愛情を受けながら思春期を通過する主人公の物語。時差ぼけで眠れない夜、ベッドの中で何度も涙を流しながら読み進めていった。
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私の親も戦争の傷跡が残る時代、貧しく苦しい生活がきっとあったんだろうな。「上を向いて歩こうよ、涙がこぼれないように」今も同じだ。さまざまな人生を3・11以降痛切に感じる。
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「泥の河」戦後大阪、河のは畔に住む少年と廓舟に暮らす姉弟の交流 「蛍川」北陸富山父の死、友の事故、初恋を描き、蛍の大群のあなやす生死を越えた命の輝きを見る。
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「泥の河」 大阪湾につながる河の底で、泥に隠れた巨大な魚の存在 それは大人たちがけして信じようとしない、子供だけの真実であるが 誰もがやがて真実を忘れ、大人になっていかざるをえない 怒り、悲しみ、寂しさ、恥ずかしさ そういったものが渾然一体となってわけがわからないままに 蟹を燃や...
「泥の河」 大阪湾につながる河の底で、泥に隠れた巨大な魚の存在 それは大人たちがけして信じようとしない、子供だけの真実であるが 誰もがやがて真実を忘れ、大人になっていかざるをえない 怒り、悲しみ、寂しさ、恥ずかしさ そういったものが渾然一体となってわけがわからないままに 蟹を燃やしてみたりする そんな真実なら忘れたほうがいいような気もするけれど 腐っても鯛、忘れたって真実は真実だ そいつはつねにあなたの隣にあるのですよ 非常に完成度の高い作品で、全体に詰め込みすぎの印象はあるものの それがまた大阪の下町らしさになっている 「蛍川」 過去への執着を断たねば前へは進めまい 死と新生が必ずしもつながっているわけではないが 蛍の大群が交尾するさまを見に行くという約束を果たすことで とにかく、子供の時代にひとまずはケリをつけて 大人へと生まれ変わる少年少女の話 もちろん保護者同伴だ!
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川とか沼とか、水辺がでてくる小説は好きです。 これはあんまり衝撃的とかそういうたぐいのものではなかったのですが 短編なので、すぐ読めました。
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生活を包み込んで流れてゆく河と、螢が火の粉のように舞う死臭を孕んだ川。宮本さんのお話の根底には永遠の生の哀しみが横たわっていて、普段私たちが鈍感なふりをして何気なく無視しているその哀しみの存在を、はっと知らされる気がする。定住するとしたら、川が流れる街に私は住みたい。
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