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亜愛一郎の狼狽 の商品レビュー

3.8

98件のお客様レビュー

  1. 5つ

    13

  2. 4つ

    48

  3. 3つ

    21

  4. 2つ

    3

  5. 1つ

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2017/01/03
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

泡坂妻夫『亜愛一郎の狼狽』(創元推理文庫、1994年) 泡坂妻夫『亜愛一郎の転倒』(角川書店、1982年) 泡坂妻夫『亜愛一郎の狼狽』(角川書店、1984年) 泡坂妻夫という名前は知っていたものの一度も読んだことがありませんでした。 キッカケは、日経の有栖川有栖氏のミステリーに関する連載で紹介されたから。 亜愛一郎なんていうふざけた名前。有栖川氏によれば日本の名探偵紳士録が作られる際に一番初めに項目がくることを目論んだネーミングだといいます。まずここからして遊びすぎ。 そして全部で24本のミステリーが『亜愛一郎の狼狽』『――転倒』『――逃走』の3冊の短編集に収録されているというので、3冊を古本屋で入手して読んでみました(いずれも初版)。 どうやらこのシリーズでもっとも有名なのが第1作「DL2号機事件」だそうです。 有栖川氏のあらすじを紹介すると…  1年前の震災の爪痕が残る宮前市にプロペラ機(これがDL2号機)が着陸するシーンで幕が上がる。雨の中、その様子見守るのは羽田刑事。同機に爆破予告の電話があったのだ。  この地に工場を移し、東京から引っ越してくる実業家の柴は、降りてくるなり警備体制の不備を羽田に毒づく。翌日、警察への抗議に答えるため羽田が柴の邸宅を訪ねると、血だらけになった柴の運転手と斧(おの)を振りかざす柴が飛び出してきた。  何故、柴は運転手を襲ったのか、という動機が読者に提示される謎だ。その答えは、意外な形で地震や爆破予告犯の正体にも結びつく。謎を解くのは前日から羽田と居合わせたカメラマンの亜(あ)愛一郎(あいいちろう)である。  「背が高く、整った端麗な顔だちであった。年は(中略)三十五ぐらいだろうか。色が白く、貴族の秀才とでもいいたかった。目は学者のように知的で、身体には詩人のようにロマンチックな風情があり、しかも口元はスポーツマンのようにきりっとしまっていた」  黙っていればイケメン(当節の言葉を使うなら)だ。しかし、この男、言動には落ち着きがなく、思わぬ事態に遭うと激しく動揺するから、〈おかしな人〉、あるいはこれも当節風に言えば〈残念な人〉の部類に属する。  『DL2号機事件』の何に私が驚いたのかというと、まずは作中で亜が披露する奇妙な論理だ。犯人はこのように考えたからあのような行動をとったのです、という説明は「筋は通っているが、そんなことがあり得るか?」「そんなことはありそうもないが、筋は通る」という不思議な領域に読者を導く。[日本経済新聞、2016年5月8日付朝刊] まさに「筋は通っているが、そんなことがあり得るか?」的内容のストーリーばかりで、『そんなばかな!』の連続。 でも、それがいい。 しかも、「DL2号機事件」のような、ある意味、大がかりなものから、何のことはない日常で起こる事件まで、舞台設定も『そんなばかな!』と思えるようなものばかり。 有栖川氏は翌週も亜愛一郎を紹介していて(5月15日付日経朝刊)、そこでは、「三角形の顔をした老婦人」の存在をクローズアップしていました。『三角形の顔をした老婦人だと?』と思わされながらも俄然興味がわいて、結局3冊を読んでしまった次第。たしかに、一見、亜愛一郎とは無関係な三角形の顔をした老婦人がしばしば登場します。この短編集は、この「三角形の顔をした老婦人」の存在を知っているかどうかで面白さが俄然違ってくると思います。 さて物語は、いずれも何となく謎を解いていく亜愛一郎。 その正体は最後の最後で明かされます。そして老夫人の正体も最後の最後で明かされます。ですが、これがまた噴飯もの。(笑) とにかく、面白かったです。 もし若いときに読んでおけば、もっともっと楽しめたと思います。今でも大いに楽しめたのですが、感性豊かな(?)若い時代に読んだならば、きっと快哉を叫んだに違いありません。

Posted byブクログ

2016/07/10
  • ネタバレ

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「DL2号機事件」略 「右腕山上空」:菓子メーカーの宣伝企画として飛び発った気球の中で漫才師の死体が発見される。気球に乗ったのは被害者ただ一人のはずだがーー。事件発生までの流れと提示される謎が魅力的。短編なのでアッサリした真相看破だが視点人物である塩田の秘書への感情描写が良い味してました。 「曲がった部屋」:お化け団地などと呼ばれる団地で発見された腐敗した他殺死体の謎を亜愛一郎が解き明かす一編。伏線がやさしめでしたがやはり亜愛一郎のあの一言の破壊力はバツグン。 「掌上の黄金仮面」:巨大な弥勒菩薩像の掌に突如現れ紙幣をバラ撒いていた黄金仮面が射殺された事件と強盗事件とが絡み合う異様な状況を亜愛一郎が解き明かす一編。短編ながらも奥行きのある舞台構築の手際が良い。そしてまた華麗なひっくり返しにやられてしまったな。 「G線上の鼬」:タクシー運転手の浜岡は客を送る途中で強盗に襲われたという同僚と遭遇する。彼と現場に向かうとそこには同僚のタクシーと強盗の死体があり、しかもそこから逃れる足跡は一つしかなくーー。真相を浮き上がらせる物証の提示の見せ方が上手いよなぁ。 「掘出された童話」:冒頭の不思議な童話に潜む謎がとあるヒントで解き明かされるクライマックスが見事。童話として成立させつつこの形に落とし込む手際と各シーンに配された伏線に気付かされた時のゾッとする感じが良いのだ。 「ホロボの神」:戦死者の遺骨収集団としてホロボ島に赴く中神は、道中出逢った学術隊に島の原住民が自殺した事件を語る。屍体を忌避するとされる未開民族の習慣と反する事件の真相とはーー。ホロボの神が何のシンボルかは予想がついたがそれをあの形に収束させるとは。 「黒い霧」:明け方の商店街で突然発生した黒い霧の謎、霧を発端とした商店街の店主たちによるドタバタバトルでお腹を抱えて笑わされ、その後の謎解きにこれまたニヤリとさせられるバランスが凄い。 どの短編も泡坂妻夫の奇術師らしい手際で多幸感に包まれる読書体験でした。

Posted byブクログ

2016/05/20
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推理力だけが並外れている主人公がおかしい。 続編も読んでみるか? 日経新聞で紹介されていたので図書館で借りてみた。 三角顔のおばあさんは毎回登場している。

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2016/03/10

奇妙な名の、奇妙な男による、絶妙な推理  女性を虜にする美貌の持ち主ですが、間が抜けた発言や言動が目立ち、苗字が「亜」という何とも奇妙な探偵。しかし、その推理力は折り紙付き。マジシャンの経歴を持つ著者ならではの、観察眼に基づく論理の組み立てが面白いです。  一番好きなのは「G戦上...

奇妙な名の、奇妙な男による、絶妙な推理  女性を虜にする美貌の持ち主ですが、間が抜けた発言や言動が目立ち、苗字が「亜」という何とも奇妙な探偵。しかし、その推理力は折り紙付き。マジシャンの経歴を持つ著者ならではの、観察眼に基づく論理の組み立てが面白いです。  一番好きなのは「G戦上の鼬」。逆説的なロジックが光り、巧妙に配置された伏線が何ともいじらしい。次点は「掌上の黄金仮面」。思い切った発想の転換で、複数の謎が一気に解決します。一方で「黒い霧」は、推論が飛躍しすぎた印象です。  ミステリに読み慣れてきた私ですが、謎解きの愉しさを再認識することが出来ました。

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2016/07/26

何気ない習性や無意識な言動がポイントになったりしていて、なかなか興味深かった。少し間を置いて続編も読もうと思うし、著者の他の作品もいずれ読んでみようという気になりました。

Posted byブクログ

2017/12/17

粒ぞろいのトリッキーな作品集。続きが気になる。以下に詳しい感想が有ります。http://takeshi3017.chu.jp/file6/naiyou1102.html

Posted byブクログ

2016/01/24

空飛ぶ気球、万人が見守る大仏像の掌の上…などの密室的な状況を鮮やかに解いたり、DL2号機事件は犯人の心理をサイコロを転がすように説明してみせたり。

Posted byブクログ

2015/12/04

 スマートな見た目とは裏腹に、どこか抜けた言動のカメラマン”亜愛一郎”の名推理を描く連作短編。  収録作品は8編。個人的に好きだったのは「DL2号機事件」「ホロボの神」「黒い霧」の3編。  デビュー作でもある「DL2号機事件」は飛行機の爆破予告を皮切りに意外な展開を見せていく...

 スマートな見た目とは裏腹に、どこか抜けた言動のカメラマン”亜愛一郎”の名推理を描く連作短編。  収録作品は8編。個人的に好きだったのは「DL2号機事件」「ホロボの神」「黒い霧」の3編。  デビュー作でもある「DL2号機事件」は飛行機の爆破予告を皮切りに意外な展開を見せていく短編。  めくるめく事件の展開に対しての、犯人の動機の解明がお見事! 意外なところから伏線になっていて人間の不可思議な心理が巧く使われた短編になっていると思います。 「ホボロの紙」は戦時中、日本軍の一隊が逗留したホロボ島で起こった現地未開民族の自殺事件の真相を推理する話。  日本の慣習や考え方と違う未開民族の思考や風習が事件解決のカギとなっていて、それを考慮に入れた事件の解決が面白かったです。梓崎優さんの『叫びと祈り』に似た感じの短編です。 「黒い霧」は商店街が突然トナーカートリッジの黒い霧に覆われてしまった事件を描きます。  事件そのものの面白さもさることながら、商店街の人々のハチャメチャっぷりも楽しい短編でした。  文章は読みにくいところもありましたが、ちょっと変わったロジックや事件、また暗号を使ったものなどバラエティ豊か、愛一郎のどこか抜けた感じも良かったです。 第1回幻影城新人賞佳作「DL2号機事件」

Posted byブクログ

2015/11/24

ずっと読みたかった愛一郎さん。どじっこ愛一郎さんかわいいよ。 人の深層心理みたいなものから事件を解いていくタイプの探偵さんだなぁ。少し文章が読みづらいと感じましたが、愛一郎さんの癒しオーラで楽しく読めました。 一番なるほど感を味わえた「曲がった部屋」と、ミステリ部分もさることなが...

ずっと読みたかった愛一郎さん。どじっこ愛一郎さんかわいいよ。 人の深層心理みたいなものから事件を解いていくタイプの探偵さんだなぁ。少し文章が読みづらいと感じましたが、愛一郎さんの癒しオーラで楽しく読めました。 一番なるほど感を味わえた「曲がった部屋」と、ミステリ部分もさることながら民俗学的な面白さもあった「ホロボの神」がお気に入りです。 それにしてもこの時代留守がちだからと言ってガス代を他所で一緒に払ってもらうなんて制度があったのだなぁと関係ないところで驚いた。

Posted byブクログ

2015/10/16
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泡坂妻夫による亜愛一郎の活躍を描くミステリ短編集。 普段はパッとしないくせに、人の話を聞いてその裏に隠された真相を推理する能力がずば抜けている亜愛一郎。亜愛一郎はいわゆる安楽椅子探偵で、その現場を見ていなくても人の話から推理を展開し、事件を解決に導く。 特に、収録作のひとつ「ホロボの神」では戦時中の南方の島で起こった現地人の酋長の自殺の謎を解き明かすが、最早その現場に愛一郎が立ち会うことなどできないにもかかわらず、話を聞くだけで真相に辿り着いてしまう。その論理的かつ他に考えようがない結論の提示は小気味良いほどだ。 推理を展開すると鋭い頭脳を披露するのに、普段はまるっきり頼りないというギャップも面白い。 ふるい作品だけに、現在ではあまりお勧めされない表現や、戦争の記憶が生々しく描かれているなど時代を感じさせる部分はもちろんあるが、作品の面白さは色褪せていない。

Posted byブクログ