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夢みる宝石 ちくま文庫
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商品詳細
内容紹介 | |
---|---|
販売会社/発売会社 | 筑摩書房 |
発売年月日 | 2023/10/10 |
JAN | 9784480439130 |
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商品レビュー
3.8
6件のお客様レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
普通に未知なる生物の謎に迫るSFだなあ…と思っていたら後書きで述べられているように冒険譚であり、成長物語であり、復讐劇であり、また哲学的な問題にまで枝葉を伸ばした様々な要素が詰まったお話だった。 ただ未知なる謎に迫りつつ人間の醜悪さを描く皮肉たっぷりな物語の域を出ないのなら、結末にドテッとなっていただろうが冒険譚にはあの綺麗な締め括り方がぴったりだと思う。 人間からかけ離れた人間と、人間に近い姿形をした人間になりたかった存在、の対比も人間を人間たらしめる要素って何だ?と考えるきっかけになって良かった。文章が詩的でうつくしく、他の本も読んでみたい
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タイトルから、何か素敵な幻想ファンタジィっぽいものを期待してたのに、全然違った。でもこういう不気味で暗くて歪んでるようなファンタジィも好きです。
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孤児のホーティーは冷酷な養い親の元を逃げだし、飛び乗ったトラックでカーニバルの人びとに出会う。身分を隠してカーニバルに溶け込んだホーティーだが、養育係のジーナはホーティー自身も知らない彼の正体に気がついていた。カーニバルの団長〈人喰い〉モネートルが企む邪悪な計画からホーティーを救...
孤児のホーティーは冷酷な養い親の元を逃げだし、飛び乗ったトラックでカーニバルの人びとに出会う。身分を隠してカーニバルに溶け込んだホーティーだが、養育係のジーナはホーティー自身も知らない彼の正体に気がついていた。カーニバルの団長〈人喰い〉モネートルが企む邪悪な計画からホーティーを救おうと画策するジーナだが……。優しさと人間らしさをめぐる幻想的なSF小説。 スタージョンの最初の長篇ということで、終盤の怒涛の説明台詞といいご都合主義的な展開といい、完成度が高いとは言えない作品だと思う。けれど、この物語に描かれた優しさが好きだ。児童文学のようでありながら、辛い目にあった人の心をあたためるさりげない優しさのひとつひとつを取りこぼさずに拾っていく文章が好きだ。人間性と優しさの表現を音楽に託す音楽讃歌なのが好きだ。 ジーナは人間らしい尊厳を持ち、ホーティーにも同じように生きることを教えた。だが、ある意味で彼女を人間にしたのはモネートルだとも言える。ジーナはモネートルに支配され、自由を奪われていたが、自分一人に"人間らしく"語りかけるモネートルをどこかで憎みきれなかったのだと思う。ホーティーがケイとブルーイットに愛憎を振り分けて人間性を獲得したように、ジーナはモネートル一人に相反する感情を抱き続けることで〈完成〉した。おそらくモネートルはジーナをこそ水晶との仲介者にしようと教育してきたのだろう。でもそれは諸刃の剣だった。 水晶たちを生物兵器化して各地に疫病をばら撒くモネートルは巨悪だが、それに対して卑近で矮小などこにでもいるクソ野郎ブルーイットの邪悪さたるや、本当に忌々しい。ケイへのセクハラ・モラハラシーンが真に迫ってストレスフルなので、そこで一旦読むのをやめてしまうほどだった。語り手が一貫してケイの側につき、不快感と苦しみに寄り添ってくれるのが救いだな……と思いつつ読み進めると、いつのまにかホーティーの復讐劇が始まっている。 ホーティーからブルーイットへの復讐劇は作中で一番直接的な暴力が描かれる。同時に、描写が一番スタイリッシュで、ブラックな笑いがちりばめられた印象的な章だ。ホーティーがこんなことをするのはショッキングでもあるのだが、ジーナはブルーイットへの復讐心も彼を人間にするために必要なものだったと言う。クソ野郎がやられてスカッとするというだけではない、人間性の昏い部分が描かれている。 水晶人という無性的な設定がありながらジーナの愛情を女性的なものとして表現しているところや、ジーナの見た目が結局「普通の人間の娘」になること、個よりも優先すべきものとして種の保存が説かれることなど気になる点はあるものの、本作には優しさを書き記すための文体があることを教えてもらった気がする。 「だれにも言わないよね?」 「言わない。袋にはなにが入ってるの?」 「なんにも」 見せるように迫られたり、袋をつかまれたりしたら、ホーティーが彼女と会うことは二度となかっただろう。だがケイはこう言った、「お願い、ホーティー」 (p.20) これだけで八歳のケイがホーティーを人間として尊重したことがわかる。養家をでたホーティーが噛み締めるように味わう優しさのいちいちが、くどくない簡潔な文章で読者の心にも染み渡るのだ。 しかし、ジーナとホーティーがカーニーの外で"人間らしく"生きていくには「普通の人間」のようにならなくちゃいけない、ということへの懐疑は、この作品にはない。その先に進むにはキャサリン・ダンの『異形の愛』が必要だ。
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