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道徳の時間
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道徳の時間

呉勝浩(著者)

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道徳の時間

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 講談社
発売年月日 2015/07/01
JAN 9784062196673

道徳の時間

¥1,760

商品レビュー

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2026/02/06

「道徳の時間を始めます。殺したのはだれ?」 「自白のないまま教判が始まりました。向は裁判においても一切発言をしていません。釈明どころか、反省さえも口にしなかった。判決前、裁判長が向に問いました。『最後に君の口から正木昌太郎の死について何か思うところはないか?」。彼はこう答えまし...

「道徳の時間を始めます。殺したのはだれ?」 「自白のないまま教判が始まりました。向は裁判においても一切発言をしていません。釈明どころか、反省さえも口にしなかった。判決前、裁判長が向に問いました。『最後に君の口から正木昌太郎の死について何か思うところはないか?」。彼はこう答えましたー」 黒目がちな瞳が、熱を帯びたように光った。 「『これは道徳の問題なのです』。それが向晴人の唯一の証言でした」 「そうではありません。伏見さんの仰る通りです。事実はどちらでもいい。問題は、道徳です」 「思わせぶりはよせ」 「だからそのままです。道徳の問題。つまり法律と道徳の問題です」 越智の真っ直ぐな眼差しに、熱した感情が冷め、ほんの少し青褪める。 「向が正木を殺したという判決は、向晴人を裁いたのは、法という名のルールですか?それとも道徳ですか?」 「動機自体は第三者に理解可能なものではなかったのかもしれません。でもだからって、向を精神異常とするのは乱暴過ぎますよ。理屈で言えば、殺人のほとんどは不合理です。得るものとリスクを天秤にかければそれは自明です」 「なら精神異常との違いは何だ」 「実は僕、責任能力って言葉があまり好きな人間じゃないんです。目的を持ち、それを果たすための行動を選択できてる人間のどこが心神喪失なんだ、と思います。目的の異常性はたんなる好みでしょ」 ふと、鳴川事件と小峰町の連続イタズラが奇妙に交差する感覚を覚えた。二つに共通するのは、道徳という言葉。そして不可解な動機だ。 信頼の厚かった教育者と、世捨て人になった芸術家という違いはあれど、彼らに対する強烈な憎しみの面影が、どこにも見出せない。得られる利益だってない。 すると動機は、やはり道徳なのか? 「追体験による他者への想像力の獲得。それによる道徳の獲得。道徳的な振る舞いを強制する 《みんなくん》の獲得。演劇には確かにそういう側面がある。それは確かだよ。でも、いささか 怪しいね」 「と言いますと?」 「演劇という擬似体験を通じて他者への想像力を得ることはできるだろう。痛みも喜びも、善悪も。作品に与えられたテーマによってね。けどそれって、実は誰かが頭で考えた《ルール》に過きないと思わない?人を殺すのは悪いこと、っていうルール。愛は素晴らしいもの、っていうルール。作者が造った役柄による、作者が造った物語で語られる、作者が造ったテーマ、ルール、道徳。じゃあ《みんなくん》って誰? ー 作者でしょ?」 「俺は悲惨な世界を回って、残酷な現実ってやつばかり見て、世の中をわかったつもりでおった。愛だとか善だとか、そんなもん馬鹿にして、彼女を金目当ての悪魔と決めつけてた。そうやない可能性は俺ん中になかった。あの瞬間までな」 伏見のカメラを投げ捨てた内野さとみは、確かに戦っていた。愛する者の配態を晒そうとする優略者を相手に。 「俺が切り取ったフレームは、俺が切り取りたかったフレームでしかなかった。そこに映っとる醜さは、全部自分の配さやった。安全な場所から、卑法に優物を狙っとったんは、他ならぬ俺やった。それに気づいて、ケツを捲って逃げ出したんや」 伏見のカメラを投げ捨てた内野さとみは、確かに闘っていた。愛する者の醜態を晒そう 侵略者を相手に。 「俺が切り取ったフレームは、俺が切り取りたかったフレームでしかなかった。そこに映融さは、全部自分の願さやった。安全な場所から、卑怯に獲物を狙っとったんは、他ならぬ俺やった。それに気づいて、ケツを捲って逃げ出したんや」 「ある男がおってな。彼は悪いことをした。そしてその罪を隠そうともせず、素直に罰を受け入れた。自ら進んで、ルールの通りに。でも全部が、実は自分勝手な意志によるものやった。俺には…俺にはそれがよくわかるんや。彼が生きるために、自分の生まれたろくでもない世界から抜け出すために、それをした理由がな」 転がる死体、貧困に喘ぐ人々。勇んでカメラを向けた自分がいた。 「きっと、そいつはこう思っとったんやろう。世の中、絶望は平等や、と。俺もそう思う。間違いなくそう思っとる。けど今は、こうも思うようになった。絶望と同じく、愛情も平等や」 誰かの悲惨を映し、生き延びてきた自分を恥じはしない。これからも、同じようなことを繰り返すだろう。ただ、かつての俺に、お前は少し変わるんや、と教えてやりたい。 理不尽な絶望で心が簡単に死ぬように、ささやかな愛情で蘇ることだって難しくはないのだ、と。綺麗事や ー ひねくれた懐かしい自分は笑うだろうが、今ならそう信じられる。朋子と友希がいる今は。

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2025/12/25

今、映画で話題になっている『爆弾』を読んだ衝撃から、呉さんの本を他にも読みたいと思い手に取った。恩師だった正木先生を指し殺した向晴人のドキュメンタリー映画を撮影する中で、次々と明かされる真実。同時に陶芸家の不可解な死。共通するのは「道徳」と言う言葉。 少し読みにくいと思った。色々...

今、映画で話題になっている『爆弾』を読んだ衝撃から、呉さんの本を他にも読みたいと思い手に取った。恩師だった正木先生を指し殺した向晴人のドキュメンタリー映画を撮影する中で、次々と明かされる真実。同時に陶芸家の不可解な死。共通するのは「道徳」と言う言葉。 少し読みにくいと思った。色々な事件があちこちで起こり、場面が次々変わるため、登場人物も多い。2つの殺人事件の関連性がないのも「?」だったが、ラストの衝撃はなるほど!と思った。これがデビュー作なら、「爆弾」はかなり読みやすくなってると感じた。他の本も読んでみたい。

Posted by ブクログ

2025/11/16

『爆弾』『スワン』の呉勝浩の江戸川乱歩賞受賞したデビュー作。 ビデオジャーナリストの伏見が住む鳴川市で、連続イタズラ事件が発生。 現場には『生物の時間を始めます』『体育の時間を始めます』といった 謎のメッセージが置かれていた。 そして、地元の名家出身の陶芸家・青柳南房が死亡する...

『爆弾』『スワン』の呉勝浩の江戸川乱歩賞受賞したデビュー作。 ビデオジャーナリストの伏見が住む鳴川市で、連続イタズラ事件が発生。 現場には『生物の時間を始めます』『体育の時間を始めます』といった 謎のメッセージが置かれていた。 そして、地元の名家出身の陶芸家・青柳南房が死亡する。 そこにも、『道徳の時間を始めます。殺したのはだれ?』という落書きが。 イタズラ事件と陶芸家の殺人が同一犯という疑いが深まる。 同じ頃、休業していた伏見のもとに仕事の依頼がくる。 かつて鳴川市で起きた殺人事件を題材とした ドキュメンタリー映画のカメラマンを任せたいという。 十三年前、小学校の講堂で行われた教育界の重鎮・正木の講演の最中、 かつて正木の教え子だった卒業生の向晴人が客席から立ち上がり、 小学生と保護者を含む300人の前で正木を刺殺。 動機も背景も完全に黙秘したまま裁判で無期懲役となった。 向は裁判で一言「これは道徳の問題なのです」とだけ語っていた。 証言者の撮影を続けるうちに、 過去と現在の事件との奇妙なリンクに絡め取られていく。 そんなあらすじに胸が躍る。 そう話の三分の二までは間違いなく傑作の予感しかなかった。 だが後半、それは予想もしてなかった方向へと転がり出した。 ものすごく簡潔に言えば、拍子抜けである。 提示されてきた謎とその答えが釣り合っていないのである。 これまでの呉勝浩作品の要素はふんだんに垣間見えるのだが 後半も突き抜けるあの感嘆に近い驚きはなかった。 とは言え、話が破綻しているわけでは勿論なく、 謎の散りばめ方など、楽しめる要素は盛り沢山だった。 これがデビュー作と言えばそれまでなのだが、 でも、それ以上にデビュー作でこれが書けるのもまた凄い。 巻末に江戸川乱歩賞の選考においての 審査員をした各作家たちの選評が全員分載っている。 これは中々挑戦的だなとも思った。そして面白い。 この作品を絶賛している選評は少ない。 池井戸潤に至っては理解できないとまで言っている。 なぜ、この選評を巻末に載せようとしたのか、 その意図を知りたくなった。 挑戦状の様にも思えて、それはそれでニクいなと笑みが溢れてしまった。

Posted by ブクログ

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