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恋文 の商品レビュー

3.9

87件のお客様レビュー

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    21

  2. 4つ

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2022/11/24
  • ネタバレ

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目次 ・恋文 ・紅き唇 ・十三年目の子守歌 ・ピエロ ・私の叔父さん どの作品も、しっかり者だったり意地っ張りだったり見栄っ張りだったりして言えない言葉を、その虚勢を、空元気を描いていて、素直に感情を表現することの苦手な私の心にぐっさぐさ刺さるのだった。 表題作では、夫が余命僅かの昔の彼女を看取るため家を出る。 その理由を知った年上でしっかり者の妻は、夫の従兄として彼女を見舞い、いつしか心を許せる友達になる。 リアリティがなさそうな設定だけど、自分に置き換えると取りすがって泣くことも、取り乱して怒り狂うこともできそうにないから、きっとなんてことないような顔をして送り出す気がする。 全然他人事に思えない。 ただ、子どもがいるでしょう? 大人の勝手な都合で子どもに悲しい思いをさせてはいけない。 父に反発しながら焦がれる男たちの気持を描いた『十三年目の子守歌』も、妻の希望をまるごと受け入れて裏方に徹しきった夫の姿を描いた『ピエロ』も良かったけれど、『紅き唇』『私の叔父さん』が良かった。 ロマンチストか、私。 『私の叔父さん』は、6歳違いで兄弟のように育った叔父と姪の秘めた想いを、姪の結婚とその2年後の事故死によって凍結していた想いを、姪の娘が20年ぶりに突き付ける話。 カメラマンとして活躍している構治と姪である夕季子とその夫。 メインは構治と夕季子の想いのやり取りなのだけど、最後の最後に夕季子夫婦の愛のかたちも見えてとても良かった。 が、夕季子の忘れ形見である夕美子が、自分の我を通すために母の秘めた恋心を関係者全員の前で暴露するのはちょっと許せない。 一番気に入ったのは『紅き唇』。 結婚して3ヶ月で亡くなってしまった妻。 結婚生活が短すぎて、別れが急すぎて、悲しみも感じることができなかった和広。 今はどういうわけか、妻が亡くなってから転がり込んできた妻の母と暮らしている。 家族縁の薄い二人の、奇妙な同居生活。 戦前戦後を働きに働いた母は、甲斐性のない夫にも二人の子どもにも先立たれ、一人残った娘とはうまくいかず、天涯孤独のようなもの。 酔った勢いで、若かりし頃、友達の恋を応援した話などすることもあるが、苦労ばかりの人生でったと言える。 和広にはいま、付き合っている女性がいるが、最初は応援してくれた義母が、ある時から彼女を貶しはじめ、交際は停滞している。 義母はこの二人の恋を応援する。 口紅の一本も買ってやれ、と。 全てがわかった時、母の想いに涙する。 もうほんと、このやせ我慢と小さすぎる幸せに、涙止まらんかったよ。

Posted byブクログ

2022/07/24
  • ネタバレ

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離婚届が最大のラブレターになるなんてほんとに残酷だと思った。 いい女、強い女であればあるほど、大切な人は離れていってしまう。 こんなことだったらいい女にも、強い女にもならなくていい。 大切な人を自分の傍に繋ぎとめておくために、だめな女、弱い女のままでいよう。 私はこれからも、自分では何もできない弱い女を演じ続ける。

Posted byブクログ

2022/07/10

ある雑誌社の「人生相談コーナ-」に、小学4年生になる男の子が、母親の悩みを綴った手紙を郵送する。 男の子の父親が結婚する前に一年ほど交際していた女性が、骨髄性白血病と診断され余命6カ月であることを知り、その最後を看取りたいと家出したことで始まる、直木賞を受賞した表題作のほか、『紅...

ある雑誌社の「人生相談コーナ-」に、小学4年生になる男の子が、母親の悩みを綴った手紙を郵送する。 男の子の父親が結婚する前に一年ほど交際していた女性が、骨髄性白血病と診断され余命6カ月であることを知り、その最後を看取りたいと家出したことで始まる、直木賞を受賞した表題作のほか、『紅き唇』『十三年目の子守唄』『ピエロ』『私の叔父さん』の全5編は、生き馬の目を抜く大都会に暮らす老若男女の人生の機微を絡ませ、儚さ、憐みのシーンを救いの視線で描いた、こころ焦がしてやまぬ究極の愛の物語。

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2022/09/02
  • ネタバレ

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今日はちょっとレトロなこんな本。 『恋文』 連城三紀彦 (新潮文庫) 五編収録の短編集である。 時代背景は古いものの、不思議とするりと物語世界に入り込め、知らず知らず引き込まれてしまっている。 この読む者を引きずり込む“力”はいったい何なんだろう。 どの短編もそれぞれ違った色を持ち、一つ一つが骨太で、個性を放っている。 一番印象に残ったのは、「紅き唇」。 新妻を亡くしたばかりの和広と、義母のタヅとのちょっと変わった同居生活。 その裏には、タヅの数十年越しの秘密があった。 “真紅の口紅”というアイテムが効いてるね。 パチンコ台で、パチンコ玉を涙に見立てて泣くシーンが秀逸。 この楽しい企みにまんまと利用された優しい和広と、いたずらっ子の少女のようにお茶目なタヅさんの組み合わせがとてもいいと思った。 「十三年目の子守歌」もよかった。 この作品は、初めから終わりまで主人公の独白で進む。 誰かに身の上話をしているらしい。 “てにをは”の極端に少ない話し言葉は飾り気がなく、素のままの主人公の勝手な思い込みや、被害妄想や愚痴がぶちまけられていて面白い。 いわゆるエディプスコンプレックスの話なのだが、三人の男たち(亡父も合わせると四人か)の揺れる心が、巧妙に仕掛けられた人間関係の綾に絡められ、唸らせられる。 父に対する憎しみを自分が理想的な父親になることで昇華させようとした新次が、それでもやっぱり反抗という行為を通して父にこだわり続けていた、というのが、庭石に缶を投げるラストシーンに収束されていて、悲しいようなそれでいてかえってすっきりしたような、不思議な気持ちになった。 表題作「恋文」では、典型的な“だめんず”&年上妻と元カノの三角関係というややこしい話なので、すごくドロドロした感じなのかと思っていたのだけれど、意外と爽やかな読後感だった。 「ピエロ」はちょっと怖いかもしれない。 「俺なら、いいよ」というのが口癖の“髪結いの亭主”・計作。 自分の仕事を辞めて、妻の美木子を支えた。 文句も言わずに下働きをし、ひょうきんな言動で客を笑わせ、場を和ませる。 何をやっても何を言っても、冗談にしか見えないピエロ。 しかしある日、突然計作は出て行くのだ。 本当は、妻を陰で支えていたのではなく、髪結いの亭主という笑われ役でスポットライトを浴びていたのは計作の方だったのではないか、と美木子は思う。 本当はどうだったのか、結局最後まで分からないまま、美木子の、計作への未練ともいえる思いだけを残して、ストンと物語の幕は落とされる。 ……ものすごく気になる。 計作という人物の存在が妙に後を引く。 それは自分も知らず知らずのうちに、この謎のピエロが主役の舞台の観客にさせられてしまっていたからだろうか。 「私の叔父さん」は、少女から大人になる途中の女性の気持ちを、なんでアナタこんなことがわかるのですか、と作者に聞きたくなるほど丁寧に描いている。 ここに出てくる45歳のカメラマン・構治も、チャラ男ではあるけれどどこか惹きつけられるものがある。 彼による“大人”の定義。 「大人ってのは嘘をつくことじゃなく、“つける”こと」 「本当のことでも言ってはいけないことなら口に出さない人のこと」 むむ。なるほど。 夕季子と夕美子を明らかに重ねて見ていながら、構治が夕美子との結婚を決める場面に、男の覚悟を見た気がした。 「あとがき」が素晴らしい。 何と優しい文章なのだろう。 地道に毎日を生きている人々の心の機微がさらりとした綺麗な文章で綴られている。 出会えてよかったと思える本でした。

Posted byブクログ

2022/02/15

 連城三紀彦さんのことは、地球っこさんのブックリストで知りました。何にそんなに惹かれたかというと、ずばり、この〈連城三紀彦〉さんという、お名前。〈三国連太郎〉とちょっと似てるような…けど、もっと華があってなんか流れるようにしなやかで、影もあるんですよね。ペンネームだそうです。お写...

 連城三紀彦さんのことは、地球っこさんのブックリストで知りました。何にそんなに惹かれたかというと、ずばり、この〈連城三紀彦〉さんという、お名前。〈三国連太郎〉とちょっと似てるような…けど、もっと華があってなんか流れるようにしなやかで、影もあるんですよね。ペンネームだそうです。お写真を拝見するとちょっとユースケ・サンタマリアさんに似ていると思いました。残念ながらもう他界されているそうです。  さて、作品ですが、〈口紅〉や〈マニキュア〉など、ささやかな紅色がよくモチーフとして使われています。  私が一番印象に残ったのは、「恋文」という作品で、子供のような年下の旦那が主人公の女のお気に入りのマニキュアで窓ガラスに桜の花びらの絵を描いて、出て行ってしまったお話です。その旦那は結婚前に付き合っていた女が病気で余命半年ほどだと知らされ、その女と一緒にいてやるために、奥さんに「離婚してくれ」と頼むのです。「どうして離婚までしなければならないの」……一人部屋に残され悩む彼女の所に西日が差して、窓ガラスに描かれた桜の花びらが流れるようなピンクの光を投げかけるのです。色々な形の“恋文”があるのです。  「ピエロ」という作品も好きです。(ネタバレ御免)美容師の妻のために、喜んで会社を辞め、持ち前の“人の心を掴む”才能で次々とお客さんを開拓し、トラブル時にも自分のせいにして頭を下げて丸く解決し、店の掃除など喜んで一手に引き受けてくれた夫。そんな夫を裏切り、浮気をしてしまった妻が「浮気をしてきた」と正直に話しても、相変わらず「俺ならいいよ」とピエロのような顔で答える人の良すぎる夫に腹が立った妻。だけど「俺もさつっきまで良子(若い従業員)の部屋にいたんだ。」という夫。騙された…道化のような顔をして、ちゃっかり妻をだまし続けていたなんて…。だけど夫が出ていったあと一人になってしばらくして、彼の本当の優しさと愛情に気づくのです。  「大人になるということは、嘘がつけるようになるということ」と、「私の叔父さん」の“叔父さん”は言います。世代なのか、性格なのか、何でも四角四面にきっぱりとした解答をすぐに求めたがる私。昭和っぽいのかなあ?そういえば親の世代は、こんなふうに柔らかく……いい加減ではなく、今よりもっとみんな一生懸命だった気がしますが、人の間違いとかもふんわり包んであげる優しさがあったような気がします。

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2021/10/28

恋愛モノは普段読まず、タイトルで積読だったけど、読んでみたららこれは格別な作品だった。他の連城作品を読んでみたいと思った。

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2020/10/17

少しじれったい、このドキドキ感はとても懐かしい。 この頃、映画『私をスキーに連れてって』が大ブームとなり、夜の街では「ディスコ」が流行り、若きユーミンやサザンが青春を歌う…。 古い価値観が崩壊し、新しい時代をみんな模索していた。 恋愛感もこの本の通り、どこか「新しくて古い」妙...

少しじれったい、このドキドキ感はとても懐かしい。 この頃、映画『私をスキーに連れてって』が大ブームとなり、夜の街では「ディスコ」が流行り、若きユーミンやサザンが青春を歌う…。 古い価値観が崩壊し、新しい時代をみんな模索していた。 恋愛感もこの本の通り、どこか「新しくて古い」妙なバランスを保って、細い糸の上を粋がって走っていた。 ここにある話は、みな、ありそうでなさそうな、内緒の話…。

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2021/03/09

ドラマがとても良かったので・・「恋文」が短編集の一つだったとは。 余命いくばもない、昔の彼女を看取るため妻子を置いて家を出る美術教師の夫。ラストがよかった。 将一の気持ちはなかなか理解できない。が、かつての恋人江津子と妻郷子は、次第に心を通わす。そこの所はなんかわかる気がした。 ...

ドラマがとても良かったので・・「恋文」が短編集の一つだったとは。 余命いくばもない、昔の彼女を看取るため妻子を置いて家を出る美術教師の夫。ラストがよかった。 将一の気持ちはなかなか理解できない。が、かつての恋人江津子と妻郷子は、次第に心を通わす。そこの所はなんかわかる気がした。 物憂げな江津子、和久井映見、はつらつとした郷子、水野美紀のイメージを思い出す。

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2019/10/24

大人の恋をえがいた五つの短編を収録しています。 「恋文」は、郷子の夫・将一が、死の床にある江津子という女性のもとに去っていく話。夫婦がたがいのことを深く理解しあっているために、悲しい結末へと導かれていくストーリーを、わがままを通すことのできない場所へと閉じ込められてしまった郷子...

大人の恋をえがいた五つの短編を収録しています。 「恋文」は、郷子の夫・将一が、死の床にある江津子という女性のもとに去っていく話。夫婦がたがいのことを深く理解しあっているために、悲しい結末へと導かれていくストーリーを、わがままを通すことのできない場所へと閉じ込められてしまった郷子の視点からえがいています。 「紅き唇」は、結婚したばかりの妻を事故で亡くした和広と、妻の母・タヅとの暮らしがえがかれます。和広の恋人・浅子によるタヅの心情の「種明かし」が、物語の軽妙さと静謐さを併せもった雰囲気を壊してしまっているような印象もあって、もうすこしスマートなオチはつけられなかったのだろうかと残念に感じました。 「十三年目の子守唄」は、料亭を営む母が若い男と結婚し、自分の居場所がなくなったように感じている息子の物語。まさに短編ミステリといった内容で、他の四編とはちがった作風になっています。 「ピエロ」は、美木子のことを深く理解しているように見えた夫の計作が、美木子の営む美容室の若い女性と家を去っていく話。計作が、美木子の望むことを先回りしてこなしているうちに、自分自身の心がどこにあるのか、美木子にも彼自身にも見えなくなってしまうという話でしょうか。 「私の叔父さん」は、東京でカメラマンをしている構治のもとに、死んだ姪の夕希子の娘・夕美子がやってきて、かつて構治と夕希子のあいだで起こった心理劇を再演することになる話。子どもから大人になろうとする夕美子のみずみずしさが、少し人生にくたびれた構治の視点からうまく描写されています。

Posted byブクログ

2019/03/01
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

私がまだ小娘だったン十年前、初めて触れた大人の恋愛集。 切なくて、依怙地で、淋しくて、嘘つきで。なのに、どうしてこんなにも美しいのか…心が震える、と言う体験をした初めての本。今、こうして読み返しても、全く変わらない静かな感動とあたたかな余韻。本物の愛情ってこういうことなんだ…

Posted byブクログ