ホテル・ニューハンプシャー(下) の商品レビュー
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年老いた熊の死から始まる家族の歴史は、それが暗示するかのごとく、不吉さと悲運に覆われる。父はホテルという未来に、長女はレイプという過去に縛られている。ゲイの長男、姉を愛する次男、小さすぎる次女、難聴の三男と、なんらかの欠落を抱えながらも、生きる。父は年老い、視力を失いながらも、ホテルという幻影を追い続ける。長女は犯人への復讐を果たしながらも過去からは決別できない。運命の力強さと、運命に抗しようとする家族の力強さの両方に心を打たれる。 物語の推進力は素晴らしいが、エピローグはやや大団円の印象を受ける。家族はいつ、どのようにして、運命のルーチンから抜け出したのか、説得力がやや欠ける気がする。
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アーヴィングのなかでもとくに好きな作品。波乱万丈な家族の物語。決して愉快な話ではないけれど、作品の奥底に流れる人間への愛情が伝わってくる。
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【概要】 ベリー一家はウィーンに移り住み第二次ホテル・ニューハンプシャーを開業する。過激派のオペラ座爆破計画、フラニーとジョンの近親相姦、チョッパー・ダウへの復讐、そして、最後のホテル・ニューハンプシャーの開業と、おとぎ話は終わる。 【感想】 家族の喪失が下巻のトーンを落とし、全体的に「ソロー(悲しみ)が漂っている」。上巻の底抜けな明るさはなくなっては、皮肉やユーモア、登場人物の相互の愛情や暖かさは失われてはない。読んでいても、読んでいて暗鬱にならずに済む。 「開いた窓の前に立ち止まるな」や「ソローは沈まず漂う」、「熊」、そして「おとぎ話」など繰り返しでてくる言葉をいろいろ解釈するのも楽しいかも。
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夢が欲しくなります。家族が欲しくなります。なにか商売を始めたくなります。ようするに、良い小説なんですって。
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文句なしに面白かった。『開いてる窓の前で立ち止まらない』ために、『僕たちには利口な、良い熊が必要なのだ』そしてそういう熊を飼うために、この作品のような素晴らしい本を読むことが助けになるような気がする。
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アメリカのちょっと昔、の時代の家族像を描いた小説。 理想的とは言いがたいものの、不思議な絆で結ばれた家族の姿は、痛々しくもあり哀しくもあり、そしてなんとも魅力的でありました。 物語はベリー家の次男、ジョンによって語られていきます。 夏のホテルでの運命的な示唆に富んだ、父と...
アメリカのちょっと昔、の時代の家族像を描いた小説。 理想的とは言いがたいものの、不思議な絆で結ばれた家族の姿は、痛々しくもあり哀しくもあり、そしてなんとも魅力的でありました。 物語はベリー家の次男、ジョンによって語られていきます。 夏のホテルでの運命的な示唆に富んだ、父と母の、そして二人と熊との出会い。 長男のフランク、長女のフラニー、次男のジョン、次女のリリー、三男のエッグ――次々に生まれてくる子どもたち。 ある日、父親のウィン・ベリーは決意する。家族でホテルを経営しよう、と。 こうして、第一次「ホテル・ニューハンプシャー」が誕生する。 家族は、様々な不幸や不運に見舞われながら、また、抜き差しならぬ問題を抱えながら、1930年代のアメリカ、第二次大戦後のウィーン、そして再びアメリカと、ホテルとともに生きていきます。 粗野で、下品で、乱雑で。 それなのに、時々現れる、胸を打たれるほどの美しさ、哀しさ。 アーヴィング作品に心を捕らわれる理由はここにあります。
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残酷で温かい現代の童話。 「開いている窓の前で立ち止まるな」 小説を読むことの大変さと素晴らしさをあらためて知ることができる一冊です。
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私は3男のエッグがとても好きで(アービングは恐ろしいほどに子供の描写がうまい、それがとても悲しい) 彼のいない下巻は、それだけで切ない。 フロイトの夢があり、フラニーの再生があり、 リリーのその身をいつしか締めていく努力がありと 息をつかせない展開が面白くて、やはり悲しい。 こん...
私は3男のエッグがとても好きで(アービングは恐ろしいほどに子供の描写がうまい、それがとても悲しい) 彼のいない下巻は、それだけで切ない。 フロイトの夢があり、フラニーの再生があり、 リリーのその身をいつしか締めていく努力がありと 息をつかせない展開が面白くて、やはり悲しい。 こんな本が読めるから、まだ開いている窓の前では立ち止まれない。
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ある家族とその周辺が織り成す、残酷で温かい物語。 なんとまあ、愛しい物語だろう。 人生は、奇跡の軌跡。
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とフランクはつい最近僕に言ったのだ。「あとは言わなくてもわかるだろう。おれたちが第一次ホテル・ニューハンプシャーにいた頃、おれたちは永久に十三歳であり、十四歳であり、十五歳であるように思われた。 フラニーの言う、くそ永久にな。ところが、 いざ第一次ホテル・ニューハンプシャーを出た...
とフランクはつい最近僕に言ったのだ。「あとは言わなくてもわかるだろう。おれたちが第一次ホテル・ニューハンプシャーにいた頃、おれたちは永久に十三歳であり、十四歳であり、十五歳であるように思われた。 フラニーの言う、くそ永久にな。ところが、 いざ第一次ホテル・ニューハンプシャーを出たが最後、おれたちの以後の人生は二倍も速く流れ去っていった。そういうもんなんだ。」フランクは気取って断定した。「一生の半分はずっと十五歳さ。そしてある日、二十代が始まったかと思うと 次の日にはもう終わってる。そして三十代は、楽しい仲間と過ごす週末みたいに、あっというまに吹き抜ける。そしていつのまにか、また十五歳になることばかり考えてる。」
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