東京保健師ものがたり

和泉慶子(著者)

• 販売会社／発売会社: 東京法規出版
• 発売年月日: 2023/12/08
• JAN: 9784924763593

商品レビュー

2025/09/27

看護師と聞いたら、どんな仕事をしているのか想像できる人は多いけれど、保健師と聞いて、具体的な仕事を想像できる人は少ない。
この本を読めば、保健師が地域でどのような仕事をしているのか、具体的で様々な事例を通して、理解することができる。地域の医療・福祉に興味がある人はぜひ読んでほしい。
それぞれの章で、多様な事例のケースワーク(感染症、産後うつ、難病、虐待など)について触れられており、身体的・精神的・経済的・社会的に困窮しており、支援が届いていない人をどう支援しているかという過程や、支援にあたり役立つ制度の情報を理解することができる。
この事例で行った支援が必ずしも正解ではないかもしれないが、近所付き合いや地域との関わり方について考えさせられた。

以下、それぞれの章に記載されていた制度や、大事だと思ったことについて要約
↓
第一話　座敷牢(感染症・精神疾患)
結核の人が出たら、その人の入院先に行って、行動歴を聞いて、家族や接触者を検診に繋げる。統合失調症は薬がよく効くので、妄想状態が良くなりやすい。退院前に何回か外出訓練や外泊をして、退院後にどんなことができるか探る。

第二話　坂道(産後うつ)
産後うつの薬の血中濃度が一定になるまで2.3週間かかり、その後も服薬調整が必要なのでしばらく薬を飲み続ける必要がある。よくなり始めた時に自分を傷つけることがあるので見守りが必要。

第三話　はなかかゆい　難病
ALSの医療費は難病医療費助成の申請をしていればお金はかからない
家族だからってなんで私が見ないといけないのか...
指導をしにいくことで、相手の気持ちもわからないまま追い詰めるようなことになる場合もある。
患者に目が行きがちになるが、家の中で病人が出ることによって家族の一人一人に負担や我慢が出てきて、ひずみになり、別の不健康な問題が起きる。→家族を総体で見ることが大切
吸引など、少しでも本人が楽になれることから一緒に取り組んでみる
本人が最後まで意思が伝えられるよう文字盤を作成して工夫
本人が亡くなったその後の家族のことも気にかける

第四話　月と太陽　高齢者虐待そして児童虐待
認知症の親への虐待と子どもへの虐待
金銭がなく、親が職についていないため不安定な生活、でも福祉に頼りたくない
何かあった時に連絡をもらえるように、繋がっておく

第五話　種　自殺予防
具体的に言えばわかるが、言われなければ気づかない、発達障がい特有の症状。
保健師の仕事は予防。
困難な事例に出会った時、どこかで予防できなかったか考える。既存システムになければ作る。点と点を繋いで線にする、線を繋いで面にしていく。困難事例はその種。

第六話　学籍がない　パーソナリティ障がいと不登校
パーソナリティ障がいは見捨てられ不安、相手を試す、他人を操作することがポイント
→こちらができること、できないことの限界を明確にしてそれ以上無理であると説明し、特別扱いしない
ただ優しく望まれたことを支援するだけではプロの仕事ではない、病気の特性や症状を見極めて、どのような支援をすべきか、すべきでないか考えて行動することがプロの仕事。

第七話　葡萄　児童虐待
乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)
厚生労働省の子ども虐待対応の手引きは、硬膜下血腫、眼底出血、脳浮腫の3つの症状があった場合に暴力的に揺さぶられたと推定する指針を出している
虐待のあるケースは転居が多く、情報が途切れて漏れてしまう→未受信のまま転居しても次の自治体に連絡するなど細やかな連携があるとよい

第八話　妊娠、してませんから！　特定妊婦
妊娠届を出していない妊婦、訪問で会えた時に血圧と尿検査、受診に繋げる(お金がもらえるかもと伝える)

第九話　夢で逢いましょう　知的障がい、発達障がい
困った意思決定をしている
→その人の背景にあるものを考えて、邪魔になっているところを一緒に乗り越える
本人のレベルに合わせた会話

第十話　お地蔵さん　高齢者虐待
高齢者虐待は5つの種類がある。
身体的虐待　暴力行為
心理的虐待　言葉や態度で馬鹿にしたり無視をするなど精神的苦痛を与える

第十一話　マイスイートハニー　若年認知症
若年認知症で、他人がいると落ち着きがなく、襲いかかってくるので、妻がつきっきりで介護している
妻も疲れて限界を感じる時もあるが、本人と離れたくない思い
→ショートステイで介護疲れの休息を取る

第十二話　手紙　末期がん
認知症や障害で判断力がなくなった時には、後見人が本人に代わって金銭管理や契約行為などの生活支援を行う制度
→申立ては親族が家庭裁判所に行うが、四親等以内の親族がいなければ市区町村長が申立て人になれる。役所では公的権限で親族調査を行うことができる。