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イェルサレムのアイヒマン の商品レビュー

4.4

25件のお客様レビュー

  1. 5つ

    12

  2. 4つ

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2024/08/18

この本はアーレントの有名な「悪の陳腐さ」という言葉が生まれた作品になります。 アーレントはこの作品でナチスのホロコーストにおける恐るべき殺人システムの背景を考察します。 アイヒマンは極悪人ではなく、どこにでもいそうな人間であった。これが世界中を震撼させることになり、同時に激し...

この本はアーレントの有名な「悪の陳腐さ」という言葉が生まれた作品になります。 アーレントはこの作品でナチスのホロコーストにおける恐るべき殺人システムの背景を考察します。 アイヒマンは極悪人ではなく、どこにでもいそうな人間であった。これが世界中を震撼させることになり、同時に激しい論争を引き起こすことになりました。

Posted byブクログ

2023/07/23
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

ホロコーストでユダヤ人虐殺を主導したとされたアイヒマンはその果たした役割は主体的ではなく、ドイツの法令を遵守し協調的で受動的な人物であることが裁判を進める上で明らかになる。 ユダヤ人虐殺はなぜこれほどまでの被害を出したのか。それは怪物のような人物のとてつもない悪意が原因でなかった。 独裁者ヒトラーにより定められた法律は他の国家では認められない行為を奨励するようなものであった。そのナチス国家の悪法を遵守することが、本来人として持つべき良心と一致しない場合に、どうして良心の声に従うことがなかったのか。 一つは自己欺瞞である。良心が咎める行為を用語規定により「殺害」を「最終解決」などのように抵抗のない言葉に言い換えたり、響きの良いスローガン、決まり文句で表現するなどし、自らの行為を誤魔化していた。 二つ目は意志を尊重する近代的な考え方を悪用したものである。彼らは良心を誘惑として捉え、それを意志により克服することで人道的に抵抗のある命令に対し、良心に負けずそれを実施することを奨励された。 三つ目は、被害者であるユダヤ人自身の抵抗が少なかったことである。ユダヤ人社会が無国籍・亡命・自国籍という複層構造を成しており、帰属が薄いユダヤ人から順に自ら組織的に収容所への移送することに協力してしまったことによる。この処置に抵抗があればナチス側も妥協していることから、抵抗を抑えてまでユダヤ人問題を解決するほどの意志はヒトラーを除く軍担当者にはなかった。 ホロコーストがこれほどの規模になってしまったことは、アイヒマン個人が寄与することはないことは明白であり、尚且つその罪をイスラエル国家が裁くものではない。 本来、戦争裁判は国際法のもと国際裁判で裁かれるものである。 参加国がそれぞれ別に定めた法律を遵守したことに起因した被害が戦後において実施者本人が問われることがある。それを他国の法律または国を超えた人道的な罪として適切に裁くことができるのかという疑問がある。 それは法律が国の範囲で効果があり、それぞれ異なる立場のもとで発布されることから、それを遵守することによる衝突は戦争状態によって普通に発生するが、責任をそれを命令のもとに実行した各個人に帰して良いのだろうか。 そのロジックにおいては再現なく責任を問えるため、戦争に参加したものは全て有罪となってしまう。 このような法令と良心の適用範囲を異なるという構造のもとでは、誰もが板挟みに遭い罪に問われてしまう可能性がある。しかし、アイヒマンが罪に免れることができない点として、彼が実行の効率や指揮系統などの方法にのみ関心を払い、実行する行為そのものの内容にその注意を向けていなかったことが挙げられる。 彼は悪意ではなく、見るべきものを見て考えるべきものを考えなかったことにより裁かれることとなった。

Posted byブクログ

2023/06/25

アイヒマンのエルサレムでの裁判でのアイヒマンの説明及びアイヒマンのユダヤ人の移送の役割について説明されている。悪の陳腐さということは最後に出てくるし、裁判の判決理由はあとがきのみで説明されている。  日本では、アイヒマンがユダヤ人差別をしてアウシュビッツにユダヤ人を送って大量殺り...

アイヒマンのエルサレムでの裁判でのアイヒマンの説明及びアイヒマンのユダヤ人の移送の役割について説明されている。悪の陳腐さということは最後に出てくるし、裁判の判決理由はあとがきのみで説明されている。  日本では、アイヒマンがユダヤ人差別をしてアウシュビッツにユダヤ人を送って大量殺りくをした、という単純な形で語られている。しかし、東ヨーロッパの国々が様々にユダヤ人の財産を奪い強制収用をおこなったり、財産と引き換えに自国からユダヤ人を排除した、ということは、この本以外にはあまり説明されてこなかった。  雑誌に掲載されたということで、ハンナ・アーレントの文章の中ではもっとも読みやすいものと考えられる。

Posted byブクログ

2022/03/04

ハンナアーレント「イェルサレムのアイヒマン」 著者が 裁判から得た教訓は 副題の通り「悪は陳腐なものであり、誰でも起こしうる」 ナチスの下級幹部 アイヒマンを被告としたユダヤ人虐殺の裁判録。なぜ 非軍人であり、非ユダヤ主義者でもない アイヒマンが 大量のユダヤ人虐殺を行えたのか...

ハンナアーレント「イェルサレムのアイヒマン」 著者が 裁判から得た教訓は 副題の通り「悪は陳腐なものであり、誰でも起こしうる」 ナチスの下級幹部 アイヒマンを被告としたユダヤ人虐殺の裁判録。なぜ 非軍人であり、非ユダヤ主義者でもない アイヒマンが 大量のユダヤ人虐殺を行えたのか が目付けポイント アイヒマンの言葉から 服従の本質を見た。アイヒマンは恐怖や良心を一切考えることなく、権威に服従し、ヒトラーの言葉を法律として、自分の義務を果たしていたことが わかる 「政治とは子供の遊び場ではない。政治において服従と支持は同じものなのだ」

Posted byブクログ

2021/10/19

現代人はみんな一度、読んだほうが良いと思う。 責任が己に帰結しない(と脳が判断できるような)状態に陥った時、人間は、何処まで自分の良心的判断に従うことが出来るのか。大きな流れに逆らって、良心的判断に行動指針を委ねるのは本当に難しいことが分かる。薬物中毒等と同じで、一度でも手を染め...

現代人はみんな一度、読んだほうが良いと思う。 責任が己に帰結しない(と脳が判断できるような)状態に陥った時、人間は、何処まで自分の良心的判断に従うことが出来るのか。大きな流れに逆らって、良心的判断に行動指針を委ねるのは本当に難しいことが分かる。薬物中毒等と同じで、一度でも手を染めたら最後、後は決壊したダムのように『どんな行為にでも』手を染めてしまうかも知れない。 人間は思っているよりも惰弱で、決して過信してはいけないということを思い知らされると共に、もし自分が同じ立場にいたらどうするのだろうかと考えさせられる。

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2024/05/17

ユダヤ人撲滅(巨悪)を指揮したアイヒマンは極悪非道な人間というより凡庸な人物。狂人のような残忍さもなく、ユダヤ人への異常な憎悪もない。与えられた仕事を法に従って忠実にこなした平凡な官僚。特殊な人物ではなく、どこにでもいるような人間。誰でも彼のようになる可能性がある。そうならないた...

ユダヤ人撲滅(巨悪)を指揮したアイヒマンは極悪非道な人間というより凡庸な人物。狂人のような残忍さもなく、ユダヤ人への異常な憎悪もない。与えられた仕事を法に従って忠実にこなした平凡な官僚。特殊な人物ではなく、どこにでもいるような人間。誰でも彼のようになる可能性がある。そうならないために、他人の立場を常に想像すること。上の命令に無批判に従うのではなく、自分の頭で考えること。ハンナ・アーレントArendt『イェルサレムのアイヒマン』1963 ******* 人間は集団の圧力で自分の認識を歪めてしまう。ある線分は線分AからCのどれと長さが同じでしょうクイズ。複数人のサクラは正解ではない線分ではないかと言う。三分の一の被験者はそれに同調して、正解ではない線分を選んでしまう。多数派への同調。S.E.アッシュ1952 人間は権威ある人に命令を受けると、自分の道徳意識や価値観にそぐわないことでも遂行してしまう。人間は集団的圧力に晒されると、暴力的な傾向を持ってしまう。アイヒマン実験(服従の実験)。権威者から電圧ビリビリを命令される。アイヒマン「私は単なる歯車で、他者に替えることができるもの。私の地位にあればどんな人でも同じことをした」。▼自分は権威者の代理人に過ぎない。責任は権威者にあるとし、自分の行動を正当化する。スタンレー・ミルグラムMilgram『服従の心理:アイヒマン実験』1974 監獄実験。看守役は残忍に、囚人役は自尊心が低下していく。役割の内面化。フィリップ・ジンバルドZimbardo

Posted byブクログ

2020/09/26

イェルサレムのアイヒマン―悪の陳腐さについての報告 (和書)2012年09月14日 13:47 1994 みすず書房 ハンナ アーレント, Hannah Arendt, 大久保 和郎 今回再読してみました。アーレントさんの作品は図書館で借りられるものは、すべて読みました。初め...

イェルサレムのアイヒマン―悪の陳腐さについての報告 (和書)2012年09月14日 13:47 1994 みすず書房 ハンナ アーレント, Hannah Arendt, 大久保 和郎 今回再読してみました。アーレントさんの作品は図書館で借りられるものは、すべて読みました。初めの頃、アーレントさんについて思考できない状態でいました。だから読み直して吟味し直したいと前々から考えていて、今回思い立ちました。 この本は、アイヒマンに関するものでアーレントの他の著作を読んでいないと彼女の立ち位置に混乱を来すかも知れない。 この本を読んで思考自体がどのように可能になるか!他者の立場に立つという想像力とは何か!を考えさせられました。これはアーレントさんが他の著作でも指摘しているものでこの本も同様に読むことができます。 読み直して、気にかかっていたことが一つ理解できたように感じます。

Posted byブクログ

2020/07/26

正直本編の訳文は読みづらかった(´;ω;`) だが、限られた休憩時間で可能な限り調べたり、あるいはわからないまま保留して読み進めるなどして兎にも角にもたどり着いた「エピローグ」、「あとがき」、そして「訳者解説」で僕は震えた

Posted byブクログ

2018/10/18
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

全体主義的支配の本質、また官僚制の性格は、人間を官吏に、行政装置のなかの単なる歯車に変え、非人間化する。

Posted byブクログ

2018/07/31

タイトルとは違って、単なる裁判の傍聴記ではない。 そも「イェルサレム裁判が裁判として成立するのか」から問うている。 1:勝利者の裁判であり公正さに欠ける、2:人道に対する罪の明確な定義がない、3:この罪を犯す犯罪者に対する認識が不十分なこと、この3点をもって法廷として失敗している...

タイトルとは違って、単なる裁判の傍聴記ではない。 そも「イェルサレム裁判が裁判として成立するのか」から問うている。 1:勝利者の裁判であり公正さに欠ける、2:人道に対する罪の明確な定義がない、3:この罪を犯す犯罪者に対する認識が不十分なこと、この3点をもって法廷として失敗していると断じている。特に動機がないままに行われた犯罪をどう裁くのかは、法治国家にとって最大のハードルだろう。ユダヤ人迫害は国家行為だったのだから。 それ故にアイヒマンをに対しての訴追理由を「政治においては服従と支持は同じものであり、ユダヤ人迫害を行う政治を支持し実行したからこそ何人も、ともに生きていくことはできない。これが絞首の唯一の理由である」とすべきだったとのアーレントには迫力がある。多様性を否定する事は赦されるべきではないのだから。

Posted byブクログ