破獄 の商品レビュー
脱獄を繰り返した男の半生を描いた小説でした。特に昭和初期までの監獄からの脱獄は牢も看守の質も未熟で、まさに人知と体力の闘いの様子でした。 用意周到に脱獄する者は、ハンニバル・レクターのように知能が高いだけでなく体力も備えておく以上に、脱獄に向けての異常な執念が必要でした。 そ...
脱獄を繰り返した男の半生を描いた小説でした。特に昭和初期までの監獄からの脱獄は牢も看守の質も未熟で、まさに人知と体力の闘いの様子でした。 用意周到に脱獄する者は、ハンニバル・レクターのように知能が高いだけでなく体力も備えておく以上に、脱獄に向けての異常な執念が必要でした。 その執念は看守への怒りから発しているとすれば、動機が屈折しているほど周囲には理解されず孤独感は増すと感じました。 しかしそうであればこそ、自分を理解してくれていると感じた者を深く信頼し、それが執念を軟化させるきっかけになるのだと思いました。 一人で怒ったり悩んだりするのではなく、信頼できる人に自分を解放していく方法は、人の心理的なバランスを保つ手段としてやはり有効なのだと確認しました。
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大昔に読んだ本の再読。第二次世界大戦前後の混迷した時代に収監された一人の無期懲役囚が、色んな意味で過酷な環境下にある数々の刑務所から繰り返し脱獄する様を描く、という、史実をもとにして書かれた犯罪小説。 脱獄してやる、という囚人の執念と、絶対に脱獄させない、という看守たちの執念のぶつかり合いを描いた小説なんだけど、両者ともに屈強なところや弱いところが鮮明かつ公平に描かれていて、どっちにも理解を示せるし、懐疑を抱くこともできる。この公平さこそ吉村昭。
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戦前、戦中、戦後にあった連続脱獄囚と刑務所の男たちの生々しい対応。 当時の時代背景や懲罰のあり方、人間の驕りや錯覚など、その表面的なストーリーとは別にとても深い示唆に富んでいる。
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再読。 何回読んでも面白い。吉村さんの緻密な取材による文章は、飾り気はないがその分リアリティーに富んでいる。 初めてあとがきを読んだが、ノンフィクションにしなかった意図など、改めて感心させられた。
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直さんが好きな理由が分かった気がする 強くて弱い男のはなし。 彼と真剣に向き合った刑務官のはなし。 花弁の味を確かめるシーンが良かった
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公文の先生に勧められて読んだ本。みそ汁の塩分で鉄を錆びさせて牢をやぶる、とか、スパイダーマンみたく壁を登って牢を抜ける、とか。網走刑務所のいかにも寒そうな記述(布団の湿気が夜には凍りついた、みたいな。)を沖縄で読んだのが思い出。
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何度も脱獄を繰り返す男と、その時代背景を描く。 戦中・戦後の混乱の中で なんという生命力なのだろう。 その力の根源は 愛情に飢えた孤独な気持ちや寂寥感?
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狼王ロボのような読後感。こちらの方が救いがあるが。 単にプリズンブレイクというテーマの持つ普遍的な魅力のみならず、戦中戦後の刑務所事情など、なかなか知ることの無い記述も多く、主人公の際立った個性と相まって一気に読ませる。
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読了までに時間がかかった。ドキュメンタリーなのか、フィクションなのか、読み終わった今でも迷うところ。 作者はあとがきで「小説」と言っているのだけれど。 戦中戦後の刑務所や社会の空気がリアルに描かれていて、興味深い。 主人公の才能を勿体無く思った。
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実際に存在した最大にして最後の天才脱獄囚の男(作中では、佐久間清太郎という仮名で登場)を題材とし、彼と彼をとりまく人間関係を描いている。 とにかく佐久間の努力、執念と明晰さに驚かされる。看守との巧みな心理戦も読んでいて面白い。そして、たまに垣間見える佐久間の人間らしさに少し情...
実際に存在した最大にして最後の天才脱獄囚の男(作中では、佐久間清太郎という仮名で登場)を題材とし、彼と彼をとりまく人間関係を描いている。 とにかく佐久間の努力、執念と明晰さに驚かされる。看守との巧みな心理戦も読んでいて面白い。そして、たまに垣間見える佐久間の人間らしさに少し情が湧いた。 時代の背景の描写や状況説明が豊富なので、当時の空気を味わいながら読める。そういうところは歴史小説の体裁と似ている気がする。 難攻不落の刑務所を四度も破獄した佐久間の生き様を味わってみては?
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