偶像の黄昏 アンチクリスト ニーチェ・コレクション 白水Uブックス1140思想の地平線

ニーチェ(著者), 西尾幹二(訳者)

• 販売会社／発売会社: 白水社
• 発売年月日: 2025/04/21
• JAN: 9784560721407

商品レビュー

2025/05/11

「偶像の黄昏」の意味: 本書のタイトルにある「偶像の黄昏」は、古くから崇拝されてきた価値観や概念がその輝きを失い、崩壊していく様を指す。「あるいは人は如何にして鉄槌をもって哲学するか」という副題は、既存の偶像を破壊し、新たな価値を創造するための哲学的な手法を示唆している。
ソクラテスの問題: ニーチェはソクラテスを西洋デカダンスの始まりとみなし、「ソクラテス自身は久しい間病気であったにすぎない。」（36頁）と述べる。ソクラテス以降の「理性」を重んじる哲学は、生の本能を軽視し、弱さを肯定する方向へ向かったと批判する。
キリスト教への批判: キリスト教はデカダンスの最も典型的な例として挙げられる。「キリスト教が怪蛇バジリスクの卵を孵化せし呪ふべき地は、完璧なきまでに破壊さるべし。其処は地上の最も愚昧なる道の場所として、後世のあらゆる人々の呪詛の的となるべし。」（252頁）キリスト教は、弱者や病的な者を救済し、力や生の本能を否定することで、人間の活力を奪い、社会全体を退廃させていると断罪する。特に隣人愛は弱さの表れとみなされる。
デカダンスの兆候: デカダンスは、力への意志の衰え、生理的な退化、弱さの肯定、そして価値観の混濁として現れる。これは、哲学や道徳だけでなく、芸術や社会全体に見られる現象である。
力への意志: デカダンスに対抗する概念として、「力への意志」が提示される。これは、生の本能、自己克服の精神、そして自己の価値を創造する力を肯定するものである。ニーチェにとって、強さとは、弱さや苦痛さえも力に変え、成長する能力である。
永劫回帰の暗示: 「鉄槌は語る」の章などで、自身の生を完全に肯定し、その全てを再び経験することを望むような生き方が示唆される。これは、ニーチェの根幹をなす思想の一つである。例えば、「幾千年もの未来の意志の上に、さながら重き鉛のようにしっかりと押さつけることが、君たちにとって至福であると思ふようにしなければいけない。――鉛に叩きつけるよりも硬く、そしてまた鉄槌よりも気高い。まったく硬いものだけが、最も高貴なるものなのである。」（160頁）という箇所は、永劫回帰を受け入れるための精神的な強さを求めるものと解釈できる。
ニーチェの自己認識: ニーチェは自身の哲学作業を「医者」あるいは「鉄槌」と見なし、既存の病的な価値観を診断し、破壊する使命を帯びていると認識している。
「私」の視点: 本書は、ニーチェ自身の個人的な視点や経験、感情が強く反映されている。「私」の苦痛や快感、好き嫌いが哲学的な判断の基準となる箇所が多く見られる。