商品詳細
内容紹介 | |
---|---|
販売会社/発売会社 | 白水社 |
発売年月日 | 2015/09/01 |
JAN | 9784560084670 |
- 書籍
- 書籍
ある夢想者の肖像
商品が入荷した店舗:店
店頭で購入可能な商品の入荷情報となります
ご来店の際には売り切れの場合もございます
お客様宅への発送や電話でのお取り置き・お取り寄せは行っておりません
ある夢想者の肖像
¥3,520
在庫あり
商品レビュー
2.8
6件のお客様レビュー
エドウィン・マルハウスのほうが好きかなあ。敢えての冗長な文体の効果は分かるのだけど、じっさい読みづらい。 物語としては、ミルハウザーらしさが第二長編にしてすでに満開で、気持ち悪くて素晴らしい。今回は主人公が突き抜けきらないパターンで、凡庸な成人になってから書いた自伝の体裁をとって...
エドウィン・マルハウスのほうが好きかなあ。敢えての冗長な文体の効果は分かるのだけど、じっさい読みづらい。 物語としては、ミルハウザーらしさが第二長編にしてすでに満開で、気持ち悪くて素晴らしい。今回は主人公が突き抜けきらないパターンで、凡庸な成人になってから書いた自伝の体裁をとっている。それぞれ振り切ってる友達3人と次々に仲良くなるのだが、のめり込むわりにピッタリと嵌れない関係を繰り返す。世界に浸り切りたいのに自意識が邪魔をする感じは、よく書けている。
Posted by
アメリカの郊外に住んでるだろう、男子の子供の頃から高校生までの話。よくあるテーマ。そしてごく普通に愛情溢れる両親と暮らす一人っ子。なんら難しくない読書である。しかしとてもしんどく感じる。敢えて作者は主人公に足あせをし、世界を拡げないようにさせているように感じる。壮大なサデズム。体...
アメリカの郊外に住んでるだろう、男子の子供の頃から高校生までの話。よくあるテーマ。そしてごく普通に愛情溢れる両親と暮らす一人っ子。なんら難しくない読書である。しかしとてもしんどく感じる。敢えて作者は主人公に足あせをし、世界を拡げないようにさせているように感じる。壮大なサデズム。体が大きくなるにつれ、避けて通れない性や、親戚や、ご近所の記述がゼロ。もうこれは現代を装った仮死世界であり、ただ主人公は瑞々しい感性を腐敗させ、それを悲観させ、暴力にも向かわせない。自分には極めて恐ろしい、ホラーの世界と感じた。
Posted by
1/26 読了。 退屈を持て余したアーサー・グラムの青春時代には、三人の<分身>がいた。ゲームのルールに厳格なまでに忠実で、カメラを愛好し、夜中に街を徘徊するウィリアム。学校教育を見下し、ポーに耽溺していて、スティーヴンソンの『自殺クラブ』を二人で実行しようと持ちかけるフィリップ...
1/26 読了。 退屈を持て余したアーサー・グラムの青春時代には、三人の<分身>がいた。ゲームのルールに厳格なまでに忠実で、カメラを愛好し、夜中に街を徘徊するウィリアム。学校教育を見下し、ポーに耽溺していて、スティーヴンソンの『自殺クラブ』を二人で実行しようと持ちかけるフィリップ。病弱なため長期で学校を休み、人形だらけの部屋に体を横たえて、ロミオとジュリエットのように毒を飲んで一緒に死のうと誘うエリナー。退屈の延長上にある死に幾度と接近しながら、時間を浪費していたアーサーの微睡みの日々。 ミルハウザーの第二作目にあたる長編で、完全に処女作『エドウィン・マルハウス』と対になる物語。ジェフリーがエドウィンを自分の作品と見なして伝記のためにエドウィンを殺したのに対して、アーサーはウィリアム、フィリップ、エリナーと対存在を乗り換えるにつれ、「完璧な自分の分身(半身)なんていない」ということに気づく。しかし、気づくと同時にウィリアム(ポー信者のフィリップによって「ウィリアム・ウィルソン」と揶揄された)が、恐らく自分が何度も死から逃げたアーサーとは違う人間なんだと証明したいと願って、アーサーの目の前で銃口をこめかみにあてる。あるいは、ウィリアムこそ本当にアーサーと自殺クラブをやりきるつもりだったのか? ともかくアーサーは二九まで生き延びてこの自伝を書いている。『エドウィン〜』は元々二五歳くらいの男の人生を書くつもりだったのを、書いているうち幼少期の話に絞ることになったのだというから、ここからもこの二作が二つで一つの関係であるのがわかるだろう(とはいえ、今作もミドルスクールからハイスクールまでのエピソードしか書かれていない)。銃を所持するアウトローとしてのフィリップとアーノルド、クラスから弾き出された女の子としてのエリナーとローズがそれぞれ対応しているとすれば、カメラが趣味のウィリアムはジェフリーだろう(コントロールフリークの気があるのも似ている)。とすれば、本書は"ただの人"となったエドウィン=アーサーの<自伝>なのかもしれない。 アーサーの文体は他のミルハウザー作品から見ても独特で、とにかく繰り返しが多い。センテンスどころかパラグラフ丸ごと繰り返される箇所もちょいちょい。リフレインの多用によって退屈は増幅し、循環する。退屈しながら何もできない、どこにも行けない、という怠惰で重苦しい感覚を醸し出すのに効果を上げている。フィリップとエリナーのベッタベタに"中二病"な設定を、皮肉にならずに静かなトーンで描写するのもミルハウザーの妙技であろう。 フィリップとウィリアムとアーサーの微妙な三角関係の緊張感がとても好き。ウィリアムと一緒に「トムとハック」になり切ったと思ったら、フィリップの血が混ざったワインを飲んで義兄弟の誓いを交わしちゃうアーサー…。特に死んだフィリップを夢で見るシーンがえろい。「そこに、高い雑草に埋もれるようにして、ぐっすり眠った、ひどく青白い、こめかみに小さな赤い穴が開いたフィリップ・スクールクラフトが横たわっていた。白い小球がいくつも浮かんでいるように見えるその湿った赤い穴を吟味しようと僕はかがみ込んだが、穴に指を差し入れたとたん、ずきずき脈打つ頭痛とともに目が覚めた」アーサーのテンションはぐんぐん上がり、それは遂に薄暗い部屋でフィリップが本をくり抜いた箱の中に隠した銃を取り出した瞬間に頂点に達し、フィリップの死がすぐそこに迫ったことを思って深い愛情が迸るんだけど、その銃を渡されて「君が先」と言われた途端、急速にしぼんでいく。フィリップとアーサーは基本的な信頼関係を築けていないので、互いに相手が先に引き金を引くべきだと思っているし、アーサーを裏切り者呼ばわりしたウィリアムは、アーサーを信じていないからこそ自分でさっさと終わらせたのだろう。可哀想なアーサー。わざわざ冒頭に思わせぶりな二九なんて歳を書いたということは、もしかしてアーサーは三十で死ぬのかなぁ。っていうか二九までどんなふうに生きてきたのかなぁ。 エリナーがポーの代わりに薦める「エドワード・オーウェン・ホワイトロー」はググっても出てこないけど、余程マニアックな作家かそれそも創作か。ここだけ詳細なあらすじ説明があるのできっと創作の架空作家なのだろうけど、だとすればエリナーにポーに憧れていた時期があって、その頃偽名で書いた小説だとかいう仮説が成り立つかもしれず、ちょっと面白い。
Posted by