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山窩奇談 増補版 河出文庫
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山窩奇談 増補版 河出文庫

三角寛(著者)

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 河出書房新社
発売年月日 2023/12/06
JAN 9784309420721

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2024/03/02

・三角寛「山窩奇談〈増補版〉」(河出文庫)を読んだ。三角寛の山窩は信用できないと思はれてゐる。私にはそのあたりは分からないが、信用できる内容ではなささうだと思つてゐる。山窩文学といつたところで、どれだけ山窩の実態を踏まへてゐるのか分からないといふ。しかし、読むとおもしろい。実にお...

・三角寛「山窩奇談〈増補版〉」(河出文庫)を読んだ。三角寛の山窩は信用できないと思はれてゐる。私にはそのあたりは分からないが、信用できる内容ではなささうだと思つてゐる。山窩文学といつたところで、どれだけ山窩の実態を踏まへてゐるのか分からないといふ。しかし、読むとおもしろい。実におもしろく書いてある。 それを真実の力とみるか、想像力の産物とみるか、これが評価の分かれ目である。私にはこれが分からない。第一、山窩を正確に知らないのである。山窩はwikiには「日本にかつて存在したとされる放浪民の集団である。」とある。「明治期には全国で約 20万人、昭和に入っても終戦直後に約1万人ほどいたと推定されている」(wiki)が、統計的に調べられたことがないので、この数字もあまりあてにならない。定住民からは「物を盗む犯罪専科の単位集団として規定されていた。」(wiki)らし いが、箕作りを生業とする者が多いのは本書からも知れる。ただ、第二次世界大戦中には山窩に言及されることはほとんどなくなつた(wiki)といふ。この頃には山窩は漂泊放浪民から定住民へと変はつてゐた、あるいは変はらざるをえなかつたのである。三角寛が山窩を書いたのは昭和10年前後である。この頃、山窩はいはばこの人の専売特許であつた。ただし本書「山窩奇談」は昭和41年に出てゐる。山窩の流行は終わはつた時代である。しかし三角はまだ書いてゐた。「戦前に発表した『サンカ小説』に加筆、修正を施すなどして、『実』を強調する形で再編集された一冊である。」(今井照溶「解説 虚実の民衆精神史」357頁)といふ。事実を強調してあるらしい。そこでかうも言ふ、「『虚』を『実』であるかのように騙っていたからといって、三角寛に『インチキ』の烙印を押して済ますわけにもいくまい。そこから『実』を発掘できる余地はまだあるはずだ。」(375〜358頁)この人の考へでは、三角寛のサンカ小説は「民衆の精神史と逢着するはず」(358頁)だといふ。しかし山窩から民衆を取り出して良いものかどうか。山窩が民衆を代表するならばともかく、山窩は多くても数十万人程度である。しかも定住せずに漂泊するのみ、このやうな民が「民衆の精神史」に逢着できるかどうか。私はインチキとは言はぬまでも、三角寛から「実」を取り出して「民衆の精神史と逢着」させるのはかなり無理があると思ふ。いや、現実の学会からは三角寛はほとんど無視されてきたのである。 ・第二話「蛇崩川の蛸入道」は国八老人が盲目の娘お花の助勢で殺しの犯人を捕らへる話、第八話「尼僧のお産」は熊谷直実なる山窩が妙蓮といふ尼と結婚して有籍者になる話、増補分の「元祖洋傘直し」は洋傘直しの山窩の親分猪吉が亡くした女房によく似た元旗本の娘お雪と一緒になる話、これは一族で有籍者の仲間入りである。たまたま美しい女性の出てくる話ばかりだが、皆うまくいつてゐる。山窩であつた者が有籍者になるのはこの頃は結構あつたのであらう。だからこんなものかもしれないが、しかしいづれもうまくいきすぎてゐる。うまくいつた話だけ出したとも言へようが、他の話も皆結局はうまくいつてゐる。かういふのが信用できないといふのであらう。先の「解説」に、「『サンカ』という題材を得て、想像力を駆使して事実を脚色する度合いは次第に強まっていった(中略)荒唐無稽さが増し、伝奇性が前面に押し出された。」(356頁)とある。これらもさういふものであらうか。私には判断できないが、その「荒唐無稽さ」ゆゑに実におもしろく読める。それが三角寛だといつて読んでゐれば良いのであらう。おもしろい。

Posted by ブクログ

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